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死神が魂を奪いにやってきてから毎日が波乱万丈です  作者: どらねこ
2章 クラスのアイドルのあの子編
7/28

7話 お宅訪問

 そして土曜日。

 ついに佐久さんが家へと訪れる日となった。


「あー、あー。本日はお日柄もよく……」

「ミナトさん、さっきから何してるんですか?」

「え? 挨拶の練習だけど」

「そんな堅っ苦しい挨拶するつもりなんですか? 校長先生じゃないんですから」

「そ、そうだな……」


 ユルルの言う通りだ。

 だけど、何かしてないと落ち着かないというか。

 特にやることもないのだが、そわそわしてしまう気持ちが抑えきれない。

 だって、今から佐久さんが家に来るんだぞ? ああ、俺って普段どんな顔してたっけ。

 鏡を見ると、冴えない顔の特徴のない男がいた。なんだコイツ、印象の薄い顔しやがって。

 誰だお前! あ、俺か。


 そんな一人遊びをしていると、ピンポーン、と家のチャイムが鳴る。

 震える手でガチャリとドアを開けると、そこには私服の佐久さんの姿があった。


「こんにちはっ」

「あ、こ、こんにちは……」


 ……駄目だ、かわいいっ!

 太陽を直接見てしまったがごとくの輝きだ。


「失明しそう……」

「湊くん、大丈夫!?」

「う、うん、なんとか……」


 そう答え、佐久さんを家の中へと招き入れる。

 佐久さんは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回しながら俺の後に続く。


「へー、男の子の家ってこんな感じなんだぁ。あたし初めてだから、なんかドキドキする」


 家に佐久さんがいる! 意味が分からない。

 ど、どどどどうしよ……!

 リビングまでの短い通路を歩ききり、リビングでいつも通りにくつろぐユルルの姿が見えてくる。

 パニックになっていた俺はユルルの姿が見えた途端ユルルに走り寄った。

 ユルルの華奢な肩を揺すり、必死に訴える。


「ユルル、これは夢か? 俺は死ぬのか?」

「夢じゃないし、死にません。死ぬなら魂下さい」

「ハッ、そうだった」


 危ない危ない、魂を渡すわけにはいかない。

 部屋に入った佐久さんはまず本当にユルルがいることに少し驚き、そして次にユルルの見た目に驚いた。


「ユルルさん、その格好……」

「へ? あ、着替えるの忘れてました」


 ユルルは普段家で来ている死神の服を着ていた。

 新雪のような儚げな白い肌、すべすべの腋と太腿を惜しげもなく露出した服装。

 俺は見慣れているから驚かないが、露出度の高めなその衣服を目にした佐久さんは少々面食らった様子だ。


「ユルルさんって意外と大胆……なんだね?」

「改めてそう言われると、なんだか照れますね……。で、でも、これは死神の正装ですから、恥ずかしくはないですよ!」


 若干キョドりながらもあえて自慢げに胸を張るユルル。

 しかし、その発言は色々とまずい。


「死神……?」


 佐久さんは眉をひそめる。

 それを見た俺は頬を引くつかせた。

 ユルルのやつ……死神だってことは絶対に隠す様に言っておいたのに!

 俺が変なヤツと思われるのはまだいいが、お前も変なヤツ扱いされるんだぞ!

 俺はユルルの耳元に口を近づけ、ユルルを叱る。


「おい馬鹿、それは言わない約束だろ!」

「ば、馬鹿とはなんですか馬鹿とは! たしかに動揺して死神のことを言ってしまったのは悪いと思いますけど、馬鹿は言い過ぎです!」


 ユルルは俺に臆せず、それどころか真正面からこっちを向いてぷくりと頬を膨らませる。

 家に佐久さんが来た興奮と、服装を見られた僅かな羞恥心でユルルの頬は赤く染まっていた。

 そしてさらにその赤色が、かぁと濃さを増す。


「え、えっちな漫画のことバラしてもいいんですよこっちは!」

「なら俺はお前が女豹のポーズとってたことバラすからな!?」

「……ぐぬぬ!」

「……むむむ!」


 ユルルめぇ……!

 そんな向かい合う俺たちに、佐久さんの遠慮がちな声がかかった。


「あ、あのー、二人とも……?」

「どうしたの、佐久さん」

「何かありましたか?」

「……ぜ、全部聞こえてるんだけど……」


 ……?

 キコエテル? キコエテルって何?

 エレキテルみたいなこと? もしくはクリステルとか?

 …………聞こえてる!?

 俺がエロ本持ってたことも、聞こえてるってこと!?


「この世の終わりだ……」

「ぎゃーっ! 恥ずかしさで憤死します!」


 俺は四つん這いで項垂れ、ユルルはソファに顔を埋める。

 ここがこの世の地獄だった。

 春風湊、享年十七歳。ここに眠る。

 さよなら人生、もうお別れだよ……。


「ふ、二人とも落ち着いて!? 絶対誰にも言わない、約束するから。ね?」

「ほ、本当ですか……?」

「うん、絶対。……誰にでも、秘密ってあるもんね」


 優しい佐久さんの説得により、俺とユルルはなんとか正気を取り戻した。

 ユルルの頬は真っ赤なままだが……おそらく鏡を見れば俺の頬も同じように染まっているのだろう。

 それにしても佐久さんのなんと優しいことか。

 家を訪れた相手がそんなヤツだったら俺なら即家を立ち去るが、佐久さんはそんな素振りを全く見せない。

 それどころか気を使って俺とユルルの背中を撫でてくれる始末だ。

 だけど気を付けて佐久さん、思春期の男子高校生は少しボディタッチされただけで恋に落ちます。割とマジで。

 だって佐久さんの手が! 衣服越しだけど、俺の背中を撫でてるんですよ!

 柔らかくって、温かくって……。


「天国はここにあったのか……」

「あ、ミナトさんが天国に旅立とうとしてます! 今すぐ背中を撫でるのを止めてあげてください!」

「え、う、うん、わかった!」


 すんでのところで、俺はこの世を旅立たずにすんだ。

 紙一重で生きながらえた俺は思う。

 さっき佐久さん、「誰にでも秘密はある」って言ってたけど……佐久さんにも秘密があるのだろうか。エロ本や女豹のポーズレベルの秘密が。

 そんなのあるなら是非知りたい……けど絶対なさそうだな。

 おそらく俺たちのフォローのために言ってくれたのだろう。感謝しないとな。




 それから数時間。

 なんとか冷静さを取り戻した俺とユルルは、佐久さんと何気ない会話を楽しむ余裕も出てきていた。それもこれも、佐久さんが甲斐甲斐しく俺たちのフォローをしてくれたおかげだ。


「アイノさん!」


 すっかり元気になったユルルが快活な声で佐久さんの名を呼ぶ。


「うん、どうかした?」

「私、アイノさんともっと仲良くなりたいです。魅力的な女性になるために!」

「本当? じゃあ、ユルルちゃんって呼んでもいい?」

「もちろんですよ!」

「でも、あたしも嬉しいな。ユルルちゃんみたいな可愛い子と友達になれて」


 佐久さんが髪を耳にかけると、佐久さんの甘い匂いがふわりと部屋の中に広がった。

 俺もユルルも、その匂いにやられてもうクラクラである。

 男の俺だけでなく、女のユルルまでメロメロにするとは、さすが佐久さん。

 ユルルに向けて優しく微笑む佐久さんは、まるで魔性の人だ。

 可愛いんだけど、どこか妖しいところがある。

 影……とは違うのかもしれないけど、何か、普通じゃない感じというか……。


「佐久さん、やっぱり女の子のことが……」

「ち、違うから! 湊くん、ちゃかさないでよ、もう!」


 ぺしんと俺の肩を叩く佐久さんを、ユルルはジッと見つめる。

 そしてなにやらハンカチを噛みだした。


「照れ方も可愛いですね。嫉妬です!」

「い、いやー、そうマジマジと見られると恥ずかしいというか……。ほら、湊くんも見てる訳だしさ?」


 佐久さんがチラリと俺に目線をくれる。

 こんな美少女の視界に俺が存在しているという事実だけでもうご飯三杯はいけるよね。




 そして、佐久さんが帰った後。

 俺は数分おきに佐久さんが座っていたところをぼんやりと見ていた。

 そこにさっきまで佐久さんがいたんだよな……未だに信じられない。


「何をさっきからチラチラ見てるんですか?」

「……いや、なんでもない」


 ヤバい、ユルルに佐久さんが座ってたところを見てたこと気づかれたか?

 いや、コイツは鈍い、ばれていないはず……。

 そんな俺の希望を打ち砕くように、ユルルは声を上げる。


「……あ! さっきアイノさんが座ってたところを意識してるんですね!? うわー、ミナトさんのスケベー」

「は、はぁ!? 違うし! 全然違うし!」


 俺硬派だから、そういうの興味ないし! 馬鹿じゃん!?

 俺硬派だから! マジで!

 ……って、あれ? なんだかユルルの様子がおかしいぞ。

 もっと怒るか恥ずかしがるかすると思ったのに、心なしか落ち込んでいるような……。


「でもミナトさん、私のことは全然意識してくれません……。ぐぬぬ、お色気が足りないんでしょうか……やっぱり胸がないから……そうだ、胸が小さくても素敵だってところをミナトさんに教えればいいんです!」


 ユルルは喋っているうちにどんどんと声に張りが生まれ、最終的には勢いよく立ち上がった。

 突然そんな宣言されても、どうしたらいいかわかんないんだけど……。

 戸惑う俺の前で、ユルルは胸元で止まっている服に手をかけ、少し下へとずり下ろす。

 な、なにしてんだコイツ……!?

 ユルルは顔を熟れた果実のような色に染めながら、荒い呼吸で俺を見た。


「ど、どうですかミナトさん。魅惑のぷろ、ぷろぽーしょんにくぎ付けなんじゃないですか……?」


 そんなに恥ずかしがるならやらなきゃいいのに……。

 というかコイツは勘違いしているが、別に俺はユルルを意識していない訳ではないのだ。

 一つ屋根の下に美少女が住んでいて意識しないヤツは、色々とヤバい嗜好の持ち主だけだ。

 ならなぜ反応しないようにしているかというと、色々気まずくなったら困るからである。


 そうとはいざ知らず、誘うように前傾姿勢をとったユルルの胸元は、ギリギリまで見えてしまっている。

 ……というか、もうギリギリを超えて見えてしまっている。


「水色」

「水色? 一体何のはな――!?!?」


 胸元の下着が見えていることに気付いたユルルはバッと胸元を隠し、顔を耳まで真っ赤にした。

 女の子ずわりになったユルルは内腿を震わせながら羞恥に耐える。


「うわぁぁん! もうお家帰るー!」


 ユルル、ここがお前の家だから。

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