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一章 31 雨は明け方に止んで


 真っ赤に煮えたぎる鉄。

 そのなかでオレは、鉄熊の半生を見た。


 オレの素体(からだ)の外側は燃え、今は小さな魔石しか残っていない。

 圧縮して固めていたことが幸いし、鉄熊のなかでもなんとか燃え残った。

 とはいえ、鉄熊の記憶を〈解析〉し終えた今でも、表面からじわじわ燃えてる。

 けどオレにとっては充分な隙だ。


 では、いただきます。


〈吸収〉を発動させる。

 オレを逃がさないためか、オレの周りの鉄はぐるぐると渦巻くように流れている。

 流れは魔力によって生み出されているから、まずその魔力を食べた。

 渦巻く流れが瞬時に止まる。

〈解析〉した感情から、鉄熊の動揺が伝わってきた。


 関係ない。次。


 そのまま〈吸収〉を続け、オレを燃やそうとする魔力を食べる。

 素体(からだ)が燃えて消えるより早く〈吸収〉するうちに、表面が燃えなくなってきた。

 オレの周りから魔力がなくなり、ただの高温の鉄になったようだ。

 鉄熊の心に焦りと困惑が浮かぶ。


 次。


 まだ全部を食べきったわけじゃない。

 魔力を抜いた鉄熊の体(ただのてつ)は〈魔力分解〉して〈吸収〉。

 同時に触手を何本も伸ばし、先端が燃えるあたりで〈吸収〉を発動。

 魔力がなくなったらまた伸ばしていく。

 鉄熊から、内側から身体が崩壊する混乱、恐怖を感じる。


……お前が今まで殺してきた命だって、きっと怖かっただろうよ。

 お前にとっちゃ、楽しい楽しいお遊びだったみたいだけどな。


 鉄熊のなかから、オレは理不尽に奪われていく命のすべてを見た。

 鉄熊の行動も思考も感情も、すべて見て、すべて感じた。

 別にオレだって、食べるために--生きていくために他の命を奪うことはある。

「殺すな」なんて偉そうに説教できる立場にはいない。


 それでも、こいつの欺瞞に無性に苛立ってしょうがない。

 鉄熊(おのれ)に恐怖心がないなんて嘘だ。

 右目を失う前から、こいつは自分より強い相手とは戦わなかった。

 どんな相手も恐れない? 力でねじ伏せる?

 バカ言うな。魔樹海の中央、自分以上の強者がいる場所に、決して近寄ろうとはしなかったくせに。


 狩りの仕方もだ。

 格下相手に気配を隠し、不意打ちで襲った。

 相手が弱いから隠れるしかない、弱い相手をなぶるためだ、なんて言い訳してたけどさ。

 どんな相手でも、正面から自分の力を誇示する戦い方はついぞしなかった。


 弱い相手をいたぶるだけの卑怯者。

 まるで王様にでもなったかのような尊大な自尊心とは裏腹に、同格以上の敵とは戦わず、たくみに縄張りを避け続けていた。

 己を負け知らずの強者だと偽る臆病者め。


 あの日。

 鉄熊の右目を焼いたあの親狐は、きっとニビの母親だ。

 ニビとよく似た姿、生き残った子どもたち。

 初めて鉄熊と遭遇したときにニビから感じた、鉄熊への恐怖と敵意。

 予想は当たっているはずだ。

 こいつはニビにとっての仇、親を殺した憎い敵だ。


……でも、オレには関係ない。

 オレはニビのことを大切な友だちだと思ってるけど、そのことと鉄熊がニビの仇であることは、関係ない。

 ニビがオレに仇討ちを頼んだならともかく、ニビはオレに何も伝えてはこなかった。


 鉄熊が遊びで理不尽に命を弄んだことも、とにかくムカつくし胸くそ悪いし不愉快だし、あらん限りの罵声を浴びせたいくらいだけど、この怒りは別に正義感からのものではなくて、オレが嫌な気分になったためのものだ。

 鉄熊が弱いものを殺したのは過去のこと。

 たまたまこの場所に運ばれただけのオレには、一切関わりがない。


 他の命を奪うこと、奪ったことに関していえば、あとで食べるか食べないかの違いはあれど、オレだって同じことをしている。

 同じことをしているのに、「自分は違う。これは正義の行いだから、気にくわない相手を怒りに任せてぶん殴ってもいい」ってのは、それこそ鉄熊と同じ、傍若無人な振る舞いだ。

 いつか手痛いしっぺ返しがくる。


 だからオレは、鉄熊(おまえ)をただ食べることにしたよ。

 何もかもすべて、余すことなく。

 お前に関係ないオレが、ただ生きていくために。


 さらに触手を増やして〈魔力分解〉と〈吸収〉を重ねる。

 鉄熊の体が急速に縮み始めた。

 鉄熊の恐怖が強まっていく。


 突然、オレの体が流されだした。

〈吸収〉の範囲外の魔力で無理やり流れを作って、オレを体の外に追い出そうとしている。

 まずい。触手で踏ん張ろうにも、引っかけられるところがない。

 溶けた鉄のなかで泳いでも、流れに逆らえない。

 鉄熊も必死だ。生きるために。


 鉄熊の感情が〈解析〉できなくなった。

 周りの鉄ごと地面に叩きつけられる。

 どうやら体の端まで流れたオレを、切り離したようだ。

 すぐさま鉄から這い出て、鉄熊を探す。


――……オォォォ……ゴポッ……ォォ……


 悲鳴を上げる鉄熊の背が見えた。

 だいぶ小さくなっている。


 オレが魔力を食べたせいで形も崩れ、残っているのは頭だけ。

 残りは進化したてのときみたいに、どろどろの鉄がゆっくり対流している。

 下半身は雨に打たれ、ところどころ黒い塊が浮かんでいた。

 冷えて固まってきてるようだ。

 いける、もう少しで食べきれる。


 壁型触手を柔らかく広げ、鉄熊の上から被せた。

 包んで一気に食べてやる。

 でも鉄熊に触れたとたん、燃えて大穴があいてしまった。

 そこから鉄熊が逃げる。


 体内にいたときは周りが全部鉄熊で、なおかつオレの体が圧縮した魔石だったから触れ続けることができた。

 おかげで〈魔力分解〉と〈吸収〉が使えたけど、この二つの〈アビリティ〉は触れたものにしか効果が出ない。

 かといってゼリー状の素体で触っても、今みたいに燃やされる。

 またなんとかして体内に潜り込めれば……いや、鉄熊も警戒しているはずだ。

 そう簡単にはいかない。


 攻めあぐねている間も、鉄熊はどんどん逃げて行く。

 ゼリウカーズ魔樹海は魔力の欠片である魔素が豊富だ。

 時間が経てば経つほど、周囲の魔素を取り込んで、鉄熊の身体が復活する可能性がある。

 オレを食べたのだって、魔力の回復を見込んでのことだろう。


 このまま逃げ続けられると厄介だ。

 なんとかしなければ、と魔力を集めた触手を出したその時、


「ワゥッ!」


 鉄熊の眼前にニビが飛び出した。

 毛を逆立たせ、威嚇の唸り声を上げる。


――ウォォォ……


 ニビの声に反応し、鉄熊が吠える。

 あの咆哮の〈アビリティ〉は発動せず、突進とも言えない速度でニビに突っ込んでいった。


 対するニビの緑の目が、力強く赤々と光る。

 ニビの前に火花が散り始めた。

 たくさんの火花が幾度となく弾け、徐々に集まって大きくなっていく。

 鉄熊の動きが止まった。

 こんな体になっても、やっぱり火が怖いのか。


――ウォォ……ゴポッ……ゴボボッ……


 鉄熊の体がビクリと震える。

 まるでいやいやをするように頭を振り、反対に後退り始めた。


……あぁ、そうか。


 ニビの火花が炎の塊になり、鉄熊は気づいた。

 この炎は、右目を焼いたあの炎だと。


「ウワゥッ」


 ニビの炎が(くう)を駆け、鉄熊の一つ目に肉薄する。

 鉄熊が大きく仰け反って逃げようとするも、炎は額の魔石(めだま)に食らいつき、体から弾き飛ばした。


――ギャアアアアア!!


 断末魔の叫びと共に、鉄熊の体が崩れ、どろどろと形をなくしていく。

 降りしきる雨は鉄熊の熱を冷まし、体を黒い塊に変える。

 触っても、もう燃やされない。

 本体を広げて包み、〈アビリティ〉を発動させた。

〈解析〉しても、もう何も感じ取れない。


 鉄熊の体を食べ終えたあとには、焦げた地面が残された。

 冒険者アトシンの言っていたことが本当なら、この焦げあともすぐ植物に覆われてわからなくなるだろう。


 これでようやく、ようやく終わった。

 ごちそうさまでし……た?

 いや待てよ? まだあれが残ってる。


 たしかこっちの方に、と辺りを見回すと、ニビが茂みから顔を出した。

 鉄熊の魔石を咥えている。


 まん丸で灰色と赤のまだら模様。

 ちょっとだけ本物の目ん玉に見えて気色が悪い。

 そんなものはね、オレに任せて渡してちょうだいな、と触手を伸ばす。


 ごくんっと飲み込んだ。

 ニビが。鉄熊の目ん玉を。


 ちょちょちょちょ、えっ?

 ちょっ、飲んじゃって大丈夫なの!?


 慌ててニビを〈解析〉するも、特に異常は見当たらない。

 あんなに恨み辛みこもってそうな逸品だったのに。


 ま、まあね。見た目が呪いの目玉っぽいだけで、魔石は魔石だからね。

 普段から食べてるものではあるし、まぁ大丈夫かな、うん。

 びっくりしたけど。


「ぷしゅんっ」とニビがくしゃみをして、頭から尻尾の先まで震わせて水気を飛ばした。

 そういえばずぶ濡れだ。

 ふわふわもふもふの毛皮が、しっとりぺしゃんこになってる。

 少し震えて寒そうだ。

 オレに体温がないから気づけなかった。


『巣穴』


 ニビが帰ろうと促してくる。

 四つの触手を出して、その隣に並んだ。

 こうしていっしょに、生きて帰ることができる。


 よかった。

 嬉しい。

 嬉しいな。

 歌って踊って、思いきり笑いたい!


 ヒャッホー!!




 雨は夜になっても降り続け、明け方にようやく晴れた。

 洗い立ての空に新しい太陽が昇る。


 清々しい朝がきた。



〈お知らせ〉


 これにて「一章 一難去って難ばかり」は終わりです。

 ここまでのお付き合い、ありがとうございました。

 楽しんで頂けたら幸いでございます。


 さて、次の更新なのですが。

 書き溜めていた話が尽きました。

 そこでしばらくお休みしまして、充分に溜まったら再開したいと考えております。


 なお、再開時期は未定です。

 戻ってこられない可能性もあります。

 下手するとアカウントを消すかもしれません。


 ご縁があればまたお会いしましょう。

 さようなら。

 どうぞ、お元気で。




〈与太話〉


 あのですね。

 序章、一章合わせて約9万文字を書ききるのにですね。

 おおよそ一年かかっておりまして。

 

 それでもまだあのあれですよ。

 設定やら話の大筋がバチッと決まってれば、

 あとは時間がかかろうととりあえず書けばいいだけなんですが。


 まったく決まってないんですよねー!!!


 ざっくりとした設定! ふわっとした大筋!

 書いているうちに増えるエピソード!

 やがて陥る矛盾! 破綻!

 

 大! 爆! 発!

 

 いや爆発はしないんですけど。

 投稿を始めたのも無計画ならば作品の行く末も無計画。

 そんな粗ばかりの拙い作品であるにもかかわらず、

 更新のたびに読んでもらえて。

 しかもブックマークもしてもらえて。

 さらには評価までいただけて。

 

 何度でも言っちゃいますけど、めちゃくちゃ嬉しかったし、とてもありがたかったです。

 本当に誰も読まないと思っていましたから。

 これも高名な「小説家になろう」と人気ジャンルと人気タグのおかげですね。

 予想以上に読んでいただけて正直ビビってます。

 ひぇ(怯)

 

 そんなわけで。

 出せる分も出しきってキリもいいことですし、

 いったん投稿をやめて、設定やらなんやらを練り直そうと思います。

 遅筆なので書き溜めもしないといけませんしね。

 

 はたしてできるだろうか(不安)

 できなかったらなかったことにしようと後ろ向きに考えておりますので、

 あまり期待せずにお待ちいただければ……というか、

 お待たせするのも申し訳ないので忘れていただけると……と……いうか……。

 

 えー……。

 

 ご縁があったらまたお会いしましょう(2回目)

 

 いざ、さらば。

 お達者で。

 


 とっぴんぱらりのぷう


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