一章 09 食物連鎖
ひとりで暗い穴に籠るのもつまらない。
暗い中にいると考えも暗くなるしね。
穴の外で狐ちゃんを待つことにした。
時折、風が吹いて梢を揺らす。
リスのような小動物が枝々を渡り、地味な色の鳥が鳴きながら飛んでいく。
のどかな光景。時間がゆったり過ぎていくが、見過ごせない違和感に気づいた。
この森、なんか変。
オレのいた世界とは異なる世界だから気にしてなかったけど、こうしてよくよく見ていると、それにしたっておかしいと思うことがたくさんある。
まず木の形がおかしい。
基本的にねじれよじれたものが多く、まっすぐ伸びた形が少ない。
たとえ幹がまっすぐでも、細かく何度も曲がり、まるでイナズマのような形の木もあれば、Uの字を逆さにしたような木もある。
木漏れ日、なんて言葉があるが、この森では漏れた光は少ない。
わさわさと生い茂る葉もさることながら、枝先が絡み合い、まるで屋根のようになっている箇所がいくつもある。
そこにさらに太い蔓が巻き付いて、葉の塊になっているような木もある。お化けみたいだ。
そんな状態だから昼間でも全体的に薄暗い。
暗いということは日光が当たらないというわけで、背の低い木や下草は普通、生えない。
生えても光合成できないと成長できないから、枯れやすい。
けれどもこの森では、わっさわっさと生えてる。わずかでも日の当たるところに、何種類も固まって。
樹木ほどおかしな草はないけど。
あ、いやあるわ。
今、赤ネズミが密集した草の間から出てきたけど、ぺろんと伸びた葉に絡みとられて、細かい棘がびっしり生えた袋状の部分に食べられた。
食虫植物ならぬ、食チュー植物?
ネズミだけに。なんちゃってー。
ってなにアレーー!!
たべ、え、食べるの? 食べちゃうの!?
動揺して体がプルプル震える。
赤ネズミを食べた袋は、暴れる赤ネズミのせいか揺れていた。
袋からくぐもった「チューチュー」という鳴き声が聞こえてくるが、次第に小さくなり、袋の揺れも収まってきた、その時。
袋が燃えた。
袋を包む炎に、食チュー植物が体をくねらせ暴れる。右へ左へ、火を消すように袋を振り回す。
だが、火は一向に衰えない。
ぶんぶん振り回すうちに、袋の口が弛んで赤ネズミが飛び出してきた。
空中で縦に二回転し、お尻から着地。四つの小さな足が地面に着くと、ふらつきながら一目散に駆け出した。
赤ネズミが袋からいなくなると、あの燃え盛る炎が嘘のように消えた。
袋の表面は所々焦げあとが残り、全体的に萎れている。
食チュー植物は弱々しく震え、密集した草の中に引っ込んでいった。
あとには、しんと静まり返った森が残された。
……なんと、言いましょう……か、ねぇ。
「オラとんでもねぇとこさ来ちまっただ」感がすごい。
わかって欲しいこの気持ち。
誰かと喋りたい。共有したい。
狐ちゃんが着いてくるなと言った気持ちがよくわかった。
そこここに生えている植物すら警戒すべきこの森は、オレみたいな転生して数日の、いわば赤ちゃんみたいな存在には危険極まりない。
「うわ~、きれいなお花~」と近づいて、まるっと食べられる最期も充分あり得る。
よく無事だったな、オレ。ホントマジで。
〈解析〉しながら移動してたのに、なに見てたんだ。
「異世界」とか「転生」とか、夢みたいな話に浮かれすぎてたんじゃないか?
考えてみると、狐ちゃんと出会えたのは幸運だった。一人きりならいつ死んでもおかしくない。
天の采配ってやつだな。魔神様ありがと……う?
そもそもここに送り出したの魔神様なんだから、感謝するのはおかしい気がする。
ま、いいや。
とにかくこの森は危険ってことがわかった。よくわかった。
これからは「異世界だし」でスルーしないで、怪しいと思ったらちゃんとよく見よう。
観察大事。覚えた。
そして、今すぐにやるべき二つの行動がある。
まずは巣穴の周辺を〈解析〉すること。
次に周辺に生えている食チュー植物、及びそれに近い植物を根こそぎ食べること。
森全体は無理だけど、せめてオレと狐ちゃんの愛の巣周りは安全にしたい。
夜、寝ている間に蔓が伸びてきて、気がついたら消化液のなか、なんて事態はごめんだ。
いやまぁ、オレに睡眠は必要ないから、そうなる前に対処できるけどさ。
そんなギリギリで行動するよりは、今のうちにやっつけておきたい。
暇だし。
一人でも狩りができるとわかったら、お留守番せずにすむかもしれない。
魔力もだいぶ回復したし、オレの本気、見せてやる!
見せる相手はいないけど。さみしい。




