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20 再挑戦

 



 あの戦い……小鬼の迷宮一階層のボス戦は、結果こそ俺たちの勝利で終わったが、俺にとってあれは敗戦と何も変わらなかった。


 だってそうだろう? 楓先輩がいなければ、彼女が【狂化】を使えなければ、死んで(負けて)いたのは間違いなく俺だったのだから。


 悔しかった。格下だと侮っていた相手に敗北するのは。

 情けなかった。いくらパーティーの仲間だとは言え、女子である楓先輩に頼りっきりだった戦況が。


 俺だって男だ。可愛い女の子の前では格好つけたいし、無理をするなら男の役目だと思っている。

 あくまでも俺個人の考えだから、賛同してくれる人がいなくても良いし、馬鹿な奴だと罵ってくれても構わない。


 ただ、あの戦いが俺の矜持を酷く傷つけたことだけは確かだった。


 ゆえに考える。

 今度こそ完全に、誰からの文句も出ないくらい、あのボスとその取り巻き相手に勝利するため、今の俺に足りないものは何だろうと。


 俺の場合、デバイスを通じて確認した、ポイントで強化できる項目は全部で九つ。



・契約枠拡張

・召喚枠拡張

・召喚時間延長

・召喚獣能力強化

・召喚獣技能習得

・召喚獣技能強化

・能力強化

・技能習得

・技能強化



 ……だ。意外に多い。

 一つずつ順番に見ていこう。


 契約枠拡張はそのままの意味だろう。契約できる召喚獣の数が増える。

 状況に応じて召喚する召喚獣を変えられると言うのは、案外馬鹿に出来ない利点だ。


 ただし、ここで注意しなければならないのは、この項目で拡張できるのはあくまで『契約枠』であり、そんな彼らを同時に召喚したい場合は、次の『召喚枠』拡張の項目にポイントを振らなければならない点だ。


 複数の召喚獣による一人軍隊……いい響きだ、ロマンじゃないか。


 ただし、このどちらもが拡張するに当たってのポイントが重い。

 具体的には一回目がどちらも500ポイント。それ以降も拡張する毎に500ポイントずつ増えていくようだ。


 まあ、当たり前か。本当に一人軍隊が簡単に実現できてしまっては、ゲームのバランスが崩壊してしまう。

 しかし、戦力を増強するに当たって、手軽で有力な選択であることには違いないだろう。


 召喚時間延長についても文字通りの効果だ。召喚獣毎に設定されている召喚限界時間を伸ばすことができる。

 例えば、現在俺の唯一の召喚獣であるクロードの召喚時間は、どれだけ頑張っても二時間が限度だ。

 最大まで召喚可能時間を使いきった召喚獣は、その倍の休息時間を設けなければ再召喚が出来ない仕様となっている。


 クロードの場合、一回目の強化は100ポイントで十分間。これ以降も100ポイントずつ強化費用が大きくなっていくようだ。

 昨日の時点で、この項目を一回でも強化してあれば……いや、やめよう。『たられば』の仮定を零しても仕方がない。


 その後に並ぶ六つの項目に関しては、それぞれ《冒険者》と召喚獣の違いがあるだけで、ほとんど対応する中身は同じだ。

 召喚獣能力強化では召喚獣のレベルを上げられ、召喚獣技能習得では新しい技能を覚えられ、召喚獣技能強化では既に覚えている技能の強化ができる。


 それらのポイント消費は召喚獣の種類によって大きく上下するが、強化を重ねる毎に強化費用も増加していく点では他と変わらない。


 ……さて、ではここからが本題だ。


 あのムカつくゴブリン集団を完膚なきまでに叩き潰すため、俺はどの項目を強化すべきだろうか。

 どれも重要なことには変わらないが、俺の所有するポイントは有限だ。使い道はよく考えて決める必要がある。


 やはり、召喚時間拡張を優先すべきか?

 悪くはないだろう。

 継続戦闘能力の向上は、ボス戦だけでなく普段のダンジョン探索でも重宝する。探索時間が伸びれば、それだけポイントも多く稼げるようになるはずだ。


 だが、それはある意味で間接的な強化にはなるが、俺自身の戦力が上がるわけではない。


 次に考えられるのは、クロードのレベルを上げて新たな技能を覚えさせることか?

 これも悪くはないだろう。

 現状、ゴブリンの集団を相手にしても余裕のあるクロードだ。ここを更に強化すれば、低難易度の魔物程度なら瞬殺できるほどの戦闘能力を有する召喚獣が完成するだろう。


 しかしそれでは、根本的な問題が解決していない。クロードの召喚限界が訪れた時、俺は一気に無防備な状況になってしまう。


 ならば最後に、俺自身の能力を強化するべきだろうか?

 なるほど、それも悪くはないだろう。

 俺が脆弱なのは、俺自身が一番よく知っている。後衛にして魔術師職。基本的な肉体性能は全職業中でも最低レベルだ。

 ここを底上げできれば、召喚獣が帰還して一人になったとしても、ある程度は戦えるだろう……とでも考える訳がなかった。


 それでは俺が【召喚士】である意味がないだろう。長所を潰すとまでは言わないが、無意味なものと化しているのは否定できまい。


 あれもダメ、これもダメ。

 限られた元手とは言え、強化の組み合わせは無数にある。それらを全部試せるわけもなく、俺は盛大に頭を悩ませることになった。


 そして、結果……俺は考えることを放棄した。


 別にふざけている訳じゃない。ただ単純に、自分が本質を見失っていたことに気づいただけだ。


 改めて自身に問いかけよう。俺の目的はなんだ?

 ゴブリンを狩り尽くすことか? ボスを倒すことか? ダンジョンを攻略することか?

 全部違う、大外れだ。それらは手段であって目的ではない。


 大前提として、俺がダンジョンに潜る理由……それは、ダンジョンを通して人生を楽しむことそのもの。

 そのための努力は惜しまないが、それに小難しく頭を捻って悩んでいる時点で色々と間違っているような気がしてきたのだ。面倒臭くなったとも言う。


 無論、適当なのは駄目だ。それは常にダンジョン探索に関しては最善を尽くすという、俺の誓いに反する。

 けれど、この件に関しては絶対の正解なんてものもないのだ。

 ならば俺の好きなように、あるがまま、感じたままで選べば良いのではないか。


 一番問題なのは、考えすぎて身動きが取れなくなることなのだ。

 間違いを恐れる必要はない。答えを違えたのならば、もう一度選び直せば良いのだから。


 生きている限り、次は必ずやって来る。


 それは落ち込む楓先輩を励ますために、咄嗟に口から飛び出した俺自身の言葉だが、改めて思い返すと随分クサイ台詞を吐きまくってしまったものだ。顔から火が出そうである。

 しかし、それが間違いであるとまでは思わない。生き汚いのは罪ではないのだから。


 そして、そうと決めれば話は早かった。


 俺は現状、考えうる限りで最善の選択だと自信をもって答えられる強化を自身に施し、この二日間を小鬼の迷宮一階層で過ごした。

 強いて言うなれば肩慣らし、調整期間。

 言葉は色々とあるだろうが、やっていることは同じだ。


 ただひたすらゴブリンを狩る。視界に入った順から駆逐する。入らなくても討伐する。片っ端からポイントに変える。そんな日常。


 その最中、唐突に《小鬼の天敵》なる称号を得たのだが、一体どういう事なのだろうか?

 そもそも称号なんてステータスの項目自体が新しく追加されたので、隠しシステムだったのかもしれない。


 効果としては、ゴブリン種との戦闘時に自身の能力が上昇するようだ。

 発生条件は、やはりゴブリン種の討伐数だろう。良いものを手にいれた。

 これで害虫駆除……もといゴブリン狩りが更に捗る。


 楓先輩の復調に合わせるよう、焦らず驕らず、じっくりと胸の内で刃を磨いた二日間。

 彼女と相談して決めた通り、第一階層のマップ未踏破部分を埋めながら、俺はその瞬間をずっと待っていた。

 ただ、あの時の雪辱を果たす。その為だけに研ぎ澄まされた意識は、すでに燃え盛る炎ではなく、凍えるような鋭い氷の刃と化していた。


 そして、一度目のボス戦から三日目の放課後。

 俺たちは再び、《小鬼の迷宮》1Fのボス部屋の前に立っている。





「――準備はいいか、カエデ?」


「もちろんですよ、ソーマさん。むしろこの時が待ち遠しくて、危うく一人で挑んでしまうところでした」


「それは困る。万が一があるといけないし、俺の方の準備が無駄になるところだった」


 目の前を見上げて視界に入るのは、見覚えのある巨大な石の扉。

 その手前に並びながら、俺とカエデは互いの顔を見つめる。


 彼女の目は笑っていた。獲物を狩る獰猛な肉食獣のよう、血の色をした瞳がギラギラと戦意に輝いている。

 本来であれば、一人の女の子としては見せてはいけない顔なのだろう。

 だが、恐らくは俺の方も似たような目をしているだろうから、一概にカエデを責められない。気持ちはよくわかる。


「はい、だから我慢しました。二人で失敗を乗り越えるために」


「そっか……なら、行こうか」


 それ以上の言葉は不用とばかりに、俺たちは同時に正面を向く。

 そしていつかのよう、二人揃って扉の取っ手へと手をかけた。あの瞬間を再現するように。


 ギィィィイイイ――と、軋む音を立てながら開く扉。灯り、燃えて室内を照らす松明。

 そんな中、一歩前へと踏み出しながら、俺は大きく息を吸い込んで叫んだ。


「再挑戦しに来たぞ! このゴブリンどもっ!」


 ……と。



 

 

 失敗は時に人を強くする。

 ……そう、失敗から人は学べるのだ。




ソーマ「ドーモ、ゴブリン=サン。ゴブリンスレイヤー、デス」


ゴブリン「アイエェェ!? 召喚士ナンデ!?」




 ……ただし、予想の斜め上方向に成長することもある(目そらし


 何故か殺意の波動に目覚め、ゴブリン絶対殺すマンと化してしまった主人公。

 きっとあれだよ、よほどあの失態が悔しかったんですよ。

 ゲームでも一度全滅したから、レベル上げまくって序盤のボスを瞬殺できるまで鍛えることってありますよね? ね?

 

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