序章 5 夢破れて希望あり
オレが転生したい魔物。それは。
『触手になりたいです』
女の子の服を溶かしたり、気持ち良くなっちゃう体液出したり、たくさんの女の子とイチャイチャしたり、ニャンニャンしたり、ニュルニュルしたりできる、夢のような魔物だ。
そもそもあれですよ。
人間のオレの体にオレはどう頑張ってもひとつしかないわけですよ。
それじゃあたくさんの女の子を満足させることはできないわけですよ。
女の子が可哀想なわけですよ。
でも触手ならオレがたくさんあるわけですよ。
あればあるだけの女の子が喜ぶわけですよ。
オレも嬉しいわけですよ。
でも魔神様は嬉しくないようだった。嬉しくないというか、困ってる?
そして非常に残念そうな目でオレを見てる。
そんな目で見なくてもね、オレが残念である自覚はある。否定はしない。
『自覚してるならまだマシか。いや、なお悪いか。
それよりもだな、その触手という魔物だが……』
歯切れ悪い言い方。
えーと、もしかして?
『うむ。造ったことがないのでな。この世界にはいない。
故に、転生させることができん』
悪いな、と魔神様が申し訳なさそうに呟いた。
『そもそも魔物とは、地上にいる生命に魔力を与え、進化させたものだ。元となる体がなければ造れん。
それに、私ひとりでは新しいものを造り出せん。これは私が力を奮うための制約だ。
一度造ってしまえばいくらでも造ることが可能なのだがな。
それによしんば可能だとしてもだ。触手と言われても、どうして良いかわからん。
それは身体の一部であって、それそのものが生きているわけではなかろう?
触手とは手や腕にあたる部位だが、腕になりたいと言われても、腕だけでは転生させたところで死ぬのが落ちだ。
魂を回収されて終いだ』
再び腕を組み、魔神様は何か考え始めたが、オレはただ地面を見ていた。
オレの新たな人生が始まる前に終わってた。ダメだった。
こういうのってさ、不思議な力でわりと思う通りに物事が進んで、なんだかんだ出会いと別れと冒険とハーレムがあって、ハッピーエンドで終わるもんだと思ってたんだけどなー。
こうなったら美形の吸血鬼になって夜の街を渡りつつ女の子の献血で生きていくしかない。
「ちょっとそこいくお姉さん、オレにその甘美な赤い雫を分けてもらえないかな」なんて。
うん。無理だわ。
だいたいオレ血もホラーも苦手だし。
心ときめくナンパ技も持ってないし。
『……ひとつだけ、可能性のある手がないでもない』
魔神様の声に、顔を上げた。いたずらを思い付いたような、楽しげな顔だ。
ほんの少し不安がよぎる。
『それ、大丈夫ですか? なんだか嫌な予感がするんですけど』
『大丈夫だ。成功するかどうかはお主しだいだがな』
魔神様は右手を軽く握り、オレの目の前に差し出すと、ゆっくり開いた。
何もなかったはずなのに、魔神様の手のひらには何かが乗っていた。
今のオレと同じくらいの大きさに、つるんとした丸い形で、白っぽい半透明な何か。
どこかで見たことある。手のひらじゃなくて、皿の上で。
『なんですか、そのあんこのない水まんじゅう。食べるんですか?』
『なんだそれは。これは食べ物ではない。
私が生命の身体を造るときに使う、素体だ。
全てこれを使って造る。このように』
魔神様が左手で水まんじゅうを指差す。
くにくにと動き出したと思ったら、それは小さな木になった。
また動いて、今度は小鳥に。魚になって、蛇に。
最後は翼のあるドラゴンになって、再び水まんじゅうに戻った。
どうだ、と言わんばかりの魔神様の顔。
『すごい……とは思いますけど。これを使ってどうするんですか?
オレの考えてる触手にはできないんですよね?』
『うぬ……。もっと驚くかと思ったが。存外つまらん奴よな、お主』
そんなため息つかれても。
『とにかくだ。お主をこれに転生させ、地上に送る。
あとは好きなように身体を変化させ、その触手とやらになれば良いと考えたのだが。
どうする?』
どうするって……、もうちょっと詳しくお願いします。




