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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
54/62

<第十万(よろず)。‐不逞の神様‐> ②


                 ◇


 仙兄から鹿屋野(かやの)先輩と園芸クラブに関する話を聞いた昼休みより2コマの授業を経て、時は放課後を迎えていた。


 放課後になったら、さっそく(くだん)の『簗瀬(やなせ)先輩』に特攻(ぶっこみ)かけようと息巻いていたボクはいま―――


「だからついて来てっていってんじゃぁぁぁん!!!」


「だから無理だって言ってんだろぉぉぉ!!!」


 ―――絶対に逃がしてたまるもんかと、必死に鞍馬の腰にしがみついていた。


「手伝うって言葉は嘘だったのかぁぁぁ!?」


「部活じゃしょうがねぇだろうがぁぁぁ!いいから離せってのっ!遅れちまうだろうがぁ!!」


 ふざけんなぁっ!


 上級生の教室まわりを一人でうろつく度胸なんてないってのに!


「鞍馬が行っちゃったらボク一人で簗瀬先輩を探しにいかないといけないだろうがっ!」


「頑張れや!ついでに人見知り直してこいっ!」


「いやだぁぁ!!!」


 ちなみにさよちゃんも先約があるとのことで、申し訳なさそうな顔をしながら教室を去って行った。


 まぁさよちゃんに関しては、新たに出来た友人たちとの時間をボクのせいで不意にさせるのも嫌だったし、笑顔で送り出したのだけども。


「可哀想だとか思わないんかっ!鞍馬お前っ!ボクにたいして何にも思わないんかっ!勝手に傷つけばええと思ってるんだろっ!」


「人聞き悪いことを教室で騒いでんじゃねぇ!わざとそういう言い方しやがってっ!」


 ドアに手をかけて逃げ出そうとしていた鞍馬だったが、腰に回していたボクの腕に手をかけたと思ったら、そのままボクの腕を振りほどきやがった。


「ああぁっ!」


「このままじゃ教室内での俺の評判が悪くなるだけだっての!んじゃな!頑張れよ伊呂波!」


「この薄情者ーーー!!!」


 伸ばした手は何かを掴むこともできず―――


 教室の床に這いつくばり、去り行く鞍馬の背中に向かって声を吐き出すことしかできないのだった―――


                 ◇


 今日はやめとこか。


(はい日和(ひよ)った)


 うるせぇやぃ!


 そもそも名前とクラスを聞いただけで、顔さえわからない先輩を探すとか、効率的ではないし。


 時間だって限りあるんだから。


(はぁ……でもまぁ、伊呂波ちゃんが日和った言い訳はともかく、いきなり簗瀬先輩という方に話を聞きに行くのは止めておいた方が良いとは思いますよ?)


 だからちゃうってのに、もう。


 でも探しにいくのは止めた方が良いってのはなにゆえ?


(あずか)り知らぬところで勝手に自分のことを調べられても、鹿屋野先輩も良い思いをされないでしょうし。簗瀬先輩に話を聞くにしても、鹿屋野先輩ご本人には話を通しておくべきかと)


 いやまぁそれはそうかもしれないけど……。


 でも鹿屋野先輩に聞いても答えてくれなさそうだから、ってのが前提としてあるわけじゃん?


(でも伊呂波ちゃんは、鹿屋野先輩を傷つけたり悲しませたりさせたいわけではないのでしょう?)


 それまでボクを呆れたような顔で揶揄していた吉祥ちゃんだったけれど、いつもボクを諭すときにするような、真剣な面持ちへと表情を変えた。


(他の人に踏み込まれたくない事情を勝手に詮索されても、それは喜ばしいことでしょうか?)


 うぐっ!


 たしかにボクだって、人と事情にはよるだろうけど、裏でコソコソ自分の過去を掘り返すような真似をされてたらいい気分はしないと思うけど……。


 だけどそうは言っても、それじゃあ本当にボクに出来ることなんかないし、八方塞がりじゃん。


 他に何か策があるわけでもないし、園芸クラブが廃部になるのをこのまま指を咥えて見ているだけなんて、後で絶対に後悔すると思う。


(そう思う気持ちもわからなくはないのですが……私はまだ、伊呂波ちゃんが鹿屋野先輩と十分話ができているようには思えません。まずはもっと話をして、向き合って、アナタの真剣な気持ちを伝えるべきだと思います)


 今までだって、決して巫山戯(ふざけ)た気持ちで園芸クラブの手伝いがしたかったつもりはない。


 それでも、吉祥ちゃんから見て、客観的に判断した上での現状が、『まだまだ足りていない』ということならば―――


 ―――きっと、『そんなことはない』と一蹴していいような意見ではないのだろう。


(お昼に仙人(せんと)君から聞いたこと、簗瀬先輩のこと、鹿屋野先輩が他の方のご助力を拒む理由……そして、伊呂波ちゃんの想いや気持ち。そういうことを鹿屋野先輩に真摯に伝えることが、いま一番に伊呂波ちゃんがすべきことだと、私はそう思います)


 吉祥ちゃんが一番、ボクと鹿屋野先輩とのやり取りや関係性を第三者として理解しているのは確かなのだから。


 焦ってことを仕損じるような結果を招くよりも、有難くも頂いた意見に耳を傾ける選択こそが、最善なのかもしれない。


(……ごめんなさい。今回はちょっと干渉しすぎましたね。あまり私が口を出すのは良い事ではないので、今まで通りに(つつし)む様に努めます)


 本人が言う通り、人としての道を踏み外すような行為ではない限り、吉祥ちゃんはなるべくボクらを見守りつづけ、ボクの行動を決定的に方向づけるような発言は控えていた。


 その吉祥ちゃんにここまで忠告させてしまったのだから、きっともどかしい思いをさせてしまっていたのだろう。


(実際に決めるのは伊呂波ちゃんです。私の意見はいつも通り、ほんの些細なアドバイス程度に聞いていただければ……)


 いや、ありがとう。


 ()れて決断を急ぎ過ぎてたかもしれない。


 たしかにさっきまでのボクは、『園芸クラブの危機を何とかする為』ってことしか考えていなかったように思う。


 何よりも優先すべきは、鹿屋野先輩が最も喜ぶ結果であるはずなんだから。


(……伊呂波ちゃんのそういう『誰かの為に』をきっかけに動けるところは、アナタの何よりも誇るべき美点だと思います。それに私にとっても、とても誇らしくて大好きなところですよ)


 吉祥ちゃんのおかげで、焦る気持ちは多少薄れ、冷静さを取り戻すことができたと思う。


 園芸クラブの廃部が決定されるまで、残り一週間。


 だとしても、あと一週間も残された時間があるのだから。


 だからこそ、焦らず、『とりあえず』なんて気持ちは捨てて。


 だけれども、今まで以上に慎重に、真摯に、そして真剣に―――


 鹿屋野先輩と向き合おうと、強く心に誓ったのだった―――


                 ◇


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