邂逅 1
配属の日が来た。俺は住み慣れた屋敷と両親に別れを告げ、駅へと向かった。そして、駅で新聞と弁当を買って、ロンドル行きの一番列車に飛び乗った。
新聞は色々なニュースを報じていた。トップはエスターライヒ=マジャリア帝国と統合スラヴ連邦の摩擦だ。世界史やら民族学に詳しくない(というか、それを勉強する気がない)俺には関係ない。知ったこっちゃない。あらゆる勉強は大嫌いだけれども、新聞は話が別だ。新聞を読んでいると、出来の良い小説を読んでる気分になってくる。不思議。
第13騎兵大隊の基地はロンドルに程近い場所だった。大隊総司令の部屋に、ノックをして入った。礼儀作法は完璧だ。
「入れ。」
おっさんの声だった。いや大隊を指揮するくらいだから少佐くらいのおっさんじゃないとおかしいんだけどね。入れと言われたので入ったけれども、開けたら驚いた。誰もいないのさ。いるのはいい感じに肥えていた黒猫一匹だけ。俺はなんだか妙に思った。俺は部屋を間違えたんだろうか。いや、それは違う。ドアプレートの文字を間違えるはずがない。そんな風に試行錯誤していると、また例のおっさんの声がした。
「ここだ。ここだ。」
足下から聞こえる。だが足下にいるのはまた例の黒猫だった。俺は想像力が豊かなほうじゃないから、ずっと部屋中を見回していた。そしてまた足下から
「だあー!ここだって言っているだろうが、この間抜けめ。」
バカにされるのは好きじゃなかったから足下を見た。
「おっと、その顔を見ると、やっと気付いたようだな。」
そう、お察しの通りだ。その猫は、喋っていた。
「大隊……司令官…殿?」
俺はそうとしか言えなかった。彼は毛繕いしながらこう言った。
「自己紹介が遅れたね。私はラリー・キッチナー少佐だ。君は…ああ、すまない。その紙を見せてくれないか?」
俺はそいつに辞令を差し出した。
「ふむ……よくこんな成績でサンダーハルストを卒業できたな。」
どうやら士官学校時代の成績まで書かれているらしい。
「ともかく、ようこそ、第13騎兵大隊へ。君も少し挨拶を述べてもらうから、その心構えでいてくれたまえ。」
そう言って、彼はキャットドアを通じて、出ていった。
なんなのだ。この世界は。と思ったね。