<第拾万(よろず)。‐不埒の神様‐> ①
【八百万学園生徒会執行部 ②】
現在の八百万学園生徒会執行部の役職構成は、学生会長、副会長、総務担当、会計担当であり、各一名ずつが配置されている。
しかし、学生会長は休学中、会計担当は他のサークルにも所属しているため、大概の事務・実務処理は副会長と総務担当の二名で行っている。
◆
「今日のご飯、なんかベシャってしてない?」
「お前が炊いたんだろうが……何?上手に米炊きできなくて自己嫌悪?反省してんのか?」
鹿屋野先輩に園芸クラブ存続の手伝いを申し出て、大国先輩のウザ絡みから何とか逃れた放課後から多少の時間を経て。
今日も今日とて鞍馬と二人、自宅マンションのリビングにて、ボクは夕食を嗜んでいた。
「伊呂波は少食だから一杯分を我慢すりゃいいからまだマシだろ。俺なんかあと二杯はこのベシャ飯に付き合わなきゃならんのよ?」
この人でなしのクソ鞍馬め。
人に米炊いてもらっておいて文句しか言えんのか。
(伊呂波ちゃんが妙な気まぐれ起こして『今日はボクがお米炊いてみたい!』とか宣ったせいでしょうが……)
だからってこんなブチブチ文句言う!?
褒めて伸ばしてあげようとか思うのが優しさじゃないの!?
(そういうのを自分で言っちゃう伊呂波ちゃんだから、鞍馬君は優しくしてあげようとか思わないんですよ?)
クソぅ……どいつもこいつも、なんも褒めてくれねぇし。
褒めてもらうために珍しく手伝ったろうと思ったのに、甲斐がないじゃんかよぅ……。
「文句いうなら食わなくていいよ別にっ!」
「あ、そう?マジで?んじゃ買い置きのパック飯でもレンチンしてくるか」
「待って!やっぱり食え!量とかよくわからなかったから、意味わかんないくらいベシャ飯製造しちゃったし!残ったあれどうすんだよ!」
炊飯器には、未だ大量のノルマが残っているのだ。
どうせ食べずに捨てようとしたら、ウチの神様に怒られるし……。
(当たり前です!もったいない!それに伊呂波ちゃんが私の忠告も聞かずに、碌に調べもせずにご飯炊いたせいでしょうが!)
うぇぇ……。
でもどうすんだよぅあの量。おにぎりにすら出来ないし、鞍馬になんとかしてもらうしかないよぅ……。
「はぁ……しょうがねぇなぁ。明日の朝飯用にリゾットにするにしても、もうちょっと量を減らしておきたいし。俺が頑張って食うしかないか……」
なんだかんだ言いつつも、こいつも食材を無駄にはできないタイプなので、消費活動に尽力してくれるのだろう。
ありがたやありがたや。
「頼んだぞ鞍馬。お前の胃袋と根性で何とかしてくれ」
さてとっと。
「おい待て。どこ行く気だお前」
「え?いやパックご飯あるんでしょ?ボクそっち食べようかなって」
「ふざけんなバカ野郎!お前があの負の遺産を生み出したんだろうが!責任取っていつも以上にメシ食らえや!」
「なんでじゃ!こんな米じゃせっかくのおかずが台無しじゃろうがっ!」
「誰のせいじゃ!」
(口喧嘩するとき訛るのやめなさい二人とも!ガラ悪いったらないですよ!)
と、その時。
ワイワイギャーギャーと、いつもと何ら変わらぬお行儀投げ捨てたような夕食を続けている最中。
『ガチャ』っという、ボクんちのドアを誰かが開けたのを知らせる音が、ボクらの耳に飛び込んできた。
「ん?宝さん帰ってきたのか?いつも連絡くれるのに珍しいな」
「いや、連絡ない限りは宝ちゃんじゃないし、閻ちゃんもいつもウチ来る時は連絡くれるし……」
ってことは。
おおぅ……ヤベぇ。
「あぁ、んじゃ仙兄か……って、伊呂波?なんでいきなり隠れてんだ?」
咄嗟にダイニングテーブルの下に身を隠し、極力身を縮こませようとしているのに、鞍馬はボクの気持ちも知らず、呆れたような顔をしながら覗き込んできやがった。
「ごめんちょっとマジで黙って。あとあの男にはボクは出かけたって言って。てか覗き込むな!バレるじゃろうがっ!」
「お前……また何か怒られるようなことしたんか……」
「しっー!だから黙ってってば!バレんだろ!」
やれやれとばかりに、ようやっとボクの意を酌んでくれたのか、鞍馬の顔はテーブルの上へと消えていってくれた。
「おう鞍馬。すまん飯の最中だったか」
と数秒の後、予想通り仙兄の声が、辛くもボクの耳にも届いてきた。
あぶねぇ……あとは頼んだぞ鞍馬!
(その程度の隠れようじゃ、どうあってもバレるでしょうが。テーブルの上には二人分の食器だって並んでますし)
だからしっーって!話しかけないで!バレるでしょ!
(私の声は伊呂波ちゃんにしか聞こえてないんですから関係ないでしょうが。どれだけ動転してるんですか、もぅ……)
そ、そうだった。あぶねぇ……。
「お疲れ、仙兄。飯はまぁ、別にいいんだけど……今日はどうしたの?伊呂波か宝さんに何か用事か?」
来客者である仙兄にいつも通りお茶でも入れる為なのか、テーブルの下から見える鞍馬の足は、キッチンの方へと向かって行った。
バカ!鞍馬お前!とっとと追い返せ!
今のボクからしたら借金取りのヤクザみたいなもんだぞ!温かく出迎えてたまるか!
「あぁちょっとな。んで、あのチビはどこにいる?」
ひぃぃ!
声でわかる!怒られる時のやつだ!
「テーブルの下」
あっ殺そ。
(一瞬の躊躇いもなく即答でしたね。鞍馬君グッジョブ)
グッジョブじゃねぇわ!全然グッジョばないっての!
「へぇ~そうかぁ。どぉ~して伊呂波は隠れてんだろうなぁ。なぁ鞍馬?」
「いやぁ俺はよくわからんけど。あっそうそう!伊呂波から伝言で、伊呂波は出かけたって仙兄に伝えて欲しいんだと。お茶でいい?」
もうやだ!
鞍馬のアホ!あいつホントくたばれ!
「おうすまんな。へぇ~なるほどねぇ」
そんな呟きの後、仙兄の足がテーブルの下に隠れるボクの目の前に現れたけれど、仙兄の顔が覗き込んでくることはなく。
その代わりに、頭上のテーブルを指かなんかでコツコツと叩く不気味な音が、ボクのSAN値をガンガンにすり減らしていった。
「なあ伊呂波ぁ?なぁんで伊呂波は隠れてるんだと思う?なぁ伊呂波ぁ?」
やめてやめて、何その五七五調なラップみたいなやつ。ちょう怖いんですけどもっ!?
「お~い!テーブルの下の伊呂波さーん?聞こえてますか~?」
てかいつもの仙兄よりも、若干キャラ崩壊してんのが余計怖いんだけど!
(伊呂波ちゃん。流石に諦めた方が身のためかと……これ以上粘っても、もうどうにもなりませんよ?)
いやだ~!そんな勇気ボクにはない~!
だけどまぁ当然のことながら。
吉祥ちゃんの言う通り、テーブルの下でただ身を丸めていても、ボクが窮地から救われることはなく。
「ちっ!しゃあねぇな!往生際が悪いんだよっ!」
そんな声と共にテーブルの下に伸びて来た手は、ボクの腕をガッと掴み―――
「ひぃっ!」
「おらぁっ!観念しやがれっ!」
「いやだぁ~!」
「イヤじゃねぇ!暴れんなコラ!イワすぞ!」
(ガラ悪いやつしかおらんのか……)
そしてそのままズルズルと、ボクの身体は無常にも、テーブルの外へと引っ張り出されてしまったのだった―――
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