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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
31/62

<第六万(よろず)。‐不遜の神様‐> ④


                 ◇


「いやぁ……ごめんねぇ伊呂波ちゃん。あんな勢い良く突っ込んでくるとは思わなかったから」


 ボクのおでこに大ダメージを与えたことを詫びてきたのは、生徒会執行部の役員らしい恵比寿福也えびすふくなり先輩とやらだった。

 たしかに鞍馬の言っていた通りに、人の好さそうな顔をしている。


 後頭部に手を当てながら、申し訳なさそうに素直に謝ってくれた恵比寿先輩の態度には確かに好感が持てたし、横暴の権化である大国先輩と比べたら確かにコミュ力は高そうだ。


「んん~!んん~ん~っ!!」


 だけど、恵比寿先輩の人となりとかなんていう些細な事よりも―――


「おいふく。そんなやつに詫び入れる必要なんかないぞ」


「そうだぞ福也。伊呂波の自業自得だ」


 お前らホント覚えてろよ。

 今すぐ生徒会室もろとも巻き込んで自爆してやろうか。


(そんなドラゴンボールのチャオズみたいな技使えないでしょうが……)


 いやいや、いまの怒りのエネルギーを爆発させればそんくらいできそうな気がする。

 そんくらいには不当な扱いを受けているんだけど?


「んっ~!んんんんっ~!!!」


―――申し訳ないと感じてるなら、今のボクの扱いを早くどうにかしろっ!


「円も布袋先生も酷い良いようだね……確かに逃げようとした伊呂波ちゃんにも責任はあるかもしれないけど―――」


 恵比寿先輩とクソヤクザ、そしてクソの三人の視線がボクに向けられる。


「―――両手足縛った上に、口にもガムテープ張って口封じするのはやりすぎなんじゃ……」


「んんんんっ~!!!んんんんんんっ~!!!!!」


 恵比寿先輩がご丁寧に説明してくれたように、ボクは両手足と口を拘束されるという大層にむごい扱いを向けて、先程まで座っていたソファに転がされていた。


「逃げようとしたそこのチ……いや、そこのピグミーマーモセットが悪いんだ。やりすぎなんてことはねぇ」


 いや仙兄?いらないよそんな気遣い。

 もう素直に『チビなサル』って言えばいいじゃんか。


 なにオブラートに包んでんねん。

 寧ろちょっと高度な罵り方になってるし。


「ああしとかないとまた逃げ出しそうだしな、あのコモンリスザルは。それに口も塞いどかないと永遠にやかましく騒ぎ続けるのは目に見えてるし」


 大国先輩も乗ってくるなや。


 古今東西『チビなサルの名前』でもやってんのか。


(ん~たしかにスローロリスちゃんのせいですからね~。都合の悪い事から逃げ出そうとするいつもの逃げ癖のせいですよ?)


 おい。

 吉祥ちゃんも便乗すんな。


 てか、なんでみんなしてそんなサルの種類に詳しいねん。

 

「でもこのままじゃ、伊呂波ちゃんが何を言ってるかわからないしね?口のガムテープくらいは外してあげないと」


 そう言うなり、恵比寿先輩はボクの口に張ってあったガムテープをペリリと剥がしてくれた。


「っぷはぁ……はぁ……はぁ……」


「大丈夫かい伊呂波ちゃん?苦しかったよねぇ……ごめんね?」


 ようやっと息苦しさから解放された。

 はやく両手足の拘束も解いて欲しい限りである。


「……恵比寿先輩。あなたに恨みはありません。悪いことは言わないので今すぐに逃げてください……」


「え?いや逃げるって……」


「あそこの二人もろとも自爆することにしました。あのクズ共を地獄に道ずれにしてやります……」


「そんなサイバイマンみたいな技が使えるのかい君は……?」


 恵比寿先輩は初めて会話するであろうボクの第一声に、なにやらおそおののいてるようだった。

 

 いや、恐れ戦いてはいないか。

 ただドン引いてるだけだわコレ。


「ほらな?口を開けば下らねぇことしか言わねぇんだよ」


「そうだぞ福?やかましいから、もう一回テープ張っとけ」


 口を開けばやかましいのはアンタらじゃ!


「アンタら先に謝罪でしょうがっ!なんだこの扱いはっ!今すぐボクを解放しろっ!!」


 後ろ手に縛られている手や足を思い切り動かして、ソファの上でドタンバタンと暴れて抗議するも、仙兄も大国先輩も迷惑そうな顔をするだけで、一向に座ったままでピクリと動こうともしなかった。


 ただただ、ボクが疲れただけだった。


「暴れんな。埃が舞うだろうが」


 大国先輩は大層うっとうしそうに、ボクに向けてご忠言なさった。死ね。


「解放した途端またぞろ逃げるだろうが。自分の行いを鑑みて反省しろ。な?」


 ようやく立ち上がったと思った仙兄はわざわざボクの傍まで寄ってきて、『な?』とかほざきながら、おでこをペシペシ叩いてきた。死ね。


「おでこ叩かないでっ!それでも両手足縛られるほど悪いことはしてないでしょうがっ!なんだこの罰し方はっ!戦時中の捕虜かっ!」


 何をどうすれば、学園内でこんな扱いを受けて納得できるんだってのっ!

 戦時中の敵陣内じゃあるまいしっ!


「まぁまぁ落ち着いて?ちゃんと話が全部終わったら解いてあげるから」


 恵比寿先輩に宥められて、もうその『話』とやらを聞くことでしか助かる道はないのだと、諦めるしかなかった。

 

 それにもう、騒ぎ暴れ疲れた。

 横暴なドS二人も、ボクの言う事を聞く気はさらさらないみたいだし。

 

 もうなんでもいいから、早く話とやらをして終わらしてもらおう。


 あぁホント、今日は確実に厄日であるとしか思えない。


 なんとかして、あのクズたちに一矢報いたいなぁ―――


                 ◇


「ようやく諦めたようだしさっそく本題に入るぞ。吉祥、お前を今日ここに連れてきたのはだな―――」


「さっき大国先輩が仙兄をめちゃクソ貶めるような噂を拡散するって言って笑ってました」


「「はぁっ!?」」


 ボクが諦めたように落ち着きを見せたことで、しきりなおしという雰囲気になったのを見計らって、ボクは爆弾を投げ付けた。

 

 よしっ!

 仲違いしろっ!醜く争い合えっ!


(うわぁ……ゲスが過ぎるっ……!やり方がこざかし過ぎますよ……)


 吉祥ちゃんに呆れられようが構わない。

 今のボクは口だけでしか抵抗するすべがないのだから、こういう方法を取るしかないのだ。


「お前っ!なにデタラメ言ってんだっ!」


 デタラメじゃないも~ん☆

 さっきアンタが本当に言ってたから、嘘にはならないも~ん☆


「んな下らねぇこたぁ良いから、いい加減ちょっと黙って―――」


「いや待て円。俺は伊呂波の言った『噂』とやらに大変興味がある。そっちを先に聞かせてもらおうか」


 大国先輩は慌てたように話を本題に戻そうとしたが、ボクの計画通り仙兄は食いついてきてくれた。

 仙兄のキツめの視線が、大国先輩に向けられる。

 

「はぁっ!?いや仙兄まさかあいつの与太話を真に受け―――」


「『布袋先生が学園生と個室でアブノーマルなプレイに興じていた』って噂で学園中をにぎわかしたいらしいですっ!!!」


 大国先輩の弁解を掻き消す様に、ボクは大声で叫んだ。

 だれが自己弁護なんかさせるかっ!


「おまっ!ふざけんなよ吉祥―――」


「『仙兄も落ちたな』みたいなことも言っていた気がしますっ!!!」


「んなことは言ってねぇし!」


 あれそうだっけ?


 あっ!

 『三人で地獄に落ちよう』だったっけなぁ。

 ちょっと、間違えちゃったかな☆てへっ☆


(わざと間違えたくせして……本当にたちが悪い子ですね……)


 人聞きが悪いなぁ。

 誰にだって、ちょっと間違えちゃうことくらいあるでしょうが。


 故意じゃない故意じゃない。


「円、キミってやつは……」


 恵比寿先輩までもが、呆れたように大国先輩を糾弾し出してくれた。

 

 なんでボクの発言を信じてくれてるのかはわからないけど、味方が増える分には構わないっ!

 

 仙兄も恵比寿先輩も、もっと問い詰めてっ!

 そのまま今日の本題とやらも有耶無耶で終わらせてっ!


「福までそのチビのホラ話を信じんなっ!どう考えても苦し紛れの嘘だろうがっ!」


 大国先輩の言う通り、さきほどまでのボクと大国先輩の会話を聞いていなければ、どう考えてもボクの苦し紛れの与太話だと思うのが普通だろう。


 だけど先程のボクたちは、我を忘れて言い争いがヒートアップしていたのが幸いしたのか―――


「いやぁ……伊呂波ちゃんが逃げた時の保険で部屋の外で待機していた時に、円が伊呂波ちゃんの言っていたような発言をしていたのが微かに聞こえて来たからねぇ。どんな会話してるんだって気になってはいたんだよ」


 まさかの証人が現れておいでなすってくれた。

 

 ボクだけじゃなく、恵比寿先輩までもが聞いていたとなれば、仙兄も当然のように―――


「なるほどなぁ……まどかぁ?伊呂波だけでなく福也まで聞いていたってなると、やっぱり真実みたいだなぁ?えぇ?」


 そう言うなり、仙兄は大国先輩の両肩にバンバンと手を置いて、とてもいい笑顔を浮かべたのだった。


「痛たたたたっ!仙兄ぃ!なにその握力っ!肩もげるってっ!?」


「それじゃあ聞かせてもらおうかぁ?その愉快な『オレの噂話』ってやつの真相をなぁっ!」


 うわぁ……こわ~い……。


 仙兄はいかつい外見に反して、実はあまり本気で怒ることはないのだけど、だからこそイラついている時や本気で怒っているときなどは、そりゃもう大層に恐ろしいのだ。


「ちょっ!待ってっ!弁解をっ!弁解をさせてくれぇっ~!!!」


 ボクが仕掛けたこととはいえ―――


 流石にほんのちょっとばかりは、大国先輩への同情を感じずにはいられなかった―――


                 ◇


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