表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/63

27 出撃準備

 



 魔物を狩る、ポイントを確認する、場所を移動する。

 魔物を狩る、ポイントを確認する、場所を移動する。

 魔物を狩る、ポイントを確認する、場所を移動する。


 ……いつまでこれを続ければ良いのだろう、と影は疲労から鈍痛を発し、霧がかかったように霞んだ思考で考える。


 今までどれだけの魔物を倒してきた? これからどれだけの魔物を倒さなければならない?

 数えられないほどの魔物を倒したはずだ。なのにまだ戦わなければならないのか。


 あの日、《冒険者》になれば何かが変わるかと思っていた。無限に続くような鬱屈とした日々が、少しでも変化していくことを影は望んだのだ。


 現状とは違う、全く別の日常を望んだのだ。


 けれど、影を取り巻く環境は変わらない。むしろ悪化したとすら言えるだろう。

 そして、それは今も悪化し続けている。


 どうしてこうなったのだろう。自分は一体、何を間違えたのだろう。


 影は何度も何度も自問自答を繰り返すが、いつまで経っても答えは出てくれなかった。





          ***





 そして時は流れ、放課後。

 俺は一旦家に帰り、自室に荷物を置いて一休憩していた。

 制服は既に脱ぎ、くつろげる部屋着に着替えている。


 今回は複数の《冒険者》の合同計画だということで、事前に集合時間を指定されているのだ。

 その結果、授業終了後から微妙に時間が空いてしまった俺と楓先輩は、一度家に帰って互いに準備を整えることになった。


 とは言え、《冒険者》の場合は装備や回復薬などのアイテムも含め、すべて普段から情報化してデバイスの中の【個人倉庫(インベントリ)】にしまって持ち運べてしまうので、強いて用意するものと言えば心構えくらいだろうけど。


「それでも以前と違って毎回確認しちゃうのは、やっぱり自分でも苦い薬(トラウマ)になってるのかな」


 俺は部屋のベッドに転がりながら、脳裏に初めてゴブリンファイターと戦ったときの失敗を思い浮かべる。

 自分では吹っ切ったと思っているのだが、やはりあれだけの経験は簡単には忘れられないのだろう。


 ……まあ、用心深くなる分には構わないか。


 俺はデバイスを操作して、【個人倉庫】に収納しているアイテムを表示させる。



――――――――――

 装備品

・初級魔術師の杖

・初級魔術師のローブ

・初級冒険者の上衣

・初級冒険者の下衣

・初級冒険者の靴


 アイテム

・小鬼戦士の片手剣

・小鬼戦士の小盾

・応急治療セット

・下級回復薬×2

・下級解毒薬×2

――――――――――



 装備品については……初期装備から変化なし、だな。

 杖はともかく、防具辺りはそろそろ《換金店》で上位の物に買い換えたいと考えてはいるのだが、正直、ポイントがカツカツでそんな余裕がない。


 アイテムに関しては……小鬼戦士シリーズの武具は、この前のボス戦でドロップしたものだな。装備できないからアイテム欄の肥やしなってるけど。

 売れば幾らかのポイントには変えられるのだが、心情的に記念品扱いと言うか、過去を乗り越えた証として取っておいてある。と言うか売れない。


 楓先輩の方は前回で大剣を得ていたので、今回の戦利品には興味が湧かなかったのだろう。二つ返事で譲ってくれた。


 応急治療セットと回復薬、そして解毒薬は、怪我や毒を食らった時のための保険だ。特に即効性のある薬の方は、俺と楓先輩の分で二つ、普段から常備するようにしている。

 一瞬で怪我を治せる回復薬は、いくら準備しといても多すぎると言うことはない。もちろん、以前に楓先輩から貰った分は既に現品で返却してある。


 解毒薬は未だに使う機会に恵まれていないが、薬がある以上は毒を扱う敵もいずれは出てくるのだろう。

 あの時買っておけば……なんてことにならないよう、先行投資として用意してある。


「他に必要なものは……今は特に思い付かないな」


 と言うよりは、あっても用意できないと表現すべきだろう。


 大体、戦闘中のような大きな隙を晒せないタイミングでなければ、好きな時に現実世界へと戻ってこられる点も大きい。

 最悪、足りないものがあれば、その場で帰って買うなり何なりで用意することも可能だ。


 加えて武器に関しては、現実世界で流通しているものがダンジョンで通用するとは思えなかった。

 最弱のゴブリンでさえ、殴った時の感覚的には人間よりも頑丈な手応えを感じてるし。


 流石に銃レベルであれば通じるだろうけど、一般人が手に入れられる物じゃないからね。

 それなら素直に、換金店で買える武器防具を装備しておいた方がいい。初期装備でも意外と頑丈だから、あれ。


 むしろ職業補正とでもいうのか、俺が【召喚士】に相応しくない物を扱おうとすると、何故か急激に重く感じるんだよな。以前試しに冗談で台所の鍋の蓋を持ち上げたら、ダンベルか何かかと思ったし。

 この辺りを含め、《冒険者》に関する現実の法則は、ゲームのような要素に多々書き換えられている。鍋の蓋が盾扱いとか、何処の国民的RPGだよと。


 魔術師職がガッチガチに近代装備で固めて前衛で無双! ……とか、ウサギには許せなかったのだろうか。《冒険者》には平等を強いてる部分があるし。


 とにかく。

 少なくとも杖に関しては、今まで突いたり殴りつけたり乱暴に扱っても折れることはなかった。

 一度【個人倉庫】に収納すれば、返り血などの汚れや細かな傷も消えているし、それは防具の方も同じだ。


 一度手入れをしようと装備を現実世界で取り出したことがあったけど、明るい場所で見ても新品同様の状態で驚いたことがある。

 恐らくはダンジョン産の装備には、一定範囲の自己修復機能が付加されているのだろう。でなければ説明がつかない。


 それが装備している間限定なのか、もしくは永続的な効果なのかはわからないが……後者であれば、また企業が好きそうな金儲けの種が見つかったことになる。


「……いや、これ以上は俺が考えても意味ないか。あとで楓先輩にも装備の状態を尋ねて、そこで気づいていなければ教えておけば良いだろ」


 それであの禅上院さんに話が伝われば、彼ならなんか上手いことしそうだし。

 俺は嫌いじゃないんだけどな、あの人。俺の方は一方的に嫌われてるけど。


 それはそうと、こうして楓先輩抜きでダンジョンへ潜る準備をするのも珍しいことだ。

 いつもは授業が終わって放課後になり次第、彼女と一緒に学校からダンジョンへと跳んでいる。

 その際に二人で相談してアイテムなども購入していたので、今の状況は少しだけ新鮮な感じがした。





「――んー、そろそろかな?」


 そうして、あーだこーだと暇を潰していると、気づけばクロが指定してきた時間が迫ってきていた。

 時計を確認する限り少し早いが、集合に遅れるよりはマシだろう。


 俺はベッドから起き上がり、デバイスを操作して服装と見た目を《冒険者》のものへと切り替える。

 その後、続けて画面に指を滑らせ、転移門選択の画面を呼び出した。


 ただし、ここで選択するのはいつものダンジョンではない。

 現状、《冒険者》の主なポイントの使用先である《換金店》、能力強化に続く三つ目の選択肢――《酒場》である。


「それでは、ポチっとな」


 もうすっかり見慣れてしまった光の粒子に包まれ、俺の視界が眩い光に覆われる。

 そして次に目の前が晴れたとき、俺は窓も扉もない広々とした室内に立っていた。


 板張りの床に、暖色系のランプが吊り下げられた天井。木製の丸テーブルと椅子が一定間隔で数多く並び、壁際にはカウンター席と酒瓶の展示された棚が設置されている。

 何処からか流れている落ち着いた雰囲気の音楽(BGM)と言い、第一印象はまるっきりゲームで出てくる酒場だった。


 悲しいのは、これだけの設備が整っているというのに、利用客が一人もいないという点か。

 けれどもそれは、今の時点では仕方がないことでもある。


 ここは稼いだポイントを使い、《冒険者》が飲み食いして騒ぐための空間……いわゆるポイント限定の飲食店のような場所だ。その名に違わず酒も出る。

 だが現在、その利用客である《冒険者》自体の数が少ないし、ここを使えるほどポイントに余裕のある者もいないだろう。需要がまるでない。


 いずれはここが賑わう状態になると、あのウサギは考えているのだろうが……少なくとも、今は俺の貸し切り状態だ。


 ……いや、それもすぐに終わってしまったか。


 俺の視界の隅の床に、人が一人、無理なく入れる程度の大きさの転移門が描き出される。

 そこから飛び出してきたのは、今回の計画の立案者であるクロであった。


 肌を大きく露出させるような薄手の上衣に、太ももの中程までしかない丈の短い下衣。

 その上から灰色のフードつきコートを着込み、首から黒色の石をあしらったシンプルな意匠の首飾りを下げた姿は、見た目だけなら立派な《冒険者》に見える。見た目だけならな。


 彼女は周囲を見渡し、既に俺が来ていることを確認したのだろう。手を振りながら駆け寄ってきた。


「おー、ソーマっち! これはまた、随分と早くないッスか?」


「遅れるよりは良いだろ。そっちこそ、まだ時間には余裕があるんじゃないのか?」


「いやいやー、主催者の僕が遅れるわけにはいかないッスからね。本当なら誰よりも早く、現場入りしときたかったッスけど」


 先を越されちゃったッスね、と言葉遣いに似合わず殊勝なことを口にするクロに、俺はやや意外に思いつつも一つ頷く。


 今回の計画は、クロの、クロによる、クロのためのボス攻略ツアーだ。

 俺たちにも利益があるとは言え、こうして参加者に気を利かせてもらえるとコチラもやる気が出る。


「俺はそれほど気にしないけどな……それより、他の参加者について教えてもらえないか?」


 ボスの居場所の情報もだが、これも俺がボス攻略ツアーに参加した理由である。

 まだ誰も顔を見せていないようだが、それならそれで先に名前くらいは知っておきたいものだ。


 俺の問いに、口を開いて答えかけたクロは、けれどもすぐに苦笑しながら首を振る。


「それは……――と、どうやら本人さん達に聞いた方が早そうッスね」


 視線を俺の後ろに向けた彼女に釣られるよう、俺は背後を振り返る。

 そこでは先程のクロと同じよう、三つの転移門が床に描き出されていた。


 どうやら、残りのメンバーがやって来たようだ。



 

 

 そりゃあ、あれだけの失敗をすれば少しくらい用心深くなってもらわないと困りますよ。


 装備に関してはダンジョン産の物には補正がかかっているので、最下級の初期装備でも下手な現実世界のものよりも優秀な性能を発揮します。これぞウサギクオリティ。

 ぶっちゃけ、現実産の装備はダンジョンでほとんど役に立ちません。だから余程の事情がない限りは登場させません。


ウサギ「半ば以上ファンタジー的存在の私を舐めんなよこら」


 それにある程度は質とか装備制限とかで差をつけないと、魔術が使えない前衛職が不憫化しそうでしたし。ゲームでも戦士職の方が、魔術師職よりも優秀な武器防具を装備できますよね? あれと同じだと考えてください。


 色々と意見はあると思いますが、少なくとも本作品ではこの方向性で行こうと思います。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ