<合間のおはなし。-伊呂波と鞍馬①->
【吉祥家について】
都内のマンションにて、母親である宝と二人で暮らしているが、仕事の都合で多忙な宝はほとんど家にいないため、伊呂波は実質独り暮らしのような生活をしている。しかし、生活能力皆無な伊呂波を心配し、度々鞍馬や仙人が訪れ、甲斐甲斐しく世話を焼いているのが常である。
【吉祥家について】
都内のマンションにて、母親である宝と二人で暮らしているが、仕事の都合で多忙な宝はほとんど家にいないため、伊呂波は実質独り暮らしのような生活をしている。しかし、生活能力皆無な伊呂波を心配し、度々鞍馬や仙人が訪れ、甲斐甲斐しく世話を焼いているのが常である。
◆
とある普通の日の普通の夜のこと。
吉祥家のマンションのリビングにて。
「お~い。メシつくりに来たぞー」
「うっせぇっっ!!ぶっ殺すぞ!!!」
いつも通り夜ご飯を作りにきた鞍馬に向かって、ボクは開口一番、暴言を撒き散らかした。
「おっ、おぉ……そうか、んじゃ夕飯つくり始めるな」
けれどまぁ、こんな理不尽な出迎えもよくある事なので、全然気にする様子もなく、鞍馬は持ってきた夕飯の材料片手にキッチンに向かっていった。
(ごめんなさい鞍馬君……伊呂波ちゃんたら今、荒れに荒れているんです)
そう。吉祥ちゃんが言うように、僕は荒れに荒れていた。
でもまぁそれもしょうがないこと。人はキレる理由があるからキレるのです。
「んで、今日はどうしたんだ?ソシャゲで推しのキャラが実装されたのに、コツコツ貯めて来たジュエル放出して大爆死でもしたのか?」
ダイニングテーブルにかかったいつものエプロンを取りに来ながら、あくまで世間話の一環のような軽いノリで、そんな失礼なことを口走る鞍馬の様子が、またぞろボクの怒りゲージを助長させた。
「んなわけあるか!そんな下らない理由でこんなキレ散らかすボケいるか!馬鹿にしてんのかお前!!!」
(…………)
「……そうか。そりゃ悪かった」
「ホントだよまったく!!」
なんか吉祥ちゃんも鞍馬も『何言ってんだコイツ……』みたいな呆れ顔をボクに向けてきたけれど、そんなんも今はどうでもいい!
「んじゃ、今日はなんでそんなに狂ったように怒ってんだよ?」
その前に鞍馬お前、その『マジでどうでもいいけど、聞かないとどうせまた怒るんだろうな』みたいな面倒くさそうな態度、ちょっとは隠すとかできないの?
まぁ、怒ってる理由聞かれなかったら、どうせまた怒るんだろうけど。ボクだし。
「今日の昼、伊呂波君は近所のお弁当屋さんで!一つ四百円の唐揚げ弁当を買いました!ここまではいい!?」
「なんで算数の問題文みたいな話し出しなんだよ……それで?」
「ボクが認識している限りでは、そこの唐揚げ弁当はいつも四つの唐揚げが入っておりました!ここまではいい!?」
「いちいち確認するのマジでうっとおしいなぁ……それで?」
「家に帰ってきてルンルンで蓋を開けたら!唐揚げが五つも入ってたんだよ!酷くない!?」
「……ん?え?あれ?聞き間違いかな?唐揚げが三つだったってこと?一つ少なかったってことか?たしかにまぁそれは―――」
「ちがうよ!!!ちゃんと聞いててよ!!!五つ入ってたんだよ!!!一個多かったんだよ!!!ふざけてんでしょ!?」
二度も説明してやったのにも関わらず、鞍馬と言えばまるでアラビア語で説明されたんかってくらいに理解できないような様子で首を捻っていた。
理解力ねぇんかお前!
「いや、んじゃ別に怒らなくてもよくないか?得したってことだろ?」
「はぁ!!!???」
「いちいち声がでけぇなぁ……」
コイツ今まで何聞いてやがったんだ!脳みそ搭載してんのかその頭によう!?
「ボクにとっての唐揚げ弁当は四個入りが適量なんだよ!それが一個多いとどうなるってんだい!?『今日のお昼ご飯はちょっと多かったなあ……ケプッ』ってなっちゃうでしょうが!!!」
「あーね」
そう言うや、それ以上真面目に聞く気はゼロとばかりに、鞍馬はスタスタとキッチンの方に向かって行こうとしやがった。
「ちょっと!!!まだ途中!話し終わってない!!!」
「いやもう十分です。俺の方こそ満腹ですわ。てか、だったら残せばよかったじゃんかよ?」
ボクの引き留めに一応は足を止めた鞍馬だったが、首だけこっちに向けてすげぇおざなりに、そんなクソみたいな事をのたまいやがった。
「はぁ!!!???お前がいつもご飯残すなって叱ってくるんやんけ!ぶち殺すぞお前!!!」
「いや、そうだけどよぉ……そんな怒ってるから……」
「あぁぁ!なんか思い出してきた!そういえば弁当屋のおばちゃんが『いつも唐揚げ弁当だし、唐揚げ好きなんだねぇ。ちょっとおまけしといたから』とか去り際に言ってたわ!そうだわ!言ってたわ!クソ!」
てか『いつも』とかって覚えられてたら、あのお弁当屋さんこれからちょっと行きづらくなっちゃったわ!普通にちょっと恥ずかしいわ!マジでさ!
「いやクソとか言ってるけどよ?普通にそのおばちゃんさんの善意だろ?素直に受け取れないんかお前は?」
「そんなんわかってるよ!おばちゃんさんの粋な計らいってやつでしょ!そんくらいわかっているよ!素敵な心意気ってことでしょ!ありがとね!!おばちゃん!!!」
「よし。んじゃ一件落着ってことで。夜メシ作り始めるから。弁当屋のおばちゃんに感謝しながら勝手に落ち着いてろ」
そんな捨て台詞を残してキッチンに消えていく鞍馬の背中に向かい、お弁当屋のおばちゃん様に感謝の意を抱きながら、ふと気になったことを訪ねた。
「おばちゃんありがとう。おばちゃんありがとう……ちなみに、今日の夜ご飯の献立なに?おばちゃんありがとう」
「………………すまん。鶏のから揚げだ」
「ぶち殺すぞお前!!!!!」
◇
その後日、これまたとある、普通の日の普通の夜のこと。
ボクん家のマンションのリビングにて。
「お~い。メシつくりに来たぞー」
「うっせぇっっ!!ぶっ殺すぞ!!!」
今日も今日とて夜ご飯を作りにきてくれた鞍馬に向かって、ボクは暴言を撒き散らかした。
(ごめんなさい鞍馬君……伊呂波ちゃんたら、今日もアホみたいに荒れ散らかしているんです)
そう。吉祥ちゃんが言うように、僕はアホみたいに荒れ散らかしていた。
でもまぁそれもしょうがないこと。ムカつけば怒る。ボクだって人だもの。
「はぁ……今度はなんだよ?買った弁当に一つ多く唐揚げでも入ってたんか?」
「んなわけあるか!そんな下らない理由でこんなキレ散らかすアホいるか!馬鹿にしてんのかお前!!!」
(……鞍馬くん、本当にごめんなさい。うちの子本当にお馬鹿ちゃんで……)
「……伊呂波ってほんと……はぁもういいわ。んで今日の理由はなんなんだよ―――」
こんな感じで、平常運転なボクらのよくある日常が。
今日も今日とて、いつも通りに更けていくのであった―――
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