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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
28/62

<第六万(よろず)。‐不遜の神様‐> ①

【布袋】

 七福神の一柱であり、七福神の中で唯一、人間であったとされる神様。

 描かれる際に持っている袋は『堪忍袋』であるとされており、度量の広さや人望を意味する神様として信仰を集めている。

 弥勒菩薩みろくぼさつの化身であるという伝聞も存在している。


                  ◆


「近所に巨乳でおっとり系のお姉さんが住んでてくれたらよかったなぁ……」


 とある放課後、ボクはしみじみとそう呟いたのだった。


 ゴールデンウィークというオアシスがそこそこ間近に迫ってはいるが、それはそれとして、もう少し経つと五月に入る。

 五月は人をアンニュイな気持ちにする魔法がかかっているのだ。


 これが五月病か……その病の足音が、徐々にボクの身にも迫ってきているのである。


「今度はどんなマンガに影響されてんだお前は……」


「マンガじゃないアニメだ。間違えんな」


「あ、そうですか……」


 ボクの理想と真逆の存在、隣の鞍馬君が呆れていた。

 そんな隣の筋肉を見て、やはり思ったのだった。


「巨乳のお姉さん、いいなぁ……」


「出たよおっぱい聖人。教室の片隅でなに呟いてんだよ……」


 ボクの呟きに我関せずを決め込むことにしたのか、部活に参加するため鞍馬はせっせと教科書や筆箱をカバンに詰め込み出した。


 もうちょっと構ってくれてもいいやん。

 薄情な奴やでホンマ。


「今日も一日お疲れさまでした。なんのお話をしているんですか?」


 最近友好をグングン深めつつある弁財さんも会話にまじってきた。


 授業後の雑談を幾度も重ねたことで、お互い遠慮なく物を言えるようになってきたのも、嬉しい限りである。


「貧乳には縁遠い話だよ」


「…………˝あ?」


 怖っ!


「お、おれ部活行かなきゃだから……んじゃな!」


 鞍馬は逃げ出した!ホント薄情だアイツ!


 教室を出る直前の鞍馬は、視線でこう訴えてきた。


『自業自得だ』


 ……はい。

 全くもってその通りです……。


「言って良い事と悪い事の区別が付くまで、その悪い口を縫い付けてあげましょうか?」


「い、いえ……遠慮しときます。すいません……」


 なんか言ってる事の内容がとにかく恐ろしかったので、おもわず謝ってしまった。


「吉祥君と友達になれたのはとても嬉しいことですし、忌憚なく物を言い合える関係になれたのも喜ばしい限りなのですが……吉祥君のそういうおバカなところは、可愛さ余ってウザさ百倍ですね?」


 ウザいってのもひどくない?

 ホントに友達だと思ってる?


 逆鱗に触れてしまった女神さまの怒りをどうやって鎮めればよいのか、あーだこーだと言い訳の弾丸を打ち込もうとしていたその時―――


『普通科一年、吉祥伊呂波。至急、生徒指導室まで来い。繰り返す。吉祥伊呂波、至急生徒指導室まで来い。以上』


 ピンポンパンポーンっという救いの鐘が、校舎にこだました。


 思わぬ呼び出しに、今の窮地を脱する一筋の光を見出したが、ふと思い直す。


 今の声、仙兄せんにいのものである。嫌な予感しかしない……。


 前門の貧にゅ


 バシッ!

「ぶえっ!」


「今何か失礼な考えをしていた顔をしていましたよね……?」


 なんで表情一つで考えが読めんの!?怖いよ!

 っていうか!オモクソ頬っぺたを引っ叩かれたよ!


 遠慮がなくなったのは物言いだけでなく、ボクへの暴力もだった。


 友達、やめようかな―――


(……ホント、自業自得ですよ?はぁ……)


                  ◇


 校内放送なんか聞かなかったことにして早々に帰宅したかったのだけど、後々恐ろしいことになりそうだったので、呼び出しに応じて生徒指導室に赴くことにした。


「失礼しまぁす」


 生徒指導室のドアを開けると、紫煙をふかすヤクザチックな教職員と、炙られたのかと勘違いしてしまうほどに焦げた肌色の男子生徒が、入室したばかりのボクに向けて睨みを利かせていやがった。


 ……やっぱり、とっとと帰っておけばよかった。くそぅ……。


「ふぅ……やっと来たか。俺も忙しいんだから、待たせてくれんなよなお前」


 仙兄こと布袋先生こと布袋仙人ほていせんとは、気怠そうにタバコの煙を吐き出しながら、ボクを軽く睨みつける。


 いや、目つきが悪いから睨まれているように見えるけど、別に睨んじゃいないんだけどねこの人。

 けどもう見た目が完全にヤクザのそれじゃん。


 あと学園内でタバコ吸うのダメくないの?不良が過ぎない?

 仮にも先生でしょ?生徒のお手本となるべき存在でしょ?


「ばれなきゃ何したっていいんだよ。お前らが誰かにチクらなきゃ問題ねぇだろ」


 ナチュラルに考え読むのやめてね?


 そんなにボク顔に出やすいの?

 仮面でもつけて生活しようかな……。


「とりあえず座れ。ドアの前のお前と話をすると、いつ都合が悪くなって逃げられるのか気にしてないといけないだろうが。とっとと目の前のソファに座って、手足を縛り猿轡をして俺の話をおとなしく聞き終えろ」


「なにそのナチュラルなプレイ強要。手足も縛らないし猿轡もしないけど……」


 促されるままにソファに座り脱力して寛ぐ姿勢をとったけど、先の仙兄の言葉を思い返すと、『あれ?ちょっと待てよ?』と疑問と警告音が頭に響き渡った。


 だってあれでしょ?

 これからボクにとって、都合が悪くなって逃げるような話を言い放つわけでしょ?


 そんなん勘弁だと抜いた身体の力を入れなおし、『にげる』コマンドへと移行しようとしたのだが、時すでに遅しと告げるかのように、西の高校生探偵のような肌色の先輩が、唯一の出口の前にスススッと移動し仁王立ちしてしまった。


(あ~あ……もう逃げられませんねぇ。おとなし~く、仙人君の話を聞くしかなくなってしまいましたね~)


 クソがぁ……。


 教室で弁財さんにシバかれただけでなく、更には仙兄からの話ってのも、どうせ説教かなんかのクソつまらん話だろう。


 十分前のボクに『はよ帰れ』と、そう教えてあげたいと本気で後悔しながら―――


 なんかいろいろと諦めて、脱力しながら―――


 ボクは快適でも何でもないソファに、身を委ねたのだった―――


                  ◇


「というわけで、お前の処遇は生徒会に一任することにした。あとはそこにいる円の指示に従うように」


 え?ちょっと待って?

 全部わかんない。


 てか、説明は?

 一切の説明もなしだけど、どゆこと?


 『というわけで』が唐突過ぎない。


「なにが『というわけで』なのか全くわかりませんのですが……あと円ってのは―――」


 ほんとこの腐れ教師、最近ボクへの扱い、雑が過ぎない?

 ボクを納得させようという、そんな基本的な努力すら億劫なの?


「円ってのはそいつの名前だ。大国円だいこくまどか。生徒会の副会長様だ。たとえ無知が過ぎるお前だとしてもそんくらいは知ってんだろ?」


 そしてナチュラルにディスってくるよね……?


 最近さぁ?

 鞍馬やら弁財さんやら、そしてこの腐れ教師こと仙兄やらさ?


 口を開けばボクを小馬鹿にしてくるの、なんなん?


「無知は過ぎないし、生徒会の副会長様の名前くらいは知っていたけど……」


 心ばかりの反論を言い返しながら、斜め上あたりの件の副会長様を振り返ってみたものの―――


「……」


 なんかメッチャ睨んできてるんですけどっ!?

 すっごい眼光で見下されているのですけどっ!?


 数日前までの弁財さんといい、なんか心に余裕のない人が多すぎない?

 もっとゆとろうよ。ゆとり教育カムバックだよ。


 ていうか―――


「マジかよ……」


 さっそく遭遇しちゃったよ……。

 関わりたくなかった、噂の『大国先輩』とやらに……。


 鞍馬先生の七福家講座のおかげで、決して関わるべきでない先輩だって心掛けていたのに……。


「流石のお前でも、円の名前くらいは当然知っていたか。おい円―――」


 その『流石のお前』ってのは、絶対ポジティブな意味合いではないよね?

 やっぱりボクのこと、事あるごとにディスってるよね?


「お前、伊呂波と面識はなかったよな?」


「ん?ああ、会話という会話をしたことは、一度もなかった筈だけど―――」


 だよねぇ?ボクだって顔合わせた覚えなんてないし。

 それなのに目を付けられてるとか、何事なん?


「この問題児の動向には、前々から目を光らせてはいたけどな。なにせ、学園内でも指折りに有名な、かの『吉祥伊呂波様』、だからなぁ」


 なにやら大変に語調が強いのですが?

 えらい感情の籠った声色で、ボクの名前を呼んでくれたのですが……?


 一体どんな顔をしておりますねんと、恐る恐る後ろを振り返ってみると―――


 そこには、先程よりも鋭い眼光で、激しい怒りを抑えているように強く歯を噛み締めながらボクを睨みつける、恐ろしい顔した先輩の姿が見受けられた。


 そ、そんな怖い顔で睨みつけないでくださいよ……。

 『すばさや』だけでなく、『ぼうぎょ』も下がっちゃいそうだった。


 てか、こんな顔させるほどに、恨み辛みを買っていたとは。

 身に覚えがない訳でもないが、それにしてもこの先輩に関して、『関わらなければどうってことない』と事態を軽く考えていた過去のボクを叱ってやりたい。


 ああ、本当に―――


 今すぐ、一刻も早く、この生徒指導室から逃げ出したいと―――


 切に願わずにはいられなかった―――


                  ◇


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