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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
36/62

<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ③


                  ◇


「クソが……クソが……」


(私が愛を授けた子が下劣な悪態を吐きながらゴミ拾いをしているとか……愛が薄れそう……)


 最悪の昼放課から多少の時を経て、現時刻は学園生達が青春を謳歌しているはずの授業終わりの放課後。

 この学園内で現在唯一青春を謳歌できていないのは、きっとボク一人だけだろう。クソが。


 ボクは今、これまで足を踏み入れたこともない八百万学園敷地内の片隅で、一人寂しくゴミ拾いをしていた。


(いちおう私もいますから『一人』ではなく『一人と一柱』、が正しいですよ?)


 吉祥ちゃん、それなんの意味もないフォローだからね?

 慰めにもなってないし、『そっかぁじゃあ大丈夫だね☆寂しくないね☆』ともならないからね?

 

 先の昼休み、ボクが行うことになった生徒会活動の手伝いとやらについて、大国先輩からいろいろと説明はされたのだけど、まずは簡単なタスクからと学園内のゴミ拾いを言いつけられた。


 『ふざけんな。誰がそんなんに従うか』と内心で反抗の意を示してはいたのだけど、とりあえずその場から解放されるために、殊勝な態度を示すべく了承しておいた。


 そして今日の最終時限の授業終了後、LHRロングホームルームが終わるやすぐに、バックレて帰宅してやろうと息巻いていたのに―――


「すまん伊呂波。『どうせあのチビは逃げるだろう』という愚痴と共に、大国先輩から頼まれてんだ。放課後にお前を生徒会執行部室まで連行するようにな……」


 身内に裏切り者がいやがった。

 このクソ筋肉ダルマぁ!!!


 がっちり腕を掴まれてホールドされた上に、いとも簡単にひょいと担ぎ上げられるボクってホント、小荷物系男子が極まっている。

 もうこの持たれ方にも慣れたものである。

 わぁーたかーい。しゅごーい。


 誰か助けてくれないかと教室の中に目を向けると、唯一の希望の光、可愛い可愛いさよちゃんがパタパタと近寄ってきているのが見えた。


 もう頼れるのは、さよちゃんしかいない。

 何とかかんとか同情を買って、ボクの味方になってもらうしか―――


「吉祥君、諦めてお手伝い頑張りましょう?大国先輩にお聞きしましたが、お手伝いしないと停学になるかもしれないんでしょう?私そんなの悲しいし嫌ですから……」 


 絶壁委員長、お前もか。


 パシンッ!

「ひぶしっ!っな、なんで叩いたし!なんで暴力振るうし!」


「なにか邪な視線を感じたので。視線の暴力に対するお返しです」


 マジで怖いこの人。

 ナチュラルに無茶苦茶なこと言いながら手を上げてくる……。


(伊呂波ちゃんも心の中でセクハラしてるんですから、そろそろ懲りましょうね?このおバカちゃんめ。あと伊呂波ちゃんの態度が分かりやすすぎるせいですからね?)


 裏切りやらお仕置きやらお叱りやらを受けて、そんなこんなで逃げることに失敗し、泣く泣く奴隷活動に従事するに至ってしまったのである―――


                  ◇


 もうだめだ。

 この学園に味方はほとんどいなくなってしまった。

 もう引き籠るしかない……。ぐすん。


(馬鹿なこと考えてないで、きびきび働きましょう。ほら、あそこにもゴミが落ちてますよ?)


 吉祥ちゃんの協力によって、かなり効率的にゴミを拾うことが出来ているが、クソ野郎からは『ゴミ袋三つ分集めてこい。したら今日のところは解放してやる』とかのたまわれているのである。


 渡されたゴミ袋にはでかでかと『業務用 45L』とか印刷されているもんだから、「大国先輩三人分かぁ。んじゃとりあえず一袋はすぐに埋まりますね。さぁさっさと入って下さい。ハリアップ!」って言ったら頭叩かれた。


 あの野郎『ツッコミ』と『暴力』をはき違えてやがる。

 そもそもボケたわけではないのでツッコまれる筋合いだってないはずなのに。


 その後はゴミ野郎に指示された場所に移動し、ゴミ拾いを開始するに至ったのだけど、ただでさえ辺境の地にある執行部室から、さらに広大な学園敷地内を移動させられるような場所を言い遣わされたのである。


 あんにゃろう。絶対嫌がらせだコレ。

 もっと近くて簡単に行けるような場所があっただろうがきっと。


「クソぅ……」

 

 ここら辺に落ちているゴミはあらかた集め終わったかなとキョロキョロと周囲を見渡してみても、目に付くようなゴミは落ちてないっぽい。

 

(そうですね。そろそろ次の場所に移動しましょうか)


 吉祥ちゃんのお墨付きも貰えたので、ゴミ袋やらトングを持ってサクサク移動することにした。ちなみに一袋分のゴミ先輩からはいくつかの場所を指示されている。


 残念ながら指定された場所の中に生徒会執行部室は入っていなかったけど。

 あの先輩、自分がゴミだっていう自覚がないのだろうか。嘆かわしい。


 ちらと手に持ったゴミ袋を見てみると、現時点で一袋目が半分埋まった程度の進捗具合。

 やべぇ。途方もねぇ。


「はぁ……いつ終わるのこれ?夜になっちゃうよぉ……」


(流石にそんなにはかからないとは思いますよ?確かに移動は大変ですが、悲しいことにゴミ自体は結構たくさん落ちていますし……あれ?)


 ボクの先を進んでいた吉祥ちゃんが、歩くボクらの横にそびえ立つ名称も用途も不明な恐らく今後も利用することはないだろうと思われる謎の校舎の角を曲ろうとして、何か発見したような反応をお見せなすった。


「なに?どうしたの?犬のうんちでもあった?」


(そんなものにいちいち反応しませんよ。低学年の男子小学生でも言わないようなアホな

こと言わないでくださいまったく……)


 えぇ……そんな言う?

 ちょっとしたオチャメなジョークなのに?


 心を抉るような毒舌にちょっぴり傷つきながら、吉祥ちゃんにならって校舎の角から顔を覗かせてみるとそこには、さっき通って来た時にはいなかったはずの場所に一人の女子学生が座って、なにやらゴソゴソと地面をいじっていた。


「誰かいるね」


(誰かいますね)


 そういえばさっきあそこを通った時に、「花壇があるね」(花壇がありますね)なんて倦怠期の夫婦でもしないような、しょうもない状況確認的な会話をしたのを思い出した。


 いや、いつも一緒にいるからね。

 時々会話のネタもなくなってきちゃうから、しょうがないんだよね。

 

「何やってるんだろう……って花壇で土をいじってるんだから何か植えてるのか」


(そうみたいですねぇ。何かの部活とかクラブの活動なんでしょうか)


 こんな辺鄙な場所で一人黙々と作業しているのを覗いていると、なんか無性に親近感が湧いてきた。

 

 お互い苦労してるね。

 一緒に頑張ろうね。ほろり。


(いや勝手に同類にしないであげてくださいよ……。もし彼女が部活動とかで好きでやってるとしたら、罰でやってる伊呂波ちゃんと一緒にして欲しくないでしょうし)


 はい辛辣。

 そろそろ泣くよ?やさぐれるよ?


(はいはい。いつまでも覗いているのも悪趣味ですし、そろそろ移動しましょう?まだまだたくさんゴミを拾わないといけないんですし)


 それもそうだなと、それまで止めていた足を進め出して、花壇で作業している女生徒に近寄っていく。

 

 すると、ゴミ袋の出す雑音やらボクの足音とかが彼女の耳に届いたのだろうし、そりゃまあボクの存在にも気付くよね。その女生徒は少し驚いたようにボクらに向けて視線を投げかけて来た。


「っ……えっ!吉祥、伊呂波ちゃ、君?なんでこんなとこに……?」


 いま、『伊呂波ちゃん』って言いかけたよね?いやいいよ知ってる知ってる。ボク知ってるから。至る所でボクに『ちゃん』付けするのがマジョリティであることに。大丈夫知ってるから。けど知ってるからって認めてるわけじゃないからね?隠すならもっと上手く隠そうね?普通にボク傷ついているからね?是非ともそのクソみたいな風潮を改めて欲しい限りである。ぐすん。


(ちなみに恵比寿先輩も『伊呂波ちゃん』と呼んでましたけどね。昨日の伊呂波ちゃんはそれに気付くような余裕がなかったのかもしれませんが)


 マジか。今度きちんと改めた上で謝らせよう。

 ついでにお詫びとして奴隷期間も減らしてもらおう。そうしよう。


 まあそんな些末なことは追々片付けるとして、まずは目の前の女子生徒である。


 立ち上がった姿を見るにどうやら三年生の先輩であるらしいということは、彼女の着ている学校指定のジャージに入っている刺繍の色から推理できた。

 けれど、先輩後輩で好きな刺繍の色のジャージを着るために交換しているなんてこともあるらしいから、もしかしたら二年生かボクと同じ一年生という可能性も全然あるなぁ。


 まぁそれでも、そもそも学校指定のジャージを着ている生徒も実は結構少ないわけだし、一人黙々と頑張っていた所も見ているし、きっと非行とは程遠い真面目系な女子なのだろうけど。


「こんにちは、初めまして……ですよね?ボクは学園のためにゴミ拾いの最中です。この素晴らしい献身的な善行を褒め称えてくれてもいいんですよ?どうですか?えらいでしょ?ね?ね?」 


「え……あ、うん。えっと、え、えらいね?立派だね」


 ああ良い人だわこの人。

 碌に会話もしたことないのに称賛欲求を押し付けてくるような面倒くさいボクを素直に褒めてくれるなんて。あやうく惚れそうになったわ。


(チョロ過ぎですよ伊呂波ちゃん……しかも自分が面倒な性格してるって自覚してるなら少しは控えましょうよ……)


 今日ボクのこと叱ってばっかだよね吉祥ちゃん。

 大丈夫?カルシウム足りて無くない?


(この子は本当に……)


「うっ……」


 心底呆れ果てたような吉祥ちゃんのジト目に居心地の悪さを感じて、改めて目の前の名も知れぬ女生徒へと目を向ける。


 化粧っ気はないけれど整った容姿に戸惑いの表情を浮かべて、ボクのことをチラチラと見ている、おそらく心優しく真面目な女子生徒。


 この学園に通っているからには、彼女も八百万の一柱である神様からの加護を受けているのだろう。てか神様からの加護ってのは何?顔面偏差値平均以上を保証してくれるの?


 まぁボクの顔面偏差値はカンストすらも突破して5兆億くらいはあるんだけどね!

 ふふんっ!

 

(ただただウザい……)


「うぅっ……せ、先輩こそこんな所で何をなさってるんですか?部活動か何かですか?それにボクの名前も知っているってことは、もしかして初対面ではなかったりします?」


 吉祥ちゃんと頭の中で会話し続けていると先輩に不審がられそうだし、そもそも気を遣わせて作業の邪魔をしちゃうのも申し訳ないしで、優しくて美人な先輩とコミュニケーションを取ることに尽力することにした。


 美人だけど優しくないフワフワ浮いているお姉さんは何やらボクに厳しいし……。


「あ、いえ初対面です。吉祥君は学園内でもすごい有名だし、私が一方的に知っていただけで―――」


 ボクが一年生、つまり後輩であることを知りつつも頭を下げて挨拶してくれる、そんな礼儀正しく優しい先輩―――


「環境美化委員会と、それと園芸クラブにも所属しています、園芸学科の鹿屋野椎菜かやのしいなです。はじめまして、ですね。吉祥伊呂波君」


 ―――これが、この時この出会いが、ボクと優しい先輩こと『鹿屋野椎菜先輩』との初対面。


 恰好つけた表現をするならば、思いがけない邂逅の瞬間なのであった―――


                  ◇


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