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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
35/62

<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ②


                  ◇


「ホントに自分だけお昼食べてるとか……」


 担がれて連行されるという屈辱やら、衆目を集めまくった恥辱やらを経て、ボクは生徒会執行部室まで拉致されてきていた。


 テーブルを挟んだ目の前のソファでは、ボクへの気遣いなど僅かばかりもせずに、大国先輩がお弁当を食べていやがる。

 この男、マジでクズ野郎が過ぎる……。


「昼放課なんだから昼飯くらい食べるだろうが?なに言ってんだお前は」


「……マジでくたばらないかなぁこの先輩」


 学園生の代表たる生徒会役員のはずなのに、ボクという一学園生をどれほどないがしろにすれば気が済むのだろうか……。

 

「はぁ……しょうがねぇなぁ」


 ブーブー文句を垂れるボクの様子を見かねたのか、大国先輩は大きな溜息を吐き出すや、それまで握っていた箸を置いて立ち上がった。

 そして壁際の書類棚のドアを開けて中をガサゴソと漁り出した。


 何してんだあの人。

 まさかまたガムテープでボクの口を塞ぐつもりなのだろうか……?


「ほれ、これでも食っとけ」


 だけど、そうはさせるかと警戒しているボクの予想は外れて、振り向いた大国先輩はボクに向かって棒状の『何か』を放って来た。


「うぇっ!?おっとと……」


 突然投げられた物体に対応できず、普通に取り落とした。

 投げられた弾力性のある『ソレ』はボクの手でバウンドして、足元にポトリと落ちて床の上でもポヨンポヨンとバウンドしていた。


「お前……どんくせぇなぁ……」


 うっせぇくたばれ。


 ディスられたことへの反抗として一度大国先輩を睨みつけて威嚇した後、床に落ちたものに目を向けて確認すると、そこには一本のチーカマが転がっていた。


 拾い上げて軽く振ってみると、ボクの手の中でプルプル震えるチーカマ。


 ボクが突然のチーカマの具合を確かめてる間に、大国先輩は目の前のソファに戻って来て、『やれやれだぜ』とか言いながら食事を再開し出していた。


「ありがとうございます」


 ぺしんっ!


「いてっ!何しやがんだこのチビッ!」


 なのでとりあえず、チーカマで大国先輩の頬っぺたを一発叩いておいた。

 

 流石チーカマ。 

 いい音するなぁ。


「『何しやがんだ』ってお礼しただけですよ。てかなんで生徒会室にこんなんあるんですか?」


「人の頬っぺたチーカマで叩いといて何が『お礼』だボケッ!普通に平手でされるのよりムカついたっつうのっ!」


 あぁもうギャーギャーうるさいなぁ!


「そんな些細ことはどうでもいいんですって!なんでこんなものが生徒会室にあるのかっ!なによりこのチーカマがいつのなのかを早く教えてくださいよっ!安全が確認できなきゃ食べれないでしょうがっ!?」


 ただでさえお腹空いてんだっ!

 早くボクを安心させて食べさせろっ!


 そんな意味合いも込めて、大国先輩の目の前でチーカマをプリプリ振って抗議してやった。


「目の前でチーカマ振り回すなうっとおしいっ!おつまみ研究会から差し入れされたのが残ってたんだよっ!俺らも三日前に食った奴だから大丈夫だっつうのっ!いいからさっさと食いやがれっ!肝心の話する時間が無くなるだろうがっ!ったく!」


 まず一点ツッコミたいのが、『おつまみ研究会』ってなに?

 そんな存在意義を疑うような団体まで存在すんのか、この学園には……。


「あとあと気になりそうだから一応いま聞いておきますけど……『おつまみ研究会』ってなんすか……?お酒も飲めない学生のくせして、なんでそんなしょうもない研究会が存在してるんですか……」


 まぁとりあえず、このチーカマは食べて大丈夫だろうと、赤いテープを外してビニールを剥いてみた。

 クンクン匂いを嗅いでみるも、特に腐ってそうな匂いもしなかったので、まぁ食しても大丈夫だろう。


「『酒が飲めなくても旨いものは旨い。それにご飯にも合うし』って彼奴きゃつらは言っていたが、まぁ他所に迷惑かけるような活動もしてないし、他の団体よりも真面目に研究しているみたいだしな」

 

 うわぁ……この男、『彼奴きゃつ』とか使っちゃうタイプか……。

 トイレ行く時に『きじ打ち行ってくる』とかも言い出しそうな意識古い系やん……。


「それに、他にもっと意味わからん看板を掲げている倶楽部やら同好会なんぞ、腐るほどあるぞ?まだマシなほうだ」


「『おつまみ同好会』でマシとか……ホントどうなってんですか、この学園の部活動は……」


 部活やら同好会やらに入るつもり等さらさら無かった為、入学してから今まで碌に調べることもしなかったけど、流石は変人奇人が集まることで有名な八百万学園である。

 きっと、ボクの想像も及ばないようなイカれた団体が、もっとたくさん存在するのだろう。

 

「『研究会』な。会員の前で間違えると怒られるから気を付けろよ?」


 何その理解できないプライド。

 『研究会』か『同好会』かなんてこだわる必要あんの?


「てか生徒会の活動って、そんな団体とかの管理までやってるんですか?めっちゃ大変そうですけど……」


「管理……まぁそうだな。活動内容や活動実績を調査して予算や場所の振り分けを行ったり、新規に申請のあった団体の認可も生徒会の活動なんだよ。お前が想像しているよりも三千倍は大変なんだぞ?まったく……」


 普段の活動での苦労を思い出したのか、肩を落として疲れた表情で弁当をつつく大国先輩の姿は、まるで残業続きの社畜を彷彿ほうふつとさせるような哀愁を帯びていた。


 てか三千倍って……。

 そんな単位、退魔忍の世界くらいでしか聞いたことないよ……。


「まぁ、そんな責任の重そうな生徒会の活動はボクには関係ないですよね?手伝いって言っても、もっと誰にでも出来るような簡単なお仕事とかなんでしょ?留守番とかそういう居るだけで仕事してる感出せるような?」


「アホか。んな訳ねぇだろ。てか変な団体に関わるのが面倒そうだからって露骨に避けてんじゃねぇ。残念だが各団体関係の業務にもあたってもらうからな?」


 はい最悪のパターン。

 嫌すぎる。


 ただでさえ知らない人間と関わるのを極力避けたいのに、よりにもよって部活動してるような青春満喫系の人間と関わらないといけないだなんて……。

 

さらに言うなら『おつまみ研究会』とかいう、わけわからん団体以上に奇特な活動している奇人たちと関わらないといけないとか……。


「いやいやいやっ!どう考えても人選ミスですってっ!自分で言うのも何ですがボクに一番不向きな仕事ですよっ!?人手が足りないんなら、もっと他の人たちに頼んだ方がいいですよ絶対にっ!」


「もう既に風紀委員会の連中に協力は依頼している。それでも人手が足りないから、お前にも手伝ってもらうって事態になってんだ。諦めて覚悟を決めろ」


「ひぎぃ……」


 この大国という男、逆に褒め称えてあげたくなった。

 昨日コイツに会ってから、嫌な事しか起こってない。

 

 いっそ見事に感じるほどである。

 大国先輩が呼吸しているだけで、嫌がらせされているような勘違いさえ感じているほどに。


「その無駄に目立った容姿を存分に活用してくれ。お前を一日貸し出すのを条件にすりゃ、面倒な団体の拗らせた連中も生徒会の要求にある程度は応じてくれんだろ」


「んなっ!?ボクのことを人身御供にするつもりなんですかっ!人のこと何だと思ってんだっ!」


「はんっ!てめぇに出来そうなのはそんくらいだって言ってんだよ。生徒会と学園の為に諦めて犠牲になれ。てか日頃のテメェの生活態度が招いたことだしな。自業自得だろ」


 食べかけのチーカマを向けて抗議するも、大国先輩は構うことなく、むしろ嘲笑あざわらうように鼻で笑ってボクの言葉を一蹴しやがった。


 そもそもボクのポテンシャルを馬鹿にし過ぎているのが、特に気に入らない。


 ボクが本気さえ出せばもう、学生が行う程度の児戯に等しい生徒会活動如きは、ちょちょいのちょいと無双して、仕舞にゃ『あれ?ボクまたなんかやっちゃいました?』ってとぼけ顔でフィニッシュなのに。


(いやはや、大国先輩とやら。こんな短時間で伊呂波ちゃんのポテンシャルを正しく理解したばかりか、抜群の活用方法まで思い付くとか……伊呂波ちゃんの取り扱いに関してはなかなかのセンスをお持ちですね~)


 もうやだこの神様。ボクに全然優しくない。

めっちゃ煽ってくるやん。


(やだなぁ~。愛ゆえに、ですよ?)


 名前だけは大仰な、『寵愛』とかいうスカスカの愛の形に疑問を抱きつつ―――


 愛と、ついでに昼飯にも飢えたボクの気持ちを代弁するように―――


 ボクのお腹の虫が可愛らしく、『キュゥ~』という嘆きの声を響かせたのだった―――


                  ◇


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