商都到着
商都に着いたローゲンとセシール一行は、早速門を守る兵士へ捕縛した盗賊を引き渡した。
拘束された多くの盗賊が括りつけられているシキを見た兵士は少々慌てた様子で他の当直兵を呼び、何やら訝しい目でセシールを見ていた。まぁ、年端も行かぬ少女が大蛇を引き連れ「盗賊を捕縛した」と言っても信用されるとは思えない。
呼ばれた兵士が盗賊の人数を数えたり、シキが暴れたりしないか監視をしている間、セシールとローゲンは最初に接触した兵士からの質問に答えていた。
「これだけの人数を嬢ちゃん一人で?」
「はい、この子の助けもありましたから、私自身は大した事はしていませんが」
「確かにこれだけの使い魔なら数の差などどうとでもなるだろうな……」
「僕は助けられた身でしかないが、彼女らの手際は見事なものだったよ」
「うーむ、まぁローゲン。君が言うならそうなんだろう。それで報奨金の方だが、何分今日はもう遅い。細かい算出は明日でいいだろうか。今日はこいつらを牢に繋いで終わりになる」
そう、大した事はしていない。囮として突貫しただけの事だ。結果として約2/3を戦闘不能にしただけで。日暮れであまり見えていなかったとはいえ、ローゲンはセシールのやった事を大体把握しているだろうにそこを黙っていてくれているのは、単純に恩人であるセシールが危険人物扱いにならないよう案じての事だろう。
現にローゲンのフォローもセシールの他の使い魔には触れずにセシールが詐称していない事を証言した物である。
ローゲンの証言を聞いた兵士はそれで納得した様子で、報奨金の話へと移った。やはりローゲンの人の良さは兵士も周知の事であるようだ。
と、その前に。
「私はそれで構いませんが、牢に繋ぐ前に拘束を少し解いてもいいですか?」
「? 言っている意味がよくわからないが。あいつらに逃げられて困るのは君もだろうに」
「いえ、単に長時間あの縛り方のままだと死んでしまうので。ただ、死なない程度に和らげるだけです」
「やけに窮屈な拘束だとは思ったが……死ぬのか、あれで?」
「はい」
「…………」
「本当だよ、あのままだと痙攣や肉離れを起こして死に至るだろうね」
「それは本当なのか?」といった目でローゲンを見やる兵士に、事前にコウノトリで死ぬメカニズムを大雑把に伝えてあるローゲンがすかさずフォロー。やはり大人による説明というのは子供より圧倒的に説得力を持つものなのだ。
「なるほど、そういう事なら仕方がない。それで何か必要なものはあるか?」
「縛り直す為の縄だけいただけますか?」
「……わかった」
そうして兵士から縄を受け取ったセシールは拘束された盗賊の元へと向かった。
ローゲン曰く、編まれると剣も通さないらしいツムギの糸で盗賊を拘束したままだと後々困る事が起きるかもしれないので、牢に入れられている間は普通の物にしてあげようという保身と糸の回収も兼ねての事である。
「よいしょっと」
「……ハーッ……ハーッ……」
まずは一人目。魔力拳の応用で手刀に魔力を纏わせれば刃代わりにならないかという実験も兼ね、手刀で繋いだ手足の糸を切ってやる。すると、盗賊はそのままピクピクと必死で息を喘いでいた。魔力刃の実験は成功。そして一応間に合ったようだ。
「はい、このままだと不十分なので死なない程度に縛り直しますね」
「頼む……こ、殺さないでくれ……」
「失礼ですねぇ、殺したりなんかしませんよ」
この世界で最初の金蔓だ。死んでもらっては困る。
両手を後ろ手に縛って、ついでに親指同士も拘束。衰弱しているのもあるし、移送の手間も考えるとこの程度でいいだろうか。
「とりあえずはこんな縛り方でいいですか? 大分弱ってるみたいですし」
「ん……? ああ、これなら十分だろう。……この様子だとあのままなら本当に死ぬものなのだな」
「そういう縛り方をしましたからね」
監視役の兵士に確認してもらいながら、盗賊の拘束を捌いていく。
開幕に退場したリーダーと一撃で昏倒した副リーダーはなぜ自分が拘束されているのかわからないといった具合で混乱が勝っており大人しいものだったが、セシール一人に一方的な蹂躙をされた面々はやたらセシールを怖がっていた。実に失礼な話である。
「ああ! 顔に! 顔に!」
「はい、縛り直しますねー」
「……君は何をしたんだね、本当」
「大蛇が顔に突っ込んで来たらああなるんじゃないですか?」
「なるほど、俺でもそんな目に遭って目が覚めたのなら正気でいられる自信がないよ」
どうやらスズ達が襲った三人に当たったようだ。本当はスズが顔に覆い被さった結果なのだが、別に言う必要もないので適当に誤魔化しておく。
あの様子だと何を言っても錯乱していると判断されるだろうし、ただ、セシールと使い魔が盗賊15人を捕縛したという事実とその報奨金が手に入ればそれで良いのである。