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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
59/62

<第拾壱万(よろず)。‐不休の神様‐> ②


                 ◇


「だいぶ遅くなったが、本題に入るぞ」


「本当ですよ!誰のせいですかまったく!」


「てめぇのせいじゃろが!」


「はいはい。もう本当、今はいいから。君たちの喧嘩コントのくだり」


 生徒会室の備品であろうご立派な二対のソファで、これまた立派なテーブルを挟み、向かい合って座っているボクと生徒会の先輩たち。


 わりとボクらの諍いを黙ってみていることの多かった恵比寿先輩も、流石にそんなことしている場合じゃないと、大国先輩の肩をグイグイ押して諫めていた。


「コントじゃないが、たしかに福の言う通りだ。ただでさえ時間が惜しいって時なのに」


 咳払いを一つ挟み、大国先輩は神妙な顔をしながら話題の方向転換をはかった。


 ボクだって貴重な休日に、こんないけ好かない連中がいる辺鄙なところに遊びにきたわけじゃない。


 鹿屋野先輩のために、園芸クラブのために、ボクたちに残された時間は僅かしかないのだから。


 でも、その前に、ほんの少しだけ。


 流石に気になって仕方ないことが、ひとつだけある。


(後にしなさいな)


 無理。


「そうですね。それで、これからする話っていうのは」


「あぁ、そうだ。園芸クr」


猫萬(マオワン)飯店の裏メニューの話、ですよね」


「ぶんなぐんぞ」


 神妙な顔どこいったんだ。あっという間に青筋を額に浮かべやがって。


 ボクの言葉を聞いて間髪入れずに立ち上がり、ボクらを隔てる机さえなければ殴りかかってきそうな様子の大国先輩はひとまず置いといて。


 恵比寿先輩を見ると、ボクに視線を向けた恵比寿先輩はこくりと一度、真剣な顔しながら頷いた。


「とうとうこの秘密を明かすときが来たのか……実はね伊呂波ちゃん、裏メニューというのは」


「ぶんなぐんぞ」


 いや、あんな真面目なトーンで話し始めるから。


 少し肩の力抜いたほうがいいですよ、って気遣いのちょっとしたおふざけのつもりだったんだけど。


 そんなわざわざ立ち上がってワナワナと握り拳を震えさすほどに大国先輩が怒るとは思わなかったんだって。ゴメンて。


「ちょっ円。わざとかもしれないけど足踏んでるって。痛い痛い」


「わざとに決まってんだろ。テメェが真面目な話に向けて方向修正したクセに自らふざけやがって」


「いや、昨日伊呂波ちゃんに教えてあげられなかったから。ちゃんと裏メニューについて教えたらちゃんと園芸クラブの話もするから。だから痛いって」


 何とか大国先輩の怒りをおさめた恵比寿先輩は、一日越しにようやく猫萬飯店の裏メニューについて教えてくれるようだった。


(なんでそんなに伊呂波ちゃんが知りたがっているのか、私にはわからないのですが。たしかに時々は利用しているお店ですが、そんなにあのお店が気に入ってましたっけ?)


 いや、ボクは別にどうしても食べたいだとか思ってはいないんだけど。


 猫萬飯店行くときって大体いつも(えん)ちゃんもいるから、今度教えてあげたいなって。もしかしたら喜んでくれるかもしれないし。


(あぁ、そういう……たしかにいつも誰かと一緒に行ってますものね。それなら鞍馬くんや仙人くんともよく行きますし、お二人にも教えてあげたら喜ぶかもしれませんね)


 いや、そいつらはどうでもいいや。勝手に知っとけ。


(親しい人たちへのランク付けと贔屓の差がえげつない……)


「そんで結局その、全女子が感涙しながら喜ぶウルトラ最強デラックス超絶美味なスペシャリテ裏メニューってのはどういうものなんですか?ちなみに期待させるだけさせておいて大したことない料理だったら、お詫びに腹切ってくたばってくださいね」


「んん?あれ?僕そんなこと欠片も言った覚えないんだけど、なんでそんなアホみたいにハードル上げちゃったの?その期待の仕方はどんなメニューであっても絶対に下回るから、即刻改めてほしいんだけど?」


 だってボクには、閻ちゃんを喜ばせなきゃいけないっていう義務があるから。


 だからボクが閻ちゃんに『すご~い♡』って褒められるプランが崩れ去るようなクッソ下らない情報を提供するようなら、恵比寿先輩にも責任とってもらわないと。


 ついでにさっきから『はやく話を終わらせろや』って睨んできてる大国先輩もウザいから、一緒に責任取ってくたばってくれても構わない。


(はた迷惑な責任の擦り付けはおやめなさいよ……あと大国先輩には僅かばかりも責任取る必要ないですし。あなたが閻ちゃんにいい子いい子されたいだけでしょうが……)


 だってだってだって!!!


 閻ちゃんに『ソんなことシってるなんてスごいナ!いろはだいスキ♡』って褒めて欲しいじゃん!好きな娘には喜んで欲しいじゃん!思春期の男の子なんだから!好きな子のためだったら仕方ないじゃん!


(中華屋の珍しいメニュー教えてくれただけで『大好き♡』とは絶対になるはずないでしょうが……)


 思春期男子の自分に都合の良すぎる夢見がちな希望的妄想は、大人な女性の吉祥ちゃんに、バカにされながら一蹴されてしまいましたとさ。


 うっせえ!夢ぐらい見させろ!


                 ◇


 相も変わらずではございますが、生徒会室の高価そうなソファの上で。


 ボクはといえば―――寝そべって鼻ほじりながらやさぐれていた。


「はぁ~しょうもなっ!麻婆春巻て!あんだけ期待させといて春巻って!ホンマしょうもなっ!」


 そう言ってピンッとほじった鼻くそを先輩方に飛ばす、もといプレゼントする仕草をしてやると―――


「うわっ!汚なっ!こんな汚ないことする人、小学校にすらいなかったよ!?」


 などと、恵比寿先輩はドン引きし―――


「うをっ!ハナクソ飛ばしてきやがった!汚物を人に飛ばすか普通!?マジで汚物野郎じゃねぇか!!」


 とか言いながら大国先輩は慌てふためき―――


(ちょっ!おバカ!なんて行儀の悪いっ……このおバカ!)


 吉祥ちゃんからはお叱りの頭ペシペシをいただいた。


 いや、実際に飛ばしてないし。


 てかボク鼻くそとか製造しないし。


 顔に空いた穴から『クソ』と名の付く物を製造したことすらない、アイドルもびっくりな究極完全体だし。


(実際に飛ばしてないのは良いとして!いやフリだけでも行儀悪すぎるので全然良くないですけど!それよりもなにシレッと嘘ついてるんですかおバカ!いつも『クソ』って口から汚い悪態吐き出してるくせに!改めなさいホントに!)


 そいやそうだわ。


 口からはいつも吐き出してたわ。口からいつもクソ吐き出してるとかマジで汚物野郎じゃん。


「……あ、いや待ってよ円。あの吉祥伊呂波の鼻くそだよ?然るべきところに卸せば良い値がつくかもしれない」


「おいマジか。確かにこいつはアホな汚物野郎だが、ツラだけは良いせいか変なファンはいるらしいからな……」


 そう言うや、先輩方は視線をウロウロし出してボクの架空のハナクソを探し始めやがった。


「いやいや待って待って。普通に飛ばしてないしフリだけだし。てか人のハナクソ売ろうとするとかキモ過ぎなんですけど。脳みそにコロコロコミック詰まってるんですか?」


(どの口でそんなこと言ってるんですか?てか小学館に訴えられますよ?)


 さっきから永遠ボクの頭をペシペシ可愛く叩いてくる吉祥ちゃん。


 ごめんなさい。今回はたしかにお下品が過ぎましたわ。反省いたしますわ。


「そ、そうか……それは残念」


 いや恵比寿先輩、『残念』てのもヤバいですからね。状況だけ見たらハナクソ飛ばされたと思ったら飛ばされてなくて残念がってるキモ過ぎる人ですからね。


 どんだけお金欲しいんですか?借金でもあんの?副会長くんなの?


 真面目な話をするとか言ったくせに五分も経たずして。


 ボクら男子高校生三人と一柱は、あまりにもお下劣がすぎる会話を繰り広げてしまったのであった———


(いや、私も一緒にしないでください。マジで)


                 ◇


「高校生にもなってハナクソで盛り上がるとか、あまりにも恥ずかしい会話をしてしまった自覚ありますか?」


 マジで反省した方がいいよ?


 いい歳こいてみっともない。


「そもそもあんたら腐っても全学園生のお手本にならないといけない人間でしょぶべっ!」


 とか言ってたら、大国先輩の手から飛んできたティッシュ箱が顔に当たり、無理矢理に黙らされてしまった。


「誰のせいだと思ってるの?あと春巻きをディスり過ぎでしょ。春巻き職人に謝りな?春巻き職人なんているか知らないけど」


 恵比寿先輩も意味わからない方面への謝罪を要求してくるし。


「さっきまでの会話は確かに死にたくなるような低次元さで一刻も早く記憶から消し去りたいが、それはそれとして。どうでもいい話も終わったことだし、マジで本題に入るぞ」


 ティッシュ箱をぶつけられた鼻を押さえながら、ティッシュ箱を大国先輩に向けて投げ返すも。


 ヒョイとなんなく避けた大国先輩は場を仕切り直すように手を叩き、もう何度目の起動修正になるかなんて忘れてしまったけれど、話を元の軌道へと戻した。


「状況を整理するが、鹿屋野さんの所属する園芸クラブは今現在、部員が鹿屋野さん一人きりしかいない。これが目下最大の廃部危機の原因だ」


 真面目くさった顔をした大国先輩の言葉に、これまた真面目くさった顔をした恵比寿先輩は同意するように頷いて。


「そして、その状況でも廃部を免れるためには、残す価値がある理由。つまり皆が納得するだけの活動実績が必要となるわけだね」


 大国先輩の言葉を引き継ぐように、園芸クラブの現状を、そして目下ボクたちの課題ともなる実状を改めて説明してくれる。


 さっきまでくだらない会話をしていた時の様子はどこへやら。


 今の先輩たちからは、立派な生徒会役員としての頼もしさや威厳を、確かに感じさせられた。


 紆余曲折、無駄話によって幾許かの時間を浪費してしまったけれど。


 ようやく、この時この場所から。


 ボクたちの園芸クラブ救済のための活動が、本格始動し始めたのだった―――


                 ◆



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