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2話 効果はばつぐんだ!

「うぅ~ん……」


 カーテンから差し込む日の光に、俺は目をぎゅっと瞑る。

 そして今が朝であることに気付くと、ゆっくりと目を開けた。


「あ、お早うございます」


 見知らぬ少女が挨拶してきた。


「のわぁっ!」

「ひぇぇっ!?」


 なんでそっちまで驚くんだ、大体お前誰――


「あ、ユルルか。ご、ごめん。不審者かと思った」


 一人暮らしなのに部屋に誰かいるから、てっきり不審者かと。

 改めて見た見知らぬ少女の顔は、昨日衝撃的な出会いをした少女のものだった。

 そっか、昨日の出来事は夢でもなんでもなかったんだなぁ。


「もう、誰が不審者ですか。しっかりしてくださいっ」

「……とつぜん魂奪いに来るって、結構不審者の要素満たしてるけどね」

「うっ、そ、それは……あははは」


 笑いで誤魔化しやがった。

 まあいいけどさ。

 過程はどうあれこれから一緒に暮らしていくことになった以上、そこはもう言っても仕方がない。


 さて、俺は現在高校生である。

 ゆえに週に五日は高校に通っているのだが、幸い今日は日曜日だ。

 ユルルの話を聞く時間はたっぷりある。


「ユルル、お前の生態について詳しく教えてくれ」

「生態って……でもそうですね。人間と死神とじゃ違うことも多そうですし、私も人間のことあまり知らないので、私にもミナトさんの生態について教えてください」

「生態って……」

「先に言ったのミナトさんですからね?」

「そうでした」


 俺は一つ伸びをすると、冷蔵庫の方へと向かう。

 一リットルのパックを開け、いつものように直接口をつけようとして、ふとやめた。


「……飲む? 牛乳」

「いただきます!」


 どうやら死神にも水分は必要らしい。

 まあ、昨日も水道水飲んでたからな。

 とすると、俺の直飲みの癖は早急に改めた方が良さそうだ。

 じゃないとその……か、間接キスになっちゃうし。


「? なんで顔を赤らめてるんですか?」

「いや、なんでもない。気にしないで大丈夫だから」

「はぁ……」


 不思議そうに曖昧な返事をするユルル。

 ……そういえば、この子が死神だって確証はまだないんだよな。

 いや、今さらも今さらだけどさ。

 もしかしたらただの頭の弱い子の可能性もあるし、俺が信じざるをえなくなるようなことを見せてもらった方がいいかもしれない。


「ちなみにユルルが出来る一番死神らしいことって何?」

「魂を奪えます」

「それ以外で」


 死神かどうか確認するために魂のリスクはおかせない。


「うーん、そうですねぇ……」


 ユルルは顎に手を当ててしばらく悩むと、不意に右腕を水平に伸ばした。

 ピンと伸びたその腕の先に、黒い大鎌が現れる。


「鎌を手元に出現させられること、とかどうでしょう」

「……ユルルって、本当に死神だったんだなあ」

「え、ちょっとミナトさん、今まで信じてなかったんですか!?」

「いや、信じてはいたけど、これで確信に変わった」


 身長大の鎌を突然出現させるなんて、人間じゃどうやったって無理な芸当だ。

 ユルルが死神だという確証を得た俺は、ユルルとの情報交換を始めた。




 とりあえずわかったこと。

 食事は必要。水分も必要。睡眠も必要。ちなみに死神も朝型。

 ちなみに冥界にいる間は食事も睡眠も必要ない。

 衣服を纏う文化もあるし、その辺の考え方は人間と近い。

 恋という感情はあるようだが、行為をしても子供ができるようなことはない。

 誕生から消滅まで変わらず同じ姿を保ち続ける。生まれた瞬間から歩けるし喋れる。つまり死神には子供時代はない。

 ついでに、どこからともなく自然発生するので血縁者という概念もない。


「まあ、こんなところか」

「ですね」


 俺たちはトーストを齧りながら、話を纏める。

 今まで食事を摂ってこなかったユルルにとってはこれが初めての食事らしく、ユルルはいたく感激していた。

 とりあえず、話を聞いた感想としては……。


「自然発生ってすげえな」

「交わったら子供が生まれる方がすごいです」


 たしかにユルルから見たら俺たちがすごいってことになるのか。

 この議論については平行線になりそうだな、別の話題に変えよ。


「生まれたときから姿が変わらないってことはさ、つまりユルルも生まれたときからその見た目ってことだよな?」

「はい、そうなりますね」


 これ、聞いてもいいのだろうか。

 いや、でも気になるしなぁ。

 俺は躊躇いがちにユルルに尋ねる。


「……ぶっちゃけ何歳かとか、聞いてもいい?」

「はい、いいですよ」


 怒られるかとも思ったが、ユルルは特に気にするそぶりもない。

 死神は特に年齢は気にしていないのかもしれない。

 生まれたときから頭も成熟してて姿も変わらなくてじゃ、年なんてどうでもよくなるのかもな。

 そう思いながら、俺はユルルの言葉を聞く。

 一体何歳なんだ?

 まさかの六歳七歳とかのパターン? いや、裏をかいて数百歳って可能性も――


「私は十七歳です」


 まさかのタメだった。


「同い年かよ。見えねーな……」


 俺の鎖骨くらいまでの身長もそうだけど、特に胸の辺りが。

 そこを凝視していると、バッとユルルの腕が胸を隠す。


「わ、私だって好きでこんなちまっこいわけじゃないですっ」


 うん、いくらなんでもガン見すぎた。反省しよ。

 機嫌を直してもらうためには……プレゼントかなぁ?


「服、買いにいくか」

「え?」

「ずっとその服着てる訳にもいかないだろ? 一着しかないし。この世界で暮らしていくなら服を買わないと」


 それに、ユルルが今着ている服はかなり目立つ。

 上着は七分丈なのだが、可動域を広くするためか腋の部分には布がない。

 つまり雪のように肌白い腋は衆目に丸見えだ。

 スカートの丈も短く、ユルルが身動きをとる度に中が見えてしまいそうでドキドキする。

 この服つくったヤツとは正直仲良くやれそうだが、しかし人間社会でこの格好は目立つ。

 特にユルルは現実離れした美少女だし、そのうえ白髪だ。

 顔や髪はしかたないとしても、直せる部分は直していかないと、ユルルは通行人の視線を独り占めしてしまうだろう。

 だから、早急に服を買いに行く必要があった。


「で、でも私、お金持ってないです」

「そのくらい何とかするよ」


 幸いにして、両親の遺産はべらぼうな額がある。

 俺一人ではどうやっても使い切れないし、この程度の出費は何のダメージにもならない。


「私のことを思ってくれてるんですね……ミナトさん、優しいです!」

「おおげさだ」

「さそがし世の女性からはモテモテなんじゃないですか? このこの~」


 照れ笑いを浮かべる俺を、ユルルがからかいながらつついてくる。

 俺はピタリと動きを止めた。


「……イコール年齢」

「へ?」

「彼女いない歴イコール年齢です。女の子の手に触ったのも昨日が初めてです」

「あっ……」

「同情するなら金をくれ」


 今俺は、歴戦の勇士の目をしていることだろう。

 もはや感情は擦れて摩耗し、据わった瞳でユルルを見る。


「み、ミナトさんっ」


 そんな俺の手を、ユルルの手がぎゅっと掴んだ。

 二回目の感触に、俺の頬はかぁと熱を持つ。

 なんで女の子の手ってこんなに柔らかいんだよ。


「私はミナトさん好きですよ? だから元気出してくださいっ」

「……うん」


 気を使わせてしまった。

 でもユルル、気を付けた方がいい。童貞はすぐ人を好きになる。

 そんな相手に手を握って「好き」なんて言った暁には、もれなく片思いが始まるぞ。


「ぐっ……」


 思い切り拳を握り、爪を手の平に食い込ませる。痛みだ、痛みで耐えろ俺!

 努力の甲斐あって、十七年間培ってきた鋼の心で恋に落ちるのだけはなんとか耐えた。

 耐えたのだが、正直ユルルがさらに可愛く見えてきて辛い。

 なにこの子、可愛過ぎじゃない? 二次元も三次元も超えてない?


「ユルルって四次元の世界に生きてたりする?」

「? しないですけど……」


 勢い余って変な質問をしてしまった。

 変だと思われたかな? 嫌われちゃうかな? ドキドキするよぉ……って、俺は恋する乙女か!

 落ち着け、落ち着け。

 コイツに恋したら、喜んで自分の魂を差し出す自分が見えるぞ。

 そうなるわけにはいかない。

 頭をグシャグシャとかきむしった後、俺はユルルに宣言した。


「ユルルには絶対負けないからな!」

「さっきから何の話なんですか……?」

「それもこれも、お前が可愛いのが全部悪いんだっ!」

「へっ?」


 あ、可愛いって言っちゃった。

 女の子に面と向かって可愛いなんて言ったの始めてだ。ど、どどどどうしよ……。

 チラッとユルルの方を向くと、ユルルは傍にあったクッションを胸の前でぎゅうっと抱きしめていた。


「か、かわいいなんて、そんな……あ、ありがとうございましゅ……」

「ぐああああ!」


 やめろ、やめてくれ! その攻撃は俺に効く! 好きになっちゃうだろうが!

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