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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
27/62

<第陸万(よろず)。‐不和の神様‐> ①

【大黒天】

 七福神の一柱。

 大国主とインドのマハーカーラが習合した神様とされ、財福や五穀豊穣を司る神様として信仰を集めている。

 大黒天が描かれる際に持っている袋には、七宝しっぽうという名の七つの宝が入っているとされている。


                  ◆


「ったく……あの問題児には困ったものだ。只でさえ今年は、問題児ばかりで大物揃いの『神在の年』なんて言われてるのに……」


 四月も半ばを過ぎた八百万学園には、新たに出来た友人や部活仲間と過ごすことにより生まれる、初々しさとこなれた感情が入り乱れた、独特の雰囲気が漂っている。 


 そんな学び舎での、とある放課後。


 ゴールデンウィークを目前に控えて浮足立った生徒たちの喧騒とは程遠い場所、八百万学園特別校舎棟の一角に構えられている生徒会執行部の部室にて、学園きっての苦労人の愚痴がポツリと漏れ出した。


「最近の君は、口を開けば伊呂波ちゃんのことばかり愚痴っているねぇ」


 執行部室内、備えられた事務机に向かい合わせに座り、新年度用の各団体書類を片付けているのは、生徒会副会長の大国円だいこくまどか

 そして、大国と同様に生徒会役員であり、また古くからの親友でもある恵比寿福也えびすふくなりである。


「そりゃ愚痴りたくもなる。停学者まで出した一昨日の件にだって、彼奴は関わっているんだぞ?息するように騒ぎを起こしやがって」


「あの件に関しては、伊呂波ちゃんは『被害者として』なんだけどねぇ……」


 その一言から今の心中を察してくれないかと大国に期待したものの、まるで聞こえていないように、いや、実際に耳に入らなかったのかはわからないが、吉祥伊呂波に関する苛立ちが抑えられている様子もなく、大国は相も変わらず頑なな様子で、眉間に皺を寄せ不快感を露にしている。


(伊呂波ちゃんや弁財さんの為にも、ボクらのしでかした行動の結末を円に言うべきなんだろうけど、きっと知ったら円は少なくないショックを受けるだろうな……。いや、円を言い出せない理由にしている僕が卑怯で臆病なだけか……)


 吉祥伊呂波、そして弁財狭依を巻き込んだ一連の騒動に関して、恵比寿は罪悪感と後悔を抱えていた。


 学園の治安維持のために、喫煙していた男子学生達を学園側に報告し対処を求めたのは、弁財狭依でもなければ、もちろん吉祥伊呂波でもない。

 恵比寿もまさか、指導を受けた喫煙者達が、あの二人に怒りの矛先を向けることになるだなんて想像していなかった。


 だがしかし、例え伊呂波たちとあの学園生たちに小さな確執があったことを知らなかったとしても、あの二人を事件に巻き込んでしまったことに変わりはない。


 そして、いわばその裏事情を、大国は知らない。

 恵比寿が意図的に隠している、というよりは言い出せずにいるせいで―――


 喫煙者の情報を得て大国に知らせたのは恵比寿であり、学園の生活指導を担当している布袋仙人に報告したのは大国である。


 僕たちの行動自体は間違ったことではない。


 この正義感が間違いではないと、自信をもっているし胸だって張れる。

 学園の治安や風紀の維持にも繋がった正当な行為だと、そう確信している。


 しかし、だからと言って関係の無い誰かを巻き込んだばかりか、救急車のお世話になるほどの傷まで負わせてしまったことへの免罪符になるだなんて―――


 ―――恵比寿はそこまで割り切ることはできなかった。


「しかも奴は先の一件で痛い目にあったらしいじゃないか。自業自得、因果応報とはこのことだな。普段掛けられている迷惑を思えば、多少は溜飲も下がったもんだ」


(もうやめてくれ。知らないとはいえ、僕の前でそんなことを口にしないでくれ……僕は伊呂波ちゃんたちへの罪悪感で、頭と胃が痛いよ……)


 確かに、円にこれほど忌々しく思われる伊呂波に、全く罪がないわけではない。

 平時の素行不良や、数々の騒動の元凶になっている伊呂波自身にも責任はあるかもしれない。


 しかし、この間の騒動で活躍した伊呂波の不器用な優しさを、弁財への献身を、一人の女の子を守るために、土と不名誉に塗れても耐え貫いた―――


 その真相を知った今となっては―――


「―――ねぇ円。その伊呂波ちゃんに関して、ちょっと気になることがあってね……」


「ん?気になることだと?」


「うん。聞いといて損はないと思うよ?今後の学園のためにも―――」


(そして、僕らのためにも、ね……)


 なんとか、彼の名誉を取り戻す手助けをしなければならない。


 それが先の事件でとばっちりを被った吉祥伊呂波への贖罪になれば、まだ多少は胸のつかえも取れるだろう。


 それに、『自分の行為の先に生じた責任を取る』、それだけのためでもなく―――


 ―――今は、以前よりももっと、『吉祥伊呂波』という人間のことを知りたくなっている。


 ―――そして、もっと『彼』や『彼を取り巻く人間たち』と関わりたくなっている。


 円の前では口が裂けても言えないが、僕らのことをもっと巻き込んでくれて構わないとすら思っているほどに、同じ七福家の末席に連なる『吉祥伊呂波』に興味を抱いている。


 正直、恵比寿は騒がしいことを嫌ってはいないのだ。

 どの学園生も望んでいるように、賑やかで楽しい学園生活を送りたいと願っている。


 そして、それは『自分一人だけで』ではない。


 目の前の幼馴染『大国円』と共に、温かく充実した時間に浸って居たい。

 目の前の捻くれた頑固者がボクと同じ願いを抱いているかはわからないし、たとえ心の底に潜ませていたとしても。


 この偏屈な幼馴染は、たとえ口が裂けようとも―――


 ―――そんな願いを言葉にはしないだろうけどね。


                  ◆


 初めは小さな雪玉であったとしても。


 坂を転がり続けることで、やがてすべてを飲み込む大きな雪玉となるように―――


 学園の平和を守る、苦労人な生徒会執行部副会長こと、大国円。


 ただ生活しているだけで、賑やかな騒ぎの渦中に巻き込まれる、吉祥伊呂波。


 騒ぎや事件を望まない大国円と、平穏とは無縁な生活を営む吉祥伊呂波を巻き込んだ、新たな問題の『起承転結』。


 その『起』となる起点が今この時間、この場所であり―――


 神様に愛された者の集う学園で、神様に愛された者の些細な会話から始まり、果てには神様に愛された者同士の諍いにまで発展するような―――


 そんな、神様に愛された者たちによる、新たな物語の幕が開けようとしていた―――


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