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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
37/62

<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ④


                  ◇


(あのチビ、真面目にゴミ拾ってるんだろうな……)


 吉祥に今日の分の仕事を言い付けてから30分ほど経ったが、しきりに不安になってしまい、いま行っている書類仕事にも全く集中ができていない。

 そもそも昨日今日と会話して、悪い意味で予想を裏切らなかったようなあの不真面目なクソガキが、まともにゴミ拾いに取り組んでる姿が全く想像できない。


 流石に見に行った方がいいだろうかと思案していたタイミングで、執行部室のドアを開けて福也が戻って来た。


「ただいま~。伏見さんは今日もマー研の方に出るからこっちには来ないって」


「おうお疲れ様。まぁ前年度分の会計業務も大方終わってるし問題ないだろ」


 手に持っていたファイルを隣の事務机に置きつつ、そのまま腰を落ち着けた福也を労う為に、執行部室に備え付けの小さな冷蔵庫からお茶を取り出して渡してやる。


 礼を言いながら俺の手から受け取ったお茶を飲むや否や、福也はニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべて、俺に視線を向けてきた。


「どう?伊呂波ちゃんとは上手くやっていけそうかい?」


 こいつは昨日、一体何を見た上でそんな質問が出来るんだろうか?


 吉祥のことを思い出しただけで自然と零れた溜息が、この短期間でもうすでに疲れ果てたという内心を、雄弁に語っているようだった。


「正直たったの二日程度じゃまだわからん……と言いたいところだが、無理だ。どう考えても相性が悪すぎる。何をどうやってもあのチビとは上手くなんてやっていけそうにねえ」


「そうかい?随分と仲が良さそうに見えたけどね」


「どこをどう見たらあれが仲良く見えんだよ……餌を取り合って喧嘩してる猿の方がまだマシってレベルで相性最悪だろうが」


 そもそもあの野郎、テメェが悪いにもかかわらず自責の念が一切感じられないばかりか、救済措置を示してやった俺に対して一切の感謝も尊敬も感じていやがらねぇ。

 むしろ事あるごとにおちょくってきやがってからに……。


 別に生徒会執行部の業務も、誰かに感謝されたいが為にやっている訳ではないが、あそこまで可愛げのない態度を示されたら流石に頭にもくるってもんだろうが。


「マシっていうか、言いえて妙というか……納得しちゃったよ。確かに君らがやりあっている様子は餌を取り合っている猿のようだったね。賑やかを通り越してちょっとやかましかったし」


 こいつ人のさそうな面をしているが、実は結構口が悪いんだよなぁ。

 まぁそれも、仲のいい連中だけに見せる裏の顔、というか本性なのだし。基本的には人当たりも良く優しい奴なんだが。


「あんなリアル子ザルと一緒にすんな。俺は躾のなってない子ザルをあしらってるだけだ」


 あんなのと同レベルだとか、不名誉にも程がある。

 

「そうやって円も伊呂波ちゃんのことを挑発するから、昨日みたいに言い争うことになるんだよ?これから一緒にやっていくんだから、お互いに歩み寄ろうとする努力をしないと」


 会話しながらも集めて来た各団体の報告書類を処理し始めた福也にならって、俺も止めていた手を動かすことにする。

 お互いの作業が落ち着きをみせたら、吉祥に行わせる今後の作業についても話を進めなければならないし、他にも済ませなければいけない業務はごまんとある。


「歩み寄る努力つってもな……あのチビにその気がさらさらねえだろうし」 


「だからこそ円が大人の対応をしてあげないと。今のままじゃ二人とも同レベルだよ?どれだけ忖度した表現しようとしても、良いトコ幼稚園児レベルだよ」


「ぐっ……」


 なかなかの侮辱だが、怒りに我を忘れて冷静さを失っていた昨日の自身をかえりみるに、全く言い返せないのだから情けないにも程がある。


「ま、まぁ今度吉祥と会話する時には、福也のアドバイスを思い出して大人の対応ってやつをみせてやるか。俺の方が先輩だし、精神的にも成熟しているしな」


 親友から頂いたせっかくのアドバイスだ。次の機会には実践するように努めるか。

 吉祥と同レベルだと勘違いされたままなのも、正直勘弁だしな。


 客観的な助言や意見を蔑ろにする人間には、成長の機会は訪れない。

 生徒会の業務を行ってきた経験からも、他人の意見を傾聴し尊重することが何よりも大事なのだと、散々学んできたのだから。


「アドバイスではなく、普通に円に対しての説教でもあったんだけど……伊呂波ちゃんとの良好な関係構築に前向きになってくれたのなら良いや。それで、当の伊呂波ちゃんには―――」 


「あぁ、お前に言われた通りゴミ拾いを頼んである。場所も、この間俺らが掃除したときに発見したあの場所だ。だいぶゴミが散乱していたからな」


 吉祥に任せる今日の分の作業として、ゴミ拾いを提案してきたのは福也だ。

 まずは誰でもできるような簡単な作業内容で、尚且つ学園敷地内の地形や美化環境の現状について少しでも把握してもらうために、との目的だと説明された。


 確かに妙案である。

 あの問題児には、ボランティアの基本であるゴミ拾いを通して、是非とも奉仕の精神やら学園生に尽くす丹心たんしんというものを学んできて欲しい。


「なら良かったよ。伊呂波ちゃんにも、大国円という人間の為人ひととなりについて、知っておいてもらいたかったし。『今後の為にも』ね」


 発せられた言葉の端々が気になり、確認していた書類から顔を上げて福也の方に視線を向けると、福也も同様に俺に向けて視線を寄越し、何やら楽しそうに口元に笑みを浮かべていた。


「『俺について』って……それに『今後の為にも』ってどういう意味だ?」


 福也の浮かべた表情、そして口から漏れ出た言葉の意味が何故だか無性に気になり尋ねてみたが、俺の言葉を受けた福也はいつも通りの愛想の良さそうな表情を浮かべ直して、手をヒラヒラと振ってみせた。


「いやいや、大した意味なんかないよ。今後生徒会の仕事を手伝ってもらうんだから、せめて効率的に連携が取れるくらいの関係にはなってもらいたい、ってだけさ」


「それならいいんだが……」


 何となく釈然としないようなもどかしさは抱いたものの、ある程度納得できる回答が返ってきてきてしまったのだから、それ以上追及する理由がなくなってしまった。


 まあ福也の言うように、昨日今日のようにいがみ合ったままでは、到底『上手く』なんてやっていけるわけもなく、作業を効率的に進めるだなんてのは夢のまた夢なのは事実だろう。


 確かに俺の方からも、歩み寄りの姿勢を示してやらなければならないのかもしれない。

 だが、しかし―――


「はぁ……あの吉祥とコミュニケーションとるとか、死ぬほど骨が折れそうだ……」


「あはは、まあ頑張ってよ円。僕も出来る限りは協力するからさ」


 何気なく行ういつも通りの雑談も一旦の落ち着けを見せ、お互いが自身の行うべき作業の手を改めて進み始めた。


 書類作業に集中し始めた大国の横顔をちらと見た後、福也はそのまま窓の外、茜色に染まり始めた景色へと視線を向けて、今この場にいない破天荒な後輩に思いをせた。


(さて、上手く行ってくれるといいけど……)


 福也が心のうちに浮かべたその言葉も、そしてその内心に秘めた思惑にも、当然大国円は気付くことができず―――


 いつも通りの二人きりの生徒会室に、ペンを走らせる二人分の音だけが―――


 小さく、寂しげに、響き続けていた―――


                  ◇

  

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