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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
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<第拾万(よろず)。‐不埒の神様‐> ②


                 ◇


「自宅のリビングで正座させられるボクの気持ちも考えてよ……」


「どの口でそんなナマ言ってやがんだ」


 仙兄に捕獲された後、何故か一先ず正座を課せられたボク。テラ理不尽。


(どこが理不尽ですか。因果応報でしょうに)


 ぷぎゃ。


 神様からの『因果応報』()くわ~。


(まったくもぅ)


 吉祥ちゃんは呆れたような顔をしながら、ボクの傍を離れて、仙兄の横までフワフワ移動していった。


 これにて完全な孤立無援となってしまったわけである。


 仙兄から大人しくお説教されるしかないのか……。


「ピーチクパーチクいつも通りのクソ御託はいいんだよ。なんで俺がこんな怒り心頭でテメェの前で仁王立ちしてるかわかるよな?あぁ?」


 仙兄はボクに正座を課した後も変わらず、プンプンなんて可愛すぎる表現では表せないほどにお怒りな様子でやんした。


「へい……わかりやす……」


「なんでだ。言ってみろ」


 わざわざボクの口から言わせようとするとか。


 ホント性格悪いんだけど、この似非(えせ)ヤクザ。


「大国先輩から逃れるために仙兄を利用したから……とかですかね?」


 なんだかんだで、いつも会うたびに「忙しい」とか鬱陶しくボヤいてる仙兄のことである。


 きっと先生のお仕事がいろいろ大変なのだろう。


 そんな中、ボクと大国先輩の(いさか)いに意味もなく巻き込まれたのだから、そりゃあ怒りたくもなるだろう。


(いやぁ多分違うと思いますよ?なんだかんだで仙人君、伊呂波ちゃんのお世話するの大好きでしょうし……)


 え?そなの?


 世話されるのはドンとこいだけど、大好きってのはちょっと引くなぁ。


 なんて失礼なことを考えてたのを察したわけではないだろうけれど。


「ちげぇよっ!やっぱりわかってねぇなテメェは!」


 ジャストに嚙み合ったタイミングで、仙兄はおみ足を床にドンっと踏みつけ、なんか怒ってますよアピールをカマしなすった。


 ひぃぃっ!怖っ!マジ怒りやんっ!


「テメェなんだ!あのメールの内容はっ!」


「メ、メールぅ……?」


 たしかに大国先輩を呼び出してもらうために、仙兄に抜群に効果ありそうなメールを送ったけれど……。


 ゆうてアレも只の冗談だし。


 そんな、ここまで怒るような内容でございましたっけ?


「伊呂波から俺に届いたメールがこれだ」


 そう言いながら、ボクの眼前にスマホをかざす仙兄は、まるで水戸の黄門様のようであった、とか言って~。


(ふざけてないで、真面目に仙人君の話を聞きなさいな)


 いやだってボクが送ったメールだよ?


 見せつけんでも知っとろうがよ。


 既知の内容ではあったけれど、差し向けられたスマホに目を通すも、そこには一字一句違わず、ボクがつい数時間前に送った文章が表示されていた。


『助けて仙兄!

 大国先輩が宝ちゃんのヌード写真撮って来いって!

 持ってこなきゃ退学にしてやるって脅してくるんだけどっ!

 どうしようっ(ぴえん)』


 あー。


 そいや、ぴえんの絵文字初めて使ったわ。


 これからはあんまり使わない方が良いかもしれないね。なんか煽ってるみたいだし。


(そんなこと悠長に考えてる場合ですか。仙人君のお顔見てみなさいよ)


 吉祥ちゃんのお言葉に従い、スマホから目を逸らし見上げた仙兄のご尊顔は……あぁ、マジ切れのソレだわ。チビりそう。


「よりにもよって、宝さんをネタに俺を利用しようとか……」


「い、いやだなぁ仙兄。『ネタ』とか『利用』とか、一々表現が大げさなんだから」


「しかもテメェ、た、宝さんのヌ、ヌ、ヌードだと?」


 あはは。


 こんなキモイくらいにドモってる仙兄初めて見たわ。


 なにゆえ?


(『なにゆえ?』じゃないでしょうが。って言うか伊呂波ちゃんも既に察しているんでしょ?仙人君が昔っから宝ちゃんのこと大好きなの知っているんですから)


 いや、うん。まあね。


 でもここまで効果抜群で、激おこぷんぷん丸になるとまでは予想してなかったんだけど。


「あ、あ~!仙兄も欲しかった?流石に実の母親のヌードなんか気持ち悪くて撮影なんかしてないけど、仙兄がどうしてもって土下座して無様にお願いしてくるんだったら、ちょっとは考えてあげても―――」


(だから、なんでそんな火に油を注ぐようなことしか言えないんですかアナタは……)


「ばっ!馬鹿言ってんじゃねぇっ!ふざけんな伊呂波テメェマジで!」


「いらないの?」


「全然いるわっ!いやっ!いらんわっ!ちょっ待て待て待て!いらねぇってのは違う語弊がある!いらねぇ訳がねぇ!」


 いきなりめっちゃ饒舌やん。


「でも違ぇんだよ!俺にとっての宝さんはそういう性の対象にしたくねえ存在って言うか!いや勿論、性の対象にならないっつったら嘘になるが!でもそんなそこいらの腐れミーハーファンと同じ次元で一緒にされたくもねぇしっ!わかんだろっ!?」


 知らんわ。


 てかなるほど。『めっちゃ早口で言ってそう』ってまさにこれか。


 今の仙兄と、得意分野のこととなると急に饒舌になるオタク君、まったく一緒だわ。キモ。


 さっきまでのお怒りの様子は何処へやら、謎に一人勝手にテンパり出した仙兄に、正直ドン引きしているボク。


 一方的にお説教されそうだった数分前の空気とは打って変わり、なんかかつてない程の仙兄の醜態によって、お説教も有耶無耶にできそうになりつつある我が家のリビングで。


「はぁ……二人ともさぁ。お説教もいいが、とりあえず飯にしねぇ?」


 流石に耐えかねたのか、溜息を零した鞍馬の提案によって―――


「「……そですね」」


 一先ずというか、ようやくというか。


 まぁとりあえず、本日の晩御飯の再開と、相成(あいな)ったのでした―――


                 ◇


「何か今日のご飯、ベシャってしてねぇか?」


「仙兄、それ指摘したらご飯一杯多く食べなきゃいけないルールがあるから」


 鞍馬と仙兄、それとボクの三人で、我が家のテーブルにて晩御飯が再開されちょった。  


 だけれども、この光景は別に珍しいものでもなく。


 ボクらが小さい時から、割と頻繁に、一緒にご飯を食べてきたのである。


「は?このマズ飯を?せっかくのおかずが台無しじゃねぇか」


「文句は鞍馬に言って」


「お前じゃろうがっ!」


 宝ちゃんはボクが物心ついてからずっと忙しかったし、宝ちゃんに懐いていた仙兄は、息子であるボクの面倒をずっと見てくれていた。


 一時期はいろいろあって、仙兄と毎日二人でご飯を食べていた時期もあったし、(えん)ちゃんが一緒に暮らしていた時には、ボクらだけじゃなく閻ちゃんも含めて四人でご飯を食べていた時期もあった。


「鞍馬はこんなに旨い飯つくれるようになったのに、伊呂波は米すら上手に炊けんのか」


「はぁ~~~?」


 かっちーん。鶏冠(とさか)にきましたよ?


 そんな残念そうな目でボクとベシャ飯を見んな!憐れむな!


「あぁ~やだやだ!自分が出来ることはみんな出来て当たり前って思ってるんだ?傲慢傲慢。仙兄がそんなマンゴークソ野郎だとは思わなかったよ!見損なったよっ!」


 炊飯器の使い方がお上手でなかったら死ねってか?別に誰にも迷惑かけてもいないのにっ!?


 けっ!ふざけんなやいっ!


(現在バリバリに人様に迷惑かけてるでしょうが。二人の箸の進みがかつてない程に亀ですよ?わかってます?)


 ちゃんぽ~ん!


 そんなん知るか!


「はぁっ!?勉強も出来ねぇ!運動も出来ねぇ!んじゃお前には何が出来んだっ!言ってみろチビ!せめて米くらい人並に炊けるようになりやがれ!」


 吉幾三の名曲みたいにディスんな!


 田舎に帰れ!


 あ~ぁ、もういいですよーだ!もう怒ったかんね!


「ぴゃ~!ぴゃぴゃぴゃ!ぷぎゃ~」


「アホになって誤魔化しやがった。なんだコイツ無敵か?」


(やめてやめて。本当に恥ずかしい。なんでウチの子はこんなにおバカちゃんなんですか、もぅ……)


 仙兄は恐れ(おのの)いているのかドン引いているのかはわからんけども、何か馬みたいに戦慄(わなな)いてるやがるし。


 吉祥ちゃんに至っては、顔を手で覆いながら赤面しやがった。


 そういう反応はマジで自己嫌悪ヤバいからやめて。


 やんなきゃよかった。恥ずか死ぬ。


「……もういいから。頼むから、とっとと飯食ってくれ二人とも」


 遅々として進まない夕食に流石に嫌気が差していたのか、それまで黙々とイート決め込んでいた鞍馬だったが、我慢の限界とばかりに恨めし気な目をボクらに向けてくる。


「それに伊呂波、お前なんか話があるって言ってたろ?ちょうどいいし、仙兄にも一緒に聞いてもらえばいいじゃんかよ」


 ボクと仙兄は置き去りに、一人でノルマを終えましたとばかりに箸を置き、鞍馬は一人勝手に話を聞く姿勢を整え出した。


 まぁ確かに、園芸クラブのことについての相談はするつもりだったし、仙兄にも一緒に聞いてもらえるのは、たしかに丁度いいのは事実である。


 というか、もともと仙兄には明日あたりに相談に行くつもりだったし。


(まどか)と揉めてるってので、どうせまた何かのトラブルに首ツッコんでは気付いていたが……」


 さっきまでボクとトムジェリかましてた時の様子はどこへやら、仙兄もいつもの真面目な話をするとき特有の神妙な面持ちでもってして、ボクに向き直っていた。


「今度はどんな厄介事に巻き込まれてんだ。聞いてやるから話してみろ」


 文句だ小言だを言いつつも、なんだかんだで今までずっと、ボクが困っている時には、二人とも手を貸してきてくれた。


 ボク個人のワガママだったら遠慮は……まぁしないけど、それでも今回は鹿屋野先輩のためである。


 申し訳ない気持ちを少しは持ちつつも、今回も甘えさせてもらうとしよう。


 お茶碗に残った最後のベシャ飯を、麦茶と一緒に流し込んで喉を潤したのち―――


「ごめん、長くなるかもしれないけど、どうせだから最初っから話すね。鹿屋野先輩と園芸クラブのこと―――」


 ボクはいま直面している問題について、鞍馬と仙兄に話し始めたのだった―――


                  ◆



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