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45 計画

 

 前回のまとめ


 ベルとの逢瀬(うわきげんば)カエデ(ヒロイン)に見られた。


ソーマ「だから違うって!」

 

 




「いや、待ってくれ。これは違うんだ」


「はて、まだ私は何も言ってませんよ?」


 気つけば俺の口をついて出てきていたのは、そんな懇願に近い言葉だった。

 なにが違うのだろうか――それすら自分でも理解していなかったが、とにかく喋らなければ不味いと本能が警告を発している。


 なんと言うか……怖かったのだ。

 下から見上げたカエデの姿からは、微笑んでいたにも関わらず何処か凍えるような怒気を放っているように感じられた。


 きっとそれは、笑っているようで笑っていない、あの(くら)い色を宿した瞳のせいなのだろう。


 ……えっと、怒ってますか?


 俺が内心でそう疑問に思ってしまうのも、仕方がないことだった。恐ろしくて実際には聞けなかったけど。


 しかし、それも考えれば当然なのかもしれない。


 先程の口調からするに、最低でも俺がベルからの鉄拳制裁を受けていた時点で、気付けなかったがカエデはこの場にいたはず。

 すると彼女には、俺がベルにあれほど激怒させるだけの『なにか』をしたようにしか見えなかっただろう。年下の中学生相手に……だ。


 ヤバい。俺の評価がマッハでヤバい。


 元々あるかどうかもわからなかったけど、ここ数日で築いてきた信頼とか友情にヒビが入りそうな予感がする。


 そもそも、何故、カエデがこの場にいるのか。

 それは俺がベルを追って第二階層へと跳ぶ前に、デバイスで彼女に救援要請を入れていたからに他ならない。用意しておいた保険だ。


 さすがにどんな危険が待ち受けているかも判明していない階層へと、一人で潜るのは無謀だと思ったし、戦力は多ければ多い方がいい。

 俺が連絡をとれる相手の中で、クロ、レイナさん、ゴウキさんは《小鬼の迷宮》の第二階層へと進出していない……と言うか、昨日のあれはベルの戦闘に介入した扱いになっているので、彼らはボスを倒したと見なされていないのだ。


 そんな中で、唯一俺とベルを除けば第二階層へと進んでいるカエデを頼るのは、その時点では自然な選択だったろう。


 加えて、パーティーを組んでいる相手であれば、デバイスのマップ機能を通してお互いの詳細な位置関係を把握できる。

 それは地図を埋めていない場合、本人を中心とした距離や方角しか表示されないのだが、それでも別行動をしている仲間を探すのに有効な方法であることに変わりはない。


 時間が押している状況で、俺が先行できると言う意味でも、その後で確実に合流できると言う意味でも、彼女は無視できない存在だったのだ。

 実際、カエデとはこうしてすべてが終わった後であるが、無事に俺たちとダンジョン内で邂逅を果たすことができている。


「それで……なにが違うんです?」


「えー、それはだな……」


 ……ただ、こうして静かに憤怒しているように見える本人を前にすると、はたして本当にその選択が正しかったのかどうか、疑問にも思えてくるのだが。


 特に言葉を荒らげることもなく、小首を傾げながら尋ねてくるカエデ。それは普段の様子そのままで、しかし、それゆえに不穏であった。

 無言の圧力とでも表現すればいいのか。その威圧感には、彼女の父親である禅上院さんの面影を彷彿とさせられるのだ。


「ソーマさん。正直に言って、私は怒っているのです」


「は、はいっ!?」


 そんな部分で親と似通わなくても……と内心で恐怖していると、カエデはついに微笑みを消し、眉を寄せた厳しい顔つきになって俺に話し掛けてくる。

 それに対する返事はやや上擦ったモノになったけど、彼女は気にせずしゃがみこみ、床に転がっている俺の頬を両手で挟み込んだ。


 ――けど。


「……どうして、こうなるまで無抵抗を貫いたんですか」


「え……?」


 次に続けられたカエデの呟きは、俺にとって心外ともとれる言葉だった。


「詳しい事情は、私にはわかりません。この場に着いた時、既にソーマさんはベルさんに殴られている最中でしたから」


「あー、あれはだな……俺に非があったから。致し方なしって状況だったんだよ」


 触れるか触れないか。そんな優しげな手つきで、確かめるよう打撲の痕をなぞる彼女の繊細な指に、くすぐったい思いで俺は僅かに目を細める。


 回復薬のお陰で血は止まってるし、大きな傷はほとんど治癒してるだろう。

 ただ、それでも再生したばかりの皮膚を弄られるのは、随分とむず痒い気分になったのだが。至近距離から彼女に見つめられているのも大きい。


「そうだろうとは思いましたから、あえて介入はしませんでしたけど……心臓が止まるかと錯覚するほどに驚きました」


「それは……ごめん?」


「知っていますか、ソーマさん。ごめんで済めば警察は要らないそうですよ?」


 むにぃーっ、と。

 傷の具合を確認し終わったのか、今度は俺の頬を摘まんで引き延ばしながら、困ったように目尻を下げたカエデは告げる。


「心配しました。邪魔をしてはいけないと堪えつつも、何度も反射的に飛び出してしまいそうになって……」


「…………ごめん」


 その彼女の告白に、やはり俺はそう返すしかなかった。


 いや、まあ。目の前で一方的に人が殴られている現場に遭遇すれば、そりゃあ驚愕するよな。

 そこで冷静に事態を観察し、手出しを自重してくれた彼女には、もう感謝しか湧かないや。


「それで……ここまで身体を張ったんですから、ベルさんの方はなにか進展があるんですよね?」


「……どうだろう。一応、自分の境遇が異常だとは理解してもらえたけど、父親から引き剥がすにはまだ手間がかかりそうだな」


 穏やかな眼差しで意識を失っているベルを眺め、その推移を尋ねてくる彼女に、俺は頭の痛い思いで額を押さえた。

 ついでに言えば、きっと俺はベルから大層嫌われてしまっただろう。あれだけ大泣きされたのだから、それも仕方がないのだが。


 はぁ……と、ため息がこぼれ落ちる。


 切羽詰まっていたとは言え、俺の行為は悪手でしかなかったのではなかろうか。

 後になって振り返ってみると、そんな心配しか出てこない自身の行動に嫌気が差してくる。


 前に進んでいることは間違いないのだろうけど……その為に支払う犠牲が大きすぎやしませんかねぇ。主に俺の精神的に。


 こんな時、颯爽と事件を解決して、困っている人を助けられる創作上の登場人物(しゅじんこう)が素直に羨ましくなる。どうしてあんな妙手ばかり思いつくんだろうか、ちょっと理不尽だ。


「誰かを助けるのって、本当に難しいことなんだなぁ……」


「それはそうですよ。基本、私たちは《冒険者》という立場を抜きに考えれば、ただの高校生でしかないんですから。人生経験もそれ以外の力も、何もかもが足りません」


 疲れたように漏らした俺の言葉を聞きつけたカエデが、諭すような口調で語る。

 いえ、あなたは『ただの高校生』とは言えない家庭環境なのでは……との突っ込みが口から出かかったが、そんな気分でもないので黙って飲み込んだ。


 事実、そうなんだよなぁ。

 まさか直接的な暴力を振るうわけにもいかないし、それ以外の分野ではトコトン無力なのが俺だ。


 無策で突っ走って、興味半分で首を突っ込んで、盛大に失敗して痛い目を見る。ダンジョン関連ではそれが特に顕著になっている。

 情けないな、と俺は力なく笑った。


「――ですが」


 ――しかし。


 そんな風に俺が凹んでいると、カエデは慰めてくれているのか、イタズラっぽく片目を閉じて微笑んでくる。


「私は、そんなソーマさんに救われた人だって、何処かにいると思いますけど」


「……そうかぁ? 俺のこれって、言ってみればただの独善だぞ? 我が儘で無責任で、ついでに自己中心的で、自分に酔ってるだけなんだぞ?」


 評価してくれるのは嬉しいが、そこまで俺は上等な人間じゃないんだが……なんて微妙な顔で口にすると、彼女はクスクスと口元に手を当てて上品な笑い声をあげた。

 

「個人の価値を決めるのは、いつだって他者ですよ。あまり自分を卑下するのはやめてください」


 そう言って、ペチンッと俺の額を指で弾くカエデ。痛くはなかったが、本人は随分と楽しそうな様子である。

 加えてなんの気紛れなのか、床に座り込んだ彼女は俺の頭を持ち上げ、自身の膝の上へと誘導した。


 えーっと、これはあれかな? 噂に聞く膝枕ってヤツなのかな?

 後頭部から伝わってくる柔らかい感触が心地よい。いつまでも堪能してしていたくなる。この前では最高級の枕だって霞んでしまうだろう。





 ……うん、ちょっと待て。なんでこうなったし。


「どうしたんですか楓先輩!? 何処かで頭でも打ったんですかっ? 病院いきますかっ?」


「どうしてそうなるんですか! あと、敬語も先輩付けも禁止です!」


 呆気にとられた俺が思いもよらぬ幸運に我を失って叫ぶと、楓先ぱ――もといカエデは怒ったように頬を膨らませる。

 ついでに身体を起こしかけた俺の頭を掴み、押し付けるように再び膝枕の体勢へと持っていったのだが……夢じゃないよね?


「まったく、どうしてそうなるのですか。これは頑張ってるソーマさんへの、私なりのご褒美ですよ」


「え、えぇー……ご褒美って言われても、普通とは逆の意味で納得できない。まだ罰ゲームとか、そっち方面の可能性は?」


「ありませんから!」


 俺が現実感のない現実なんて訳がわからないモノと脳内で盛大な格闘を繰り広げていると、彼女は不満げに眉を吊り上げて否定の言葉を口にする。


 いやでも、結果と対価が釣り合ってない気がするんですけど。

 だって俺がしたことって、ベルを虐めて泣かせただけだよ? 人としては最低の行いだよ?

 

 それを聞いた俺が更に理解できないような、おかしな表情を作っていると、もういいですとばかりにカエデは鼻を鳴らす。

 一つだけわかったのは、先程までとは打って変わり、彼女の機嫌が猛烈に悪化していることだけだ。


「……それで、ソーマさんはこれからどうするつもりなんですか? まさか、ここで手を引く気はないのでしょう?」


「ん? んー、いやそうだけど……」


 内心で大きく首を傾げて十回転ほどさせつつ、俺はカエデの問いに返事をする。どうやら、俺の疑問には答えてくれないようである。


 個人的には物凄く気になる。気になるんだけど……ここで頭を悩ませてもどうしようもなかったので、俺はその好奇心に蓋をしながら彼女の質問への答えを返した。


「なんだか早速で情けない話ではあるんだけど、カエデには三つほど頼みたいことがあるんだ」


「私に……ですか? 可能な範囲であれば、協力は惜しみませんが……」


 その言葉に対し、カエデは意外そうに小さく目を見開く。


 うん。実行できるかどうか、成功するかどうかも不明な計画だが、出だしから躓かなくて本当に良かった。これには彼女の協力が必要不可欠だからね。


 まあ、考えていることは他力本願と言うか、カエデ以外の皆の力も借りないといけないんだが……それはとにかく。


 まずは最初の関門を潜り抜けたことに微かな安堵の息を漏らしつつ、俺は訝しげな表情を浮かべるカエデに続けて当面の目標を語った。


「ひとまず明日から、俺はベルをパーティーに入れた状態で第二階層の攻略を始めたいと思うんだ」



 

 

 そんな訳で、次回からは第二階層の本格的な攻略に移ります。

 ソーマがどんな計画を思いついたかは、全部終わってから説明することになるかな?


 そして何より、ダンジョンだ……ダンジョンを攻略するのだ……。

 

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