<第七万(よろず)。‐不満の神様‐> ①
【八百万学園生徒会執行部 ①】
毎年九月に行われる生徒会選挙により、役職毎の役員が選任される。
生徒会自体には学園生全員が属しているが、その代表となり、学園生を取りまとめる多様な業務を行うことを主な活動としている。
◆
「伊呂波お前、こんな所で呑気に昼飯食ってていいのか?」
四限分の授業を何とか乗り切り、鞍馬作のお弁当で英気を養おうとしていた、その矢先。
同じ机を囲み、共に昼飯を取ろうとしていた鞍馬が何気なく尋ねて来た。
「……何その質問。ボクは他所で食えってか?あ?イジメか?ハブか?くたばるか?」
人がせっかく気分よく、ランチタイムと洒落こもうと思ってたのに。
なんでそんな水を差すようなこと言うんだよ、この筋肉ダルマは。
「そんな意味で聞いたわけじゃねぇっての……どんだけメンタル荒んでんだよ……」
「伊呂波君って、何て言うか……事あるごとに『クソ』と『くたばれ』ってボヤいてますけど口癖なんですか?」
おおっと?
弁財さんまでボクを煽り始めたぞ?
味方いない系のフィールドが形成されてる感じ?
みんなでボクをサンドバックにしてストレス発散してる感じかぁ~!
あぁはいはいっわかりましたよっ!
よくあるやつねコレッ!
(いやいや……一から十まで伊呂波ちゃんの被害妄想ですよ?この場でストレスゲージ満タンなのアナタだけですよ?)
……。
…………。
疲れてるんだもん。
昨日もいろいろあったし、授業も頑張って全部起きてたし……。
「ってか、そんな言うほど『クソ』だとか『くたばれ』だなんて言って無くない?そんなお下品な言葉を口にした覚えなんてないんだけど?」
(「「……」」)
おい待てお前ら。
なんだその顔は……?
目ぇ見開いて口開けんな。
そんなあからさまな『信じらんねぇ』みたいな漫画やアニメでよくある表情、現実で初めて見たよ?
「……ご、ごほん。そ、それより鞍馬君、さきほどの質問はどういう意味なんですか?」
『聞かなかったフリ』って、実際やられると妙に悲しくなるな……。
反応するのも厭うほどに下らない発言をしちゃったみたいじゃんか……。
(『みたい』じゃなくて、実際にその通りですよ?まさに『どの口で』ってツッコミたいほどでしたよ?)
……吉祥ちゃんや。
もうそろそろボクを叩くのは止めといた方がいいよ?
これ以上続けるとボクはストレスでおっち死ぬよ?
いいの?
(なんて幼稚な脅し文句を……)
「こいつ今日から生徒会の手伝いすることになってんだよ。俺も昨日の夜に教えてもらったんだが、その時にたしか『今日の昼放課に活動内容の説明を聞いてくる』って言ってたはずなんだが……」
「そう、だったんですか……それにしても、随分と唐突な話ですね。前々から決まっていたことなんでしょうか?」
予想外のことを知らされたような、そんな驚いた顔を見せる弁財さんだったけど、まるでボクが生徒会の手伝いとかっていう殊勝なことに取り組むだなんて、まるで考えられないとでも言いたいの?
「手伝いじゃなくて強制的な奴隷。それに昨日の放課後に急に決まったことだから。もちろんボクだってやりたくてやるわけじゃないし……」
「奴隷とはまた物騒な物言いですね……でもやっぱり、伊呂波君の希望で行う訳ではなかったのですね。合点がいきました」
『やっぱり』ってオイ。
どっかで一度、弁財さんが抱いてるボクのイメージを払拭してやらないといけないな。
「そんな訳で、昼飯は生徒会室で食べるんだとばかり思ってたんだが……ん?あれ?大国さ―――」
「はぁ?そんなんわざわざ素直に参加するわけないでしょ?バックレたるっつうの。そもそもなんでボクがあんな横暴で偉そうで不必要に焦げ付いてるような男の言う事を―――」
「―――ほおぅ?俺のことをまぁ、随分と評価してくれてるようじゃねぇか?なぁ吉祥?」
ポンッとボクの肩に手を置かれたと思ったら、さらに正直一生聞きたくなかった声まで背後から聞こえてきた。
……マジかよ。
「どうせそんなことだろうと思って来てみたが、俺の予想も大正解だったようだなぁ?えぇ?昨日の解散際に、俺は今日の昼にどこに集合しろってお前に言ってたっけなぁ?あぁん?」
痛い痛いっ!
ふざけんなっ!握りつぶすつもりかっ!
置かれた手に力が入り始め、ボクのか細い肩がギュウギュウと握りしめられている。
放してもらおうと肩を揺さぶっても、一向に放そうとする気配が感じられないばかりか、寧ろ逃がさないと訴えているかのように込められる力が強くなってきている。
「こ、こんにちは大国先輩。学園でお会いするのは久しぶりですね」
「あぁ、弁財に毘沙門も、せっかくの昼放課に騒いじまってすまないな。このチビさえ連行できればとっとと立ち去るから、悪いがちょっと我慢してくれ」
そう言うや、ボクの両脇に後ろから手を通した大国先輩は、そのままグイッとボクの身体を持ち上げた。
「うわっ!な、ななな何すんねんっ!下ろせっ!下ろしやがれクソッ!」
「お前、本当に口悪いな……ちっ、暴れんなうっとおしいっ……!」
悪態を吐きながら、大国先輩はそのままボクを肩に担ぎ上げた。
てか、鞍馬といいこの男といい、ボクの持ち方これで定着させるとか死ぬほど屈辱なんだけど。
そもそも『ボクの持ち方』ってなんやねん。
物かボクは。
一応ちゃんと人やぞ。
「ほらっさっさと行くぞ。昼放課が終わっちまうだろうが。んじゃ邪魔したな、毘沙門。弁財。」
「『さっさと行くぞ』じゃないでしょうがっ!このままじゃボク歩けないしっ!連行じゃないですかコレじゃあっ!」
ボクの訴えにもまるで聞く耳を持たずに、大国先輩はボクを担いだまま教室にいるクラスメイトの視線を集めながらも教室のドアに向かい始めた。
助けを求める様に楽しくランチタイムを過ごそうとしていた友人二人に目を向けるも、弁財さんは『いってらっしゃい』とかのたまいながら呑気にボクに手を振っているし、鞍馬に至ってはボクのお弁当を引き寄せながらその中の唐揚げを食べて、『ちょっと味付け濃かったかな……』とかほざいていた。
おい待て。諦めないで見捨てないで。
それボクのお弁当でしょうがっ!
「ちょ、ちょちょちょ大国先輩っ!ちょっと待ってってっ!鞍馬がボクのお弁当食べてるっ!アレ回収させてっ!ついでに鞍馬のクソ野郎ちょっとド突いてくるからっ!」
せめてお弁当だけでも回収させてくれと藻掻いてるにも関わらず、大国先輩は全く放してくれる様子もなく、依然としてボクを担いだままで歩みを進めてやがる。
「ピーチクうるせぇけど、まぁそのまましゃべり続けて構わん。そのまま舌噛んでくれ。そうすりゃ当分静かにならざるを得ねぇだろ」
ボクの舌にダメージを与える為なのか、ボクを担いでる肩をわざと上げ下げするというサービスまで与えてくれるクソ先輩。
こいつマジで最悪だっ!
「だからちょっと待ってくださいって!ボクまだお昼ご飯食べてないんですけどっ!?痛っつ!」
ガツンッっという音をたてて、ボクの頭が出入口上の壁に追突した。
てか明らかに大国先輩が仕組んでボクの頭にダメージを加えやがった。
「はぁ……いいか吉祥?人生の先輩が一ついい事を教えてやろう。人間は一食抜いたくらいじゃ死にはしない。だから昼飯食べ損ねたくらいでピーピー騒ぐんじゃねえ。ちなみに俺の弁当は生徒会室に置いてあるから、昼飯食えねぇのはお前だけだがな。さぁ行くぞ」
「なぁっ……!ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁ!」
昨日に引き続き、ボクの貴重な青春時間は大国先輩に侵食されるに至り―――
全く望んでいない形で周囲の衆目を集めながら―――
哀れなボクは、生徒会室に連行されることに相成ったのだった―――
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