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21 小鬼の迷宮1F-ボス戦3

 



「再挑戦しに来たぞ! このゴブリンどもっ!」


 その大きな叫び声とともに、俺は一歩ボス部屋内へと足を進める。

 その途端、部屋の中央の床が眩く発光を始め、巨大な円陣を描き出した。


 無論、そこから出てくるのはこの部屋の、そしてこの階層を守護するボス――ゴブリンソルジャーと、その取り巻きである武器持ちゴブリンたち。

 しかし、てっきり俺は前回と同じく大剣持ちのゴブリンソルジャーが姿を表すと思っていたのだが、出てきたのは片手剣と小盾を装備した個体であった。


 もしかすると、挑戦する度にボスが装備している武器は変わっていくのかもしれない。

 それがランダムなのか、もしくはなにかしらの法則があるのかは、現時点で判断がつかないが……関係ないな。


 本音を言えば、完全に前回と同じ状況を再現した上で、それを完膚なきまでに粉々に粉砕してやりたかったのだが、得物が変わった程度で俺たちの戦意が失われるわけもない。

 ついでに様々な武器を使い分けるのなら、アイツは小鬼兵士(ゴブリンソルジャー)ではなく小鬼戦士(ゴブリンファイター)と呼称するべきではないのかとか言う、至極くだらない考えが頭を掠めたが……それもまた、どうでもいいことだ。


 心は熱く、頭は冷たく。

 そんな理想の状態を維持するよう努めながら、俺は右手に握っていた杖を掲げた。


「――【召喚(サモン)・《黒狼(ブラックウルフ)》】!」


 当然、最初に唱えるのは信頼する相棒を呼び出す魔術、召喚術だ。

 俺の身体から溢れだした光の粒子が召喚陣を描き、そこから全長二メートルを越える黒狼――クロードが飛び出してくる。


 どうやら言葉をかけずとも、クロード自身も状況を理解しているようだ。

 すでにやる気……否、殺る気は十分と言った様子。もしかしなくとも、前回のボス戦で苦渋を味わったのは俺とカエデだけではなかったのかもしれない。


「グゥ――ルルルルルッッ!」


「ぎぎゃーっ! ぐぎゃぎゃぎゃーっ!」


「「「「げひっ!」」」」


 いつもよりひときわ獰猛な唸り声をあげ、牙を剥き出しに威嚇するクロードの存在に、ゴブリンソルジャー改めゴブリンファイターは、自陣を鼓舞するよう大きく声を張り上げる。

 それを合図として、答えるよう同じく鳴き声を上げた取り巻きのゴブリンたちは、一斉に俺たちへと駆け出してきた。


 前回はここで俺たちも突撃し、一気に乱戦模様へと持ち込んで失敗したわけだが……同じ轍を、二度踏む訳にはいかない。

 それでは何のために、この三日間があったのかわからなくなる。


 俺が隣に立つカエデに視線を向けると、彼女は今にも敵の中央へ飛び出していきそうな顔をしながらも、それを堪えながら一つ俺に頷いた。


「…………すぅ」


 息を吸う。そして吐く。

 バクリバクリと煩い心臓の鼓動を耳の中で感じながらも、俺は再び握りしめた杖を掲げる。


 これが、俺の出した答え。俺に足りないものを埋めるうちの一手。


「――【召喚(サモン)・――《魔梟(マギオウル)》】ッ!」


 ――二体目の、召喚獣だ。


 俺が唱えた呪文と共に、二つ目の召喚陣が空中へと投射される。

 その中央から姿を見せたのは、翼を広げて空中を飛翔する一羽の梟だった。


「ホーッ、ホォーーッ!」


 ボス部屋の空を羽ばたき、一番の高みから戦場を見渡す魔鳥。

 大きさは現実世界での梟とさほど変わらないだろう。体高三十センチ、翼を広げた全長は一メートルにも届かない。クロードやダンジョンの魔物と比べると、かなり小柄の部類だ。


 瞳の色は透き通るような翡翠色で、全身の色は白。

 ただし、その翼の先へ流れるようにして、光沢のある薄緑色が羽毛に混じっている。


 俺がヒスイと名付けたこの召喚獣は、クロードのように直接魔物と爪や嘴を交えることに向いていない。

 当たり前だ。ヒスイは見かけ通りの軽量だし、力もあまり強くない。ある意味では、俺と似たような立ち位置だろう。


 では、俺はヒスイに何を求めたのか。


 召喚獣である以上、そこには召喚士の意識的、無意識的な願望が反映されている。

 俺がクロードを召喚した時、絶対に裏切らず、背中を預けられ、また俺に向かってくる全ての敵意を喰らい千切る直接的な力を願ったように。

 ヒスイの場合もまた、俺の潜在的な欲望が契約を引き寄せたはずなのだ。


 初めて召喚されたヒスイを目にした俺は、しばらく考え……そして理解した。


 俺が新たな召喚獣に求めたもの、願った役割は――高速で戦場を移動し、相手の手の届かぬ空中位置から一方的に攻撃する広域制圧役だったのだと。


「ヒスイっ! 全力で、“敵を薙ぎ払え”!」


「ホォォオオオッ!」


 俺の命令に答えるよう、力強く鳴く一羽の魔鳥。

 その身体からは淡い燐光が発せられ、まるで一筋の流れ星のように空中を飛び回る。


 ――そして、次の瞬間。


 俺たちに飛び掛かろうとしていたゴブリンの集団は、そのすべてが唐突に室内に発生した、轟々と渦巻く巨大な風の檻に閉じ込められた。

 無論、これは自然発生したものではない。ヒスイが使用した風の魔術(・・)によるものだ。


 魔術――特定の技能を習得しているものが、己の精神力を消費して発動させる現象。

 俺の召喚術も分類上は魔術だが、まあ、これは例外とするべきだろう。


 そして限られた職業とは言え、《冒険者》が使えるのだ。同じく技能を習得できる召喚獣に、魔術が使えない道理はない。


「がぎゃ!? ぶげっ!?」


「ぐげっ!? がぴゃ!?」


 檻の中から、幾つものゴブリンたちの驚愕混じりの悲鳴が聞こえてくる。

 それに重なるようにして、円を描くよう高速で回転し続けていた風に紅い飛沫が混じり始めた。


「えげつないですねぇ。逃げ場のない刃の密室……ただそこに立っているだけで切り刻まれるんですから」


「その分、一日に何度も使える魔術じゃないけどな。俺の技能(・・)を上乗せしても、今のヒスイじゃ二回が限界……奥の手ってヤツだ」


 もはや真っ赤に染まりきった風の檻を見つめながら、口調では怖がっている風に、しかし実際は口元に笑みを浮かべたカエデが話しかけてくる。

 それに答えながら、俺はそろそろ十分かとヒスイに魔術の解除を命じた。


「ホーっ!」


 ヒスイの一声と共に、空気中に溶けるようにして消えていく風の魔術。

 途端、ベチャベチャッ――と巻き上げられていた血や肉片といったものが一斉に床へと落下し、生々しい音を立てた。


 すでに息のある取り巻きのゴブリンは存在しない。全員が全身を切り刻まれ、血溜まりと化した床に沈んでいる。

 そんな中、唯一、未だに両の足で地に立ち、俺たちに殺意と憎悪の視線を向けてくる存在があった。


 ゴブリンファイターである。


「ぐっぎゃがあぁぁぁああッッ!」


 配下が軒並み耐えられなかった魔術に打ち勝ったのは、さすがは腐っても、一つの階層の頂点と言うべきか。

 けれど、その代償は決して軽くない。


 【自己治癒】の技能が発動中とは言え、身体中は傷まみれ。俺の目からすれば、立っていられる方が不思議なくらいの死に体だ。瀕死の重傷だ。

 それでも、血塗れの顔を憤怒に染め上げながら、ボスは雄叫びを上げながら単機で俺たちに突進してきた。


 それは魔物ゆえの闘争本能がそうさせるのか……もしくはコイツにも、意地や矜持、誇りなんて代物があったのか。


 最後の足掻きとも取れる進撃を防ごうと、今回は俺の護衛に徹していたクロードが前に進み出る……が、それよりも先に駆け出した存在があった。


 カエデである。


「正直、個人的には互いに万全な状態でやりあいたかったです……けどぉ!」


 彼女は血色の瞳を細め、眼前のボスを見据える。

 その背中に背負った大剣を――かつて、前回のボスから勝ち取った武器を掴み、両手で抜き放ちながら、カエデは今回のボスに言い放つ。


「今回の私たちの目的は! あなた方を、完膚なきまでに下すことですから!」


 そして。


 ブンッ! と重厚な風切り音を伴いながら振り上げた大剣を、彼女はとある言葉(・・)と共に一気に降り下ろした。


「――【スラッシュ】ッ!」


 瞬間、カエデの動きが――加速した。


 いつの間にか、淡い蛍火のような光を纏う刃。超常なる力。

 それは一閃の煌めきと化して、ゴブリンファイターを真っ二つに斬り裂いた。


 一定以上の強化した技能を習得している《冒険者》に解放される能力――武技(アーツ)


 事前に話を聞いていた限り、今のは【剣術】のレベルをⅡに上げた際に使用可能となった武技だろう。


 肩から腰までを斜めに両断され、ズルリと崩れ落ちるボス。

 その前で大剣に付いた血糊を振り払いながら、ふぅ……とカエデは気の抜けた様子で息を吐いた。


「お疲れさま……これで、お互いに失敗の記憶は拭えたかな?」


「ソーマさん……はい、そうですね」


 背後から声をかけた俺に、彼女は少しだけ考える素振りを見せた後、ほんの僅か、見逃してしまいそうなほどに薄く微笑んだ。

 それはまるで、道端で咲く素朴な一輪の花のような印象で……俺は少しだけ、本当に少しだけ彼女に見惚れてしまう。


 いやまあ。いくら残念とはいえ、相手は学校でも有数の美少女だし、目を奪われるのも不思議じゃないんだが……。

 こう表現すると失礼ではあるが、なんだか初めてカエデのことを異性として認識した気がする。いや、本当に失礼だな、俺。


 改めて俺がそんなことを考えつつ、初めて覚えた感情に戸惑っていると――





 ――ぱち、ぱち、ぱち……と。


 俺とカエデと召喚獣たちしかいないはずのボス部屋に、誰かの手を叩く音が響き渡った。



 

 

 ソーマの目標――取り巻きゴブリンの封殺

 カエデの目標――【狂化】を使わずボスゴブリン討伐


 ここまで来てようやく、主人公たちの《冒険者化(人間離れ)》が進んだ気がする……。

 

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