現状把握2
「あー、そんなに怖がらないで、ね?」
「「――――!!!!」」
セシールは半ばパニックになって草陰に隠れてしまったカマキリと蜂を宥めていた。
そのセシールの後ろには何かが燃え尽きた焦げ跡。
「うーん、火を怖がるのは動物だけの話じゃなかったかぁ」
セシールは猪の生首を魔法で焼肉にできないか試していた。目下の課題である食事の改善に調理は不可欠であるし、自分が魔法を使えるかの確認も兼ねての事である。
簡易BBQだーなんて吞気に考えていたセシールであったが、結論から言うとセシールは魔法の発動には成功した。確かに魔法で火を出す事には成功したのである。しかし、結果としては失敗であった。セシールの放った火の魔法は猪肉に火柱を立ち昇らせ、骨の芯まで焼き尽くしてしまったのだから。
そして、それを見た虫達が本能的に身を縮こまらせているという訳である。
「えーと、私が世話になってる限りは君達に危害は加えないから、ね?」
その言葉に虫達はお互いの顔を見合わせた後、おずおずとセシールへと近づいてくる。
それを見て安堵するセシールだが、虫達にとっては「世話をしないと身の安全は保障しない」と言われているも同義である事には気付いていない。
何とか虫達を宥める事に成功した(と思っている)セシールは今日のところはここまでと洞窟へと帰る事にした。
「目視確認や実践は大事だし、ちゃんと実行したけど、やっぱり自分だけじゃ限界があると思うの」
「~~!!」
そして帰還したセシール達は今後の方針を話し合っていた。と言っても、ほぼセシールの独り言であり、そこに虫がリアクションを返す程度である。
「魔法の扱い方もいまいちわからない、そしてここには人間がいないから私にわからない事があっても聞きようがない。君達は私の魔力だけあればいいんだろうけど、私にはサバイバル知識もここでの生き方もそこまで知らないし、このままだと手詰まりなんだよね」
「!!?」
そんな事はないと言う風に首を振って見せる虫達。それを見てセシールは思わず苦笑を漏らす。
それは焦ってセシールの言葉を否定する虫達にではなく、こうしてセシールと意思疎通できる虫達に対して愛着を持ち始めている自分に対してであった。
「そういえば、君達に名前って……ある訳ないか」
「?」
「蜂とか蜘蛛とか大雑把な種族名で呼ぶのも味気ないからこっちで勝手に名前つけちゃっていいのかな? まぁ、蜂と蜘蛛は数が多いからまとめて名付ける事になりそうだけど……」
「~~♪」
「そっか、じゃあ私が呼びやすいように何か考えておくけど、あまり期待はしないように」
「~~!!」
自分が話す事に一つ一つ反応の返してくれるこの虫達。なるほど、可愛いものではないか。
「それはそうとして、まずは情報源として人間が欲しいとこね。やっぱ言葉が通じないと何もわからないし」
「!!」
「はい、そこ。スズ、誘拐しようとしない。そしてスズは貴女達の名前ね」
人間~の件で今から攫ってきますと言わんばかりに洞窟から飛び出そうとした蜂、改めスズを止めるセシール。早速名前を付けてみたが、その由来は見た目がスズメバチっぽいからである。実に安直だが名前は呼びやすいのが一番だと個人的にセシールは思っている。
「今しばらくは私もこの体の制御をもうちょっと慣らしておきたいからそれまで各自は準備に専念する事。具体的な内容は追々伝えるとして、えーっと……ツムギ。そう、君。貴女には用意して欲しい物があるからそれを最優先でお願い」
ツムギと名付けられた蜘蛛にその内容を伝える。ちなみに由来は蜘蛛は糸を紡ぐものだからである。スズよりは少し考えてみたのが窺える。
「じゃあ、今日のところはここまで!」
「~~」
ひとまずの話が終わったところで解散を指示したセシール。気付けばもう夕暮れ時なのか、洞窟からわずかに見える空はオレンジ色に染まっていた。
当然、僅かな光しか入らない洞窟内は真っ暗になっているはずなのだが。
「……見えるね」
セシールの目は洞窟内の様子をはっきりと視認できていた。尻尾に鱗が生えている事から薄々察してはいたが、アレか。自分は爬虫類でもあるのか。
確かにマムシやハブなどは夜行性であるから、自分が爬虫類としての性質を持っているのなら夜目が利いても不思議ではないのだろう。
「この調子だとピット器官も付いてそう……」
そう思い、この中でも活動的で体温が高いスズをちょっとばかし意識して見てみた。
見えた。