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46 再集結する《冒険者》

 



 そして、翌日の日曜日。

 俺は午前の早い段階から、《小鬼の迷宮》第一階層(・・・・)のボス部屋の前にやって来ていた。


 無論、現在この場に集まっているのは俺だけではない。


 普段からパーティーを組んでいるカエデに、今回の本命であるところのベル。

 加えてボス攻略ツアー以来、二日ぶりの再会となるゴウキさんとレイナさんの姿もあった。


 当然、昨日の夜のうちにデバイスで連絡を取り、予定を合わせておいた結果である。

 突発的な計画だったので、この中の一人くらいは欠けてもおかしくないと思っていただけに、全員が揃ったのは思わぬ行幸だったろう。幸先が良い。


 ついでにクロも呼んでないのに来てるけど、そっちは居ても居なくても変わらないので放置しておく。何処から情報が漏れたのやら……謎だ。

 しかし戦闘は別として、彼女は斥候役や、あまり認めたくはないがムードメーカーとしては優秀な人材である。戦いの邪魔になる奴でもないし、好きにさせておけば良いさ。





「――んで。小僧の呼び掛けで、こんな朝早くから集まった訳だが……昨日の話は本気か?」


 と、顔見知りの全員が集合したことを切っ掛けとしたのだろう。ゴウキさんが、真っ先に口火を切って尋ねてくる。


 昨日、俺が彼とレイナさんに話をつけた時、その内容に彼らは驚いていた様だったからな。質問は想定内だ。

 まあ、俺も逆の立場であれば唐突すぎる提案に首を傾げていただろう。


 最初にこの場で顔を合わせた際も、ゴウキさんからは確認するよう直接同じことを聞かれたのだが……詳しい説明は一度で済ませたかったので、全員が揃うまで待ってもらっていたのである。


 本当なら、こう言った話し合いは前回と同様に《酒場》で行う方が良いのだろうけど、今の俺は僅かの間でも時間が惜しかった。


 駆け足じみた進行と言うか、焦っていることは重々自覚済みだ。しかし、どうにも抑えられない。

 一分、一秒でも早く、俺はダンジョンの攻略を始めたかったのである。


「ええ、本気ですよ。今日は一昨日に出来なかった、この《小鬼の迷宮》第一階層のボスの討伐をまずは(・・・)行います」


「ふーん……で、その後(・・・)は?」


 ゴウキさんの問いに俺が頷きながら答えると、続けてレイナさんからも疑問が飛んでくる。


「聞いた限りだと、そのまま『第二階層の攻略』も一緒にどうか……って提案だったわよね、確か?」


「……ええ、その通りです」


 その言葉に、俺は一拍だけ間を空けてから返答した。


 そう……俺はこのメンバーで、第二階層の攻略を進めてしまおうと画策しているのである。

 むしろ第一階層のボス討伐など、もののついでだ。ゴウキさんとレイナさんに上層へと進出して貰うための事前準備、踏み台でしかない。


 アッサリと俺が認めたからだろうか、レイナさんは少し意外そうな面持ちで片眉を持ち上げていた。


「……随分と早急な話じゃない? わざわざ急ぐ理由がないのなら、これまでと同じく個別に活動すれば良いと思うけど」


「はい、本来ならそうなんですが――」


 そこで発言を区切った俺は、本人にもわからないくらいコッソリと、僅かにも満たない間だけベルの方へと視線を向ける。

 それに唯一気づいたのは、俺の正面に立っていたレイナさんだけであった。


「……ふーん」


 それで何かを察してくれたのだろう。彼女は最初と同じような相槌を打つ。

 けれど、それでも何も指摘しないでくれたことが嬉しくて、不覚にも俺は涙ぐみそうになった。


 実際、レイナさんには預かり知れぬことではあったが……昨日のカエデとの会話の後、意識を取り戻したベルと俺の間には、言葉では言い表せない分厚く高い壁が出来上がっていた。

 飾らずに言ってしまえば、距離を開けられてしまったのだ。精神的にも、物理的にも。


 基本的に、他者には無感情で無反応なベル。

 だが、俺に対してだけは近づくのを避けるような節が生まれつつあるのだ。


 恐らくは苦手意識を持たれたのだろう。俺が距離を詰めようとしたり、話し掛けようとすると即座に逃げられてしまう。

 こうして一緒のパーティーを組んで貰うための説得をする際も、俺ではなく、その場にいたカエデに変わってもらったくらいだ。


 長々と他の《冒険者》と協力する利点……特に、索敵能力と戦闘能力の向上によるポイント回収の効率化の辺りをジックリと語り、なんとか取り付けた了承。

 もちろん、その後は俺を含めた三人で第一階層に戻り、その効果を実際に体感して貰っている。でなければ今日、この場に彼女はいない。


 効率では単独行動(ソロプレイ)より集団行動(パーティープレイ)の方が勝るのは、どのゲームでも同じだよね。一部例外を除き。


 ベルはポイントさえ稼げれば良いので、手段や方法にまでは拘らない。ある意味で、その点だけは救いだっただろう。

 と言うか、そこまでしないと彼女とパーティーを組めないということ自体が、色々とおかしいとは思うのだが。


 すべての元凶はベルの父親だと、恨み辛みを勝手にぶつけておく。


 おのれこのうらみはらさでおくべきか。

 心ばかりの呪いの呪文だ、遠慮なく受け取って毛根死滅でもすればいい。


 ……と、内心で愚痴を吐くのもいい加減にしよう。


「正直に打ち明けてしまえば、お二人を呼んだのは第二階層を安全かつ効率的に攻略する上で、俺とカエデ……あと、ベルの実力だけでは足りなかったからです。都合よく利用する形になって、申し訳なくは思うのですが……」


「いや、第二階層へは俺もそろそろ挑戦しようかと思っていたところだからな。驚いただけで、問題はないっちゃぁないんだが……」


 俺が頭を下げながら本日の目的を誤魔化さずに告げると、ゴウキさんは居心地悪そうに髪を掻いた。

 その視線の先を辿ってみると、やはりと言うかベルの方を見ている。


 ああ、だよねぇ。

 ここに彼女がいれば、何かあったのかと勘繰りますよねぇ、普通は。


 事実、俺が第二階層の攻略を決意したのは、ベルに今まで以上に短期間で多くのポイントを稼がせるためである。

 一匹10ポイントの下層のゴブリン相手では、どれだけの時間や労力を費やそうと限界が見え始めているのだ。


 かと言って、またもや第二階層へ身捨て同然に突撃されるのも戴けない。俺たちが一緒であれば、相当に危険を回避できるはず。


 ――まあ、他にも思惑がないとは言わないけどさ。コッチは保留だ。


 期待させるだけさせておいて、やっぱり無理でした、なんてことは言いたくない。

 できる限りの努力はするが、実現可能かどうかは未知数だ。目処がたつまでは、俺の胸の内に留めておきたかった。


 ひとまず現状、最優先で成さなければならないのはベルに安全にポイントを稼がせること。

 その場しのぎの対処療法にも思えるが、逆に言えばこれくらいしか出来ることがない。


 もどかしい思いで、俺は唇を噛んだ。


「――まあまあ、いいじゃないッスか。単純に、戦力が一人増えたと考えるッスよ。その分だけ楽ができるッス」


 するとその時、そのタイミング。

 まるで俺を庇うかのような形で、クロからのフォローが入る。


 少しばかり驚愕しながら顔を向けると、そこでは彼女が微かに口端を持ち上げながら、パチリと小さく目を瞑ってきた。


 コイツ……無駄に良い後押しじゃないか。

 くっそ、好感度爆上がりしちまっただろ。クロの癖に生意気な。


 胸の奥から湧き上がってきた言い表せない感情に、俺はグッと喉を詰まらせる。


「……はぁ。まっ、クロ助が言う通りだな。今回の発案者は小僧だ。参加者を決める権利も小僧にある」


 と、それに踏ん切りがついたのか、ゴウキさんは何かを吐き出すように肩を竦めた。その後、微妙になった空気を書き換えるように軽い調子で語る。


 同時に――


「あんま、お前も一人で考え込むなよ。オジチャンだって大人なんだから、子供が変な遠慮なんかしてんじゃねぇって」


 ぼそり、と。

 俺の横を通り過ぎてボス部屋前の扉へと近寄る際、彼は誰にともなく小声で呟いた。


 誰に宛てた発言かなんて、考えるまでもないだろう。


 あー、もう。ズルいくらい格好いいなぁ……と、俺は脱力しながら乾いた笑みを浮かべる。

 目先の対応で一杯一杯な自分との差に、もはや妬みすら出てこない。


 そして、コツン……と。


 次は私の番だとばかりに、今度はレイナさんが水晶の填まった杖の先で頭を軽く叩いてくる。


「今度、都合がつくときにでも《酒場》で何か奢りなさい」


「……あはは、お手柔らかにお願いします」


 それで貸し借りナシにしてあげる――なんて。

 そう暗黙に、俺の方すら見ずに告げてきた彼女の背中には、頼もしささえ覚えるほどである。


 ……なんだかなぁ。


 全員、俺なんかよりもよっぽどデキた人間じゃないか。比べ物にならない。降参だ。白旗を降ろう。


「ソーマさん、行かないんですか?」


「……うん、行くよ。行くに決まってるさ」


 いつまでもその場から動かない……いや、動けなかった俺に、カエデから声が掛かってくる。

 それに答えつつ、俺は一度大きく息を吸い込んで、それから吐き出す。


 ぎゅっと目蓋を閉じ、そして見開く。いつもよりも風景が鮮明に見えた気がした。

 肩の荷が降りたような気分だ……否、事実降りたのだろう。気合いを入れ直すつもりで頬を叩けば、パシンと小気味の良い音がする。


「よしっ……それじゃあ、まずは前哨戦代わりのボス戦だ。油断せずにやろう」


「……はい、そうですね」


 時間をかけ、ようやく振り返った視界に入ってきたのは、嬉しそうに微笑んだカエデの顔である。

 彼女はさりげなく俺の耳元に口を寄せ、他の誰にも聞こえないくらいの声量で囁いてきた。


「ソーマさんに頼まれていたことは達成できそうです。ただ、こちらにも都合があるので、三日後……水曜の放課後しか時間がとれませんでしたけど」


「そうか……いや、ありがとう。むしろ他の皆もだけど、俺の我が儘に付き合ってくれてるだけでも嬉しいよ」


「いいえ、大切な仲間のソーマさんからのお願いですから。そもそも、ベルさんの力になりたいと思っていたのはソーマさんだけではありませんし、少なくとも私は迷惑だとは思ってません」


「……それはそれで申し訳ないんだが」


 最後にクスリと笑い声を漏らしながら離れていくカエデ。その足取りは軽く、まるで雲の上を歩いているかのようだ。

 その後ろ姿に、俺はこれからは軽々しく彼女に頼み事をしないことを硬く決意するのだった。この人メチャクチャ身内に甘いぞ。


「けど……それでも今日を含めて三日か。こりゃあ、厳しい勝負になるな」


 頭の中で今後の予定を浮かべた俺は、難しいパズルを目の前にしたような心境で唸る。


 不可能ではない……はず。昨日の手応えからして、この面子で無理だとは思わない。

 問題は、俺の手ではどうしようもない運だけか……今回ばかりは、天に祈るしかないか。


 失敗した未来の予想図を振りきるよう、俺は首を振って思考を切り替える。

 大丈夫、大丈夫だ――と口の中で数回、呪文のように唱えてから俺はキッとボス部屋へと続く扉を、親の(かたき)が如く睨み付けた。


 ヤル気……もとい、殺る気は十分。覚悟は出来た。

 やることは今までと変わらないのだ。シンプルに、ダンジョンを攻略すればいい。するだけでいい。


 少なくともそれは、これ以上、俺がない頭を振り絞って悩み続けるより、よっぽど有意義な時間の使い道だろう。


「さて……それじゃあ今日も一日、精一杯頑張りますか!」


 精々、後になって後悔しないように。

 俺は扉を開け、ボス部屋へと足を踏み入れた皆を追いかけるのだった。



 

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