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一章 02 ひとりはさみしくて


 全国津々浦々(つつうらうら)にいる女の子の皆様、こんにちわ。

 抱かれたい触手ナンバーワンのオレです。

 オンリーワンとも言います。唯一の存在だからね。


 なんてね。脳内のファンに向かって喋ったり歌ったり握手会開いたりしてますけどね。

 いやもうあれですよ。別に最初からこんなことしてないですよ。

 最初は良かったんですよ。


 木の上で場所の確認と行き先を決めたのは良かった。

 それから周辺のあらゆるものを、片っ端から〈解析〉したのも良かった。

 初めて〈解析〉したものは〈魔力分解〉して〈吸収〉もして、少しずつ体も成長しました。単純に体積が増えただけだけどね。


 ちなみにだけど、水とか土とかは〈魔力分解〉と〈吸収〉に消費した魔力とトントンの回復量だった。

 ちょっとだけ回復量の方が上かなー微妙だなー誤差の範囲だなーって感じ。

 やるだけ損だね。


 そうそう。移動中は〈錬金術〉も使ってみました。

 これがまた便利で。

 思い付いた効能の薬を思い浮かべるだけで、〈記録保存〉したなかから適切な成分入りの薬草をピックアップしてくれて、あとは体のなかで〈変幻自在〉で薬草を再現。

「合成」と念じればあら不思議!

 お薬完成!

 めっちゃ簡単かつ楽チン!


 魔神様から『お主にも扱えるよう調整しておいた。他の〈アビリティ〉と組み合わせてうまく使えよ』なんて言われて、正直自信はなかったけど、こんなに簡単ならオレでも大いに活用できそうだ。

 魔神様様である。ありがたやーありがたやー。


 思い付くまま、「体力回復薬」とか「魔力回復薬」、人間用の「理力回復薬」なんてのも作ってみた。

 全部〈解析〉し終えたあとは〈魔力分解〉して〈吸収〉したから、一滴も残ってないけど。

 この体、分解してから吸収しないとなんも取り込めなくて。

 どんなに薬を作っても意味なかった。悲しい。


 そんなこんなで、日が落ちるまでひたすら移動と〈解析〉と各種〈アビリティ〉のチェックを繰り返したんだけどね。

 さすがにね。

 飽きたよね。

 脳内にいる億千万のファンの皆と(たわむ)れても仕方ないよね。


 森は静かで、動物の影がちらほら見えるくらいで、何にも遭遇しなかった。

 狼とか猪とか、会ったらヤバい動物もいなかった。

 戦闘になったらまずいから良かったと言えば良かったけど、なんだか嵐の前の静けさのようで、不安だけが増していく。

 森全体が身を潜めているような、静かすぎる気配。


 夜だからこんなに心細いのかもしれない。

 森は光を通さず、真っ暗だ。

 人の目にはわからないようなわずかな明かりでも、優秀な〈解析〉さんなら余すことなく拾い上げ、視界を照らしてくれる。

 でも、昼間のようにはいかない。暗いなかで独りぼっちだ。


 頑張れ、オレ。魔神様も見てるんだから。


 女の子だって待っている。はず。

 とにかく暗いからいかんのです。明るいところに行かなければ。

 触手を伸ばして、渦巻き型の木に登る。

 もう慣れたものだ。


 高いところまで登ったら、木を〈解析〉して〈変幻自在〉で体を変える。

 端から見て、この木の枝に見えれば完璧。擬態の完了だ。

 何かに襲われたらやだもんね。


 幹から空に向かってできるだけ体を伸ばす。三つの月が見えた。

 一番明るく大きい月は、前世でも見た黄色の月だ。ただし、前世のものより大きくて明るい。

 次に明るいのは、青っぽい色の月だ。明るさも二番で大きさも二番。一番目の月に寄り添うように浮かんでいる。

 最後の月は、中天に浮かぶ二つの月からだいぶ離れた、地平線のすぐ上にあった。色は赤。小さく暗い。月蝕の時の月に似ている。


 三つの月は満月で、夜なのに思った以上に明るかった。

 森のなかでなければ、明かりがなくても歩けそうだ。

 その分、星はあまり見えない。白く柔らかな光が空を、地上を優しく包む。


 しばらくすると、森のあちこちからキラキラした光が立ち上った。

 なんだろう。風にのって運ばれている。

 すぐ近くが明るくなる。そっちに視線を向けると、巨木が点灯していた。

 よく見ると、光の発生源は木の枝に生えた花だった。

 真っ白な花が咲くと、なかから細かな光があふれでる。

 細い触手を使って〈解析〉する。どうやらこの光は花粉のようだ。月の光を反射して光っている。


 今日は三つの満月が昇る、特別な日なんじゃないかな。

 その日だけに咲かせた花から、光る花粉を飛ばし、子孫を残そうとしている。

 風に乗った花粉は樹上から空へ、きらめきながら舞い上がり、遠くまで飛んで行くんだろう。


 なんだか、星が地上に遊びに来たみたいだ。

 なんて、ちょっとキザだったかな。恥ずかしいぜ。


 キラキラの景色はまるで月からの祝福のようで、ここに飛ばしてくれた魔神様に感謝する。

 結局オレは、花粉が消える朝方まで、ただただこの美しさに見とれていた。



 で。

 あとでわかったことなんだけど。

 あのキラキラの花粉は動物にとって強い毒を持つらしく、大量に吸い込むと最悪死ぬそうだ。

 一晩も経てば毒素はだいぶ弱まるらしいけど。

 だから森は静かだったんだね。皆、巣穴に籠ってたみたい。

 もしオレが魔力以外を体に取り込めない、生き物としてイレギュラーなこの素体の体でなかったら、死んでたってことだ。

 確実にね。


 なんであの魔神様のやることって、最終的に嫌がらせっぽくなるんだろう。

 今回は未遂に終わったけどさ。

 やっぱり嫌がらせの神様なんじゃないの?

 以上、余談でした。


《お知らせ》


習作「主を夢見る勇者の剣」を投稿しました。

6000字ほどの短編です。

よろしければどうぞご覧ください。

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