<第九万(よろず)。‐不撓の神様‐> ④
◇
「なんと言われようとも手伝います」
「ありがとうございます。その御気持ちだけ頂きますね」
「何度断られても、絶対に手伝います」
「そのお言葉と優しさだけで十分嬉しいですから。なので本当に大丈夫です」
ぐぬぬ……。
園芸クラブの存続のため、その手伝いを申し出に来たのに、何故だかボクが慰めされ、涙腺ガンガン殴られて泣きそうになってから幾許かの時間を経て―――
心を落ち着かせ、本来の目的を伝えるや否や、鹿屋野先輩はささやかな微笑みとお礼を添えた上で、ボクの申し出を幾度となくお断りなすった。
「ゴミ拾いを手伝っていただいた御礼がしたいんですっ!」
「あの……本当にお気持ちは嬉しいんです。でも、これ以上私の個人的な事情に吉祥君を巻き込むわけにはいきませんので……」
うぅむ。頑なだ。
(伊呂波ちゃん……今日はこれくらいで一先ずお暇しませんか?鹿屋野さんにもやるべきことなどあるでしょうし)
たしかにここで押し問答していても、時間の浪費にしかならないかもしれない。
来週までに迫ったタイムリミットを鑑みるに、限られた時間を有効活用せねばならない気もするし。
「そうですか……わかりました。今日のところは帰ります」
「あっ、あの!本当にごめんなさい!吉祥君のお気持ちを受け取ることができなくて」
なんかボク告って振られたみたいな気持ちになってるよ。
悲しみ深みざわ。ぴえん超えてぱおん。
「いえいえ、ボクの方こそ作業の邪魔をしてしまってごめんなさい……あの、最後に一つ聞いていいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「どんなこと言われても大丈夫なので、ぶっちゃけ本音を聞きたいんですけど、ボクに会いに来られるのって迷惑ですか?今日のことも、あと今後のことも含めて……」
これだけは確認しとかないといけない。
鹿屋野先輩お優しいから、心の中では迷惑だって思ってても、ボクには直接言わないかもしれないし。
「そんなっ!迷惑だなんてことありませんっ!」
人を見る目なんつぅ才能なんざ、ボクには欠片もないとは自覚しているけれど。
それでも鹿屋野先輩がボクに気を遣ってないか、嘘を吐いてないか。
そんな様子や態度に対して頑張って注意しながら、鹿屋野先輩の言葉の続きに耳を向ける。
「園芸クラブの先輩方が卒業してしまって、新たな学年になってから、ずっと一人でしたので……」
恥ずかしそうにも、寂しそうにもみえるような、そんな控えめなハニかんだ表情を浮かべながら。
それでも、ボクを決して傷つけることのないような、優しい言葉だけが鹿屋野先輩の口から紡がれる。
「一昨日のあの時に吉祥君と偶然知り合えて、今もこうしてお話できている
ことが、とても恵まれているなって。心からそう思っています」
ただそれだけで、守ってあげたくなってしまう。
少しでも幸せであって欲しいと願ってしまう。
「だから、吉祥君さえ宜しければ、これからも仲良くしていただけたら、とても嬉しいです」
はたして、鹿屋野先輩の魔性の魅力ゆえなのか。
はたまた、ボクがチョロすぎるのか。
うん。多分どっちもだな。
鹿屋野先輩のきれいな顔に浮かぶ優しい笑顔を見て―――
ボクはまた、より一層。
鹿屋野先輩への恩返しを、強く心に刻みつけたのだった―――
◇
はてさて、どうするか。
鹿屋野先輩とバイバイして、学生鞄を回収しに戻る道すがら、ボクはちょっぴり途方にくれていた。
(園芸クラブの危機という状況にもかかわらず、あそこまで伊呂波ちゃんの申し出を断るってことは……何か事情があるのかも知れないですね)
たしかに吉祥ちゃんの言う通り、鹿屋野先輩の頑なな様子を見るに、ボクの与り知らぬ事情がある気もする。
(もしくは単純に伊呂波ちゃんが迷惑だと思っているとか、普通に嫌いだとか……)
まぁたすぐそぅいうこと言うーーー!
なんでそない簡単に人の心抉れちゃうん?
嫌な事言ってボクのこと傷つけるのがそんなに楽しいの?
(冗談です冗談。さっきの鹿屋野さんの様子をみるに、別に伊呂波ちゃんのことも、あなたの申し出も、迷惑で断っているわけではないように見えましたし)
そういう冗談やめようぜぇ……。
メンタルへっぽこな自覚あるんやぞ。
(ごめんなさいって。真面目な話をしないとですし、ちょっと控えますよもう。それよりも……あっ)
ん?なになに?
何かに気付いたような声をあげた吉祥ちゃんに質問するも、答えを貰う前に、その答え自体がボクらの目の前に不意に現れた。
「……おい、吉祥」
クソやろうAが あらわれた!
なんでこのタイミングでこの野郎……。
「ちっ……」
てかなんでこんな人気のない校舎裏に現れやがるのこの人。
付けて来たの?ストーカーとかドン引きますぜ旦那。マジで。
うぅん。
無視しよ。
「おい待て!てめぇまさか、まだ鹿屋野さんに迷惑かけてんじゃねぇだろうな。さっきあの人と何話してやがった?」
覗いてんなよぉ……キモイってぇ……。
「あなたには関係ないでしょ」
ほなさいなら。
「だから待てって!昨日言ったよなっ!園芸クラブにはもう猶予がねぇって!それなのに、まだぬけぬけと呑気かましてんじゃねぇぞテメェ!」
ガラ悪ぃ~。チンピラやんもう。
しゃあない。チンピラに絡まれた時はチンピラに助けてもらおう。
大国先輩はボクとトークしたい感をガンガン出してきているが、そんなのお構いなしに、スマホでメッセージをせっせと作成する。
「だからテメェ聞いてんのかって!てか人と話している最中にスマホ弄り出すなやっ!常識ねぇのかクソチビ!」
「あぁそれね~。わかる~」
「適当に返事してんじゃねぇ!」
『送信』っと。
あとは頼んだで。仙兄。
「てめぇスマホよこせ―――って、クソ。こんな時に誰だよ!」
ボクのスマホに伸びるクソ野郎の手を華麗にかわしていると、目論見通りにクソ野郎のスマホにも着信が入りなすった。
「あぁ?仙兄かよ。クソこんな時に」
「マジで出といた方がいいですよ。その電話には。出ないと大国家が滅びます。そんくらい重要な電話ですからね」
「はぁ!?お前まともに話したと思ったらどんな冗談だよ。だれがそんな話―――」
ちっ!素直に出ろや!
お世話になっているお兄ちゃんからの電話やぞ!
「別に電話に出るも出ないもあなたの勝手ですが、後から後悔しても遅いんですからね。マジで」
「―――ちっ。クソ。お前ちょっと電話終わるまで待ってろ!」
てかこの先輩クソクソ言い過ぎじゃない?
品性下劣かよ。
(おまゆう)
わかってる。なんか言いやすいから出ちゃうのよ。
口から『クソ』が。
(汚な……)
引かんで。
ってかやっと電話に出たか。
ほいならこの隙に、っと。アヂュー。
「なんだよ仙兄。今ちょっと大事な話を―――っはぁ!俺が!?いやいや
何の冗談だよ!そんなことしてないって!丁度そこに吉祥いるし、本人に聞いてみれば―――っていねぇ!!あのクソチビィ!!!」
背中に聞こえる不愉快な罵倒もクールに聞き流し、ボクはスタコラサッサとその場を後にしたのだった。
(あとで怒られる人が一人増えただけな気もしますが……)
そういうのは、その時になってから考えるのよ。
ずっとそうやって逃げ切って来たんだから。
(今まで全然逃げ切れたことないでしょうが。そんで毎回、あとで泣くことになるんですから……もう)
だからもう!今はいいのっ!
そんなことより、今は考えなきゃいけないことがあるんだから!
そうしてボクは夕日に染まる校舎裏を走りながら―――
明日からの活動内容について、考えを巡らしたのだった―――
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