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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
24/62

<第暇万(よろず)。‐合間の神様‐> ③


                  ◇


 ―――そして、また十分後。


 場は―――荒れていた……。


「……ごめんなさぃ」


「だから俺は止めたんだ……だから俺はやめとけって言ったんだ……だから……だから」


 床では鞍馬が一人で、まるでロボットのように無表情でブツブツと呟きながらタコ焼きになれたはずの残骸を掃除していた……。


 うわ~ホントにルンバみた~い☆


 いや、文句言うならちゃんと言って!

 ボソボソ不満が聞こえてて怖いんだけどっ!?


「だ、大丈夫ですよ吉祥君っ!元気出してくださいっ!私も失敗しましたしっ!」


 隣では弁財さんが、同じ失態を犯して落ち込むボクを必死に慰めてくれていた。


 面目ない。

 でも、ありがとう弁財さん。


 おかげでちょっとは気が楽に―――


「むしろあんなに自信満々に『お見せするよっ!』とか言っておいて、結果散々とか逆に面白かったですしっ!?それに誰にだって苦手な事ってあるじゃないですかっ!吉祥君は他に勉強もできないし運動神経も良くないし、吉祥君の得意なこと挙げろって言われても正直すぐに思いつきませんが、それでもきっと!たぶん、たくさん良い所あるじゃないですかっ!だからそんな落ち込まないで下さいよっ!ねっ!」


 すっごーいっ!

 キミは煽るのが上手なフレンズなんだねっ!


 てかめっちゃ傷口に塩を塗ってくんだけどっ!?

 本当にそれ天然なだけっ!?逆に質悪いよっ!?


 一見必死に慰めてくれようとしていて、その実わざとやってんじゃないかこの女……。


(ぷっ……!弁財さん最高ですねぇ。ナイスフォローです!ぐれーとぐれーとっ!)


 おい。


 なに笑てんねん。


「もうお前ら座ってろ。今日は二人とも絶対にピックを握るなよ?」


 一人で床の掃除をしてくれていた鞍馬が立ち上がり、ボクと弁財さんが無駄にした食材の入ったゴミ袋を見せつけるように掲げながら、恐ろしいほどの圧を掛けてきた。


 そんな睨みつけないで?

 怖すぎてチビッちゃうでしょ?


 弁財さんなんか、隣でアワアワ言って震えてるし……。


「でもさ、確かにちょっと失敗したけど」


「『ちょっと』?え?『ちょっと』?」


「……ボ、ボクにだってタコを入れるぐらいは―――」


「『ちょっと』?いま『ちょっと』した失敗って言った?え?『ちょっと』?」


「……すいません。おとなしく座ってます……」


「あぁそうしろ」


 鞍馬君はキャラが変わってしまう程に憤慨しているみたいですので、ボクはでしゃばらないようにしようと思いました。


 なにあの陰湿な問い詰め方?

 トラウマになるわ……。


「よしっ!それじゃあ作り始めるぞ?コツとか教えながら焼いてくから、二人ともこの機会に、タコ焼きくらいは上手に作れるようになろうな?」


 そうして鞍馬先生のタコ焼き教室が始まったのだった―――


                  ◇


「「うま~いっ!」」


 パーティ開始とか言い放ちつつ既に30分もの時間を無駄にしたけれど、ようやくタコ焼きを頂くことができました。


 ありがとう、鞍馬先生。


 焼きながら教えてくれたコツとかは、ぶっちゃけ軒並み忘れてしまったけどね?


「もうボク一生タコ焼き作らなくていいや。ボクの為にこれからもずっとタコを焼き続けてねっ!」


「教えながら焼いた時間返せよ……」


「あはは……それにしてもっ!毘沙門君は流石ですねっ!こんなに美味しいタコ焼きを作ることができるなんてっ!」


 弁財さんは大絶賛だった。

 喜んでくれたようなら、タコパを開いた甲斐もあるってもんだよっ!


(準備から今までに、何一つとして伊呂波ちゃんの功績はありませんけどね……全部鞍馬君のおかげだと言う事をお忘れなく)


 ちょくちょく水を差してくるね。この神様は……。


「委員長も楽しんでくれてるようで良かったよ」


 鞍馬は弁財さんが美味しそうにタコ焼きを頬張る姿を見て、安心したようだった。

 こいつなりに昨日起こった事件のことで、いろいろと心配していたんだろう。


「そういえばあの後、家に帰って市杵ちゃんとは話したりしたの?」


 その質問に、タコ焼きを食べ続けていた弁財さんの箸の動きが止まった。


「はい……昨日は家でもお母様とお話させていただいたのですが……」


 溜息を一つ吐き、昨日の出来事を思い出すかのように弁財家での、その後を話しはじめた弁財さんだったけど、何やら話すのに躊躇しているような重そうな口どりであった。


「あの人のメンタルの脆弱性に気付けたと言いますか……私が問い質す度に泣きそうになったり、必死に言い訳しようとし出したり……お母様があんなに感情豊かだったなんて初めて知りましたよ……。むしろ私の前では長年隠し続けていた努力を思うと、いっそ褒めてあげたくなるレベルですらありますね……」


 ボクや鞍馬からしてみれば、感情が豊か過ぎてちょっと迷惑なほどである市杵ちゃんしか知らなかったけど、凛とした母親としての姿しか見てこなかった弁財さんにとっては、もう別人と言っていい程のギャップがあったのだろう……。


「言い訳みたいなことしか言いませんし、挙句の果てには泣き喚きお父様に庇ってもろう始末……呆れて糾弾する気も失せました……うふふ」


 その時の記憶を思い返しているのか、うつろな目で空笑いをする弁財さんが気の毒で仕方なかった……。


 もういいから……タコ焼きをお食べ?

 好きなだけ自棄食いするといいよ……。


 止めたりしないから。ボクの分もあげるから……。


「私からの追及が収まるや、もう開き直ったのか今度は押入れに隠していた『吉祥家コレクション』なるものの自慢まで始まりまして……」


 ……ん?

 何それ?初耳なんだけど……?


「お母様ったら、私のアルバムと並べて伊呂波君のアルバムまで作成していたんですよ?伊呂波君が赤ちゃんの頃から、つい最近のモノと思われる写真まで綴じているみたいでしたし……優に五冊分はあったでしょうか……」


「……いやいやちょっと待って?市杵ちゃんに写真撮られた記憶とか、全然全く記憶にないんだけど……?」


 なにそれ怖い。


 量も異常でしょそれ……アルバム五冊分て……。


「あぁ……やっぱりそうなんですか……明らかに隠し撮りしたような写真が殆どでしたし、呆れて開いた口が塞がりませんでしたよ……まぁアルバムは全て楽しく見させて頂きましたけど」


「やめてっ!もう手遅れだけどっ!同級生の女子に小さかった時からの自分のアルバム見られるとかっ!恥ずかし過ぎて死んじゃうっ!」


 『小さい時の伊呂波君メチャクチャ可愛かったです~』なんて思い出して悦に入ってる弁財さんの姿は、市杵ちゃんがいつもベタベタとウザ絡みしてくる時とソックリだった。


 遺伝って恐ろしいな……弁財さんはあんな風にならないでね?お願いだから……。


「俺も小さい頃から世話になっているからあんまり悪くは言いたくないんだが……基本的にはいい人だし。だけどアルバム五冊分の盗撮写真って聞くと、正直ドン引きだな……まったくフォロー出来る気がしない……愛が重すぎるってレベルじゃない……」


 鞍馬ですら、あの化け物の異常性にドン引いていた。


 お世話になっていた人が、犯罪スレスレ……というか明らかにアウトなレベルでの盗撮ストーカー予備軍だったなんて、知りたくもなかっただろう。

 ボクも知りたくなかったもん……。


 でも、まぁ―――


「市杵ちゃんの異常性癖はとりあえず置いといて、これで弁財さんは何の気兼ねもなく、ボクの家にも遊びに来れる様になったんだよね?」


 弁財家の親子関係も、きっとガラッと変化したことだろうとは思うけれど―――


 きっとこれからも、良い方向に変わっていくのだろう―――


「はいっ!いろいろな邪魔とか勘違いのせいで、だいぶ遠回りをしてしまったのかも知れませんが―――」


 そしてボクらの関係も―――


「伊呂波君っ!鞍馬君っ!これからも、よろしくお願いしますねっ!」


 ―――きっと、これからも沢山の楽しい思い出を作っていけるような―――


 ―――そんな『ともだち』であり続けることができるって―――


 輝くような弁財さんの笑顔のおかげで、そう信じることができたのだった―――


                  ◇


 私の自宅への帰り道、送ってくれると言ってくれた伊呂波君と鞍馬君と三人で肩を並べながら、夕焼けに照らされた道を歩いていく。

 途中のコンビニで買った安いアイスが、今日一日の楽しさや充実感で火照った身体を、ほどよく冷ましてくれて、私の身体に心地よく溶けていく。


「お二人とも、今日は誘ってくれて、本当にありがとうございましたっ!」


 私の言葉を受けて、伊呂波君も鞍馬君も喜んでくれる。


 一緒に楽しさを共有し、美味しさを分かち合い、些細な喧嘩を繰り返し。

 そして必ず仲直りして、その先もずっと続く関係を積み上げていくのだ。


 別れが近い今は少し寂しいけれど、きっとまた今日みたいな楽しい日が訪れる。

 そう自信を持って言えるようになるなんて、思ってもいなかった。


 誰よりも幼稚で独り善がりだった私が、ようやく少しだけ大人になることができた。

 私に寄り添ってくれる『ともだち』が、私を『独り』から掬い上げてくれた。


 ―――だから、これからの時間で返していこう。


 伊呂波君たちが与えてくれた『温かさ』―――


 ずっと助け続けてくれた『優しさ』―――


 そしてなにより、『幸せなこの時間』―――


 きっとこれからも一緒にいて、ほんの少しずつでも返していけるはずだから。


 そう信じられる、『かけがえのない存在』。

 それが『ともだち』なんだって。


 私は、知ることが出来た。


 ―――そしてもうひとつ。この日、私は初めて知ったのだ。


 ―――『ともだちと過ごす幸せな時間は』―――

 

 ―――『あっという間に過ぎて行ってしまうってことを』―――


                  ◆


 新たにできた友人と並び、戯れ、他愛無い会話を交わす。


 私の心には、少し前にはきっと考えられなかったことだけど、とてつもなく大きな余裕が広がっていた。


 これからこの余裕には、楽しい事、好きな事をたくさん詰め込んでいけるんだ。


 ふと見上げた星空は、夜が更けていくことを知らせてくれるけれど―――


―――けれど、私の人生は―――


―――私の『これから』は―――


 目の前に広がる、綺麗な星々の瞬く夜空が迎える夜更けとは反対に―――


 夜明けのように明るく光が広がり―――


―――そしてこれからも、たくさんの『幸せ』が待っていてくれるのだろう―――


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