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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
44/62

<第八万(よろず)。‐不穏の神様‐> ④


                  ◇


「ひどい……ひどすぎる……普通弱ってる人間の頭に拳骨落とすかね?」


 痛む頭をさすりながら大国先輩を睨むも、そんなボクの抗議の視線も構う気なしと、鋭い眼光で睨み返されてしまった。


「あぁ?テメェだって俺の脛を蹴り上げやがったじゃねぇか。お互い様だろクソチビ」


 この男、本当に口が悪いったらないわね!


 品性下劣過ぎて困っちゃうわ!

 まったくもう!


(お互い様でしょクソチビちゃん)


 ……この神様もどうなんだろう?


 愛する子どもに対して『クソチビちゃん』とか可愛らしい暴言吐けちゃうとか……。

 いいの?神様でしょ?


(事実を言ったまでですよ。冗談で済む鞍馬君ならまだしも、すぐに暴力に走るのは良い事ではありません。反省してください。クソチビちゃん)


 うぅっ。

 説教はお叱りとしてありがたく受け取るけどさ?

 

 でもでも、最後の暴言の方さ?


 『クソチビちゃん』という語感が気に入って連呼してるわけじゃないよね?

  まさかね?


(まぁそうですね……そういう面もありますね)


 おいこのクソおばあちゃん。


 ボクのことけなして遊ぶのやめろ。


(貶してませんし、いじってるだけですし。それよりなんですって?クソ『おばあちゃん』?)


 誰もそんな酷い事言ってないよ、おばあちゃん?


 耳悪くなっちゃったかな?

 老化かな?


(くっ……大国先輩、あと二、三発くらいこの子に拳骨落としてくれませんかね?)


「お前、なんでそんな頑なに帰ろうとしねぇんだよ?園芸クラブに何か用事でもあんのか?」


 ボクらが和やかに親子喧嘩を繰り広げてると、大国先輩は訝し気にそう尋ねてきなさった。


「まぁそうですね。鹿屋野先輩に挨拶したり改めてお礼したりと、用事ならいくつかありますし」


 昨日散々お世話になったんだし、ゴミ拾いが終わった後にもお礼の言葉は伝えたけれど。

 改めて感謝の言葉を伝えるのも悪くないだろう。


「あぁ?お前、鹿屋野さんと知り合いなのか?ってか『お礼』って何の―――」


「それにさっきから美少女成分が不足してるんで、鹿屋野先輩で癒されたいんですよ!。むさい男共と昆虫に囲まれてすさんだボクの心を癒して欲しい!」


 あと単純に美人な先輩とお近づきになりたいしねっ!


(うわぁ……なんて俗な……この男子高校生め)


 俗って言ったな?


 そこらへん歩いてる男子高校生に問うてみい。

 全員揃って『美人な先輩とねんごろになりたいですっ!!!』って答えるぞ?


 つまり一般論じゃし。


 浪漫じゃ。

 浪漫をかいすのじゃ。


「うーわ……なんだその気色悪い理由。発した人間と状況によっては普通に事案だぞ?」


 『うーわ』じゃねぇんですけど。


 あんた本当に男子高校生かよ。

 枯れてんなぁ……。


 てか二人して同じ反応するのやめてくれないかなマジで。

 普通に傷つくから……。


「それより……あぁえっと何だっけか?お前のあまりの気持ち悪さに何を言おうとしてたのか忘れちまったよ……まぁとにかく。何か用事あるにしても別の日に一人で来やがれ」


「ふんふむ……」


 逆に聞きたいんだけど大国先輩こそ、どうしてそうもボクの同伴を拒むのだろうか?


 大変申し訳ないとは微塵も思ってはいないんだけど、ボクは『りょ!』って頷いてお暇するほど、素直でも気配り上手でもないのである。


「そもそもお前、奴隷だなんだってブー垂れて、ずっと帰りたがっていたじゃねぇか」


「なるほど……」


 これ以上大国先輩と押し問答してても面倒くさい。

 先輩の言葉に従って帰るつもりも微塵もない。


 そもそも件の部室は目の前にあるのだし―――


「おじゃましまぁす!」


「あっ!だから待てっておい!ホント人の話を聞かねぇチビだなクソ!」


 後ろから抗議の声が届くも、無視して『園芸クラブ』の部室のドアに手を伸ばす。

 

 ごちゃごちゃ言われる前にとっとと入室してしまおうっと。


 ガチャッとドアノブを回しドアを開け放とうとした瞬間、『あっ……ノックするの忘れた』という懸念が脳裏を過ったけれど……まぁもう無理だ。間に合わね。


 ごっめ~ん☆


(ごめんじゃないですよっ!女の子が使っている部屋に対してその無遠慮ぶりは―――)


 だから反省しとるて。

 次は気を付けるて。


(絶対嘘です!)


 今は吉祥ちゃんに構ってる暇はなぁいの!

 しっ!


(くっ!ウザすぎる!)


「生徒会のガサイレです!その場から動かないでください!」


 自分の無遠慮さへの反省は一旦置いておき、一歩入室した部室内でそう言い放ったボクの目に鹿屋野先輩の『園芸クラブ』がどう映ったか―――


 一目見るや抱いたのは―――ガランとして侘しくて、片付いていて質素だなぁという印象。


 そもそも部員数が一人しかいないこともあり、活動内容はともかく仲間と楽しく活動していた前2つの部室には一切感じることのなかった、物悲しさや寂しさを感じさせるような―――


 ―――ボクが初めて訪れることになった『園芸クラブ』は、そんな場所だった。


                  ◇


「っ!えっ!?えっ?」


 生徒会に提出するために確認していたのか、紙ぺらを持っていた鹿屋野先輩は大層驚いたようにボクへと目を向け、ボクの頭にはもう一度鈍痛が走った。


「ひぎぃっ!」


「お前……マジでいい加減にしろよな」


 ボクに続いて入室した大国先輩は、怒り心頭といった様子でボクを睨みつけてきた。


 二度も同じ場所を殴りつけられて、正直脳みそ吹き出しました。


 またぞろ勉強ができなくなってしまう。

 責任取れ。


(脳みそはもちろんまろび出てないですし、勉強できないのは元々でしょうが。そしてその痛みも因果応報です。反省しなさい)


 はい……すいやせんした……。


「び、びっくりしました。こんにちわ、大国君、吉祥君」


 ボクの無礼に怒った様子もなく、鹿屋野先輩はご丁寧にもわざわざ立上がってから、ボクらに向かって挨拶と一礼を示してくれた。


 マジで優しさと礼儀正しさの塊のような人である。


(伊呂波ちゃんとはまるで正反対みたいな素晴らしい人ですね)


 ははっ、ウケる。


 一切全く否定できね。


「驚かせてすまんな、鹿屋野さん。このアホが礼儀を知らないせいで」


「驚かせてしまって誠にごめんなさいでした……ちょっとしたオチャメのつもりでして……」


 自身も詫びながらボクの頭を押し下ろしてくる大国先輩の手にも、流石に抵抗することなくそのまま精一杯の謝罪の意思をこめて謝った。


 鞍馬や弁財さんといる時のいつものノリで突っ走ってしまいました。

 あと大国先輩が何度も帰れって言ってきてウザかったせいでもあります。


 つまり大国先輩も同罪やねんて。

 このクソパイセンが本当ご迷惑をおかけして―――


(伊呂波ちゃん?いい加減にしましょうか?)

 

 ……全てボクの礼儀と常識の無さのせいです。ぴえん。


(よし)


「いえいえ。気にしていませんので大丈夫ですよ。今日はこのような場所までご足労頂き、ありがとうございます」


 ボクら二人の謝罪を受けて、鹿屋野先輩は慌てたように両手を胸の前でワチャワチャしながら、むしろこちらを労わるようなお言葉を返してくれた。


 はい、かわいい。

 そのリアクションはずるい。


 ボクの萌へ萌へランキングで堂々の2位に入るレベル。


(また出ましたよ……その気持ち悪い伊呂波ちゃんの脳内ランキング……)


 しょうがないじゃん、萌え萌えキュンキュンしちゃったんだから……。


「いや、こっちも大変な時期なのに時間取ってしまって悪いな。すぐに済ませるから」


 鹿屋野先輩からファイルを受け取った大国先輩は、すぐに目を通すかと思いきや、ボクのことをいやらしくめ付けて忌々しく舌打ち為腐しくさった。


「ほら、チビ。鹿屋野さんに何か用事があんだろ?とっとと済ませてさっさと生徒会室に戻りやがれ」


 よっぽどボクの同席が気に食わないのか、それでも入室してしまったからには仕様がないと思ったのだろう。

 大国先輩はボクに早急に用事を済ませるように急かしてきた。


 大国先輩は先に『大変な時期に』と言っていたし、鹿屋野先輩には昨日聞いた以外の、ボクの知らない事情があるのかもしれない。


 ボクだって無駄に時間取って迷惑かけるつもりもないし、御礼くらいだったらすぐに済ませられる。


「鹿屋野先輩。改めて、昨日はありがとうございました。先輩が手伝ってくれなかったら、きっと夜までかかってたと思います」


 ―――ボクが何気なしに言った、この『御礼の言葉』。


「……は?」


 目を通そうとファイルに視線を向けていた大国先輩は、ボクの言葉を聞くや訝し気に―――そして抑えきれない怒りを滲ませたような眼差しをボクに向ける。


 ―――まさかこの一言が、ボクや大国先輩、そして鹿屋野先輩と園芸クラブをも巻き込んだ新たな『波乱トラブル』。


 その引き金になるだなんて、ボクはまるで想像することができていなかった―――


                  ◇


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