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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
41/62

<第八万(よろず)。‐不穏の神様‐> ①

【鹿屋野比売神】

 野の神様や草の神様として信仰されている女神。

 人間が古くから利用してきた『かや』を名に関しており、

 芽吹きを齎す神様であるとされている。

 『野椎神』という別名も持っている。


                  ◆


 そして放課後。奴隷2日目。

 場所はもちろんいけ好かない大国先輩の巣、生徒会執行部室である。


 昨日ご説明を受けた通り、今日からいろいろなクラブ活動の活動調査のお手伝いを行うことになっているのだけど―――


「ボク思ったんですけd「うるさい」」


 しね。


「やっぱり不慣れなボクが行くy「黙れ」」


 ころす。


「先輩方二人で行ってきてもらって、ボクはお留守番しt「やかましいぞチビ」」


 くたばれ。


 こいつボクの言葉に全く聞く耳持ってねぇし。

 役に立たねえその両耳、引きちぎってあげましょうか?

 

「……このゴミクズ役立たず副会長が(ボソッ)」


「あ?今ゴミっつった?クズっつった?」 


 都合いい事ばっか聞いてやがって……。


 ちなみに今日も今日とて、放課後になるや否や鞍馬に連行されて、こんな辺鄙なところまで足を運ぶことになった訳である。

 鞍馬の野郎には昨日の夕飯時に、ボクがどれだけの重労働を課せられ苦労したかを愚痴ってやったはずなのに、全くというほど気遣いやら同情やらを感じられない。


「それじゃあ二人ともよろしくね~。何かあったら電話してね」

 

 などと呑気な発言をかました恵比寿先輩は、さっさと事務机で書き物作業を始め出してしまう始末。

 彼の中では、ボクと大国先輩が調査活動に行くという決定を覆す気は毛頭ないのだろう。


「ほらさっさといくぞ」


 大国先輩も大国先輩で、ボクの意見など塵埃以下だと言わんばかりに、ファイルやらを手にしてお出かけの準備を整えだしてるし。


 いやでもダメだ!

 ここで諦めたら、今日の活動は昨日以上に絶対面倒くさいものになる!


 何としても覆すんだ!説得すんだ!

 行けボク!頑張れボク!


「先輩。『適材適所』って言葉をご存じですか?」


 ボクの言葉を聞いた大国先輩は、出発準備をしていた手を止めて、『はぁ?』って顔しながらお振り向きなすった。


 何その超絶ムカつく顔。

 ボクも覚えたい。あとでどうやるか教えてくれ。


「なんだ突然。意味わかんねぇこと言ってんな」


 あぁ~意味わかんないかぁ。

 学がないなぁ学がぁ。ちゃんと勉強しなさいよぉ。


「はぁ……馬鹿だなぁやれやれ。いいですか?適材適所ってのはですね、つまりそれぞれの人間にはその人に適した仕事があるって意味で―――」


「おい馬鹿にすんな。言葉の意味がわかんねぇわけじゃねえよアホが。この期に及んでくだらねぇこと言ってる暇があるなら、少しは荷物もつの手伝えって意味で言ったんだよボケが」


 いや、どう考えてもそんなこと言ってなかったよね?

 『意味わかんないこと言うな』でそこまで察せられる人間おらんて。


「だったらわかるでしょう!ボクには100%不向きな仕事なんですってっ!慣れてるお二人で仲良くホモホモしながら行ってくればいいでしょうがっ!?」


 あっ。怒った顔してる。

 や~い短気ぃ~。怒りっぽ星人~。ぷひゃ~!


「……ふぅ。お前すげーな」


 準備は終わったのか、ファイルやら書類やらを入れたトートバックを肩にかけた大国先輩が近づいてきたもんだから思わず身構えたけれど、ボクの予想に反して大国先輩は溜息一つ吐いた後、いきなりボクに媚びへつらいだした。


「な、なんですか急に褒め出して。その殊勝な態度は良きものですが、今はそんな誉め言葉はいらないんでボクを解放してください」


 ボクの言葉を受け、ニコッとボクの前で初めて笑った大国先輩は、ボクの両肩にポンッと手を置くと―――


「お前が一言喋るごとに、いちいち俺の怒りのボルテージを上昇させてく。未だかつて、ここまで鬱陶しい人間に出会ったことがないぞ」


 なんですか怒りのボルテージって。

 アンタはタケシのイワークかなんかか?


「……って、うえっ!?」


 ―――そのままボクの隙をついて、例によってひょいッとボクを肩に担ぎ上げた。


「もう決まりきったことにグダグダぬかしてんじゃねぇっ!ピーチクパーチクうるせぇ上に一々癪に障ること言いやがって!時間がもったいねぇからもうこのまま行くぞクソチビが!」


「んなっ!ふざけんなっ!毎回毎回担ぎ上げやがって!離せ~!」


 この数日でわかりきったことだけど、背中をポカポカ叩こうとも、ボクの身体を拘束する手は全然緩むことがなく―――


「おい福。コイツの口と両手足」


「はいはい」


 さらにムカつくことに、ここ数日のおかげで大変に手馴れてしまった恵比寿先輩の手付きで、ボクの口と手足はガムテープまみれにされるに至り―――


「んじゃ伊呂波ちゃん。是非とも頑張ってきてね~」


 このようにして、ボクのご不満謎団体ツアーは、始まったのであった―――


                  ◇


 目的地に向かう道中、ボクら二人は部活動に励むリア充や友達とワイワイキャッキャッしてるリア充共の奇異の視線に晒されていた。


 やべぇ。

 最近同じような機会が多すぎて、何か恥ずかしくなくなってきた。


 注目を集めている羞恥心も、ボクを人として扱っていないようなこの持ち方に対する不満も、ガンガンに薄れてきているとか。

 『慣れ』とかいう人間の適応能力ってホント恐ろしい。


 「何も知らないままだと、ただでさえ役立たずのお前は、只のやかましいお荷物のままでしかないからな。各団体への活動調査業務の大まかな説明だけしとくぞ」


 とても酷い暴言である。

 せめてもの反抗で背中に頭突きかましてやる。うりゃあ!


「いっ……流石に無知なお前を無知なままで使ってやるのも骨が折れそうだからな。無知であることを恥じて少しは賢くなるように努めろ」


 ムチムチうるさいなっ!

 昼下がりの熟れた団地妻か!この男子高校生め!いやらしいっ! 


 てかこの男、懲りずに依然としてボクのことを罵倒し続けるとか。

 おらっ!くたばれっ!背骨折れろっ!うりゃ!


「うっ……だから暴れんなっての。今俺らが向かっているのは『第二サークル部室棟』という建物だ。八百万学園には部活動用に部室棟が二棟、研究会や同好会とかのサークル活動用にサークル部室棟が二棟用意されている」


 なんか大国先輩による講座が始まった。

 そもそも部活動とかに入る気がなかったから、確かにそこらへんの事情をボクは全く知らなかった。


「部活動に関してはもうすでにおおむねの活動調査を終えているから、お前が行くことはないだろう。お前に立ち会ってもらうのは各サークル活動の調査だ」


 鞍馬が入部したのは空手道部と剣道部だし、この活動中にあの裏切り者に会うことはないということか。

 あ、でもさよちゃんはピアノの会って同好会にも出入りしているって話してたし、もしかしたら会う機会もあるかも。


 それに、鹿屋野先輩も。

 確か園芸クラブに所属してるって言ってたし。


「『第二サークル部室棟』に関してだが、こっちは研究会が多い。んで、第二に比べると第一サークル棟の方は、芸術系や音楽系のサークルが使用している。と言ってもまぁ完全に明確に分かれているわけではないけどな」


 ってことは、第一が陽キャ系で第二が陰キャ系ってことかな?


(その表現の仕方は流石に失礼ですよ、伊呂波ちゃん?)


「ちなみに、面倒だから部活動以外の団体を総称して『サークル』って言う事にするが、全てのサークルがサークル棟に部室があるわけでも、サークル棟の中で活動しているわけではない」


 ん?どゆこと?


「サークル棟内の部室にも限りがあるからな。それに、例えば運動系のサークルは部室を持たずに更衣室や空き教室で着替えて、屋外や空いている体育館の使用許可を取って活動しているところもあるし、一部の服飾サークルは校舎内の被服室や家庭科室を使って活動している」


 あぁそっかなるほど。

 だから『あの二人』、いつも第三被服室に居座っているのか。


(あの二人……天羽槌雄神あめのはづちおのかみ様の御家のふみちゃんとしずちゃんですね。そういえば最近はあまりお会いする機会がないですね?)


 今のところは会いに行く理由もないからね。

 第三被服室、地味にボクの教室から遠いし……。


「話が脱線したから本筋に戻すが、お前にやってもらうのは俺が書類をチェックしてる間に、そのサークルの活動体験をしてもらう」


 え?待って?

 ……それだけ聞くとなんか楽しそうじゃない?


(現金な子め……)


「活動内容が人様に言えない、体験してもらえないってのじゃ話にならないからな。体験できる活動は体験して、そのサークルの活動内容に危険性やらの問題がないかを確認するのが今日のお前の仕事だ」


 いやぁもっと堅苦しいのを想像してたよ~。

 報告書類の確認は全部、大国先輩がやってくれるみたいだし?


 なんかオリエンテーションみたいで、普通に退屈しなさそうじゃん。

 なんか全力で拒否してたのが馬鹿みたいだよ~。


(なんか一気にテンション上がってますね……)


「まぁ活動報告や小規模な発表会や出し物を鑑賞する場合もあるから、全部のサークルで体験確認をするわけでもないが……」


 全然オッケ~☆

 まぁしらない分野の発表聞いてるとかはちょっぴりダルイし、なるべくなら体験多めがいいけどねっ!


「ほら着いたぞ。ここまで来て逃げんじゃねえぞ」


 そう言って釘を刺してからボクの身体を地面に下ろし、ガムテープによる拘束を外してくれる大国先輩。


 ここまで遠かったけど、運んできてくれたから全然疲れてないし、ボクのお手伝いとやらも全然辛そうなものじゃないし。


 なんだよぉ大国先輩ったら結構気が利くとこあんじゃん!

 さすが学生の代表、生徒会の副会長様だね!


(手のひらの返し具合がえぐ過ぎますよ伊呂波ちゃん……)


 初めて訪れた『第二サークル部室棟』とやらは、ボクの想像をだいぶ裏切るレベルで大きな建物だった。

 外から見た感じでは二階建てで、しかも建物外にはベンチや自動販売機もあったりする。


 今もベンチに座って雑談しているグループが何組かいるし。

 確かにこんな環境が与えられているのなら、サークルに所属している学生たちは、放課後もこの場所で青春時間を満喫できたりもするのだろう。


「そこが入口だ」


 そういって入口に向かう大国先輩の後をトコトコと付いて行った。


 まぁ確かに知らない人とたくさん関わるっていう点で、正直ちょっと面倒くさくはあるけれど。

 それにペナルティって理由での生徒会の活動手伝いだったから、もっとしんどいような調査サポートを想像してたけれど。


「今日の予定では、三つのサークルを回ることになっている。それが終わったらお前も一緒に、一旦執行部室に戻るからな」


 でももしかしたら体験した上で作ったものを、持って帰ったりとかできたり?

 他にもサークル活動で調理した物を、試食できたりもするかもしれないよね?


「おい吉祥、ちゃんと聞いてんのか?」


 ベンチでたむろする学生たちの、ボクら二人に向けられる注目やらヒソヒソ話を横目に見ながら入ったサークル棟内の入口脇には、『管理棟室』というプレートが掲げられた部屋があったり壁一面を覆うような掲示板があったりと、初めて訪問したボクの興味を引くような設備があったりして正直ワクワクしてきた。


「はいはいちゃんと聞いてますって大丈夫です!それで!まずは何ていうサークルの活動調査に行くんですかっ!?」


「うおっ……あんなに嫌がってたのにいきなり乗り気になりやがって。まぁ駄々こねたり逃げられるよりは断然マシだが……」


 わぁ!なんだろあのショーケース!

 なんか飾られてるみたいだけどっ!


「まぁいいか。本日の活動調査を行う1つ目のサークルは―――」


 ロビーも広いし、ソファとかも置いてあるのかぁ!すごいなぁ!

 あ、なんかチラシとかパンフレットも置いてある!サークルのやつかなっ!

 

「―――『昆虫食研究会』だ」


 ボクはその場から逃げ出した。


                  ◇


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