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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
30/62

<第六万(よろず)。‐不遜の神様‐> ③


                 ◇


「俺はお前みたいに暇を持て余しちゃいねぇから、さっさと本題に入るぞ」


 ボクの耳を痛みつけて満足したのか、暴力クソ野郎こと大国先輩は、さっきまで座っていたソファに改めて腰を下ろした。


「痛いよぉ……シクシク。ちょっと先輩……ボクの耳たぶ返してくれません?縫い合わせるからぁ……」


「いや、千切れるほど引っ張っちゃいねぇから安心しろ。まだお前の耳にぶら下がってるから」


 耳たぶさわさわ確かめてみたけど、確かにくっついてた。

 

 良かった良かった。安心―――ってそれで済むかアホがっ!


「マジ何してくれんですかっ!てか生徒会の人が校内暴力ってどうなの!?ダメくないのっ!?」


「あれは暴力ではない。制裁だ」


「なお悪いわっ!独裁者かアンタはっ!謝罪しろ謝罪ぃっ!こうべを垂れて詫び入れろっ!」


 言い訳するより質悪いわっ!もっと悪びれろっ!


 みんなしてボクのこと、サンドバックかなんかと勘違いしてんのかっ!


「ピーチクパーチクうるせぇな。都会のカラスかお前は……。はぁ……お前如きに俺の貴重な時間を浪費する気はないし、さっさと本題に入るぞ……と言っても、何故お前が呼び出されたのか、その足りない頭でも、ほんの少しくらいは考えればわかるだろ?なんだかんだ言って、薄々気が付いてるんだろ?な?」


 『な?』とか言われても、副会長様直々の要件なんてねぇ……?


 品行方正を体現したようなお利巧ちゃんのボクには、とんと縁がないというか、検討もつかないんだけどなぁ……?


(この子は本当にいけしゃあしゃあと……)


「いえまったく。微塵も理由がわかりません。品行方正を地で行くボクがどうして生徒会の方から呼び出されたのか……うむむ?」


「なんでそんなシレッと嘘つける……?」


 よくもまぁそんな人を小馬鹿にした顔が出来るな、ってレベルのウザったらしい顔で、呆れ果てた感をガンガンに出して来て下さっている何とか先輩。


 うわぁ……なにこの先輩……。

 メチャクチャムカつく顔してるぅ……。


 なにその、完っ全にボクを馬鹿にしたような表情は。

 もう既に失礼ポイントが百億万点突破してるんだけど?


 社会的に殺してやろうか?クソが。


「そんなことよりっ!さっきの暴行に関して謝罪しないというならボクにも考えがありますよっ!?」


「『そんなこと』で済ませようとするな。今この場での本題であり、看過できない重要な問題だぞ」


「そ˝ん˝な˝こ˝と˝よ˝り˝っ˝!謝らないんですねっ!?いいんですねっ!?」


 どうせボクにとっては都合の悪い話だろう。

 何と言われようと目の前の暴力男からの謝罪の方が、ボクにとっては優先すべきことである。


 ついでにそのままタイムアップとかにならないかな?

 生徒会って忙しいんじゃないの?可及的速やかに処理しなきゃいけない問題とか、都合よく舞い込んできたりしないの?


「なにその必死さ……ちょっと引くレベルだぞ…………っはぁぁぁ。わかったわかった。いちいち相手すんのも心底面倒だが、気が済むまでは付き合ってやるよ……。それで?謝らないとどうなるんだ?」


 いちいち悪態吐かないとボクと会話することすら覚束ないんか、このコミュ障友達0パイセンは?

 

「そんなに気になるなら教えてあげますよっ!そんなに気になるならねぇっ!?」


「『付き合ってやる』とか言った俺が馬鹿だった……。余計なこと言わなきゃよかった……」


 パイセン?なんでそんな急にゲンナリしてんの?

 ボクがワガママ言いまくったあとの鞍馬みたいじゃん?

 まぁいいや。


「明日には学園中に広まってることになりますよっ!?『大国先輩が個室でボクの耳たぶをもぎってクチャクチャ食ってた』ってねぇっ!!!あははははっ!」


「なんだその気持ち悪ぃ内容っ!ふざけんなよテメェッ!」


 だから素直に謝りゃ良かったんですよっ!

 今更謝っても遅いかんなっ!?


「あははははっ!あはははははははははっ!ボクに酷い事したのを反省して死ぬほど悔やめばいいんですよっ!学園で社会的に死ねぇっ!あはははははっ!」


 ようやく一矢報いることができた!

 ざまあみろっ!いい気味だっ!


「ホントたち悪ぃな吉祥テメェ!だったらこっちだってなぁ!『一年の吉祥が社会科の布袋先生と個室で緊縛猿轡プレイに興じようとしてた』って言いふらすぞっ!死なば諸共じゃあクソがぁ!なぁははははははっ!」


(なんだコイツら……)


「んなっ!なんて恐ろしい話を流布しようとしてんですかっ!事実無根だしっ!てかそんな噂を学園生のみんなが信じるわけないでしょうがっ!ふざけんなっ!あとそのイラつく笑い方やめろっ!!!」


「信じるか信じないかは学園生次第だがなぁっ!精々祈ってろやっ!つってもお祭り騒ぎ大好きなこの学園の生徒たちだからなぁ!きっと一瞬で学園中に広まるぞっ!あと一応先輩だぞテメェ!口に気を付けろやっ!」


 やばい。

 たしかに馬鹿ばっかの学園生達にとっては、事実かどうかは関係なさそうである。

 

 内容はともかく騒げる燃料があれば絶対に燃え上がる。

 面白い事大好きなクソったれ共に餌を与えたらどうなるか、火を見るよりも明らかとはまさにこのことである。


「ふざけんなっ!口に気を付けるほど敬える要素がアンタのどこにあんのさっ!この嘘つきDV男っ!てかそれだと仙兄まで巻き込むことになるんですけどっ!?先輩それでもいいんですかっ!?」


 謎にヒートアップしている生徒会執行部室内。

 ボクも大国も何故だかいつの間にやら立ち上がって、睨み合いながら言い争っていた。


「テメェがさっきの下らない噂を本気で吹聴するってのなら仕方がない……仙兄には申し訳ないと思うが、三人で地獄に落ちようぜ……」


(いやいや、仙人くんとんだトバッちりじゃないですか……可哀そうに……)


 ふざけんなっ!社会的に死ぬなら仙兄巻き込んで二人で死ねっ!

 ボクを巻き込むなっ!


(おい……そんなだから仙人くんからの扱いも変わるんですよ?残念ながら当然が過ぎますよ?)


 そのあとも大体10分ほどの間、ボクとなんたら先輩とのあまりにも醜い争いは―――


 収まりを見せることなく、続いたのだった―――


                 ◇


 ―――そして、ようやく静けさが戻った生徒会執行部室内。


「おいチビ。ぜってぇ約束守れよな。テメェだけさっきの下らねぇ噂広めてたりしたら、マジで今度こそ耳たぶもぎ千切るからな」


「ガングロパイセンこそ、抜け駆けしてさっきのクソ以下の与太話、広めたりしないでくださいよね?あとさっきから『テメェ』とか『チビ』とか、呼吸するタイミングくらい頻繁に貶してくるのいい加減にしてくれませんか?そんなだから友達出来ないんですよ?この黒ボッチが……」


 誰も得しないからと停戦協定を結び、ようやくボクらの言い争いはとりあえずの落ち着きを見せていた。


 それにしてもこの男、ボクと良好な関係を築こうという気概が微塵も感じられねぇ。

 死ねばいいのに。 


「テメェだってしきりに悪態付いてんじゃねぇか。お前が態度を改めない限りは、自然と出てきちまうんだよ。呼吸するくらい自然になぁ!いやなら反省して態度を改めろや!」


 この男、あまりにも口が悪過ぎである。

 こんなんが副会長の席についてるとか、嘆かわしい限りである。くたばれ。


 呼吸するくらい自然にボクのことディスっちゃうなら、もういっそ息止めろ。

 ボクを褒めるか、謝罪するか、死に絶えるか。どれか選んでください。そして息絶えろ。


「はぁ……わかりました。わかりましたよ。幼稚園児が育てた野生の猿程度の理性しか持ち合わせていない先輩には、酷な話でしたね。ボクが大人になりましょう……」


「吉祥お前、その時々出してくる極限にムカつく例え話と絡めて罵倒してくるの止めた方がいいぞ?普通にぶん殴りたくなる。我慢できそうにない」


 忠告してやった風を出してきてるけど、あんたさっき普通に暴力振るってきたやんけ。

 全然全く我慢できてないやんけ。


「へいへい、わっかりましたよほほ~ん」


「うわぁ……すげぇ……。すっげぇムカつく顔してやがる……天才かよ……。ぶん殴ろうかな……」


 大国先輩ったらま~たイライラしちゃって☆

 カルシウム足りてないぞ☆


 腕時計を見るに、大体この執行部室に来て30分くらいが経っただろうか。

 もうそろそろ良い頃合いだろう。


 お暇しよう。

 ボクも暇じゃないからね☆


「先輩のご忠告、ありがた~くお受け取りしました。今日は貴重なアドバイスをアザっした!」


 さて、と。

 忘れ物しないようにしなくちゃ。

 もう一回こんなとこに来る羽目になるとか、勘弁だからね。


「おい待て。まだ何の話も出来てねぇよ。下らねぇ話で時間を浪費しただけだっての。だから―――」


 忘れ物も何も、ボクが持ってきていたのはスクールバックだけだった。

 よし……よし!


「そんじゃさいならっ!」


 鞄をガシッと掴んで、急いで扉まで走り抜ける。


「んなっ!やっぱりかテメェ!吉祥コラッ!ちょっ!待ちやがれ―――」


「ふへへへへっ!ボクの方が扉に近いんですよぉだっ!絶対逃げ切って―――ふべっ!」


 そのまま扉を開けてトンズラしようと、ドアノブに伸ばしたボクの手は、むなしくも空を切った。

 

 数舜前まで閉じていたはずの扉が何故か、急停止できない程に勢い付いたボクの目の前まで迫ってきており―――


 その勢いのままで、ボクは開け放たれつつあった扉に突っ込んだのだった―――


                 ◇


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