一章 23 擬態
近くにある罠を食べながら巣穴に戻った時には、日が傾いてもうすぐ夕方になりそうだった。
狐ちゃんはまだいない。今のうちに試してみたいことがある。
ずばり、人間への擬態である。
でも別にあの三兄弟の誰かになるわけじゃあない。
魔神様からもらった〈変幻自在〉の能力には、「再現」と「擬態」がある。
わかりやすいようにオレが名付けた。
というか、オレがわかりやすいように、かな。
「再現」は〈解析〉したものに完全完璧に変化する能力。
「擬態」はパッと見てそれっぽく見えるように変化する能力だ。
例えばダグズ個人に変化するなら「再現」を使うことになる。
顔の形や体格、内臓や血液、骨の他、声や匂いなんかも全てそっくりそのまま変化できる。
つるっパゲなとこもね。
ただしその体積にみあった魔力を使うので、今よりもっと多くの魔力がないと死ぬ可能性が出てくる。
……体を全部キチンと「再現」できたら死なずにすむかもしれないけど、中途半端に変化して魔力切れになったら、そのままこう、例えば下半身なしの状態とかで死にそうだし、体ができてから魔力切れ起こして〈変幻自在〉や〈吸収〉を使えなくなったら、もうダグズのそっくりさんとして生きるしかなくなるし、そうなったらオレは心が死ぬかもしれない。
新連載「転生したらドジってスキルなしの強面オッサンになったんだけどなんで?」とか。
なんて心が沈む物語。
オレが読者ならたぶん読まない。
いやでも作者によっては読む可能性も……しかし新作が必ずしも好みに合うとは限らない……ひとまず買って積読べきか先に評判を伺うべきか……。
って何の話だ。
〈変幻自在〉の話だ。
〈解析〉したものに百パーセント完全に変化するのが「再現」なら、「擬態」は表面を真似するだけである。
その上、ある程度形や色を変えられる。
これは木の枝に「擬態」してわかったことだ。
体の表面を木の皮に変化させて、それっぽく体を伸ばした。
魔力の節約のため、中身はプルプルのままだった。
でも見た目は完璧に木の枝で、よーく見たってわからない。はずだ。
だから三兄弟から得た人間の体の情報を元に目に見える範囲を人間っぽく変化させれば、魔力の節約をしつつ人間と会っても正体がバレないって寸法だ。
これでハーレム計画が一歩前進する。
待っててマイハニー達、美形になったオレが迎えに行くぜ、なんてね。フフフ。
まずは圧縮して塊になっていた魔力をほぐして、ざっくりと人間の形にする。
念のためにある程度の魔力は魔石として残しておきたいから、年齢的にだいたい五歳ほどの大きさになった。
今はこれが限界かな。
魔石は頭の中心に据えた。
次に肌に色を付けていく。
とりあえず服は着るわけだし、頭から鎖骨、肩の辺りまでと、手先から肘までと、足先から膝の辺りまでを着色する。
残りは半透明なプルプル素体のままだ。
色を変えるだけでも魔力を使うからね。
なるべく節約しなければ。
続いて顔の調整。
子供らしさを意識しつつ、のっぺらぼうに顔のパーツを作っていく。
いやー、キャラメイク楽しいなー。
しかし同時にとあるゲームで一時間かけてイケメンキャラ作ったら、ゲーム中の顔がなぜだか不細工になった悪夢が甦るぜ。
しばらくそのゲームができなくなるくらいショックだったな。
あれはショックだった。
今回はゲームじゃなくて現実だから、どんなに細かく調整しても崩れないし、リメイクだって制限なく行えちゃう。
素敵。楽しい。
けど困ったことに、目玉を作ったら瞳がうっすらと赤く光ってしまった。
狐ちゃんもあの灰熊も、魔力を使う瞬間に目が赤く光ったけど、オレは常に魔力を使っているせいか光りっぱなしになるみたい。ぴかー。
ダグズの記憶を確認しても、前世の世界よりは色とりどりの瞳があれど、さすがに赤く光る人間はいない。
仕方ないので瞳の上に膜を張って、誤魔化すことにした。
コンタクトレンズみたいなもんだ。
どうしても赤い色が浮かんで膜の色と混ざってしまうので、青と混ぜて紫色の瞳にした。
青を強めに出したので、良い感じの青紫だ。
カッコいい。どっかで見たような色味だけど。
ま、偶然だ、グーゼン。
瞳の問題が片付いたら、次は体毛だ。
とりあえず顔回りだけ生やそう。
毛髪型触手はすでにあるので、髪の毛と眉とまつ毛の代用にした。
これならこっそり触手を使っても、細いからバレにくいはず。
あとあれだ。髪の毛を自由自在に操るのってロマンだしね。
短い髪がバーっと伸びて先が丸まって固くなって敵をガツーンと殴るとか。
敵にグルっと巻き付けて捕まえるとか。
……いや待てよ、目を赤く光らせて髪を伸ばすだけで本気モードっぽく見えてカッコいいかも。
光らせてからの伸ばすで、
『このオレを本気で怒らせるとはな……、覚悟しろよ』
みたいなセリフを呟くの。
うひー! カッコいい!
ま、使った時点で魔物バレしてアウトだけどね。
たぶん総攻撃されるね。逃げる時にしか使えなさそうだ。
いわゆる切り札ってやつだな。
切り札を持つ男。カッコいいぜ。
あとは服を着ておしまい。
三兄弟が着ていた服から汚れを抜きサイズも合わせて、体の表面を覆う。
ついでに防水加工されたフード付きのマントも羽織る。
パッと見、幼い人間の子どもに見える。
毛髪型触手でじっくり全身を確認しても、どう見てもちっちゃい子どもだ。
よしよし。いいねいいね。
外見は整ったので、最後に声を決める。
口の中を細かく変化させ、歯や舌、喉に、声帯も作った。
肺は……いらないかな。呼吸しないし。
ようするに空気で声帯を震わせればいいんだから、風船みたいな、空気を溜める穴を空けとこう。
ここを動かして空気を出し入れすれば肺の代わりになるはずだ。
息を吸って。
溜めて。
吐いて。
「アー」
声が出た。
「あー」
また出た。
少し高すぎるから低くして、低すぎるから高くして、程よく心地よい声になるまで調整を繰り返す。
「ハロー、ワールド」
「一富士二鷹三茄子」
「抜け忍戦隊! ハガクレン!!」
「闇夜を照らす情熱の炎、ハガクレレッド!!」
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」
「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の――……――長久命の長助さん!」
思いつく言葉をどんどん声に出して、なんだか楽しくなってきて、さて次は何を言おうかと考えていた時だ。
ガサガサと茂みが揺れて、長細いイタチのような獲物を咥えた狐ちゃんが帰ってきた。
その目がギョッと見開かれ、狐ちゃんが固まった。
半開きの口から獲物がポトリと落ち、かと思えば全身の毛が逆立つ。
うなり声を上げ始めた。
「き、狐ちゃん?」
「グルル……」
「落ち着いて? ね? ね?」
「ヴーゥゥゥ……」
怖い。
怒られたことはあるけどそれよりメチャクチャ殺気立っててすごく怖い。
なんで。どうして。
思わず伸ばした自分の手を見て気づいた。
オレ、今、狐ちゃんの嫌いな人間じゃん。
……ごめん違うんだ、怖がらせたくてやったんじゃないんだ!
その後は目の前の人間(もどき)がオレであることをわかってもらうため、ひたすら素体になったり木になったり素体になったり狐になったりネズミになったり素体になったりウサギになったり人間もどきになったり草になったり素体になったりした。
なったもなったり大盤振る舞いだ。
最初は警戒心マックスでにらんでた狐ちゃんも、最後にはオレに変身能力があるとわかってくれた。
よかった。誤解(?)はとけた。
二匹の間に友情が戻ったのである。
拍手。
でも巣穴に入れてくれなかった。
入ろうとしたら噛まれた。
なんかこう、「すごくやだ」って感情が伝わってきた。
ごめんて。
さみしい。




