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吉祥やおよろず  作者: あおうま
本編のおはなし
10/62

<第三万(よろず)。‐半解の神様‐> ②


                  ◇


 四限目の英語の授業が終わってようやく昼放課が訪れても、弁財さんは教室には戻って来ていない。

 といっても、トイレに籠った後に保健室に移動して休んでいたことは知っていたので、『もしかしたら、また誰かに何かをされているのかも』といった心配はしなくても良いんだけどね?


「―――なるほどな。そんな面倒な事になってるとは……」


 真面目な弁財さんが四限目の授業に参加しなかった事実と、ボクの説明した経緯でようやく事態の重さを把握した鞍馬であった。


『把握するのが遅えよ鞍馬くたばれ』と、常のボクであれば思っていたかもしれないけど、今回は鞍馬に一切の責任はない上に、意味もわからず巻き込んでしまった被害者でもあるのだ。

 むしろ謝罪しないといけないだろう。


「把握するのが遅えよ鞍馬くたばれ……」


 やっばぁ☆

 謝ろうと思ったのについつい八つ当たりしちゃったゾ☆

 ゴッメーン☆


「俺に毒づくくらいだから、まだ元気が残ってるのかとも思ったんが……そういう訳でもなさそうだな。普通に言葉に覇気がないし……めちゃくちゃヘコんでんじゃねぇか」


 ボクの悪態の吐き方で元気の度合い推し量ると止めてくれる?

 なんか熟練のサドマゾコンビのおホモだちみたいじゃないの……。


「そんなことないし……めっちゃ元気あふれ出てるし……」


「いまその強がりに意味はあんのか?誰に対して見栄を張ってんだよ。こんな時くらいは素直になれって……」


 確かに全くもって鞍馬の言うとおりである。

 一人でなんとかしようとムキになっていた結果がこの体たらくなのだ。


 もうボク一人の力と意地だけで何とかなるレベルの話ではなくなってしまっている。

 極限レベルに弁財さんに嫌われてしまったわけだし。


 きっとギャルゲーによくいる好感度を教えてくれる謎に便利な悪友に聞いたとしたら、弁財さんからの好感度はマイナス方向にカンストしてると告げられる状態だろう……。


「はぃ……ごめんなさい……助けてぇ」


「俺が促したこととはいえ、伊呂波が素直に謝った上にそこまで弱気になって助けを求めるとか……」


 元気出せとばかりに頭をポンポン撫でてくる鞍馬の手を、『ホモ行為は勘弁!』と払い除ける元気もなく、ボクはされるがままに撫でられていた。


 きっと今のボクならば、容易にハイエースで拉致できてしまうだろう。

 今の元気カラッカラな状態では、ろくに抵抗も出来そうな気がしない。


(伊呂波ちゃんっ!弁財さんが保健室を出ましたよっ!購買でパンと飲み物を買った後、どこか校舎外で食べられる場所を探しているみたいですっ!それにノートを隠したあの人たちも弁財ちゃんの後をつけ始めましたっ!急いだほうがよさそうですっ!)


 ―――それでも、たとえどれ程落ち込んでいたとしても。


 ―――今のボクには、やらなければならないことがあるのだ。

 

 弁財さんに拒絶されてグッタリ凹みながら、鞍馬に撫でられ続けているままではいられない。


 ってかいつまで撫でてんだっ!

 流石に金取るぞっ!


「どうする?まずは委員長を見張る方と仙兄に相談する方にでも分かれて―――」


「―――ごめん鞍馬。ボクまた行ってくる」


「……また急だな。いつもの『勘』ってやつか?」


「うん、そうっ!いつもの『勘』っ!」


「お前の『勘』は妙によく当たるからな……」


 実際は当然『勘』なんかじゃない。


 ちょっとした裏技というか、チートの類だ。ファンネルを飛ばしているようなものである。

 鞍馬にすら誤魔化しているのだし、その真相を誰かに言うことはできないのだけどね?


「あははぁソダネー。んで鞍馬、お願いなんだけど……」


「わかってる。なんでも手伝ってやるよ」


「それじゃ鞍馬は、仙兄のところに今の状況を教えに―――」


「いや、今度は俺も一緒に行く。今の伊呂波一人に任せても、委員長と話が必要になったときに拗れるだろ?」

 

 ボクの提案を遮り、鞍馬は代替案を提示してくれたけど、正直二人で向かうのは乗り気ではなかった。

 だって―――


「ありがとう……鞍馬。でもボクだけで大丈夫だよ?だから、鞍馬は仙兄を探しに行って欲しい。もし鞍馬まで弁財さんに嫌われるなんてことになったら……」


「そしたら二人で謝って誤解を解くだけだ。問題ないだろ?」


 ……やっべぇ鞍馬さん超カッコいいですわ!


 マジパネェが過ぎる。

 ボクが女子だったら思わず惚れてしまうとかって間違いを起こしていたかもしれないっ!


「はぁ……鞍馬ってホント、お人好しが過ぎるよね……。ありがとう。その鞍馬の心意気!星3つ☆だねっ!」


「馬鹿にしてんのかっ!いきなりオチャラケやがって……でもまぁいつもの調子を取り戻してきたってことで水に流してやる。言い争いしてる場合でもなさそうだしな」


 呆れながらも不敵に笑う鞍馬に釣られて、安心感からかボクの頬も緩んでしまう。


(伊呂波ちゃん急いでくださいってっ!鞍馬くんとイチャイチャしてる場合じゃないんですよっ!?)

 

 はいはい、わかっておりますともさっ!

 あとイチャイチャ言うの止めなさいマジでっ!

 

 つい数分前まではソコソコに落ち込んでいた気もするけれど、今はもう、大丈夫!

 最強の味方も手に入れたし、あとはもう思うままに、信じるままに行動するのみっ!


「弁財さんがいる大体の場所はわかってるんだ。まずはそこに急ごうっ!」


「了解!そんでどうする?急いでるんなら伊呂波のこと担いで行くか?一緒に動くなら、その方が早いしな?」


「メチャクチャ目立つわっ!あれは学園内じゃやらないのっ!禁止なのっ!これ以上に不快な噂の原因を増やしてどうすんのさっ!めっちゃ頑張って走るから早く行くよっ!」


「はいはい精々頑張ってくれ!でも最悪間に合わないってなったら、お前が駄々こねようが問答無用で担ぐからなっ!?それが嫌なら死ぬ気で頑張れよっ!」

 

 そうしてボクらは慌ただしく、いきおいよく教室のドアをくぐりぬけたのだった―――


                  ◇


 八百万学園の敷地は広大な上に、ボクらが出発した教室棟から弁財さんの向かっている場所までは結構距離があるらしいのだ。

 奴らが弁財さんをつけている危険な状況もある訳だし。


 兎にも角にも急がなければならないのだけど―――


「はぁ……はぁ……ごめんもう限界。ボクのことはいいから先に行ってぇ……」


「限界早すぎだろっ!ったくしかたねぇなぁっ!」


 開始5分の全力疾走でフラフラになってしまった情けないボクを、約束通り鞍馬が抱え上げて肩に担いだ。


 もうこうなったら、どれだけ衆目を集めようとも恥も外聞もかなぐり捨てて鞍馬の肩にお世話になるしかない。

 後で発生するかもしれない新たなクソ噂なんかはとりあえず気にしないでおこう。

 

 いつか未来のボクよ、そうなった時はゴメンね☆

 今この瞬間の判断を恨みながら精々後悔してくれっ☆


「お前はもっと運動しろっ!このひきこもりがっ!」


「う、うるさいっ!悪態吐く暇あったら足を動かせっ!馬車馬のようにっ!」


「窓から放り投げんぞっ!」


 昼休みということもあり、そこらにいる少なくない学園生たちの間を、時にすり抜け、時に避けてもらいながら、ボクらは廊下をひた走る。


「応援してあげてるんだよっ!……サラマンダーより、ずっとはや~い」


「ふざけてる場合かっ!ほらっ!この先どっちだっ!?」


 ただでさえ身長の高い鞍馬が、ボクを担ぎながら廊下を走っているのだ。


 そりゃまぁ注目されますわな。

 ガハハ。


 ―――だとしても。

 

 衆目をいくら集めようとも、足を止めてる余裕も人気のない道を選択している余裕もない。


「そこは真っすぐ直進!その先を右に曲がって階段下りて!4㎞先に渋滞があります!」


「カーナビかっ!階段では舌噛まないようにその減らず口を閉じてろよっ!」


 ボクを担いでいることなどモノともせず、人を避けながらも階段をピョンピョン駆け下りていく鞍馬のスピードは半端なかった。

 常人ならざる早さでドンドン階を下っていく。

 

 こいつの天職は飛脚だろう。

 江戸時代に生まれていれば、伝説の飛脚として名を残していたかもしれない。

 

 惜しい男である。

 うむり。


「ほらっ一階まで下りたぞ!次はどっちだっ!」


 そしてボクらは近づいていく。

 

 その場所に―――その瞬間に。


「鞍馬っ!もうすぐ弁財さんに追いつくっぽい!」


「はいよっ!どうする?このまま委員長と合流するか?」

 

 ようやっと下駄箱まで辿り着き、ボクを肩から降ろして上履きから外履きに履き替える鞍馬に習って、ボクも靴を履き替え校舎外に出るための準備を整える。

 教室棟の出入り口を抜けて、もう一度ボクを担ごうとした鞍馬を手で制した。


「いや、ちょっと待って……うむむ……」


 向かう先に学園生の人影はなく、弁財さんが人込みを避けた場所を目指して移動していることは明白なのだ。

 奴らが一人きりの弁財さんを今も狙っているということもわかっている訳であるのだし、何より弁財さんを狙う奴らの正体だって、まだ掴めていない。


「そいつらは今も弁財さんを狙っている。弁財さんが一人きりの今、またぞろ何か仕掛けてきてもおかしくない、ってか絶対また手出ししてくる……と思う」


「んじゃ考えてる暇なんてないだろっ!委員長が何かされる前に―――」


 確かに鞍馬の言うとおりである。 


 だけど正直なところ、ボクらを巻き込んだこの状況をさっさと解決してしまいたい。

 

 1人の女の子を泣かせる迄のことをしやがったクソったれなあいつらの正体を明らかにして、今ここで引導を渡してやりたいという気持ちだって、非常に強くなっているのだ。


「……いや、もうここで終わらせる。弁財さんが手出しされるギリギリのタイミングまで見張って、寸前でそいつらを取り押さえよう。そいつらが真犯人だって弁財さんに理解してもらう為にも、ボクの無実を証明するためにも」


「そりゃここで終わらせられれば俺だって文句はないんだが……そんなタイミング良く割って入ったり、想像した通りに上手く事が運ぶと思うか?機を損なった挙句、委員長が何かされるのを助けられませんでした、なんて俺は御免だぞ?」


「そんなのボクだって嫌だよ。ボクだけだったらきっと上手くいかないし、他の方法を考えていたと思う。でも、今のボクには鞍馬がいる。二人でだったら大丈夫……だと思う」


 ―――後から考えれば、この時のボクはいかに愚かであったのだろうかと笑ってやりたい―――


 精神的に参っていて、さらに鞍馬の協力もあることによる慢心が、心の驕りや焦りが、またもボクに愚行を巡らせる―――


「……わかった。とりあえずは伊呂波の案に乗ってやる。けどな、場合によってはお前が止めたとしても俺は自分の思うがままに動くからな?それで伊呂波に不満を言われようがそこは譲れない。目の前で知り合いが悲しい思いをするのを、黙って見ているのは絶対に無理だ」


「うん、ありがとう……ふっ」


「……伊呂波お前なぁ?人が真面目に話してる時になに笑ってんだよ……」


「いや、気を悪くしたならごめん。謝るよ……。でもさ、ホント少年漫画の主人公みたいだよね鞍馬は。なんでそんなまっすぐ育っちゃったんだか……」


「それ褒めてんのか?実は馬鹿にしてんだろ?」


 ホントにこの幼馴染は、言う事為す事が様になり過ぎている。


 それにさっき、鞍馬がボクの提案を信じてくれたように、さらには弁財さんとボクの間に起こった一連の件で、疑うことなくボクを信じてくれたように、ボクだってこいつのことを信頼している。


 だから大丈夫なはずだ。ボクたち二人だったら大丈夫。


 ―――今までにだって、二人で幾つもの騒動を乗り越えてきた。


 過去の苦難困難に比べたらこの程度、今回だって乗り越えて見せる―――


「そんな状況になったら、その時は鞍馬の判断を信じるよ。弁財さんが悲しむ前に彼女を助けてあげて欲しい。もちろん恨んだりしないって約束する」


「そうか……っつっても、なんだかんだで今までもそうだったが、お前の方が我慢できずに先に飛び出していきそうだけどな?」


「いや、そんなことはないでしょ?ボクって結構、我慢強い方だし」


「どの口で言ってんだよ。いっつも用意してた計画を無視して突っ走りやがって……」


 そんな記憶がないわけではないが、別にいつも辛抱足りずに独断専行しているわけでは……ないと思うんだけど?

 いやでも確かに?思い当たる節がいくつかはあるけれど……。


「まあ伊呂波の忍耐力の無さは一旦置いといて……このまま二人で尾行しつつ委員長に危険が及びそうになったら助けるってことで、とりあえずは方針決定だな」


「よしっ!名付けて『コソコソ作戦』開始します!」


「……お前、ホントすぐアニメのネタをパクるんだから……」


「だってその方がテンション上がるでしょうがっ!」


「ミーハーオタクの伊呂波と違って一般人の俺はテンションに変化ねぇよ……」


(ほらっ二人ともっ!そこの校舎の角を曲がれば弁財ちゃんが見えて来ますよ……ってあれ?)


 オッケーグーグル!ナビありがとう!


 って……ぅゆ?どうしたのさ?

 心の中の疑問符に首を傾げつつ、ボクと鞍馬は校舎の角から顔を覗かせて、弁財さんの状況を確認した。


 数メートル先、そこには果たして弁財さんの姿があった。

 やはり喧騒を避けたのか、『一人』で座り込みパンを頬張る弁財さんの姿『だけ』が。

 

 ……あれ?弁財さんだけ?最初に教えてもらった情報と違うな。警戒して損した。


「おい伊呂波、委員長しかいないぞ?お前が話してた『誰か』ってのも、そもそもここまで誰一人としてすれ違わなかったし追い抜かさなかったけど……どうなってるんだ?」


 そんなのボクだって聞きたいくらいだ。

 

 おかしいぞ?

 だって教えてもらった通りなら、クソ真犯人たちも弁財さんの後をつけていた筈なのに。

 

 ボクらの尾行がバレちゃってたのか。もしくは今回は手出しを諦めたのか―――


 (―――っ伊呂波ちゃんっ!上っ!窓のところっ!)

 

 心中に響いた訴えに従って、空を見上げる様に顔を上げる。

 

 太陽の眩しさを感じることなく見つめることのできた遥か遠くの校舎の窓際、その先に―――


「―――っ!」


「おいっ!伊呂波っ!?どうし―――」


 そこに映った光景と、それを行おうとしている奴らの悪意に満ち足りたニヤついた相貌を認めた瞬間、ボクの身体は走り出していた。

 来るべき数舜先の未来を回避する為に、無意識に動き出したボクに投げ掛けられた鞍馬の呼び声に構うことも、答えを返す暇さえも惜しんで。


ボクは校舎の影から、がむしゃらに駆け出した―――


                  ◇


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