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21話 お泊り会

 体育祭の準備を進めていくうちに、どんどんと時は過ぎて行った。

 そして、今日は体育祭前日。

 それと同時に、俺にとっては特別な日でもある。


「いやー、家に佐久さんがいると華やかになりますね!」

「本当だよな」

「そ、そんなことないって」


 そう、佐久さんがお泊りに来たのだ。

 翌日の本番に向けてダンスを完璧にしたいという思いが一致した俺たち三人は、スムーズにお泊り会を計画していた。


「前来た時と変わっていないなー」


 キョロキョロと部屋の中を見回す佐久さん。


「あ、あんまり見られちゃ嫌だよね。ごめん、ちょっと舞い上がっちゃって」

「くぅわぁいい」

「わかる」


 ユルルが巻き舌になるのも納得の可愛らしさだ。

 佐久さんのはにかんだ顔って殺傷力高すぎません?

 日本が核を持たない理由って、もしかして佐久さんがいるからですか?


「じゃあ、早速やりましょうか。クラスの皆のためにもみっともない踊りは見せられませんし」

「そうだね、頑張ろうユルルちゃん」

「はい、アイノさんっ」


 ユルルはこの数日で、随分クラスに馴染んだ。

 常識のずれがあるのはいかんともしがたいと思っていたのだが、元々明るい性格であるところに、それが上手く不思議ちゃん成分として作用したようで、結果ユルルはあっという間にクラスの人気者だ。

 正直言って俺より馴染んでいる。……俺より、馴染んでいる。


「悲しい……」

「なに泣きそうな顔してるんですか!? なにかありました? ……ぽんぽん痛い痛いですか?」

「ユルルに子ども扱いされてる……」


 屈辱だ……。

 ……ああちくしょう、こういう時は踊りだ! 踊りでストレス発散してやる!


「よし、踊るぞ二人とも!」

「急にやる気だしましたね」

「きっとそういう時期なんだよ」


 ふっきれた俺は二人の手を勢いよくとって、ダンスの練習に没頭した。

 ダンスを踊っている時は、嫌なことも忘れられる。ダンスって最高だぜ!






 そして、あっという間に夜になった。


「今日は佐久さんがいるから、二人で寝れるよな」


 俺はユルルにそう告げる。

 実はいつもは同じ部屋で寝ているのだが、今日はその必要はないだろう。

 美少女であるユルルと同室で就寝するのには慣れてきたけど、でもやっぱり少しはドキドキしてしまうから、できるなら避けたいところだしな。

 佐久さんという女子が家に来た以上、二人が同じ部屋、俺が別の部屋で寝るのが自然だろう。


「え、駄目です駄目です! 寝るのはみんな一緒でリビングですよ?」


 しかし、ユルルは白い髪をブンブンと振って否定する。


「……いや、俺が寝るのは別の部屋でよくないか?」

「嫌ですよ! お化けとか怖いじゃないですか!」

「死神がそれ言う?」


 むしろお前って怖がられる側じゃない?

 俺、お前が最初家にいたときめっちゃ怖かったよ?

 自分が正気じゃなくなったのかと思ったもん。


「あ、今の死神差別ですよ!?」

「マジか。ごめん」


 これは死神差別なのか。

 ユルルって結構何を言ってもいいのかと思ってたけど、意外と扱いムズいんだな死神。

 価値観の違いがどこにあるかわからないっていうのは、大変だなぁ。

 いやでも、死神のユルルにサキュバスの佐久さん。この二人とこれから友好を深めていく以上、そういうことは言ってられないか。


「二人ともにお願いなんだけど、色々言っちゃいけないこととか、教えてくれると助かる。二人が傷つくような言葉は言わないようにしたいから」

「うん、ありがとう湊くん。でもあたしは特には思いつかないかなー。もうかなり人間に近い価値観に染まっちゃったし」


 そっか、佐久さんはもう五年現世にいるんだもんな。

 それだけすごせば価値観も普通の人間寄りになって来るか。

 でも、ユルルはまだこっちの世界に来たばかり、色々と違うところもあるはずだ。

 そう思ったのは俺だけではないようで、佐久さんもユルルの方を向く。

 俺たちに見つめられながら、ユルルは言う。


「ありがとうございますミナトさん。今すぐには思いつきませんけど、何か思いついたら言いますね? あ、ちなみにさっきの死神差別っていうのは嘘です」

「嘘なのかよ」

「はい、そりゃもう真っ赤な」


「熟れたリンゴくらいは赤いですね」とユルル。

 真っ赤な嘘をつくのは是非とも止めていただきたい所存である。


「というわけで、皆でふとんくっつけて寝ましょう!」


 元気な声でユルルが言う。

 ……困ったな。

 このままだと、佐久さんまで同じ部屋で寝ることになってしまう。しかもふとんをくっつけあって。

 それは佐久さんとしても避けたいところだろう。

 俺が言っても聞きそうにないし、ここは佐久さんからユルルにガツンと言ってもらうしかない。


「わぁ、楽しみ!」


 あれ? 佐久さん、意外と乗り気な感じ?

 さすがに、さすがにそれはまずいのではないだろうか。

 ユルルはまだ妹的な目で見れなくもないが、佐久さんは無理だ。

 異性百パーセント、濃縮還元である。

 そんな佐久さんと隣あって寝るようなことになったら、俺は俺の理性を信用しきれない。


「いや、佐久さんは今まで一人で寝てたわけだし、別に一人で寝れるんじゃ……」


 これは別に佐久さんが悪いわけでも、まして俺が佐久さんを遠ざけたいから言っているわけでもない。

 ただ単純に、佐久さんの体つきが女性的過ぎるから俺がビビってしまっているだけなのだ。

 細い腰はモデル以上に綺麗にくびれていて、足は長くて顔は小さくてその上美少女……神様ってやつは不公平だ。でも佐久さんと親しくならせてくれたことに関しては、神様本当にありがとう。

 神への感謝を始める俺に、佐久さんは耳に金色の髪をしゃなりとかけ、尋ねる。


「あたしがいると、嫌かな?」

「いいえ、全然! まったく!」


 嫌なわけないよね。むしろバッチコイだよね。

 さすがにね、耳に髪かけられながら言われたらね。断れないよね。

 そういうわけで、寝室はリビングに決まった。

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