<第暇万(よろず)。‐合間の神様‐> ①
【タコパ】
タコ焼きパーティの略称。
リア充やパリピが好んでやりがちな儀式的食事会である。
SNSにアップすることで知人友人共にリア充アピールをすることができ、
楽しみながらマウンティングもできる便利なパーティである。
◆
「軽傷で済んだからいいものの、あんま無茶しないようにね」
そう言い残し、宝ちゃんは仕事に向かうために玄関から出かけて行った。
「いってらっさ~い」
(いってらっしゃ~い)
今日からまた、撮影だ何だのお仕事で長期的に家を留守にする宝ちゃん。
そんなご多忙なお母様をお見送りして、客人が来るにも関わらずに何の準備も用意もせずに、ソシャゲのスタミナを消費しながらダラダラしていたお昼前ごろ。
「邪魔するぞー」
鞍馬が白い買い物袋をいくつかぶら下げて、我が吉祥家までお目見えなすった。
「やっぱり何も準備してないし……」
「今やろうと思ってたのっ!」
「嘘つけ」
ソファでゴロっていたボクに小言は言ったけど、他に諫めるような言葉を言う事もなく、鞍馬は台所へと入って行った。
鞍馬がガサゴソと棚の中から今日使う道具を準備している音を聞きながら、ボクはソシャゲをポチポチしていた。
カチャカチャと何かをかき混ぜる音が聞こえ始めた頃、流石に居心地が悪くなり始めたため、ソシャゲを切り上げてボクも台所へと向かう。
「……なんか手伝う?」
「ん?んじゃカセットコンロとか皿を運んどいてくれ。それにもうそろそろ来る頃だろ?食材の下準備は俺が済ませておくから、伊呂波は委員長をもてなす準備でもしとけよ」
「もてなす準備ねぇ……裸エプロンで出迎えるとか?」
「はいセクハラ案件。死刑」
「……判決厳し過ぎない?」
グダグダ言い合いながらも、鞍馬と2人でパーティの準備を進めていく。
そう!
なんと今日は弁財さんを呼んでのタコ焼きパーティ!
非常にリア充臭い。
『タコパ』とはパリピ御用達の謎儀式の一つである。
そのあまりの陽キャ感に、世の中の陰キャ共は『タコパ』という単語を聞いただけで灰となって風に飛ばされていくだろう。
ざまみろ。
ボクこそがリア充なのだ☆
(伊呂波ちゃんこそ友達も全然いないし鞍馬君がいなければ常時ぼっちのくせに……急にマウント取り始めても粋がっているだけにしか見えませんよ……?)
いいのっ!
大切なのは今なのっ!
今ボクがリア充であるという事実なのっ!
そうこうしているうちに、『ピンポーン』というチャイム音が鳴り響き、我が吉祥家に来客があったことを知らせた。
「来たみたいだな」
「んじゃちょっと出迎えてくるね」
「……裸になんじゃねぇぞ?」
「せんわっ!冗談を真に受けんなっ!悲鳴上げて逃げてくわっ!」
流石に来客対応の常識くらいあるわとプンプン怒りながら玄関まで移動し、ドアを開けてお客さんを出迎える。
「いらっしゃ~」
「お、お邪魔しますっ!ほん、本、ほほほ本日はおおおおおひがらも良くっ!」
「謎に噛み過ぎて壊れたキーボードみたいになってるから。そんな緊張しないで気楽にしてね?ほら深呼吸。ひっひっふー。ひっひっふー。エビバディセイッ!カモンッ!」
「ひ、ひっひっふーひっひっふー……って出産するときにするやつっ!」
落ち着いてもらうために適当言ったのに、ボクのアドバイスを忠実に実行する弁財さん。
もっと人を疑いなさいね?
そんな騙されやすくちゃ、ママ心配よ?
「で、出た……弁財さんの十八番。ノリツッコミや……」
「私ノリツッコミとかしたことありましたっけっ!?からかわないで下さいよもぅ……」
「あはは、ごめんごめん」
開けたドアの先でなにやら緊張していた様子の弁財さんだったけど、ボクのウェットに富んだジョークのおかげで、少しずついつもらしさが戻って来た。
流石ボク。
(来訪五分足らずですでに疲れさせてません……?)
無視。
(おい)
「でも気楽にってのは本当ね?今日は楽しくレッツらパティだよ?」
「はい……ありがとうございます。お邪魔しても?」
「どぞどぞ~」
玄関で靴を脱ぐ弁財さんにスリッパを『どうぞ』して、初めてのお客様を招き入れた。
「あ!これ、お土産です。お口に合うといいのですが……」
「これはこれは……お気を遣わせてしまいまして。頂戴いたします。中身なに?」
(『グラフィックボードです』)
「うそでしょっ!?」
「えっ!?あの、まだ何も言ってませんが……あと中身はケーキですよ?あとでみんなで食べれればと思いまして」
「だよねっ!ごめんごめんっ!変な声色使って邪魔が入ったから思わず驚いちゃった☆」
「……?」
(ぷぷっ)
心の中で嫌らしい笑い声が聞こえた。
さっき無視したことを根に持つにしても、仕返しのやり方が下らなすぎだよぉ……。
変な横やりが入りましたが、それはとりあえず置いといて、弁財さんをリビングまで案内した。
すでに下準備を終えたのか、鞍馬はエプロンを脱いで椅子に座り、タコ焼きプレートに油を塗っている。
「お、委員長。いらっしゃい」
「こんにちは、毘沙門君。今日はよろしくお願いしますね」
「おう。こちらこそよろしくな」
これで役者は揃い、パーティの幕が上がるのだ。
弁財さんとの親交を深めるためのタコパ。
非常に楽しみである。
「空いてる席に適当に座ってね~。お土産は冷蔵庫に入れとくから。あ、弁財さんは飲み物なにする?炭酸?お茶?」
「お茶でお願いします。あとすいません、準備を全部して頂いたみたいで……お片づけは手伝わせて頂きま―――あら?随分可愛らしいエプロンですね?吉祥君のですか?」
空いてる椅子にかかっていたエプロンが気になったのか、弁財さんはボクらに尋ねながら上着を脱いで椅子に座った。
「え?ボクのじゃないよ。あのエプロンは鞍馬専用」
「いや、俺のでもないんだけどな。伊呂波も宝さんも料理しないから、俺しか着るやつがいないってだけで」
「あはは。またまた御冗談を。本当に毘沙門君が着てるみたいな言い方してても騙されませんよ?」
『またまた御冗談を』と笑いながら、まるで信じていないように、弁財さんは手をヒラヒラさせていた。
「いやホントなんだけど」
「やべっ!肝心のタコ切るの忘れてた!2人ともちょっと待っててくれな!」
そう言いながら、自然な振る舞いでエプロンを付けた鞍馬が、キッチンへ消えていった。
「えっ……マジですか?」
「うんマジ」
唖然茫然としながら、鞍馬の消えたキッチンの方を凝視し続ける弁財さん。
いや、うん。
気持ちはわかるよ。
ボクはもう慣れたけど。
「……マジですか?」
「……うんマジ」
とりあえず弁財さんのコップにペットボトルからお茶を注ぎ手渡した。
しかしその間も弁財さんはずっと鞍馬を凝視し続け、間抜けにも口をぽかんと開け続けている。
だから口ぐらい閉じなさいって。
思春期の女子がみっともない。
「うわぁ……マジ、ですか」
「……うん。マジ」
「いつまで言ってんだお前ら!」
ちゃちゃっとタコを切って戻って来た鞍馬が、ボクら2人に呆れながらツッコみ、エプロンを脱いで席についた。
「あの毘沙門君がフリフリエプロンとか……マジかぁ……」
「そこまで凹まれてると、俺も微妙な気持ちになるな……」
「ちょっとちょっと……」
なんでパーティの幕開け前に鞍馬も弁財さんもダメージ受けてんさ!
葬式じゃないんだからっ!
「弁財さんはとりあえず、あの怖気の走る鞍馬は「そこまで言う?」一旦忘れようよ!鞍馬も他に誰に見られるわけでもないし、大女優には褒められたんだから気にしない!」
「大女優というと、吉祥君のお母様ですか?なるほど……可笑しな感性は遺伝でしたか」
『遺伝の力って恐ろしいですね』とか呟きながら、なにやら納得した様子の弁財さん。
いやいや、失礼が過ぎない?
「そ、そうだなっ!今日は委員長と親睦を深めるための食事会なんだしっ!よしっ!乾杯しようぜっ!」
「おっいいねっ!ほら弁財さんもコップ持ってっ!」
ボクと鞍馬は無理クリに場の空気を盛り上がらせて、暗くなりかけた空気を払拭しようと努めた。
何事もノリの良さが大切なのだ。
ノリが良ければ盛り上がり、ノリが悪けりゃ場が凍る。
世のパリピ共を見てればよく分かる、現代社会の真理である。
あいつら頭空っぽでノリノリ言ってて実に幸せそうでしょ?
ウェーイとか卍とか冷静に考えれば意味わからんし。
「は、はいっ!そうですねっ!……よしっ!準備できましたっ!乾杯しましょうっ!」
郷に入っては郷に従えということわざに習ったように、委員長もボクらに合わせて頑張ってくれていた。
両手で掴んだコップを高く掲げてくれる。
そのノリの良さを教室でも発揮できれば、きっともっとクラスメイトのみんなと仲良くなれることだろう。
後で教えてあげようっと。
とは言っても、一昨日までの堅物で真面目過ぎた弁財さんのこんな姿が見れるなんて。
―――きっと、あの一件を経て、弁財さんも変わっていってるんだろう。
―――もちろん、いい方向にね。
「イェーイッ!んじゃ盛り上がってこうっ!ほらほらっ!鞍馬も弁財さんも一緒にっ!テンアゲで行くよっ!ウェ~イッ!」
弁財さんの変化に嬉しさを感じ、ボクも自然に笑顔になった。
ずっと仲良くしたかったんだから、こんなの否が応でもテンション上がるってもんだよねっ☆
「「ウェ~イッ!」……ちなみにウェ~イって何ですか?どういう意味ですか?」
「……そういう意味とかは深く考えちゃいけないんだ委員長」
「そ、そうなんですか?」
弁財さんが正気に戻ったせいで、鞍馬も釣られて冷静になりかけていた。
おい待て。
ボクだけ残して正気になるな。一人浮かれてアホみたいじゃんか。
「ウ、ウェ~イッ!ほら弁財さんもっ!マジ卍ぃッ!一緒に卍っ!」
「はいっ!ま、マジまんじぃっ……?あの毘沙門君?卍とは一体……」
「……だから俺に聞かないでくれって……世の若者の誰もが真の意味では理解していないであろう謎ワードだ。それだけ覚えとけば問題ない」
「そうなんですか……」
弁財さんの若者文化への理解が浅すぎることだけはわかったよ……。
頭良いんだから、これから知っていこうね?
ぶっちゃけ、そこいら歩いてるおばあちゃん並だよ?
疎すぎるってレベルじゃないよ?
ていうかそろそろボクのムリアゲアホテンションにも限界を感じ始めている。
なんだかもう色々辛い、ってか恥ずかしい。
やっぱりボクにウェイ系は無理だった。
だってボクが基本いつもバカにしてるジャンルだし。
相容れないと断言できるジャンルの人間だし。
「うぅっ……ほらっ!もういいから鞍馬も弁財さんもっ!乾杯するよっ乾杯っ!んじゃ弁財さんとボクらの新たな門出を祝してぇ……かんぱぁいっ!」
「「かんぱいっ!」」
恙無く、とは到底言えない感じではあったけれど―――
このようにして、ボクら3人の親睦を深めるためのタコ焼きパーティ―――
―――その幕が開けたのだった。
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