一章 19 ある冒険者たち
木の実を探してうろついていると、何やらザクザクという音が聞こえてきた。
なんだろう。ここからじゃ見えない。
触手を伸ばして視界を高くしてみた。
茂みの向こう。何かが動いている。
三つの茶色い塊。
人間だった。
ひとりがしゃがみ、二人がその脇に立っている。
三人とも地面を見ているので、オレには気づいていない。
うーん。
下手に動いて音を立ててしまうより、隠れてやり過ごした方がいいかな。
伸ばした触手をさらに伸ばして、木の枝の上に移動した。
見つからないよう、体を小さく縮め、色を透明にする。
気分は忍者。隠れ身の術なり。
三人はどうやら男で、地面を掘って何かを埋めているようだ。
作業が終わると立ち上がり、ぐーっと体を反らせて腰を伸ばす。
そばに立っていた二人が何か話しかける。
雨音で良くは聞こえないが、親しげに見えた。
いわゆる、冒険者、ってやつかな。
昨日も見たけど、雰囲気が似ている気がする。
違うような気もする。
どっちでもいいか。
とにかく彼らは人間であり、魔物であるオレとは相性が悪い。
下手すると殺されるかもしれないからね。
去るまで観察しつつ、隠れてよう。
三人はオレのいる方に歩いてきた。
〈解析〉中の音を大きくして会話を聞いてみる。
一仕事終えたって感じで、和やかな雰囲気だ。
お揃いの茶色いフード付きのマントは、よく見ると雨を弾いていた。
そのマントをしっかり羽織っているため、下にどんな格好をしているかわからない。
実は裸でしたなんてことは……ないか。ないな。ないない。
言語の解析はすんでないから、会話の内容まではわからない。
わかるのは彼らの名前くらいだ。
オレから見て右から、ジーブ、ギゼ、ダグズ。
ダグズがリーダーっぽいのかな。少しだけ前に出てる。
三人は頭上のオレには全く気づかず、すぐ下を通って行ってしまった。
なんかこう、「おや?」みたいな反応があるかと思ってたから、なんとなく拍子抜けだ。
見つからなかったからいいんだけど。
イインダケド。
よし。では三人が何をしてたか、確認に行ってみよう。
そっと地面に降りて小さいまま移動する。
体が小さければ出す音も小さい。
雨の音に紛れてさらに気づかれない。
完璧な仕事っぷり。忍者目指そうかな。ニンニン。
三人がいたあたりについた。
地面に何かを埋めたのはわかっている。
触手を出して落ち葉の下を探っていく。
そんなに深くて大きい穴じゃなかったから、すぐ見つかるはず……。
あった。固いものが触手に当たった。
濡れた落ち葉をひっくり返し、確認する。
それは木でできた何かだった。穴を塞ぐフタのようだが、ちょっと違う。
先の尖った薄い木の板が弁のように円状に並んでいて、似た形でたとえるなら、台所の排水口のフタみたいだ。
あれはゴムでできていたから柔らかいが、これは木製だから固い。
もし気づかずに上に乗ってしまったら、足がはまって杭が刺さり、抜けなくなってしまうだろう。
このフタごと抜け出さないように、しっかり固定もされていた。
と、いうことは。
この木製の何かは、動物を捕まえるための罠だってことだ。
何を捕まえるかまではわからないが、穴の大きさからいって、少なくとも熊のような大物狙いではない。
狐や狼、あるいは猪くらいの大きさを狙っている……気がする。
この森にどんな動物がいるかわからないから、確定はできない。
でもさー。
てことはさー。
狐ちゃん危ないってことだよねー。
巣穴から近所といえば近所の位置にあるし。
踏み固められた地面の感じや植物の生え方を見るに、どうもここ、獣道っぽいし。
狐ちゃんも通るかもしれない。
罠に触手を突っ込みながら考える。
あっさり踏み抜けるが、抜こうと上に引っ張ると、やはりしっかり杭が刺さって外れなくなった。
オレに痛覚はないから痛くはないが、普通の動物が無理やり抜いたら、足がズタズタに引き裂かれるだろう。
ーーズタズタ。
ふと、狐ちゃんを初めて見たときのことを思い出した。
右の後ろ足が千切れそうだった。
運良く助けられたが、あの足は罠にかかったせいで傷を負ったのかもしれない。
首にも縄がくくってあったし、人間に捕まったのは確かだ。
さっきの三人組がそうだろうか。
いや、ここから狐ちゃんを見つけた場所は離れているし、違うだろう。
違わないかな。
どっちでもいいか。
なんにしろ、オレがやるべきは罠の回収だ。
そして、できればこのあたりに人間が来なくなるようにすること。
いくら罠を取り除いたってまた設置されたら元の木阿弥だ。
設置する人間がいなければ罠回収だってしなくていいんだし。
でもどこに罠があるかわからない。
再現できる五感のうち、見つけられる可能性があるのは嗅覚だ。
ほら、警察犬が匂いを追跡して犯人逮捕に貢献するって話があるわけだし。
だがしかしだ。森には色んな匂いがする。
植物の匂い。動物の匂い。
水の匂い。土の匂い。
生きてる匂い。死んだ匂いーー
罠の匂いがわからない。
いくら魔神様からもらった〈アビリティ〉でも、わからないものは探せない。
金属製の罠ならまだ良かったんだけど、獲物に悟られるのを避けてか、この罠は木製だ。
それに雨も降ってるせいで、あの三人の匂いもうまく辿れそうにない。
もうだいぶ薄くなってる。
どうしよう。打てる手が思い付かない。
オレの頭で考えられることはあとひとつ。
直接、聞きに行ってみる。




