さだはるくんとはるかちゃん
ある国には4人の女王さまがおりました。
女王さまにはそれぞれ春、夏、秋、冬、とおしごとをするきせつがありました。
女王さまは決まったきせつにだけおしろをはなれ、おしろのおとなりにあるとうの中ですごすのです。
女王さまたちがそれぞれのきせつにとうに入ることでその国では4つのきせつがこうたいでやってくることになっています。
なので、女王さまたちはわすれずに決められた日にとうの中に入っていくのです。
なのに、この国ではもう長い間雪がふりつづいています。
これではお外にでて遊ぶことができません。
お父さんもまい日おしごとからつめたくなって帰ってきます。
おばあちゃんはこしがいたくておふとんからでてこられません。
お母さんはまい日のようにたまっていく家ぞくのせんたくものがなかなかかわかなくてこまっています。
ある日、お外に出られなくてたいくつしているさだはるくんはお母さんにききました。
「ねえ、お母さん。いつになったらお外であそべるの?」
「この雪が止んだらかしら」
「じゃあ、いつになったら止むの?」
「そうね……。冬の女王さまがおしごとをおえておしろに帰ってきたら、かしら」
「じゃあ、冬の女王さまはいつになったらおしろに帰ってくるの?」
「うーん、いつかしらね?」
お母さんはこまってしまいました。
いつもなら冬の女王さまはしろに帰ってきていて、春の女王さまがとうの中に入っているからです。
なのに、まだ雪はふりつづいています。
そのりゆうはさだはるくんのお母さんにもわかりませんでした。
「冬の女王さまはきっといつもよりもいそがしくて帰ってくるのが少しおそくなってしまっているだけじゃないかしら?」
「お父さんといっしょだね」
「そうね。お父さんといっしょ。少しまてばきっとかえってきてくれるわ」
さだはるくんはお母さんに言われたとおりまちました。
どのくらいまてばいいんだろう?
お日さまにあと何回おはようすればこの雪はなくなるのだろう。
あったかくなれば、元気のないおばあちゃんもきっとげんきになるはずだ。
さだはるくんはそうしんじてまちつづけました。
雪が止んだある日、さだはるくんはお母さんにおつかいをたのまれました。
さいとうのおばあちゃんにだいこんをもらってきてほしいといわれたのです。
大すきなお母さんにたのまれたさだはるくんは、さっそくさいとうのおばあちゃんのおうちに行きました。
さいとうのおばあちゃんのおうちに行くとちゅうにはたくさん人がいました。
そしてみんな同じことを話していました。
「王さまがおふれをだしたらしい」
「なんでも春の女王と冬の女王をこうたいさせたものには何でもすきなものをいただけるらしい」
さだはるくんはむずかしいことはわかりませんでしたが、冬の女王さまのことが気になってお母さんとなかよしのささきのおばさんにきいてみました。
「おばちゃん、冬の女王さまがどうかしたの?」
「あら、さだはるくん。あのね、冬の女王さまはとうの中から出てこなくなっちゃったから王さまがこまっているんだって」
「ぼくもねお母さんには雪がふってる日はあぶないから出ちゃだめよって言われるんだ。だから、冬の女王さまも出ちゃだめよっていわれてるのかな?」
「ううん。冬の女王さまは雪の日でもでてもだいじょうぶなのよ」
「じゃあ、なんで出てこないんだろうね?」
「王さまもそれが分からないからおしろのところでみんなにてつだってって言ってるのよ」
「そっか。でも、へんだね」
「へん?」
「うん。だって、ぼくらにきいても僕らは冬の女王さまじゃないからわからないよ」
「そうね」
そういいながら、ささきのおばさんはさだはるくんのあたまをなでてくれました。
さだはるくんには思いました。
わからないなら、冬の女王さまにきけばいいんだ!
ささきのおばさんは王さまはおしろのところでみんなにてつだってっていってるんだ、って言ってた。
だったら、ぼくがおしろに行って王さまにおしえてあげればいいんだ。
そう思っておしろまでむかいました。
おしろには大人たちがたくさんいます。みんな列を作って並んでいるのです。
さだはるくんは早く王さまにおしえてあげたいのにこれではいつまでたっても王さまのもとへつけません。
「そうだ! おしろの中ならきっと王さまに会える!」
そう思ったさだはるくんはこわい顔したおじさんたちがいそがしそうなときにおしろに入っていきました。
それはいけないことだとさだはるくんは知らなかったのです。
そして大きくて長いろうかを歩いているとシクシクと女の子のなく声がきこえてきました。
さだはるくんは声のきこえる方へむかって歩いていきました。
すると一つの大きなとびらの前にたどりつきました。とびらに耳をあてると中からはたしかに先ほどのシクシクというなきごえがきこえてきます。
さだはるくんは大きなとびらを体でおしておへやの中に入っていきました。
そこは大きなおへやでした。
人のすがたは見えませんでしたが、おくのほうにまるまった白いものはみえました。
さだはるくんはそれがなにか気になって近づいてみました。
すると白いものはさだはるくんにむかって言いました。
「あなた、だれ?」
「ぼくはさだはる。きみは?」
「わ、わたしははるか」
「そっか。はるかちゃん、よろしくね」
さだはるくんがさしだした手をふしぎそうな目で見ているはるかちゃん。
そんなはるかちゃんにさだはるくんはききました。
「なんでないているの?」
「おねえさまのだいじなおにんぎょうこわしちゃったの」
そういってはるかちゃんをつつみこんでいる白いぬのの中から女の子のおにんぎょうをとりだしました。
おにんぎょうははるかちゃんのいうとおり手がとれてしまっています。
「ぼくのおばあちゃんならもとどおりにできるよ!」
「ほうとうに? もとにもどったらおねえさまもわたしのことゆるしてくれるかしら?」
「おねえさんはおこってるの?」
「ううん。でも、さみしい顔をしてたの」
「そっか。あやまればきっとゆるしてくれるよ。さあ、おばあちゃんのところへいっしょにいってなおしてもらおう。そしたらおねえさんのところにいってごめんなさいしよ」
「いっしょにきてくれる?」
「うん。いっしょにいってぼくもごめんなさいしてあげる!」
「ありがとう」
そういってはるかちゃんはほっぺをピンクいろにしてわらいました。
そしてさだはるくんとはるかちゃんはさだはるくんがおしろの中に入ってきたときと同じようにお外に出ました。
「ただいまー」
さだはるくんがおうちに帰るとそこにはおばあちゃんがおちゃをのんでいました。
「あ、おばあちゃん。元気になったの?」
さだはるくんはうれしくなっておばあちゃんにだきつきました。
「ああ、さだはる。しんぱいかけてごめんね」
「ううん。おばあちゃんがげんきならぼくもうれしいよ」
「ところでさだはる。うしろにいる女の子はだれだい?」
「このこははるかちゃん。じつはおばあちゃんにおねがいがあるんだ」
「おねがい?」
「この子の手はなおりますか?」
はるかちゃんはおにんぎょうをおばあちゃんにわたしました。
「ああ、だいじょうぶだよ。これくらいならすぐなおるよ」
「ほんとうですか?」
「うん。ちょっとまっててね……。っと、ほら」
おばあちゃんはまほうのようにすぐおにんぎょうの手をもとどおりにしてしまいました。
「ありがとうございます。これで、これでおねえさまにあやまれます」
「そうか。それはよかった」
ふかくあまたをさげるはるかちゃんをおばあちゃんはにこにこしてあたまをなでてあげました。
「じゃあ、いこっか」
「はい!」
はるかちゃんはかたほうの手におにんぎょう。もうかたほうの手はさだはるくんの手をにぎっておねえさんのいるとうにむかいました。
とうの長い長いかいだんを上り、一つのドアの前にたどりつきドアをあけたとたんはるかちゃんは走り出しました。
さだはるくんはいきなりはるかちゃんが走り出したので少しおどろいてここまでずっとつないでいた手をはなしてしまいました。
「おねえさま!」
「はるか!?」
「おねえさま、ごめんなさい。はるかはわるい子です」
「いきなりどうしたの?」
「おねえさまがだいじにしていたおにんぎょうの手をこわしてしまって。これ、さだはるくんのおばあさんになおしてもらったの」
「さだはるくん?」
「うん」
「あのね、はるかちゃんをゆるしてあげて」
やっとはるかちゃんにおいついたさだはるくんははるかちゃんのおねえさんにたのみました。
「わたしはおこってませんよ?」
「でも、でもぜんぜんおねえさまは帰ってこないんだもの。だからおねえさまはわたしのこと、きらいになったからでしょう?」
「え? もうそんなじかん?」
「うん」
「そっか。ごめんね。おねえちゃん、ほかのことにむちゅうできづかなかったの。ごめんなさい」
「わたしのこと、きらいじゃない?」
「もちろんよ。だいすきよ、はるか」
「おねえさま!」
はるかちゃんはうれしそうにおねえさんのむねにとびこんでいきました。
「おねえさまはなにをしてたの?」
「これをつくっていたのよ」
「わあ、はるかちゃんにそっくりだ!」
おねえさんがとりだしたものははるかちゃんにそっくりな毛糸でできたおにんぎょうでした。
「これをはるかにあげたかったの」
「これ、わたしに?」
「そうよ。そのおにんぎょうははるかにはあげられないから。せめてかわりものをって……」
「ありがとう。おねえさま。たいせつにするわ」
はるかちゃんはおねえさんからもらったおにんぎょうをだいじそうにだきしめました。
うれしそうなはるかちゃんとおねえさんのかおをみているとなんだかさだはるくんもうれしくなりました。
まどからお外をみるとそとはもうくらくなっています。
さだはるくんはお母さんからおつかいをたのまれていたことを思い出しました。
「ぼく帰らなきゃ」
「さだはるくんにはいもうとがおせわになったおれいをしたいな」
お母さんからのおつかいに行こうとおもったさだはるくんですが、はるかちゃんのおねえさんがそういうのでおねえさんについていくことにしました。
とちゅうでおねえさんに
「はるかちゃんはこないの?」
ときくと
「はるかはしばらくとうにいなきゃいけないの」
とおしえてくれました。
さだはるくんにはそのいみがわかりませんでしたが、おねえさんがしばらくすればいっしょにあそべるというのでそれまでまつことにしました。
「おとうさま」
「よく、帰ったな。とうこよ。その子は?」
「かれはさだはるくんです。かれにはおせわになったのです」
「そうか。うちのむすめたちがせわになった。なにかほうびをやろう」
ほうびとはなんのことだかさだはるくんにはわかりませんでした。
ただおれいを言われているということはわかりました。
首をかしげているさだはるくんをみて、はるかちゃんのお父さんはいいました。
「なにかほしいものはないのか?」
さだはるくんはかんがえました。
がんばってかんがえて見つかりました。
「王さまとお話したいんだ」
さだはるくんはおしろに何をしに来たのかをやっと思い出したのです。
「え?」
はるかちゃんのおとうさんもおねえさんもさだはるくんのことばをきいて目をまん丸にさせました。
「王さまにおしえてあげるんだ。冬の女王さまがとうから出てこないならなんで出てこないのか冬の女王さまにきけばいいんだよって」