序章 4 オレの未練
人を殺さずに、人口が増えるのを邪魔する。
どうすればいいんだ?
『例えばだな。
以前喚び出した魂は元々研究者で、ある病に効く薬の開発を目指していたが、志半ばで死んだ。
そこで寿命のない魔物、お主の知識を借りると、アンデッドやリビングデッドといった魔物に転生させ、地上に送った。
彼はその無限の時間を使い、地上にはない新薬を次々と作り出し、人間の役に立った』
『それって逆に人口を増やすことになりませんか?』
『そうだな。だが人間は増えるが、手が空く奴も出てくる。
感染症を抑えられれば、病の神が暇になる。
病で死ぬ者が減れば、魂を管理する神の手間が省ける。
薬に対する信頼が高まれば、薬師を守護する神に信仰が集まり、力を増すことになる』
要するに、人間を減らすことは手段のひとつで、あくまで天上におわす神様達に余裕を与えることが目的だ、ということか。
『それなら、他の神様からの信用も少しは取り戻せたんじゃないですか?
今まで聞いた話だと、嫌がらせばっかりだったし』
魔神様を見上げると、ため息をついて肩をすくませた。
『それがなぁ。初めは良かったのだが。
確かに彼は多くの人間を救った。
だが、彼の薬が「奇跡の霊薬」と呼ばれ始めると、薬や薬の製法、そして彼自身が争いの火種となってしまった。
最後は国同士の戦にまで発展してしまったよ。
戦では救った人々と同じか、それ以上の人間が死んだ。
国は疲弊し、病が蔓延した。
人心を乱したとして、研究者の彼は悪魔と呼ばれ、信仰が集まるどころではなくなった。
おまけに戦場となった土地は負の力が強まり、大地の神が浄化しなければならなくなった』
なんでこの神様のやることは最終的に嫌がらせになるんだ。
嫌がらせなんてカワイイもんじゃないけど。
災害になっちゃってるけど。
とばっちり受けた神様もいるし。
実は「嫌がらせ」とか「不運」とか「神災」とか司っているんじゃないかな。
『なんかもう、大人しくしといた方が良くないですか?』
『何を言う。次こそは成功するかも知れないではないか。
だからお主を呼んだのだ』
呼んだのだ、なんて言われましても。
そもそもオレに、そんな新薬の開発みたいな、大層な未練なんてない。
もうね、鼻息で飛ぶような軽いもんですよ。
『だから、お主を呼んだのだ』
魔神様が口の端を上げて笑う。
自然な感じで人の心を読んでるみたいだけど、まぁ置いとこう。
『どういうことです? あんま役に立ちそうにないですけど』
『だからこそだ。大いなる志を持った者は、それ相応の代償が求められる。良くも悪くもな。
故に私は考えた。それが小さなものならば、代償も小さく済むのではないか、とな』
『なるほど。さっきの話だと、たくさんの人を救って、それ以上に死人を出しましたからね』
吹き飛ぶようなオレの未練。国同士の戦争の火種にはならなそうだ。
問題は、はたして天上の神様達に余裕を持たせることができるかどうか。
いやまぁ無理かなー。無理だろー。
『さて、私の話はもう良いだろう。
今度はお主の番だ。お主に残る未練を申してみよ』
魔神様が促す。若干楽しげなのはなんでだ。
よくある未練だよ。綿毛みたいにそこら辺に溢れてるよ。ふわふわ飛ぶよ。
『改めて口に出すのは恥ずかしいですけど……、その……。
女の子にモテたいです』
『ほう』
『できれば東西南北あらゆる国のたくさんの女の子にモテたいです』
『モテたいだけか』
『隠しても無駄なんでぶちまけますとね。
全員と仲良くなりたいし一緒に住みたいしできれば毎晩いやんあはんうふんなことしたいです』
『待て待て。そう捲し立てても上手く読み取れん。最後は何と言った?』
『恥ずかしいので二度目はないです。前半だけわかれば大丈夫です』
『そうか』
魔神様はオレを地面に下ろすと、腕を組んでなにやら考え始めた。青紫の髪がさらりと落ちる。
いやー、絵になるわー。ホントに女性なら文句ないのにー。
ところで女の子にモテる魔物ってなんだろう。
ベタなところで吸血鬼とか?
なんだっけ、気持ちいい夢を見せて生気を吸い取るサキュバスってのもいるよね。いや、これは女性の悪魔か。
オレとしては、まぁモテるモテないは置いといて、もう考えてあるんだけど。
『なんだ、希望があるのか』
魔神様が見下ろす。どんな魔物に転生させるか、悩んでいたみたいだ。
『できるだけお主の要望に応じよう。何になりたい?』
予約投稿したつもりができてませんでした…。
もし待っている方がいたら申し訳ないです。
すみません。