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一章 22 対処方法の確立


 三兄弟の明日はどっちだーも何も、どこに行こうがオレが行き止まりにするけどね。

 魔物ハンターとか何それ危ない。


 なんとか「ダグズの記憶だけを隔離して保存」ができた。

 〈並列思考〉を駆使して生の記憶と感情を客観的な情報として処理、さらに編集してダイジェストにまとめてみた。


 しかしこいつらろくな人生送ってないな。

 殺人は犯してないから一線を越えたわけじゃないみたいだけど、運が良かったのかね。

 ま、おかげで言語の解析も進んだから結果オーライだけど。


 いやー、さっきはオレの知らない他人を殴る快感とか爽快感とかあって、開けたくない扉を開けちゃうところだったというか、もっと言っちゃうと自我をガンガンに揺さぶられて、オレの意識がなくなるような感覚がして危なかったけど、これなら大丈夫そうだ。


 例えるなら映画を見るような感じ?

 どんなに感動した映画でも、その登場人物になってしまう人はいない。

 やるとしても、多少、動きの真似をするくらいだ。


 もしまた記憶をコピーすることがあっても、同じように〈並列思考〉挟んで編集すれば問題はなさそうだ。

 二度とやりたくないけどね。

 二度とね。

 便利だけどね。


 さらっと終わらせるつもりだったのに、思いのほか時間がかかってしまった。

 雨はすでに止んで、雲の切れ間から傾き始めた太陽が顔を出している。


 巣穴に残した触手の先に狐ちゃんはいない。

 いつの間にか外に出たようだ。


 早く戻らなきゃ。やることやってからね。


 罠の位置も把握した。

 次はこの自称魔物ハンターがこの森に来れないように細工する。

 細工っていってもそんな大げさなことをするわけではない。

 街の外に出られないよう、装備品を食べちゃうだけだ。


 理由は簡単。

 ガメナテの街の周辺、特にゼリウカーズ魔樹海のなかは、魔物がたむろする危険地帯だから。

 なんか、通称で魔境って呼ばれてるらしい。

 街を中心に、その周囲にも強力な結界を張って、魔物の侵入を防いでるくらいだ。


 ゼリウカーズ魔樹海は魔石を持つ植物や動物、ようするに魔物の宝庫で、中心地に近いほど質の良い魔樹や魔草、強い魔獣や魔蟲が増える。

 その原因は三百年ほど前に起きた戦争だ。


 ダグズの記憶から得た情報だから抜けが多いんだけど、どうもその戦争のせいでこの辺りに魔素(まそ)溜まりとかいうのができたらしい。

 魔素とは魔力や理力の細かい欠片のようなもので、魔法やらなんやらを使うとわずかに生じてしまう残滓のことだ。


 きれいなお姉さんが通ったあとの残り香みたいなものかな。

「あれ、なんかいいニオイがするぞ!」みたいな。

 違うか。


 で、通常ならばすぐに散って消えるから問題はないんだけど、あまりに大規模な戦争だったせいで大量の魔素が発生、魔素溜まりになった。

 人間にとって厄介なことに、魔素は集まると固まって魔石になる。

 理力からできた魔素も魔石になるらしいんだけど、そこらへんはよくわからないから置いとく。


 ただ固まるだけなら無害なんだけど、困ったことに生物の体の中で固まってしまうことがある。

 魔物化の原因だ。


 ただそれ以外は普通の環境だから、戦争で荒れた土地にまず植物が生え魔物化、虫や獣が集まって魔物化、といった具合に、色んな種類の魔物がどんどこ増えた。

 最初の頃は魔石になる魔素の量も多く、特に植物の魔物はその生命力の高さゆえに短期間でどんどこどんどん増えた。

 めちゃくちゃ広い森、ゼリウカーズ魔樹海の完成だ。


 そんでもって。

 さっきも言ったとおり、大規模戦争から三百年くらい経ってるらしいんだけど、未だにこの樹海は魔素溜まりのままだ。

 魔素が魔石になればその分空気中の魔素が減り、魔素溜まりが解消されそうなもんだけど、そうは問屋がおろさない。


 魔物はその体から魔素を出しているのだ。漏れ出てるって言った方が正確かな。

 人間はこれを「妖気」と呼んでいる。


 魔力操作に優れている魔物なら完全に妖気を抑えられるんだけど、強い魔物ほどそのまんま垂れ流しにしてる。

「俺は強いぞ」「ここは俺のナワバリだぞ」ってアピールになるかららしい。


 だから強い魔物が多いここは、魔素が減らずに相変わらず魔素溜まりになっている。

 魔物だらけの人外魔境ってやつだな。


 そんなわけで、人間は鎧とか剣とかいわゆる装備品をつけて街の外に出る。

 ないと命に関わるからね。危ないね。

 今から容赦なく剥ぎ取るけどね。


 装備品を揃えるのもお金かかるっていうし。

 三人分を用意するのは大変なんじゃないかな。

 雇い主さんがどうするかによるけど。

 こればっかりはやってみないとわかんないや。


 ではさっそく。

 まずはダグズから。

 触手を出して身につけているものを〈解析〉し、終わったものから外してイタダキマスだ。


 鎧から始める。

 三兄弟にとって初めての昇級試練依頼で倒した魔物から作った、思い出深い品だ。

 元は三人をまるっと飲み込めそうな大蛇で、その戦いで危うくギゼが死ぬところだった。


 端から見ると無様な、でも三兄弟にとって最高の激闘を経て手に入れた、冒険者としての誇り。


……いただきます。

 静かに外して全部食べた。


 その下は着古してくたびれたシャツとズボン。

 開いた穴を直した跡がある。

 あまり洗ってないのか汚れも酷いし正直臭い。


 これは〈解析〉だけでいいや。

 無理。食べるの無理。

 下着は触りたくない。

 おっさんのすっ(ぱだか)は見たくない。


 風邪を引かれたら後味悪いし、と誤魔化して次。

 ベルトについてるポーチ。

 ゲームによくあるアイテムボックス機能がついたポーチだ。


 中は二つに仕切られてて、片方は真っ暗。もう片方には魔石が入ってる。

 真っ暗な方がアイテムボックスで、隣の魔石から魔力を供給しながら使うみたいだ。


 魔石がなくなったら魔法が切れて中の物もどこかに消えてしまう仕組みなので、とっとと中身を出していく。

 高級品だと使用者の理力を登録して鍵の代わりにし、登録者以外使用不可にできるけど、これは安物だから誰でも出し入れできる。

 容量も少ない。


 とは言え、魔法のない世界から来たオレから見たらめっちゃ羨ましい逸品だ。

 いいなぁ。欲しいなぁ。

 今となっちゃ持ってても意味ないけど。


 中身は剣と丸い盾と飲み水と縄と罠がいくつかと干し肉が一欠片と魔石ランプと毛布と……、その他もろもろ。

 意外と入ってるな。


 触手を突っ込んで触れたものをどんどん出して、最後は財布だった。

 銅貨と銀貨ばかりでそれほど高額ではない。

 餓死されても後味悪いし、と手を出さないことにした。


 食べるのは装備品と罠だけだ。

 ポーチもまぁ、売ったらお金にはなるけど荷物運べなくなるし、装備品を買い直せるほどの金額にはならないだろうし、見逃してやろうかな。

 武士の情けだ。いや、紳士の情けかな。


 同じようにギゼ、ジーブの荷物も漁る。

 ダグズの武器は剣と盾だったけど、ギゼは弓矢を、ジーブは長い杖を持っていた。


 あとはそれほど荷物に違いはない。

 ジーブの財布にだけ、金貨があったくらいだ。

 三兄弟で一番頭がいいからと、会計係を任されているらしい。

 一枚だけなので財布に戻した。


 こんなもんかな。もしまた見かけたら装備品と罠をいただこう。

 容赦なくね。遠慮なくね。


 しかしまぁなんだね。

 落ち着いて考えてみると、身を守るためとは言え、なんだかずいぶん悪党になったなぁ。

 人様の人生を勝手に覗き見たり、持ち物を食べちゃったり。

 前世だったら考えられない悪事だよ。

 いや、前世でもやってたから今もこんなことやってるのか?

 記憶にない。


 木の上に移動し、触手を三人の頭に向けた。

 今度は気付け薬を噴霧する。


「ごほっ」

「げふっ」

「はっぶしゃんっ」


 と、それぞれ咳き込んだりくしゃみをしたり。

 辺りを見回して、鎧がないことに気づいて、わあわあと慌て出した。


 ポーチに武器もないことがわかると、三人はすぐさま立ち上がり、一目散に駆け出す。

 ここら一帯はゼリウカーズ魔樹海内では外側の、比較的安全な地域ではあるものの、あくまで中心部と比べての話であり、装備品なしの人間には危険だ。

 できればもう来ないで欲しい。


 三人の姿が見えなくなるまで見届けて、巣穴にもどった。


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