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11 小鬼の迷宮1F-4

 

 



「扉……ですね」


「ええ、扉です」


「ヴォフッ」


 二人と一匹で仲良く横に並び、見上げるようにして顔を上へと向ける俺たち。

 その先には、高さが優に四メートルは越えるであろう、巨大な石造りの扉が設置されていた。巨人専用なのだろうか。

 両脇の支柱には精細な彫刻まで掘られており、明らかにこれまでのダンジョンとは趣が違う。


「ソーマさん。これが何か、私にはさっぱりわからないのですけれど。ソーマさんには何か心当たりはありますか?」


「ええ、まあ、一応は」


 首を傾げながら尋ねてくるカエデに、多分ですけど、と最初に付け加えながら俺は口を開く。

 と言うか、やっぱりカエデはお嬢様だから、この手のゲームは嗜んでいないのだろうか。ローグライク系のゲームを一つでも経験していれば、簡単に想像できそうなものなのだが。


「二つほど予想はありますが、一つ目はこの先が宝物庫になっている場合ですね」


「宝物庫……ですか?」


「はい、いわゆるここまで辿り着けた《冒険者》へのご褒美ですね。中にはダンジョン攻略に役立つ何かが入っているはずです」


「まあ、それなら迷うことはありませんね。さっそく扉を開けましょう」


 俺の説明に瞳を輝かせ、不用心に扉に近づこうとするカエデ。

 しかし俺はその腕を掴み、大きく横に首を振った。


「あくまで考えられる予想では、ですよ。それに、個人的には二番目の可能性の方が高いと踏んでいるので」


「えっと、それは?」


「階層主……ボスの部屋です」


 俺はやや緊張に身を固くしながら、扉を正面から見上げる。

 同時にこれを伝えた場合、恐らくこのまま中に突入することになるんだろうなぁ……とも考えていた。


「複数の階層が存在するダンジョンの場合、毎層、もしくは一定階層ごとに階段を守るボス……つまりは強力な魔物が配置されている可能性があるんです」


 ボスの単語にキョトンとした顔をしていたカエデに、分かりやすく言葉を言い換えると、彼女は先程以上に瞳を輝かせ始める。

 ああ、何だか予想通りの反応だ。この人やっぱり戦闘狂(バトルホリック)だろ。

 道中でも戦闘中はともかく、終わった後は何処か物足りなさそうな表情をしてましたもんね。


「強敵……素晴らしいですね! 是非挑戦しましょう!」


「待ってください。俺たちも今までの戦いで消耗してますし、ここは一度引いて、明日改めて挑戦する選択肢も――」


「善は急げですよ、ソーマさん。私は明日まで待てません」


 反射的に引き留めようとする俺の説得を食い気味に遮って、カエデは逆に俺の手を掴んで扉へと引きずっていく。

 悲しいかな。後衛職である俺は、身体能力では前衛職の彼女に勝てないのだ。


 何が善なんですか……とか。

 本音が後ろの方に出てますよ……とか。

 色々と言ってやりたいことは多いのだが、それで先輩が止まるとも思えない。


「……はぁ、仕方ないか」


「クーン」


 すべてを諦めて呟いた俺の言葉に、クロードが悲しげな鳴き声をあげる。ごめんな、不甲斐ない主で。


 だが、やはりこのまま直でボスに挑むのはさすがに危険すぎるだろう。

 この階層の難易度から考えれば初見でもいけると思うが、油断は禁物だ。


「ちょっと待ってください。挑戦するのは構いませんが、小休憩は取っておきましょう。俺もステータスを確認したいですし」


「むぅ……確かにそうですね。わかりました、五分だけ休憩にしましょう」


 俺が出した条件を、カエデは少しの間考えてから受け入れた。ちょっと不満そうだったが。

 ようやく手を離してくれた彼女に、俺は安堵の息を吐く。やっぱり、心の準備って大切だと思うんだ。


「さて、時間も押してるし、早いところ確認だけ済ませておくか」


 俺はデバイスを物質化させ、自身とクロードの項目を確認した。



――――――――――

冒険者名:ソーマ

職業:召喚士Lv6

現在位置:《小鬼の迷宮》1F


装備:初級魔術師の杖

   初級魔術師のローブ

   初級冒険者の上衣

   初級冒険者の下衣

   初級冒険者の靴


固有技能:【召喚術】

技能:なし


所有P(ポイント):1180P


     ・

     ・

     ・


――――――――――


――――――――――

個体名:クロード

固有名:黒狼(ブラックウルフ)Lv1

種族:魔獣

契約者:ソーマ

関係:良好

特殊技能:【暗殺】


召喚制限:(0:37/2:00)

――――――――――



 ふむ、俺の方は以前見たときよりもレベルが上がっているな。まず間違いなく、ゴブリンを狩りまくったお陰だろうが。

 その恩恵は肉体方面にも現れているはずだが……そう言えば、昨日初めてゴブリンと一対一で戦った時より、身体がよく動くように感じる。

 あくまで体感でだが、今なら杖の一振りでゴブリンの頭を砕けそうだ。


 クロードの方は関係が『良』から『良好』に変化している。良い知らせである。

 やはり休憩時間に喉を撫でたり、戦闘後に言葉にして褒めていたのが良かったのだろう。


 ただ、レベルの方は変化なし……か。

 あれだけゴブリンを倒して経験値が足りないというのは考えにくいので、別の要因が関係しているはず。


 気になった俺がデバイスを探っていくと、どうやら召喚獣は《冒険者》と違い、経験値ではなくポイントを消費してレベルアップさせるらしい。

 他にも新たな技能を習得したり、覚えている技能を強化したりなどにもポイントを使用するようだが……この辺りは《冒険者》と同様だな。


 ポイントによる強化は考え始めるとキリがなくなるので、ここでは止めておく。


 それよりも、もうそろそろ約束の五分が経ちそうだったので、俺は壁際でウズウズと待ちきれなさそうに身体を揺らしていたカエデに声をかけた。


「こちらは準備終わりました、いつでもいけます」


「っ! 今度こそボスに挑戦ですね!」


 バッと、その言葉に身体を起こす彼女に頷きながら、俺は補足の説明を入れる。


「ただし、俺がクロードの召喚を維持できる時間が、余裕をもって見積もると残り三十分ほどです。もしもこれ以上戦闘が長引いた場合、撤退を視野に入れて行動しますよ」


「それは、確かに厳しいですね。わかりました……が、それならそれで、最初からそれだけの時間をかけなければ良いだけの話です」


 俺の出した条件に、少しだけ難しそうな顔をしていたカエデだが、すぐに笑みを浮かべて剣を顔の高さまで持ち上げる。危ないからこっちに向けないでくださいよ?


 いや、しかし実際、クロードが抜ける穴はかなり大きい。実質的な戦力が半減、もしかするとそれ以下に落ち込むからな。

 何としてでも、それまでにボスを討伐しなければならない。


 そんな決意を込めつつ、俺とカエデは扉の前に並ぶ。

 最後に二人で顔を合わせ、大きく頷いてから、俺たちは同時に扉の取っ手へと手をかけた。


 ギイィィイイ――と、耳障りな音をたて、ゆっくりと開いていく石の扉。

 その奥には今までの小部屋とは比べ物にならないほど広大な空間が広がっており、壁に備え付けられた松明によって煌々と照らし出していた。


 そして俺とカエデ、それからクロードが部屋へと足を踏み入れた瞬間――


「――っ、あれは」


「いよいよボスのお出ましって感じですね」


 部屋の中心部の床に、俺たちも使用する転移門と似たような円陣が浮かび上がり、そこから大量の光の粒子が湧き上がる。

 それはやがて、大きな一つと複数の小さな塊に別れ、形を成して実体化した。


「ぐげげげげぎゃーっ!」


 高らかに誕生の産声を上げるのは、その中でもっとも身体の大きな個体。身長は一メートル半ほどだろう。

 枯れ枝のように細かったゴブリンとは違い、ガッチリとした筋肉におおわれた肉体。肌は濃い緑色で、頭のコブは小さな角と表現できる程度に発達している。

 腰ミノ装備なのは相変わらずだが、それ以外にもそいつは、両手を使わなければ持ち上げられないほど巨大な大剣を所持していた。


「あはは……いいですね、とても楽しめそうです」


 もしも名を付けるとするならば、ゴブリンソルジャーとでも言うべきか。

 今まで遭遇してきたゴブリンとは明らかに違う存在に、しかしカエデは臆することなく好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「ソーマさん、あの大きいゴブリンは私が貰いますね」


「構いませんけど……気をつけてください。俺とクロードも、取り巻きを片付けたら合流するので」


 剣を構えて一歩前進する彼女に声をかけながら、俺は素早くボスと一緒に現れた取り巻きを観察する。

 外見的には道中で出てきたゴブリンと変化なし。ただし、ボスの影響か全員が小さいとはいえ剣を持っていた。


 それが全部で二十体を越えている。今まで経験したことがないほどの大規模な集団だ。

 しかし、危険度で言えばただのゴブリンよりは上だろうが、注意深く一対一で戦えば俺でもやれない相手ではないはずだ。


「さあ……闘争を始めましょう!」


 魔物たちも、彼女の言葉を理解していたわけではなかろうが。

 そのカエデの宣言を皮切りに、俺たちとボスたちの戦いの火蓋は切って落とされた。



 

 

フラグ「……俺の出番か?」

 

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