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一章 01 いざ新しい人生へ


 暗い。真っ暗で何も見えない。

 音もない。何も感じない。

 どこだ、ここ?


 落ち着いて深呼吸、じゃないや、〈解析〉。

 なんだか今までの感覚と違って、自分で何でもやらなきゃいけないのは、とても変な感じだ。

 目を開ければ周りが見えて、意識しなくても音が聞こえる人間の体っていうのは、実はすごかったんだな。


 謎の感動に浸るうちに、真っ暗だった視界が真っ白になった。

 眩しい。眩しすぎる。光の量を抑えないと何も見えない。

〈解析〉さん、調整もお願いします、と念じると、眩しさが徐々に薄れ、やがて自分を中心にぐるりと全部見えた。

 後ろの景色まで見えて落ち着かないので、前方のみに絞る。


 次は聴覚。大小様々な音を拾ってうるさいったらない。

 もちろん抑える。前世の感覚を頼りに調整。

 不便に感じたらその都度変えていけばいいんだし、とりあえずはこれでいいだろう。

 その他もろもろ、感覚を整えていく。

 五感のうち、舌がないから味覚の再現は止めた。

 触ったものの味をわかるようにしたら、地面の味もいちいち味あわないとならなくなる。それはヤダ。


 さて。改めてここはどこでしょう。


 鬱蒼と茂る木々に、手入れもされてない下草。どこからか聞こえる鳥っぽい鳴き声。

 たぶん、森? 見た限り平坦な地形だから、山ではなさそう。

 ここからだと特に道らしき跡も見えないから、人のあまり来ない、森の奥深く、とか?

 それならとりあえず誰かとばったり出くわして、「切り捨て御免!」な目に会わなくてすみそうだ。


 なーんて言っててほんの十歩先に道があったりしてー。


 もうね、前世の身長なんて覚えてないけど、今はかなり視界が低い。

 オレが平均的な成人男性だったとして、覚えてる限りの景色と今現在見えてる視界と比べると、半分……いや、四分の一くらいの高さかな?

 薄暗くて見通し悪いし、茂みの向こう側に何があるのか、さっぱりわからない。

 地面は枯れ葉で覆われてるから、何か近づいてきたら音でわかるはずだけど。


 とりあえずあれだ。高いとこに登ろう。


 すぐそばのねじれた木に向かって体を伸ばす。

 不本意ながら、魔神様に近づこうと〈変幻自在〉を使ううちに、動かし方はなんとなくわかってきた。

 前世の手足のごとく、とはいかないものの、一部を細く長く伸ばせるようになった。枝に引っ掻けてから、今度は縮めていく。


 触手道の記念すべき第一歩である。

 これでたくさんの、あらゆる種類の触手を自由自在に操ることができるようになれば、それは触手道を極めたということであり、すなわちオレは触手になったということである。

 待っててこの世界の女の子達。

 世界唯一の触手が極楽へつれてってやるぜ。

 オレはやるぜ、やっちゃるぜ。


 希望を胸に抱き、木に登る。

 厳密に言うとオレに胸はないが、こういうのは心意気である。触手(予定)でも大志は抱ける。

 なんたらアンビシャスってやつだ。偉い人の名言だ。たぶん。


〈並列思考〉のおかげか、考え事をしていても、オレの体はなめらかに動いている。

 今は二本の触手を交互に動かし、確実に木の上を登っている。

 時々、リスかネズミのような小動物が、慌てて枝から枝へ渡るのが見えた。

 鳥はとっくに空へ逃げてる。

 なんかごめん。


 一番高い枝に到着。だが葉が繁っていて、周囲を見渡すことができない。

 でも大丈夫。枝から落ちないよう気を付けながら、上に向かって細い触手を伸ばす。

 今は本体から見た視点だが、触手の先の視点に切り替えれば、木の上から全体を見渡すことができるって寸法だ。


 早速切り替えてみる。

 真っ青な晴れ渡る空。太陽はひとつで、大きさは前世で見たものと変わらない気がする。

 日差しに当たる触手が暖かい。本体との温度差でそう感じるのだろうか。

〈解析〉さん、前世の感覚にそった反応を示してくれるあたり、なかなか良い仕事ぶりだ。

 魔神様のおかげかな。


 空以外には森と、遠くに山が見える。

 今現在、太陽の位置が南にあるとして、山は西側にあった。

 あとは東側、森が途切れた先に街らしき何かが見える、てところか。

 高い壁が見えるから、たぶん街だと思うんだけど。さすがに人の出入りなんかは見えなかった。

 北側、森の中央の方にはやたらと高い木が密集して、ちょっとした山に見えるところがある。

 山なのかな。それとも丘? あそこはよくわからない。

 ここからだと東側の壁の方が近い。森の出口にも近いから、移動するなら南西の方角かな。


 よし。


 行くべきは決まった。気合いは充分。

 オレの新しい人生、もとい触手生が、今、始まる!


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