表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リアル異世界国家の覇権譚 ~実在する異世界国家ではチート転生者は肩身が狭い様です~

作者: ds56

 数億の人間や亜人種が住まい、大小合わせて数十の国家が存在するユーリアル大陸。これは、大陸中央から東にかけて広がる中堅国家、ローサリア王国における物語である。

 ローサリア王宮内の大広間、今ここには若き国王と宰相や各大臣、さらに騎士団長と魔術師、教会関係者が一堂に会しているいる。これより定例の評議が開かれるところだ。


「本日の評議を始めます。最初に侯爵家が高位精霊を隠蔽していた件について報告を願います」


 宰相の掛け声により評議が開始され、壮齢の聖職者である教会の枢機卿が発言を始めた。


「侯爵家令嬢は確かに高位精霊と契約しておりました。私の契約精霊と同ランクのため、強硬策は控えましたが、精霊より令嬢が無事なら手は出さないとの言質を得ましたので、修道院に幽閉いたしました」

 これはとある侯爵家の令嬢が、高位精霊と契約したにもかかわらず、国に報告しなかった事例である。まだまだその力を駆使した訳ではないが、精霊王に次ぐ高ランク精霊との契約者を野放しには出来ない。そこで同ランクの精霊と契約している教会の枢機卿が呼ばれ、侯爵家に乗り込んで査問したのだ。


「侯爵は私兵を率いて抵抗したため、隠蔽による国家反逆罪で処刑しました。その際、騎士団に数名の負傷者が出ていますが、幸い死者はおりません」


 枢機卿の報告を補足するのは、騎士団長である。高位精霊が絡む事例ということで、団長自らが騎士団を率いて、枢機卿に同行していた。


 騎士団長は言葉を続ける。


「しかし、昨年の件といい、連中はなぜ我々に発覚しないと思うのか、不思議でなりませんな」


 昨年の件とは、ある子爵家の子息が3歳の時に豊富な知識を披露し、どの国にも存在しない農機具や肥料を次々開発して、わずか2年で領地の収穫量を数倍にした事である。

 これだけなら吉事だろう。この農機具や肥料が普及すれば国はより豊かになるからだ。

 だが、3歳児にその様なことが出来るのか? という真当な疑問を抱いた王国は調査を重ね、この子息は魔族憑きだと推測。査問中に裏付けが取れたため、隠蔽した子爵共々即刻処刑したのである。

 彼を魔族憑きと断定した最大の理由は、査問時に「この世界はおかしい」「こんなストーリーありえない」などと、我々の世界とは異なる住人、つまり魔族であることを自ら証明する台詞を喚き立てたためである。


 なお、この国は現在の王が即位してより、国防に影響する魔族・魔獣・精霊を発見、もしくは国力増進に繋がる革新的な技術を生み出した際には国に報告することを義務づけた。違反は厳罰だが、その代わり功績に対しては、爵位の昇格や報奨金などで報いることになっている。

 もしも、この侯爵と子爵家が隠蔽していなければ、侯爵家は数ある侯爵家の中でも序列筆頭となり、そして子爵家は伯爵への昇格に加え、税率は恒久的に優遇されていただろう。

 子爵家で回収された器具や肥料は、王家の直轄領の一部で試験運用され、今年の収穫量は激増した。

この結果を受け、来年から直轄領全域や各貴族領にも順次普及していく予定だ。

「次に、異世界から来訪し問題行動を繰り返していた2人の小僧ですが、勇者殿と協力の上処刑いたしました」


 白銀の長い髪と透き通るような白い肌、

 さらに体に施された魔力増幅の入れ墨を露出させるため、布面積が非常に少ないローブを身に纏っている妖艶な女性魔術師が報告した。なお、彼女は王立学園長を務めている。


 これは、数か月前に2人の少年と1人の少女が異世界から来訪したという事件である。

 異世界などという話は非常に眉唾であったが、1人の少年が所持していたスマホという薄い板状の器具は、まさにオーパーツと呼べる代物であり、関係者を驚愕させた。

 少年2人は、スマホの技術を伝える用意がある事を匂わせ厚遇を要求。また、能力測定により彼らは強大な魔力や戦闘力を持つことも判明したので、王国は喜んで応じた。

 3人には世界の常識を学んでもらうため、寮が完備されている王立学園で保護していたのだが、スマホは最初に動作させて以来、様々な理由をつけてその力を見せず、しかも少年2人はろくに学習もせず我儘三昧。数か月を経過しても状況は悪化するばかりで、スマホで得られる利益は惜しいが、弊害の方が大きいと判断するに至った。

 なお、少女は言動が常識的だったため、このままでは3人の立場が危ういことを説明し、協力を依頼。

彼女は2人とは関係ない人物であり、また2人の言動に眉をひそめていたため、快く受け入れてくれた。

 そして、


「もうスマホは動力切れで使えません。この世界で充電は不可能です」


 この一言が決定打となり、2人の処刑が決定した。

 だが、異世界人の特性なのだろうか、厄介なことに2人の能力は極めて高く、まともに手を出せば返り討ちになりなねない。そこで学園長は勇者に助力を依頼し、異世界人の戦闘を見たいと偽って2対2の試合に持ち込み、能力は高いが戦い方を全く知らない2人をたやすく処刑したのだ。

 その後数件の細かな議題を片付た評議は、本日最後の案件に取り掛かろうとしていた。


「では本題に入りましょう、陛下よりお願いいたします」

「帝国の手により国内の各地に誹謗中傷が流布されていた問題だが、来月の対魔戦争戦勝5周年の式典において、帝国との国交断絶を宣言する。加えて、教会による帝国の破門、そして魔術師ギルドの引き上げも同時に宣言されるだろう」


 長かった評議もこれで最後、しかも最近の懸念事項が2件も解決したことで和やかな雰囲気となっていた参列者だが、王の発言により緊張が走る。


 問題とは、約1年前より、王国の各地に数々の噂や、その内容とほぼ同じ内容の物語が流布され始めた事から発する一連の騒動である。

 流布された内容は、貴族が庶民を虐げ税を好き勝手に搾取し娘を奪ったり、王子や貴族が婚約を一方的に破棄し、さらには国の法を全く理解せずたわごとをまくしたてるといったものだ。

 王都など民が王家の人となりを知っている地域では、単なる妄想の読み物として片付けられていたが、辺境の男爵領において、女好きの男爵が庶民の娘を手込めにし、抵抗した親を切り捨てるという不祥事が発生。

 その結果、男爵領や周辺地域でこれらの妄想は真実となる。さらに悪手として男爵は抗議の声を上げる住民を弾圧、周辺地域を巻き込む騒乱が勃発してしまった。


 この事態を受け、騎士団は王に命じられ、すぐさま男爵領に進軍した。

 領民は騎士団との戦いも覚悟していたが、騎士団は騒乱の武力鎮圧ではなく、男爵一族を即座に捕縛し領民に突き出したのである。


「我が国の司法は、貴族平民問わず公平に裁く事を是としている。この件に関し領民の非は問わない。被害者には十分に保証することを約束する」


 男爵一族の引き渡しと王の書状により、騒乱は一気に沈静化したのであった。

 領民の慰撫と、未だ新王即位後の改革に否定的な保守派貴族への警告を兼ね、処刑の方法は領民に一任された。


 なお、後始末において、領民の代表に、なぜ近隣都市に設置してある裁判所に訴え出なかったのかと問いただしたところ、


「国の連中はすべてグルなので頼ってはいけない、やられる前に立ち上がれ」


と住民を煽った者がいたいう。しかも、これらの者は近くの集落から来た者ばかりだという。

 騎士団はこの扇動者を捕縛し、名乗っていた各集落に照らし合わせたが、該当する人物はいなかった。そして魔法も使用した苛烈な尋問の結果、西の帝国の諜報員であると自白したのである。

 さらに、自白で判明した王都の隠れ家も摘発。そこには流布されている小説や新聞の原稿を多数発見。ご丁寧なことに、新作も用意されていた。


「帝国が謀略を仕掛けてきたのは、対魔戦争で被害を抑えた我が国への嫉妬と、穀倉地帯を奪う目的の両方だと思われます」

「奴らが対魔戦争で穀倉地帯と聖地を失ったのは、戦時にもかかわらず軍備に予算を回さずパーティーや茶会に明け暮れていたからだろう。逆恨みも甚だしい」

「我が国も食料を輸出しているというのに、恩を仇で返されるとは」


 評議の参列者が次々に帝国に対する意見や怒りを口にする。

 さもあろう、最大の穀倉地帯を失った帝国は周辺各国から食料を輸入せざるを得なくなり、その中でも王国は輸入量の3割を占める最大の貿易相手だったのだ。


「しかし、最初の様に王家や貴族だけを狙っていれば良かったものを、教会と聖女殿と大賢者殿と勇者殿、学園長にまで手を出すとは、奴らは下手を打ったものだ」


 国王の言葉に一同がうなずく。

 帝国は、対魔戦争で聖地を失った際に、同じ帝国内ではなく王国に移転した教会と、教会の象徴たる聖女、さらに戦後に王国を居住地とした勇者と大賢者、そして王立学園長といった対魔戦争時の英雄たちも逆恨みの対象とし、それぞれの醜聞も捏造して流布した。これに激怒した教会と大賢者は、帝国の破門と魔術師ギルドの引き上げを決定した訳だ。


「我が国からの食糧輸入が無くなり、教会に破門され魔術師ギルドも引き上げる・・・。さて、帝国はどう出るかな?」

「すぐにでも攻め入ってくるでしょうな。今回の騒乱に乗じる予定だった軍勢は、国境近くの要塞に留まったままです」


 王の質問に騎士団長が即答する。他の参加者も同様の反応だ。


「帝国の兵数はこちらの3倍、苦戦はするだろうが対魔戦争で魔族4将を討ち取った英雄はすべて我が国におり、食料や物資も潤沢、最後に我らが勝利することは疑いない。開戦の準備を急がせよ」

「承知いたしました」


 全員が立ち上がり一斉に礼をする。これにより、帝国との戦争が決定した。





数年後、敵よりも無能な味方に悩まされつつも帝国に勝利するのだが、これはまた別の物語である。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ