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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
55/62

<第十万(よろず)。‐不逞の神様‐> ③


                 ◇


 決意新たに、さっそく鹿屋野(かやの)先輩に真剣な気持ちを伝えた上で園芸部存続の手伝いをする許可を貰うため、ここ数日で先輩がいつも作業をしていた花壇へと向かう、その道すがらにて。


 上履きから外靴へと履き替えるために、下駄箱までやってきたボクのことを待ち構えていたのは―――


「ようやく来たか」


 ―――目下ボクの最大の怨敵とも言える相手、大国先輩と恵比寿先輩の生徒会役員お二方が、クソほど嬉しくもないお出迎えをしてくれていた。


 いや、別に今だけじゃなく、多分どんな時でもこいつらのお出迎えを嬉しいとは思わないだろうけど。


 てか、忙しいだなんだと散々ほざいていたのに、こんなところでいちいちボクのことを待ってるとか。


 コイツら実は割と時間に余裕あるんじゃないかと思えてきたんだけど。


「……ちっ」


 折角の意気込みにケチを付けられたような、そんな不愉快さを感じて思わず舌打ちが零れ出てしまった。


 構ってちゃんの寂しがり屋どもにいちいち構ってやるのも面倒だしと。


 とりあえず見なかったことにして、横を通り過ぎようとしたのだけれど―――


「って、だから無視すんなやチビ!」


 ―――流石の流石にそうは問屋が卸さなかったようで、ボクの行く先を通せんぼするように、大国先輩が立ち塞がってきやがった。


「開幕三秒でイラつかせんじゃねぇよチビザルが!人を苛立たせる天才かテメェは!学もなければ礼節も知らねぇとか、そんなんマジで野生のサルと一緒だろうが!そもそもテメェは———」


 ブチッ!


 我慢の琴線がブチ切れたような音が頭の中で響いた。


「あぁ〜もうっ!うっせぇぇぇ!いちいち一々何なんですかアンタたちはぁっ!!!」


 開口一番罵られた苛立ちもあったけど、それ以上に邪魔ばっかしてくる大黒先輩のうっとおしさに憤りの限界を迎えてしまい、ボクは僅かばかりも我慢できずに大声で吠え猛り散らかした。


「毎日毎日絡んできてっ!そんなに暇があんならっ!ボクにちょっかいかけて来ないで仕事しろやっ!!!」


「あぁ!?これも仕事のうちなんだよ!てかテメェこそゴミ拾いはどうした!」


「今から行くつもりだったんですぅぅ!勉強しようとしてたところで母親に『勉強しろ』って言われた時の萎え方だわ!あぁもうやる気無くした!」


「ゴミ袋も持ってねぇくせになに白々しく責任転嫁してんだ!延々サボり散らかしやがってよ!テメェはゴミ拾いすらもまともにできねぇのか!」


「昨日からみんなして『アレもできない』『コレもできない』ってぇぇぇ!ボクへの舐め腐ったレッテル張りも大概にしろぉぉぉ!!!」


 鞍馬からも仙兄からも大国先輩からも貶されて、挙句『できない子』のレッテルを連日張られ続け。


 自分のアイデンティティやら尊厳やらをゴリゴリに損なわれたせいで、ボクの理性はどっか遥か彼方にうっちゃられて飛んでった。


「実際に何も出来てねぇだろうが!」


「ぶっぶー!色々出来ますぅ!お着替えも歯磨きも出来ますぅ!!!」


 大国先輩の鼻先にビシッと指差して、ボクのことをメタクソ侮りやがってと主張してやった。


 見くびりやがってコナクソが!そんだけできりゃ普通に生きて行けるんだっつうの!


 多くを求めすぎなんじゃアホ!


(『出来る』の程度が『おかあさんといっしょ』レベルなんですけど……『ひとりでできるもん』レベルですらないんですか?)


 うるしゃいわい!


 いま取り込み中なの!見てわかるでしょ!?


(はいはい、ごめんなさいね。続きをどうぞ)


「そんなんで胸張ってんじゃねぇ!志が低すぎるわっ!テメェの人生お遊戯会か!」


 鼻先に付きたてられたボクの人差し指を鬱陶しそうに手の甲で払うや否や、今までにも増して人のことを心底バカにしくさった表情を表出させた大国先輩は、ボクの人生まるっとまとめて馬鹿にしやがった。


 はぁぁっ!!?


 顔も言葉も存在も全部ムカつくんですけどっ!!!


 この野郎!ぶっ殺してやる!!!


(物騒が過ぎますでしょ……)


 校則も法律もそんなん知ったことかと、歯の一、二本へし折ってやろうかと、大国円とかいう名の粗大ゴミに掴み掛かろうとしたが、その前に恵比寿先輩がボクら2人の間に割り込んできやがった。


「はいはいストップストップ」


 そのやや豊満な肉体と両腕で、ボクと存在価値がモンスターエナジーのプルタブにも劣る大国先輩の距離を引き離した恵比寿先輩は、過去一呆れたよう顔をボクへと向けた。


「ちょっ!急に出てこないでください!邪魔すんなっ!そいつの歯全部へし折って今履いてる薄汚ねえ上履きを入れ歯代わりに口にぶち込んでやるんですから!!!」


(「「こっわ……」」)


 先輩共も吉祥ちゃんすらもまとめて、全く同じ内容のハモリを披露するほどに、ボクの言葉にドン引いていた。


 それでも恵比寿先輩はボクと薄汚ねぇ上履き野郎の間からどくことはなく、周りを軽く見回すと、改めてボクに向けて視線を向けた。


「どれだけ伊呂波ちゃんが怒っているかとか、君達の相変わらずの仲の悪さとかはもう分かったから、一先ずここから移動しないかい?」


 そんな提案をしながらも、恵比寿先輩はボクの返事も待たずして。


 ボクの肩を気安く掴んだかと思ったら、意外と強い力をもってしてボクの身体をクルッと百八十度回転させた。


「はぁぁ!?てか離せ!」


 首だけ振り向かせて文句を言うボクの言葉と身体の抵抗にもお構いなしに、恵比寿先輩はいつも通りの穏やかな笑みを浮かべながら。


 ボクの身体をグイグイと押して、無理矢理に移動させようとしながらも、さらに絶えず言葉を続ける。


「まぁまぁ。ただでさえ目立つ学園でも有名人の君らが、こんな人目につくような場所で喧嘩してんだから、ほら―――」


 そう言って向けられた恵比寿先輩の視線を追って見た視界の先。


 そこには野次馬根性丸出しのそこそこの人数の学園生が、興味深そうにボクらのことを観覧していやがった。


 そんな光景のおかげというべきか、恥ずかしさからボクの頭にのぼっていたいた血潮も身体の方へと流れ戻っていき、多少は冷静な判断力を取り戻したボクの様子を見計らったように―――


「それに……園芸クラブのこと、あんまり大事にはしない方がいいんじゃないかい?鹿屋野さんのためにも、ね?」


 ―――恵比寿先輩はボクにだけ聞こえるようなボリュームで、そう耳打ちをしてきた。


 あぁ、そうだった。


 この人は知っているんだ。


 もうきっと気付いてる。


 鹿屋野先輩を持ち出されたら、鹿屋野先輩の事情や感情を人質にすれば、ボクの逆らおうとする気持ちを削ぐことが出来るってことを。


 もう一度振り返り、睨み付けたその先で。


 『人の好さそうな』などと一度でも思ったボクをぶん殴ってやりたくなるような、今では『底意地の悪そうな』としか思えない―――


 見ているだけで不愉快で仕方のないような―――


 そんな笑顔を、恵比寿先輩は浮かべていたのだった―――


                 ◇


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