<第捌万(よろず)。‐不毛の神様‐> ①
【からあげ】
みんな大好き鳥のからあげ。
食卓にならんでいると嬉しい。
老若男女問わず好まれている平和の象徴。
◆
「美人で優しい先輩をゲットする旅に出たいなぁ」
「教室の片隅でイカレちまった奴でもそうそう言わなそうなアホなこと呟くのやめろよ……」
鞍馬の呆れ顔も、もう慣れたもんだよ。
遠まわしにされた罵倒にも、疲れているためか言い返す気力が全く湧いてこない。
しかしこいつも可哀想なやつだな。
美人で優しい先輩という、学生世界の至宝とも言えるシンボルの素晴らしさに、未だ気付くことができていないとは。はんっ。
「なんかムカつく顔してんなぁお前……」
ぶつくさ文句を呟きながらも、鞍馬は自分の机をボクの机にくっつけて、その上に今朝コンビニで買ってきたお昼ご飯を乗せた。
「なんだかとてもお疲れの様に見えますけど、原因はあれですよね?生徒会のお手伝いの……」
お弁当を手にしたさよちゃんが、ボクらの席までやってくる。
昨日の放課後、ボクが連れ去られた後のことを気にしてくれているのだろうか。
「そんなに大変な作業だったんですか?」
最近では定席になりつつあるボクの前の席に座り、ボクの机の上でお弁当を広げながら、さよちゃんはボクを心配してくれた様にそうお尋ねなさった。
「はぁ……やれやれ。そんなに気になるなら聞かせてあげよう。昨日あの後、ボクの身に何が起きたのかを……」
そんなに乞われちゃ語るしかありませんな。
はぁやれやれ。まったくやれやれだよ。ホントにやれやれ。
(やれやれやれやれうるさいですね……)
「そんな鼻を高くして話し出すくらいの大変な目にっ……!」
「いや委員長。伊呂波は意味もなく頻繁にするぞ。こういう鼻につくような話し方」
鞍馬お前、からあげ君レッドのパッケージを使ってボクを指し示すな。そもそも昨日の裏切りに対する謝罪がまだじゃろうがい。
謝罪の代わりにしちゃあ貧相だが、ちょうど良く差し出されたのだし、からあげ君レッドを一個パクってやった。
お前次はチーズ味の買ってこい。ボクの好きなチーズ味のやつを。
「それは……鬱陶しいですね」
有象無象が何か言っているがそんな羽音は無視し、さよちゃんに語って聞かせる為に昨日の記憶を掘り返す。
「そう、あれは……お前ら二人の裏切りによって、生徒会執行部室に連行された後のことだった。ホワンホワンホワン」
「回想に入る時の効果音、自分で言いましたね」
「アホだなこいつ」
いちいちうるさい虫どもだな。
今ボクのターンなんだから、大人しく聞いててほしい。まったく。
「ふと目が覚めると、ボクは最近流行りの異世界に転生していたのです」
「おい待ておい」
鞍馬が発した停止信号も、すでに発車してしまったボクの口車を止めることなどできまいて。
「それから……なんか面倒になったから諸々省くけど、かくかくしかじかあってボクに惚れ込んだ沢山の美少女と世界を救ったのでした。めでたしめでたし」
「急にホラ話の創作に飽きましたね」
いやさよちゃん?
今お食事中でしょ?スマホいじるのやめなさいねお行儀悪い。
てかキミもボクの話を聞くのに飽きてるよね?
こんなわかりやすい話半分な聞き方ってある?わたしびっくらポンよ?
まぁいいや。実際ボクも急に面倒くさくなったし。
くうくうお腹も鳴っちゃったし。
「くぅ~疲れました!これにて回想終了です!」
今日は鞍馬君が朝練だとかって言い訳しながらお弁当作りをおサボり申し上げたため、ボクもコンビニ飯である。
いやまぁたまにはコンビニ飯もいいよね。ザ・学生のお昼ご飯って感じで。
今度はみんなも誘って学食も行ってみるか。
八百万学園の食堂って、何か所もあってバラエティに富んでるらしいし。
「いや、くぅ~疲じゃないが」
そう呟くなり、ボクが紙袋から取り出したからあげ棒から、鞍馬はひょいっとからあげを一個パクって、パクッと口にパクりやがった。
「あぁっ!なんてことしやがるてめぇ!」
ボクの隙を突くような姑息で卑劣な手口。
今の鮮やかな手口からして、こいつ手馴れてやがる。
おまわりさん!ここに窃盗の常習犯がいやがりますです!
こんなやつパクッて下さい!そして拷問してやって!
「お前が先に俺のからあげ君をかすめ取ったんだろうが」
「自業自得ですね」
コイツらデキてんのか?ってくらい、最近ボクの味方に付いてくれないよねぇお二人さん?
ん?ラブラブか?ラブラブ青春クラブなんか?
(味方されるような言動を為さってから文句を言いなさいね?ホント最近の伊呂波ちゃんはどうしようもないですよ?極まってますよ?)
やっべ。
とうとう神様に『どうしようもない』とか言われてしまった。悲しいなぁ。
だがしかし、これだけは言わせてもらいたい。
これだけは、到底黙って見過ごすことなんてできない。
だから言う!
ボクは断固、抗議を申し立てる!
「いやだって!んじゃあ逆に聞くけどからあげ君の一個とからあげ棒の一個は等価なの!?からあげ棒は全部で三個しかないんだよっ!?からあげ君は有象無象の中の一個じゃん!イコールじゃないじゃんっ!おかしいじゃんっ!こんなのって無いよ……ひどすぎるよ……うぅっ」
「なんですか、その怖い程のからあげへの執念は……泣き出したし……」
「なんか既視感あると思ったら、俺の弟が小学校に入学したくらいの頃に、こんな駄々のこね方してたわ」
なんだこいつら。
みんな大好き偉大なからあげ様のことを馬鹿にしてぇ。
(お二人は一切全くからあげのことは貶してないですよ?貶されてるのは伊呂波ちゃんですからね?現実をちゃんと直視してください?)
いつかコイツらの口にからあげ様をしこたま詰め込んで、からあげ様の偉大さを理解させた上で窒息死させてやると―――
ボクはそう強く、心とからあげ様に誓ったのだった―――
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