一章 11 小さくなーれ
体が入らないなら仕方ない。
巣穴の入り口横で狐ちゃんを待った。
夜の森は暗い。でも光源がないわけではない。
巣穴の上の大木は、自身の枝に他の植物が絡まるのをきらい、近づくものを寄せ付けない。
だから大木の枝の周りは隙間が空いていて、ちょうど円を描くように月明かりが降り注いでいる。
三つの月の光は強く、大木の周りだけはなかなか明るかった。
あとは妖精さんでも飛んでいれば幻想的でステキな光景なんだけど、いかんせん肉食性植物が多いからね、ここ。
のんきに飛んでたら「ひょいっ」からの「パクッ」で終了する。多くは語りませんとも。はい。
そんなことを考えながら一晩中待ってたけど、狐ちゃんは戻ってこなかった。
次の日の朝に何事もなく戻ってきたけどね。
朝露に体を濡らしながら、すました顔で足取りも軽く帰ってきた。
こっちは心配で夜も眠れなかったのに!
いやまぁ、睡眠は必要ない体だけど。心配したのはホントだよ。
ただ、オレの姿を見てぎょっとして立ちすくんで、狼狽えて辺りをキョロキョロ見回したのにはちょっと笑っちゃったけど。
元々、狐ちゃんが咥えられるくらいだったオレの小さな体が、今じゃ狐ちゃんの二倍以上の大きさになっているからね。
頑張って草刈りしたかいがあるってもんよ。ふふん。
なんて調子に乗って、見て見てーすごいでしょーと近づいたら、めっちゃ威嚇された。
「ワアァ!」って吠えられた。
犬の鳴き声に似てるけど、最後に「ん」って口を閉じずに、開けたまま吠えてる感じ。
まさかそんな、威嚇されると思わなかったから、ちょっとショック。
「オレだよー信じてー」と念じて、ついでに肉食性植物を刈って食べたおかげで体が大きくなったことも伝えて、なんとか信じてもらえた。
どうやら自分より大きな塊(=オレ)が向かってきて、驚いて反射的に吠えちゃったみたい。
そりゃ怖いよね。ごめん。
でも草刈りに関しては、半信半疑のようだった。
確かにこの辺りの肉食性植物はなくなってるし、食べると大きくなるオレの体のことは見ていたからわかっている。
でもオレみたいな牙も爪もない、つるんとした変な生き物が本当に戦えるのか、狐ちゃんとしては疑わしいみたい。
結果が出ているからまぁ信じてやるか、くらいなもんだ。悔しい。
次は目の前で戦ってやる。触手乱舞をトクと見よ!
……って、振り回してただけだけどね。
それから、狐ちゃんは何をしていたのか訊いてみた。
断片的に伝わってくる感情や、言葉にならない情報を繋げると、昨日は狩りをしながら、狐ちゃんが元々住んでいた巣穴の様子を見に行ったそうだ。
で、思ったより巣穴が遠い上に、狩りにも時間を取られてしまい、辺りが暗くなって戻るに戻れなくなったらしい。
下手に動いても何に襲われるかわからないから、元の巣で一晩明かしたと。賢明な判断だと思う。
それでさ、狐ちゃんも置いてきたオレのことが心配だったんだって。
お互いに心配しあってたとは、オレ達、出会ったばっかなのに相思相愛じゃん。なんて。ふふふ。嬉しい。
ひとりだったから余計に嬉しい。うれしーい!
感情の迸るままに抱きつこうとしたら華麗に避けられた。
そうだ、今のこの大きな体で抱きつくのは危ない。下手すると窒息させてしまう。
小さくなりましょ、そうしましょ。
実はすでに考えがある。動物も植物も、魔物なら必ず持っていたアレを参考にするのだ。
そう、魔石だ。純粋な魔力の塊。色も形も様々あるが、その説明はあとだ。
重要なのは、魔石とは魔力を濃縮して固めた結晶である、ということのみ。
つまり、魔力で構成されたオレの体なら、圧縮して固めちゃえば小さな体になれるって寸法だ。
早速やってみよう。
〈変幻自在〉を発動させ、体の中心から圧縮させていく。
ギュッと。ンギュッと。ンギュギューッと。
おむすびを! 力一杯握る!! イメージで!!!
はいっ、ンギュゥゥッッッ!!!!
半透明な素体の真ん中に白い結晶が生まれ、それに比例して体が小さく縮んでいく。
やがて狐ちゃんが咥えられる程の大きさになった。
できた魔石は、そうだな、小指の爪くらいの大きさかな。
真ん丸で真珠のような乳白色をしている。
ただ、このままだと外から丸見えでなんだか恥ずかしい。
魔物にとって魔石は力の源であり、弱点でもあるから、隠す方が無難だろう。
全体的に半透明な体の、中心部分から白く変える。外側は半透明なままにした。
グラデーションでカッコいいだろう。ふふふ。
外見を整えるのも紳士の勤めだからね。
「水まんじゅうが何言ってんだ」という内なるツッコミは黙殺した。
さあ、これで狐ちゃんとイチャイチャできるぜ。やったぜ。
魔力に余裕ができたから、五感のうち視覚、聴覚に加え、嗅覚、触覚の二つも再現する。
触覚があれば、狐ちゃんのもふもふをモフモフし放題だ。
ふへへ。ふへへへ。ふへへへへ。
レッツモフモフ!
……と思ったら、狐ちゃんは耳と尾をピンと立て、オレの後方をじっと見ていた。
忙しなく耳を動かして警戒している。
オレも振り返った。何かいるのだろうか。
視界が低いせいで遠くまで見通せないので、聴覚を少し鋭くしてみる。
まだ遠いが、オレ達にとってまずい音が聞こえてきた。
いくつかの足音と、話し声だ。




