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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
39/62

<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ⑥


                  ◇


「世の中には立派な人がたくさんいるもんだね」


(そうですね~。是非とも伊呂波ちゃんにも見習って頂きたいものです)


 うぇっ。

 すぅぐそういう事言うんだから。


 鹿屋野先輩のご協力により随分早く三つのゴミ袋を満杯にできたボクたちは、中身がパンパンに詰まったゴミ袋やら使っていたトングを持って、生徒会執行部室のある特別校舎棟に向けて歩みを進めていた。


 ゴミ捨てまで手伝うと言ってくれたお言葉も、流石にそこまでしてもらっては申し訳がなさすぎると丁重にお断りして、鹿屋野先輩に出来得る限りのお礼の言葉を伝えてボクらは別れた。


 まぁそもそも大国先輩に、『確認するから集めたゴミは捨てずに持ってこい』などと言われており、勝手に集積場に持っていくことを許されてはいなかったのだけど。


 あの野郎、どうしてああも捻くれているというか、他人を信用するってことが出来ないのだろうか?

 鹿屋野先輩の足でも舐めて、あの優しさの1%でも身につけるべきだろう。


(正しくは『爪の垢を煎じて飲む』でしょ?足を舐めるとかどんなプレイですか。あと大国先輩は『他人を』ではなく、伊呂波ちゃんのことを信じていないだけですよ、きっと)


 なおさらクソじゃん。

 そんな先輩、足でもペロペロ舐めてる変態行為がお似合いじゃん、


(はぁ……明日からも生徒会のお手伝いをするんですから、もっと大国先輩とも仲良くなりましょうね?)


 『そんなん無理じゃ』と否定しようとした時、既に視界には入っていた特別教科棟の入口に人影が現れて、さらにボクに向かって手を振り話しかけてきた。


「やあ伊呂波ちゃん、お疲れ様。随分と早く終わったみたいだね」


 偶然なのか意図してなのか、恵比寿先輩はゴミ掃除を終えて帰還したボクを出迎えてくれた。

 

「まさかとは思いますが、ボクが終わって戻ってくるのを待ってたんですか?それともただ単に偶然?あと『ちゃん』付けで呼ぶの止めてください」


「いやいや、流石に待っていた訳ではないよ?これでも結構やらなければいけない仕事も溜まっていて忙しい身なんだよ。ゴミ拾いを頑張っているであろう伊呂波ちゃんに、休憩でもどうかと提案しに行こうとしたら偶々、ね」


 あれ?まさかと思うけどボクの注意無視された?

 聞こえなかったのか、もしくはあえて無視したのかで、昨日抱いた優しい先輩のイメージが瓦解するぞ?お?


「ちょうどいいしゴミ捨ても手伝うよ。道具は入口のところに置いておこうか。そっちの二つが重そうかな?」


 ボクが手に持っていた道具を受け取りとりあえずと入口脇に置いた後、恵比寿先輩は3つある内の2つのゴミ袋を持ってくれると提案してきた。


 やっぱり優しい先輩かもしれない。

 さっきは偶々聞こえなかっただけかな?そうだよねきっと。うんうん。


「あ、ありがとうごぜぇます。ついでにすいませんがよろしくお願いします。あ、でも大国先輩はゴミ捨てちゃんとしたか確認するとかほざいていたんですけど―――」


「そっちも僕の方からちゃんと、伊呂波ちゃんはゴミ捨てを頑張ってくれたって伝えておくから大丈夫だよ」


「それならいいんですが……あと『ちゃん』付けで呼ぶの止めてください」


 ゴミの集積場に向けて歩き出した恵比寿先輩の背を追うように、ボクも身軽になった身体に気を良くして歩き出した。

 ついでに今度は聞き逃されないようにと、ボクの敬称についてもう一度注意の言葉をはっきりと伝えておいた。


「それにしても、本当にだいぶ早く作業を終えて来たねぇ伊呂波ちゃん。円は夜までかかりそうだなんて言っていたけど―――」


 こいつは狼っ……!

 羊の皮を被った狼っ……!

 

 甘言でボクを誑かし錯覚させたっ……!

 自分が『優しい先輩』であるとっ……!


 そして、都合の悪いことは聞かないフリっ……!

 通すかっ……!そんなもんっ……!


(ところがどっこいっ……って何やらせるんですか。私まで乗せないでくださいよ恥ずかしい)


 吉祥ちゃんが勝手に乗ってきといたくせに、何でボクが文句言われてんの?


「もしかして、『誰か』に手伝ってもらったのかな?」

 

 はい大正解。

 ってまぁ、本来なら夜までかかりそうな作業を断然早くに終わらせてきたんだったら、その可能性が一番高いなんてこと、誰でも予想できるか。


「ええ、親切な先輩が手伝ってくれたんです。で、でも大国先輩には一人でやれなんてそもそも言われてませんし、誰かに手伝ってもらっても何も問題もないはずですよね!へへーんだ!ボク悪くないですからね!悪いのは全部大国先輩ですから叱るならあの人の方ですからね!」


 一応ペナルティなのだし、もしかしたら一人でやらなければいけなかったのかな?と不安に思った為、怒られる前に自己弁護の言葉で布石を打っておいた。


 だけど、振り向いた恵比寿先輩は特に気に留める様子も怒っている様子もなく、むしろ顔に笑みを浮かべて満足そうに首を振って否定の意をボクに向けて示した。


「いやいや、誰かに手伝ってもらったとしても全然問題ないよ?でも一応、誰に手伝ってもらったのかくらいは把握しときたいんだけど、鞍馬君か弁財さんあたりかな?」


 当たっているかなと、言わんばかりに人差し指を立てるなどという演技がかった身振りを披露してくれた恵比寿先輩だったが、残念不正解です。


 鞍馬はきっと部活動の最中だし、さよちゃんも最近は『是非教えてほしい』とお願いされたという、吹奏楽部やらピアノの会だかっていう名の同好会への指導に放課後の時間を使っているらしい。


 少し前までのさよちゃんは、そういったお願いも全て断っていたらしい。


 だけど最近になり積極的に引き受けるようになったのは、精神的にも時間的にも余裕を持つことが出来たというか、社交的になり始めたというか。

 何はともあれ良い変化であると、その話を聞いて嬉しくなったのも記憶に新しい。


 さよちゃん本人も、お昼ご飯を食べながら楽し気に話してくれた時の様子を思い出すに、きっと充実した時間を過ごせているのだろう。


「いえ、あの二人もそれぞれ自分のやりたいことをやっていますので。さっきまで手伝ってくれていたのは鹿屋野先輩って方です。恵比寿先輩は彼女のこと、ご存じですか?」


 生徒会の活動でたくさんの人と接する機会が多い恵比寿先輩のことだし、鹿屋野先輩と面識くらいはあるだろう。

 それに鹿屋野先輩もさっき、生徒会の定例活動とやらについても、話題の端で触れていたくらいだし。


「そうか鹿屋野さんか~。それならよかったよ」


 恵比寿先輩はボクの解答にひとり納得したように頷きながらも、踵を返して集積場までの歩みを再開し出したため、ボクもそれにならって止めていた歩みを再開させる。


「あの、先輩?『よかった』とは?」


 手伝ってもらったのが鹿屋野先輩で、なんで『よかった』のだろうか?

 ボクの投げ掛けた質問に答えることなく、恵比寿先輩は足を止めて振り向いた。


「着いたよ伊呂波ちゃん。集めたゴミはあのスペースに置いておけば回収してもらえるから」


 そう言って指さした場所には、もうすでにいくつかのゴミ袋が積み重なっている。

 質問したことへの答えをもらえなかったことに釈然としない思いを抱いたけれど、腕が疲れていたのでとりあえず、持っていたゴミ袋をゴミの山に積み上げることにした。

 

「さて、それじゃあ戻ろうか。あとは執行部室に戻って今日の分の報告書を書いてもらえれば、伊呂波ちゃんの今日の分の業務は終わりだから」


 集積場から踵を返し、来た時と同じように恵比寿先輩の後を付いて行くと、ちらと振り返った恵比寿先輩は何気なくそう言った。


「えっ!これで終わりじゃないんですか!?報告書何て聞いていないんですけど!大国先輩だって『ゴミ拾いが終わったら解放してやる』って!」


「一応決まりだし、円も報告書の作成まで含めて『ゴミ拾い』っていったつもりだったんじゃないかな~」


「うぇ~……」


 マジかクソ。普通に面倒くさい。

 そもそも今日、もう一回あの男と顔を合わせなければならないとは……。


「ついでに今後の君のお手伝いについて、なんだけどね」


 ゲンナリしながら歩いているボクのことなどどこ吹く風と、前を歩く恵比寿先輩はそのまま会話を続けるために言葉を重ねてくる。


「明日からはお待ちかねの、部活動や同好会への調査業務にあたってもらうから」


「えっ無理」


 てか『お待ちかね』とかふざけんな。

 そんなもん望んだ覚えはないっての。


「いやいや、そんな心配しなくても大丈夫だよ。一人で行ってもらう訳じゃないし、君にやってもらうのは僕らに同伴してのサポート程度の作業だから」


「えっ無理……」


(ショックを受けてるとこ悪いのですが、語彙の引き出しがぶっ壊れてるのかさっきから同じことしか口走ってませんよ?)


 えっ無理……。


(もうだめだこの子……)


 そうこうしているうちに、特別教科棟まで戻って来たボクたちだったが、恵比寿先輩は『先に執行部室に戻ってて』とボクに告げるや、ゴミ拾いに使った道具を持ってどこかに消えてしまった。


 もうこのまま帰ってしまおうか……いやダメだ。

 ボクの学生鞄、生徒会室のソファに置きっぱだし。


 項垂うなだれながらも特別教科棟の薄暗くなった階段を昇り、生徒会執行部室のドアを開けると、いけ好かない顔がお出迎えしてくれた。


「おう福……ってなんだお前か。福也はどうした?」


 『労いの言葉もないのかこの男は』と眉間に皺が寄るのを感じつつも、もう精根使い果たして疲れていたので大国先輩に言い返すことなく、ソファに置いてあるボクの学生鞄を持ってそのまま生徒会室のドアに手をかけた。


「いやおい待て待て。どこ行く気だお前」


 どこ行く気だとか聞かれても、そんなの決まってんでしょうが。

 逃げるんだよォ!


「あっテメ!待てやこのチビッ!」


「うっさいゴミ野郎!捕まえられるもんなら捕まえてみろってんだ!さいならっ!……あれ?」


 だがしかし、押そうが引こうがどれほど力を込めてもドアはピクリとも動かなかった。


「えっ!うそっ!なんで!?」


 ガチャガチャ動かしても微動だにしないドアに焦っていると、ドアの外からボクに向けて声が発せられた。


「……伊呂波ちゃん。報告書を書いてもらうって言ったでしょ?悪いけど逃げられても困るんだよ」


 恵比寿先輩戻ってくるの早すんぎ!


(今日逃げれたとしても、どうせ明日怒られることになるのになんでそんな無駄な事しちゃうんですか……)


 い、いや……先輩の態度がすげぇムカついたから、何とか一矢報いてやろうかな……なんて。

 って今はそれどころじゃないから!


「な、な~んちゃって☆冗談ですよ冗談!あはは―――」


 何とか誤魔化そうと、冗談めかして振り向こうとしたボクの肩に―――


 ポンッと。


 ボクが直前におちょくってしまった、短気な大国先輩の手が置かれたのだった―――


                  ◆


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