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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
38/62

<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ⑤


                  ◇


「ホントに手伝ってもらっていいんですか?」


「はい。是非お手伝いさせてください」


 鹿屋野先輩とのロマンスを感じさせる出会いを経て、時も場所も変わってボクたちはとある校舎裏で二人、ゴミ拾いに勤しんでいた。


「ボク的にはそりゃまあ、すごいありがたいんですけど……何か作業中だったんじゃないんですか?委員会とかクラブとかの」


 ゴミ掃除を開始してからまだ一時間も経過しておらず、本来であれば空に朱色が差すのもまだ先な時刻であるにも関わらず、校舎のせいで仄暗ほのぐらい中、チマチマとゴミを拾ってはゴミ袋に投げ込んでいく。


「こちらとしても、お手伝いできて嬉しいといいいますか……実は私も先日、困っていた時にゴミ拾いや花壇の手入れなどを手伝っていただいたという事情がございまして」


 鹿屋野先輩は手際よく、テキパキと手を動かしてゴミを集めていく。

 ペットボトルやスナック菓子なんかのゴミ以外にも、落ち葉やら落ちてる枝を折って短く調節した上でゴミ袋に捨てていってるため、見る見るうちに地面がキレイに片付いている。


「だから学園のために、一人で頑張ってゴミ拾いをしている吉祥君を見過ごせなかったんです」


 なるほど。ゴミだけじゃなくて落ち葉とかも集めればよかったのか。

 学科柄なのか委員会やクラブ活動での経験によるものなのか、ボクとは比べ物にならない程に鹿屋野先輩は清掃やゴミ回収に慣れており、手に持ったゴミ袋はすぐに中身が埋まっていった。


(最初に『学園のために』とか嘘吐くから完全に信じちゃってるじゃないですか……本当はそんな殊勝な心意気を持っていないんですから心を痛めるところですよ、伊呂波ちゃん?)


 流石に罪悪感は、多少なりとも感じているよ。

 鹿屋野先輩の純粋さを見てると、相対的に自己嫌悪が半端ないもん。


「助けてくれた方々には、まだ恩返しをできてはいないのですが……」


 手を止めて申し訳なさそうな、哀愁を感じさせる寂しげな笑みを浮かべた鹿屋野先輩の姿を見るに、助けてもらった恩を返せていないことをとても気に病んでいることが、さっき会ったばかりのボクでもわかった。


「そんなに気掛かりなほどの恩って、何を助けてもらったんですか?あっ、言いにくい事なら別に話してくれなくてもいいんですが……」


 センシティブな話であるならば、部外者であるボクには話しづらいかもしれないし、そもそもその時のことを思い出させてしまうだけでも無粋なことかもしれない。

 

 先日のさよちゃんがされたことの様に苦い記憶であるならば、思い出させてしまうだけでも酷なはずだ。

 あんま軽々しく聞くべきじゃなかったかなと後悔したけれど、鹿屋野先輩は特に気にした様子もなく、手を横に振ってボクの後悔を否定した。


「いえいえ!別に話しづらいとかではないんですよ?『自分たちが手伝ったことは秘密にしといてくれ』と頼まれていますのでお相手の事についてはお話しできませんが―――」


 そして鹿屋野先輩は、ボクのゴミ拾いに協力しながら話してくれた。


 少し前に起こり、そして現在に至っても解決することなく続いている―――


 鹿屋野先輩の身に降りかかった『困ったこと』について―――


                  ◇


 先程お話しした園芸クラブなのですが、実は現在所属している部員が、私一人だけなんです。


 園芸に関する活動団体をとしては『園芸部』がありますから、園芸に興味がある方は皆さんそちらに入部されているみたいで、同じ園芸科クラスの方々も、その多くが園芸部に所属しているみたいです。


 それでも私は『園芸クラブ』を選び、入部しました。


 私の母がこの八百万学園の卒業生で、在学中に所属していた園芸クラブでの楽しかった日々についてよく話してくれたからです。


 母が過ごした充実した青春の日々を羨み入部した園芸クラブでは、私も優しい先輩方に囲まれて、楽しく幸せな日々を過ごすことが出来ました。


 きっかけは、母の思い出でした。

 ですが園芸クラブは、今では私にとっても大切な日々を過ごした、大好きな場所になったんです。


 そして、大好きな先輩たちが卒業してしまい、私の頑張りが足りなかったために新入部員を勧誘することもできず、今の園芸クラブには私一人だけが残ることになりました。


 年度初めには、生徒会の方々が各団体の活動内容について調査をすることが定例となっています。


 ……活動内容や今後の活動予定によっては、部室の使用許可が下りないことや、最悪廃部になってしまう可能性もあるそうです。


 園芸クラブは、園芸部のようにたくさんの部員が所属しているわけでもなければ、大きな花壇を使って立派な活動を行えるわけでもありません。


 私たちは誰も使っていないような場所を見つけて、生徒会に使用申請を出して受理されてようやく、部活動を行うことが出来るのです。


 昨年度まで園芸クラブで使用していた花壇はありますが、部員を増やすことが出来なかった以上は活動実績を新たに作っていくしかないと、そう私は考えました。


 そして八百万学園の敷地内を探して、先程私がいた花壇を見つけたんです。


 あの場所も、最初はゴミや枝が散乱していたり土が固く締まっていたりと、そのまま花壇として使える状態ではありませんでした。


 それでも、園芸クラブが廃部になるような事態に陥る可能性を避けられるかもしれないと、私はあの花壇を再生させることに決めました。


 花壇を再生させるために、まず散らばっているゴミを片付けたり、土を掘り起こしたりと、いろいろとやらなければならない事がたくさんあります。


 他にも、そもそもこの花壇を使用することに問題がないのかも知っておく必要があり、そういった事情に詳しい隣のクラスにいた知り合いに尋ねてみることにしました。


 その方は突然の事であったにも関わらず嫌な顔一つせずに、必要な道具を用意してくれたばかりか、自分たちが手伝った事を他言しないことを約束に、その方の友人と一緒に花壇の再生を手伝ってくださいました。


 そして、土をふるいに掛けたり肥料などの資材を混ぜた土を花壇に戻し終えるまで、その方たちはずっと手伝い続けてくれました。


 さきほど吉祥君と会ったときは、今お話しした花壇の土の具合を確認していたんです。


 私は園芸クラブの先輩たちや、花壇の再生のお手伝いしてくださった方など、たくさんの方々に助けられてきました。


 だから、私も誰かの役にたてるような人間でありたいと強く思って、あなたが行っていたゴミ拾いを手伝わせていただいたのです。


 だから、吉祥君が悪いと思う必要はないんです。

 気にされる必要すらもありません。


 先ほどお伝えした『お手伝い出来て嬉しい』という言葉。

 あれは、嘘でもなんでもなく、私の本心なのですから―――


                  ◇


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