機壊の女王-65万分の1の不運×幸運の女神=決着の時
今回はいつものように区切ったりしていないので1万2千程度の文字数でいつもに比べると多少長文になってしまったイメージです。
読むのが疲れるかもしれませんが最後まで読んでもらえると嬉しいです。
2106年2月14日09:00
あの後俺たちは機壊の女王のIDを入手した後。
一度「魔女ッ子ぱらだいす」に戻り今回得られた情報を依頼主の雄斗に伝えた後、事情を知った雄斗からPF4を借りて家に戻り、IDを作ってさっそく彼女にコンタクトを取る事にした。
そして結果、彼女にコンタクトを取る事には成功し、対戦の申し込みも受領されたのだが、なぜか彼女が対戦に選んだ日付は今日、2月14日だった。
「ふぅ…ついに今日か…」
「そうですね、ついにバレンタインデーですっ!」
「そっちじゃねえよ…」
「でもバレンタインも大事なイベントですよ…?フラグ回収しないとメっですよ?にぃ様♪」
「うぅっ…ぐふ…そ、そうだな…。」
なんだろう、デジャビュを感じる。
ボディーブローを食らった苦しみのせいだろうか…?
「それにしても、機壊の女王さんはTCGでの勝負に乗ってくれるでしょうか?」
「んー、まぁ大丈夫だろう…」
そう、対戦の申し込みは受領されたが、俺はあくまでも「ゲームでの直接対決をしよう」としか言わなかったのである。
つまり彼女を引っ張り出しても対戦内容を伝えてから逃げられてしまえば意味が無い…。
「まぁ気にしたって始まらないさ。約束の時間のは16時だしな…。俺たちにはまだ時間がある」
「そうですね、にぃ様。」
(ん?)
いつもの愛嶺ならここで「そうです!私達の愛の時は永遠ですっ」とか「時間はたっぷりありますから、いくらでも愛し合えますよ!にぃ様♪」とか言ってきそうなものなんだが…。
「どうかしたのか、愛嶺?」
「……その、実は…気になることがあるんです…」
「ん?なにが気になるんだ…?」
愛嶺の気になることというのはこうだった。
愛嶺はあの日、2月10日、最初に例の現場を通り過ぎたときに愛嶺の使うような魔法の力を感じたのだという。
そのときはまさかそんなことがあるはずが無いと思い、気のせいだと言って誤魔化したそうだが…。
「なるほどな、つまり機壊の女王が使っているのはチート、それもこの世界では完全非公式チートの魔法かもしれない…ってことだな?」
「はい…そしてもしこの予想が正しければたとえ電子ゲームでないTCGでもにぃ様に勝ち目は…」
「…なるほど…確かにそれは困るな…ただでさえ俺には運もない事だしな…」
「そういえば、にぃ様はよくいっていますよね…運が悪いって…」
「おぅ…」
……やばい、心配になってきた。
「よし、ならば愛嶺!今から特訓だ!」
「特訓って…今からですか?」
「おう!」
こうして俺と愛嶺は約束の時間まで、TCGの特訓をすることにした。
同日 13:00
「ぐぬぬ…ここであのカードを引ければ…!!ドロー!!」
…引いたのはこの場面で一番引きたくないカードだった…
なぜ俺はこうなのだろう…いつもここ一番というときにハズレを引いてしまう…
「………」
そんな俺の様子から状況を察したのか、愛嶺の顔はいつものニコニコした顔ではなく。
なんだか真面目な顔になってしまっている。
そりゃまあ今のところ全戦全敗だからな、俺。
そんな相手とずっとやってりゃこんな顔にもなるかもしれない。
「う、うぅ…くそう…こんなことで勝てるのか俺は…っ」
これは流石に落ち込む…。
俺の勝算とはチートの介在する余地の無いTCGで同じ条件のデッキを使い、純粋に運とプレイングでの勝負になれば多少は運で不利でもプレイングで勝てる。
というものだったからだ。
それがまさか相手は魔法という非公式な完全チート持ち…そして俺の運は最低最悪…
「マジで65万分の1の不運って感じだぜ…」
俺がそうつぶやくと、愛嶺が俺に声を掛けてくれた。
「…にぃ様、ちょっといいですか?」
「ん…?どうしたんだ愛嶺…傷心のにぃ様にエールでも送ってくれるのか…?」
「いえ、それもあるんですが…」
しかし愛嶺が発した言葉は、俺の想像を遥かに超えるものだった。
同日 16:00
「ついに決戦の時だな…」
「はいっにぃ様!」
俺と愛嶺は「魔女ッ子ぱらだいす」のデュエルスペースと呼ばれるTCGプレイ専用の部屋にいた。
するとふいに聞きなれない女性の声に、聞きなれた俺の名前を呼ばれる。
「あなたがゆぅ…んんっ…白井結城さんかしら…?」
「あぁ…そういうあんたは…機壊の女王か?」
どうやら当たりらしい、確認を取った彼女は俺の反対側の席へ座る。
彼女のことを良く見てみるが服は全身真っ黒、顔も隠していて声でしか女性であることを判断することはできない。
ずいぶん警戒心の強いことだ、自分の素性は知られたくは無いということか。
ちなみにそんな彼女がなぜ、俺の名前を知っているのかというと。
俺のPF4のIDがローマ字表記で白井結城だからである。
そりゃあまぁバレる。というかそのまんまですわ。
「それで、さっそく対戦ゲームの内容だが。俺はTCGでの対戦を希望する。ルールは非公式大会ルールで制限カード無し、デッキは各自用意したモノを使う…どうだ?まさか機壊の女王だから機械以外を使ったゲームはできない…なんていい訳で逃げたりしないよな?」
俺がそう挑発すると機壊の女王は余裕たっぷりに答えた。
「そう…そういうこと…私の名が機壊の女王だから機械ではないゲームでなら勝てるとでも思ったのかしら?でも残念ね。このTCGならやったことがあるわ…とはいってもここにカードを持ってきて居ないのだけれど、カードの用意はしてくれているのかしら?」
「それなら心配ご無用よ♪」
野太い声とともに相変わらずの魔法少女コスの雄斗が大量のカードを入れた箱を持って現れる。
「ここにこのTCGのカードがすべて揃っているわ。好きなカードを好きなだけ使って自由にデッキを組んで頂戴!」
「…あらあら、ずいぶんと準備がいいのね?いいわ、ここまでしてくれたんだもの、付き合ってあげる。」
「そうか…なら、始め…」
しかし俺のその言葉を遮るように彼女は続けた。
「ただし、私が勝った時はあなたのデッキ、それと…そうね、ここにあるカードもすべて処分するわ。いいかしら?」
(なるほど…まあそう来るよな…万が一負けても俺は雄斗から失ったカードを得られるというのでは、彼女にしても意味の無い戦いになってしまうわけだし…)
俺はチラっと雄斗の方を見る。
雄斗は一瞬頬を赤らめると次の瞬間には真面目な顔に戻り、しっかりと頷き、部屋を後にした。
(この信頼を裏切るわけにはいかないよな…)
そして俺は機壊の女王に告げる、開戦の言葉を。
「あぁ、いいぜ…!ゲームスタートだ。」
そして俺と機壊の女王の戦いは始まった。
同日 16:15
機壊の女王とのゲームスタートから10分ほど経った。
状況は案の定俺の劣勢、機壊の女王の使うカードのテキストは既存のモノだったが機壊の女王はとにかく引きが良かった。
恐らくなんらかの能力で引きを操作してゲームの流れを掴んでいるのだろう。
そんな彼女の怒涛の攻めに対して、俺はひたすら守りを固めていた。
「…あなたやる気はあるのかしら?さっきから守りを固めてカードを余分に引いては溢れさせて捨てていく事の繰り返しで攻めても来ない、そんなことで勝てるとでも思っているの?」
そう、彼女の言う通り、俺はひたすら守り、一度たりとも攻めず、ただドロー効果のカードを使ってカードを引き続けていた。
しかし、これでいい。
俺はある一枚の禁止カードを引ける瞬間を待っているのだから。
「まあそう焦るなよ、それとも俺の守りが堅すぎてもう勝てる気がしなくなってきたのか?」
「…ふんっ…」
このゲームにはある1つの条件を除いて、ルール上相手にダメージを与えて勝つ以外の手段はなく、デッキアウトや自滅という敗北が存在しない。
自滅はもとより自分でダメージを受ける手段が無く、デッキアウトはデッキが無くなり次第自分で規定の枚数のカードを選択し取り除くことでデッキをリセットできるからだ。
さらに言えばこのゲームにはゲーム進行中にカードが使用不可能になることはゲーム規定のルールであるデッキのリセット以外ではありえない。
つまりひたすら守りを固めて負けずにカードを引いていればいつかは「あのカード」を引けるはずなのだ…。
「さて、今度は俺のターンだな…ドロー!」
「何を引いて来ても無駄よ…あなたに勝ち目は無いわ…」
機壊の女王はどこかで聞いたようなお決まりの台詞を言う。
だが、しかし。
俺はそんな言葉に意味が無いことを知っている、なぜなら。
「あのカード」をついに引いてしまったからだ。
「そうでも無いみたいだぜ…?今俺は、確かにこの手に勝利のカードを掴んだんだからな。」
「なにを馬鹿なことを…たった1枚のカードでこの状況から勝つことができるわけがないでしょう?」
「そう思うならもし俺がこのターンで勝ったら、俺のお願いをきいてくれないか?俺は負けたらここにあるカードをすべて失うんだ、それくらいはいいだろう?」
「…えぇ、構わないわよ、それで、あなたの願いと言うのはなにかしら?」
「あぁ…あんたの素性と、今回の事件についてをすべて喋った上で、これ以上ゲームを破壊して周るのをやめてもらいたい。」
「…ふぅん…いいわよ?まあそのためには、あなたがこのターンで勝つ必要があるわけだけど…ふふっ」
よし、掛かった。
この圧倒的有利な状況だからな。余裕たっぷりに笑ってやがる…
これなら…いける…っ
「じゃあ勝たせてもらうぜ、俺の切り札でな!」
言うと同時にビシッっと突き出したカード、その名を「一枚のVサイン」という。
「…?知らないカードね…そのカードが何なのかしら?」
やはり知らなかった。
そう、機壊の女王が活動を始めたのは半年前、そしてゲームのPSは全体的に低い、ならゲームを始めてからも精々半年そこそこしか経っていないだろう。
そう思っていた。そしてその予想は当たっていた。
だからこそ、俺に勝ち目がある。
「知らないか…なら教えてやるよ、このカードはこのTCGが発売されてすぐに出たPRカードで、その効果がゲームの根幹を覆すものであったからすぐに禁止カードになった伝説のカードさ…」
「ゲームの根幹を覆す…?」
そう、このカードはカードゲームそのものを否定しているともいえるであろうクソカードなのだ。
「このカードを使用したプレイヤーはコイントスを5回行い、そのすべてで表か裏を当てることができればゲームに勝利する…そしてもし、一度でも外せばその瞬間このカードを使用したプレイヤーは敗北する。つまり使えばカードが関係ない完全な運ゲーでその瞬間にも勝敗が決まってしまうカードなのさ。」
「な…っ…そんなカードがあるなんて…!」
機壊の女王は一瞬取り乱した後、しかしすぐに冷静に戻った。
「…でも、それでも。あなたがそのコイントスを当てられるとは思えないわね…あれだけのカードを引いて、今の今までそのカードを引いて来れなかったあなたが、果たして運よく5回とも裏か表かを当てられるのかしら?」
そう、その通りだ、今までの俺なら、このカードでコイントスなんかをしたら一回目で絶対に負ける、だが、今の俺にはこれ以上無いほどの必勝法なのだ。
「じゃあコイントスを始めるが…その前に…」
俺は脇に待機していた愛嶺に目を向ける。
「出番ですね、にぃ様!」
「あぁ…なあ機壊の女王、これからコイントスをするわけだが、コイントスと裏か表かの選択を彼女に任せたいんだが、どうだろうか?」
「コイントスをその子に…?実行するのはゲームプレイヤーのはずだけど?」
…やはりこの提案には否定的か、それはそうだよな、ゲームプレイヤー以外が介入するとなればそれは如何様を疑う対象になりうる。
「そう硬いこというなよ、愛嶺は俺の勝利の女神なんだ。彼女に俺の命運を預けたいんだよ。」
適当ないい訳をしつつ、さて、どうやってここから説得したものか。そう考えていると彼女の様子がおかしいことに気づいた。
「………っ」
なんだか物凄い顔でこちらを…というか愛嶺を睨んでいる気がする…
もしかしてこの人はリア充爆死しろ系の人なのだろうか…なら…
「いやあ、今日はバレンタインだろう?だからあんたに勝った後、祝勝会代わりにデートすることになってるんだよ…愛嶺は勝利の女神でもあり、俺の最愛の女神でもあるわけだ」
「ッ!!」
俺がそう言うや否や、機壊の女王はテーブルをダンッ!!と思い切り叩いた。
そして俺の横で今の俺の虚言に、嘘であると知りながらも頬をゆるませだらしなくデレデレしている愛嶺に怒りの眼を向けている。
「台パンとはまたマナーが悪いな…それで、どうなんだ?愛嶺に任せていいのか?」
すると機壊の女王は今度は肯定の言葉を口にした。
「そこまで言うならいいでしょう。あなたの言う勝利の女神とやらが特別ではない、どこにでもいるような取るに足らない存在だということを思い知りなさい!!」
「よし、なら俺も証明するとしよう、愛嶺が俺の勝利の女神だということをな…」
そう言って愛嶺に目で合図を送り、コイントスを始めさせる。
…キーン……パシッ…
一度目のコイントスが行われた。
「んー……こりゃ裏だな」
「わかりました表ですね。」
「………?」
俺が裏といい、愛嶺はそれを聞いて表と言った。
その奇妙なやり取りを見て機壊の女王は何をしているのかと怪訝な顔で見ている。
そんな彼女を他所に、愛嶺はコインを確認する…
「表です…当たりですねっ♪」
「…ふんっ…一度当てたくらい、どうってことは無いわ。」
機壊の女王はまだ余裕の様子だ。
そして続く二度目のコイントス…
またしても俺は口を開く。
「コレもまた裏だなぁ」
「…今回も表ですね」
「…さっきから一体なにを言って…?」
二度目にして何かがおかしいと思い始めているのだろう、だが、まだコイントスは終わっていない。
「表、当たりですっ」
「これで2回だなぁ…」
「………っ」
さて、ここまでは無事にやってこれた。
次が3度目だが、流石に怪しまれている状態だし、ここからどうなるか…
「今度は表だな。」
「今度は裏ですね。にぃ様♪」
「……ねぇ。あなた達、さっきからなにをしているのかしら?」
流石にそろそろツッコンで来る頃だとは思っていた俺は、さもなんということも無いというように告げる。
「なに、ただ俺の意見も述べているっていうだけのことだよ、あくまでも決定権は愛嶺にあるし、愛嶺が間違っていてもそれで俺が逆を選んでいたから当たりなんて、そんなずるいことは言わないさ。」
「そう…自分の運があまりにも悪いから自分の選択とは反対の選択を選ばせているっていうことかしら…?ふふっそんなことで勝てると思っているなんて、あなたは負ける気なのかしら?」
察しがいいやつだ、確かにこれは俺の選択の反対を愛嶺に選ばせる。そういう作戦だ。
「負ける気は無いんだがな…それにコイントスはまだ3回残っている。これが終わる頃にはわかるはずだぜ?愛嶺が俺の勝利の女神だった…てな、ほら…」
そういって俺は愛嶺に続く3度目のコイントスをするように促す。
愛嶺はそれに頷きコイントスをする。
「今度は裏でした…また正解ですねっ」
「いやぁ~すごいなぁ愛嶺は~(棒)」
「ふん…っ」
さてそれでは次が4度目のコイントス
「もう4度目かぁ…う~ん…今度は裏かな~」
「今度は表ですねっ」
「………」
もう口を挟む気は無くなったのか、黙ってしまう機壊の女王。
そんな様子を察したのか愛嶺は4度目のコイントスを始める。
そして…4度目のコイントスの結果は…
「…表……やりましたにぃ様!これで4度目の正解ですっ」
「そうだな、やっぱり愛嶺は俺の女神だよ。」
「女神だなんてぇ…えへへぇ…♪」
「……ッ!」
4度目のコイントスの正解、さらには俺と愛嶺の惚気に激おこなご様子の機壊の女王は口を開く。
「…そうね…4度の正解…ふふっ…えぇ、中々の幸運だと思うわ。でも、この程度ならよくあることよ、そう…よくあること…」
そういいながらも機壊の女王はこう付け加える。
「でも流石に、毎回あなたの反対をその子が選んでいるのではあなたが選んでも変わらないんじゃないかしら。最後の一回くらいその子一人に選ばせたら?そうじゃなきゃその子が勝利の女神なんていう嘘を証明することはできないと思うけれど?」
まぁ…そうなるよな。
本来なら最後までこの手で行きたかったんだが…仕方ない、ここで下手にゴネても怪しまれるだけだ…
「…ふむ…確かにそうかもしれないな…よし、じゃあ最後の一回は俺は口を挟まないことにするよ…さて、最後の一回、頼むぞ愛嶺!」
その言葉に驚いた様子を見せながらも、愛嶺は俺に言われたとおり、5度目のコイントスを行った。
そして、愛嶺は答える、そのコインが裏であるか表であるかを……
「………このコインは…表です…」
「………そうか…」
「………」
………長い沈黙と重々しい空気。
これまでの戦いがこの最後のコイントスで決まるのだ。
しかし俺は、俺と愛嶺は知っている、この勝負の結果を、「一枚のVサイン」に掛けた時から。
「……表…です!」
5度目のコイントスも愛嶺の当たり…つまり。
「よっしゃあ!!俺の勝ちだ!!」
素直に勝利を喜びの声を上げる俺、しかしその反対に自身の敗北に動揺を隠せない様子の機壊の女王。
「なっ…そんな馬鹿なことあるはずが無いわ!!こんなこと…あるはずが…!!」
「ふむ…こんなことあるはずが無い…か…。それはお前が魔法を使ってズルしてたからか?」
「!!」
自身の敗北を知ったときよりも遥かに動揺した様子の機壊の女王に俺は続ける。
「お前は異能な力が使えるのを自分だけだと思い込み。愛嶺が極端に運の悪い俺の反対の選択をすることで当てているだけで、コイントスの結果を単純な運だと勘違いしていた、それが機壊の女王、お前の敗因だ。」
そう、それこそが機壊の女王の最大の敗因なのだ。
「実はな、俺達も能力者なんだよ…(ドヤァ」
最高のドヤ顔と共に、俺はあのときのことを思い出す。
同日 13:10
「…にぃ様、ちょっといいですか?」
「ん…?どうしたんだ愛嶺…傷心のにぃ様にエールでも送ってくれるのか…?」
「いえ、それもあるんですが…」
それもある…ということは別の話もあるということだとうて…一体なんだろう、その話とは。
俺は愛嶺の続く言葉をじっと待つ。
「にぃ様…私はずっと思っていたのですが…もしかしたらそのにぃ様の不運は、一種の能力なのかもしれません。」
「俺の不運が能力…?い、いや、愛嶺、俺の言っていた|65万分の1の不運(ロイヤル。バット)っていうのはあくまでも冗談で実際の人物団体とは一切…」
しかし俺が言い切る前に愛嶺は俺の言葉を遮って続ける。
「いえ、にぃ様、それがにぃ様にとっての冗談だったとしても、神様にはそうではないのだと思いますよ?」
神様にはそうではない…それはどういうことだろう。
「私の能力は魔法のように見えるかもしれませんが厳密には違います、神の声を聞き、神の力を借りて奇跡を起こす能力です。」
…なんだと…アレは魔法じゃなくて神の奇跡だったのか…あの能力が…
「愛嶺の能力は随分と万能な能力だな…しかしお前の世界、ザナドゥの神様はこっちには居ないだろう?それにその能力と俺の能力が本物であるということの関係性がイマイチわからないな…」
「えぇ、ですから、こちらの神様にお聞きしました。にぃ様の不運について。」
「…というと?」
「つまりにぃ様の能力、65万分の1の不運はその名の表すように65万分の1の確率までなら100%ハズレを、不幸を引き寄せることができる能力のようです。」
本日二度目の…なんだと……
俺の不運が能力…?しかも不運になる能力って…おま…
「実際には使いこなせばハズレを引くだけではなく、ハズレを見通すことができる能力になるようなので、65万通りのうち一番の当たり一つ以外の、すべてのハズレのパターンを知ることができる能力ですから、ハズレを回避する選択をできる状況なら当たりにいくこともできるようになる…らしいですよ?」
や、やばい…頭が痛くなってきた…もうすでに非現実的な超能力の説明に思考が着いていけないようになっている…
「つまりにぃ様は今のままでは絶対に欲しいカードを引けない上に、にぃさまが選んだ選択はすべて裏目にでるということです。」
「………ん?」
…あれ?つまりそれって…。
「じゃあ愛嶺、俺がコイントスとかをした場合はどうなるんだ?」
「そうですね、今のままなら裏か表を決めたときに力が働いて無理やりにでも反対の答えになってしまうのではないでしょうか。」
そうか…そうだったのか…
だがこれは朗報だ…そうだ、コレなら勝てる…
俺はこのとき、そう、確信した。
同日 16:20
「俺の能力は65万分の1の不運、65万通りまでなら確実にハズレを引く不運の能力だ。」
「…つまり4度目まではあなたの能力でハズレを選んだ上でその子に当たりを選ばせていたってことね…。でも最後の一回はどういうことかしら…あなたの言ったとおり、私は魔法を使ってその子が選択したのとは逆の方になるように魔法を掛けた…でも結果はその子の選択通りの結果になった…」
「言っただろ?「俺達も」能力者だって。ここに居る愛嶺も、能力を持っているんだよ。」
そういうと愛嶺は頷いた上でその先に続く答えを俺に代わって話す。
「はい。私は異世界人で、その能力は神様の力をお借りして奇跡を起こせる…というものです。」
そう愛嶺が答えると、機壊の女王は納得が言った様子で言う。
「異世界の巫女か…なるほど…その神の奇跡の力でコイントスの答えを最後の最後で変えたという訳ね…私の能力も神の起こす奇跡には勝てなかったわけだ…」
「そう、つまり答えるのは俺じゃなくてもよかった…て話さ。」
「……あっ、いえ…そのぉ……」
「ん……?」
「…なによ?」
「その…ですね?…私がしたのは機壊の女王さんの能力の無効化だけで…コインの裏表は弄っていないのですが…。」
『………え?』
これには機壊の女王だけではなく俺も驚いてしまった。
「ちょ、ちょっと待て愛嶺、じゃあなんだ?最後の一回はお前が結果を変えたんじゃなくて、マジで紛れも無い運だったのか…?」
「す、すみませんにぃ様…そこまで考えが至りませんでした…。」
「……………」
なにはともあれ……こうして俺は、紛れも無く勝利の女神であり、幸運の女神でもある愛嶺のおかげで、勝利を収めたのだった。
………が。
これで終わるわけには行かない。まだ約束が残っている。
「さて、じゃあ約束どおり、もうゲームの破壊は止めて、その上でお前の素性、その素顔を見せてもらおうか!」
「………うっ…ぇぐ…」
「………ん?」
なんだか機壊の女王の様子がおかしい、こう、なんというか、まるで…
「うぅ……うぇ~んっ!!なによ!いいわよ!脱げばいいんでしょう!フードもマスクもサングラスも!服もスカートも下着も脱いであげるわよ!!」
「え!?ちょ、まっ!」
急に自暴自棄になって泣きながら服を脱ぎだす機壊の女王…
それを見た愛嶺によって俺は部屋を追い出されることになった…
暫くすると機壊の女王の様子は落ち着いたのか、愛嶺が俺をデュエルスペースに入れてくれた。
だがしかし、部屋に戻った俺は驚愕した。
先ほど部屋を出る前、機壊の女王の居た場所には、いくらかサイズ感は変わったが、俺の知っている人物が居たのだった。
「……ね、ねぇさん…?」
「へっ……?お姉さん??」
「ぐすっ…すんっ……うん…」
そう、そこには昔俺が養子として暮らしていた朱葉家の、長女にして俺の義姉、朱葉詩音の成長した姿があった。
「ね…ねぇさんが機壊の女王だったの…?」
「…そうだよ…ゆぅ君…私が…機壊の女王…」
「あれ?あの?にぃ様?にぃ様にはお姉さんが居たんですか??」
「あぁ、愛嶺には言ってなかったか…細かい話は長くなるから省くが、この人は俺の義姉なんだよ。」
愛嶺は流石に驚いた様子だったが、俺はそのまま話を続けた。
「それで、ねぇさん、なんでねぇさんがこんなことをしてたんだよ?」
そう、そもそもねぇさんはこんなことをするような人でもなければ、できる人でもない。
さらに言えば魔法なんてものは使えるはずが無かった。
「…て……くんが…」
「へ…?」
「…!だってゆぅ君が私じゃなくてその子とイチャイチャしてるんだもんっ!!」
…はい?
今この人なんて言った?
ダッテユゥクンガワタシジャナクテソノコトイチャイチャシテルンダモン…?
ダッテユゥクンガ…だって俺が…?
ワタシジャナクテ…ねぇさんじゃなくて?
ソノコト…愛嶺と…?
イチャイチャシテ…たから?
「つまり…俺がねぇさんじゃなく、愛嶺とイチャイチャしてたから…機壊の女王を名乗ってこんな事件を…?」
「そうだよっ!なんでゆぅ君は私じゃない女の子とイチャイチャしてるの!?しかも同棲までしてるし…どういうつもりなのかな?!」
あまりにも訳が分からずに俺が言葉を詰まらせていると、今回の事件の犯人であるねぇさんは勢いに任せて語りだす。
「私はずっと昔から、出会ったときからゆぅ君のこと愛してたのにっ!大事にしてたのにっ!!ゆぅ君が引きこもりになってからはゲームにゆぅ君を取られちゃうしっ!ゆぅ君は勝手に家を出ちゃうし!!ずっとずっと探して、やっと見つけたと思ったら知らない年下の女の子と同棲してるし!!!!私は私で両親にお見合いを薦められるし!!あぁもう!!もうっもうっ!!」
あ、あぁ…なるほど…?
ここまで聞いてようやく合点がいった。
そういえば昔………
「ねぇ、ゆぅ君…ずっとテレビゲームばかりしていないで、お姉ちゃんとお外にでましょう…?きっと楽しいことが一杯あるよ?」
「…遠慮するよ…ゲーム以上に楽しいことなんて、無いよ。」
「…お姉ちゃんと一緒にいるのは嫌なの…?」
「…ここ以外に俺が居ていい場所なんて…外にはそんな場所は、きっとどこにもないよ…」
「…なら、ここにずっと居続けていいって…ずっとこのままでいいって…そう、思っているの…?」
なんて話しをしたのを覚えている。
つまりねぇさんはあの頃から俺のことが好きで。俺のことを想い。
あの会話で、俺がゲームの方がねぇさんより大事だと思っていると、そう勘違いしたのだ。
そしてその勘違いを胸に抱いたまま、ねぇさんは俺を何年も探し続け、ついに見つけたと思ったときには想い人である俺は別の女の子と同棲していた…。
さらにそんな傷心のねぇさんには両親からのお見合いの薦めがあった…と。
「それで…ねぇさんは俺を奪ったゲームを破壊して周っていた…ってことですか…?」
「そーだよ…そうしたらきっとゆぅ君は私のところにたどり着いてくれるって…そう思ったから…」
「でも、それなら俺がここまでたどり着いた段階で終わりでもよかったんじゃないの?」
「言ったでしょ、ゆぅ君がその子…愛嶺ちゃん…だっけ…と、いちゃいちゃしてるのが嫌だったの。だから、ゆぅ君を負かして、それで…」
「それで…?」
ねぇさんはすこし言葉に詰まったようだったが、すぐに続けた。
「…それで、ゆぅ君のこと、私だけの奴隷に…しようと思って…。」
「………」
よりにもよってこの義姉は、とんでもないことを考えてやがった…!
「もし勝ったらこの店のカードを処分する代わりにゆぅ君を要求して、そしたらゆぅ君はお店のために私の奴隷になってくれるって…そう思ったから…。」
「う、うん…?」
「ダメですよ!にぃ様は私の恋人なんですから!」
「いや?!俺は誰のものでも無いだろう!!」
あぁもう…よかった勝てて…負けたら色々と酷い目にあっていたかもしれない……
と、そこまで考えて俺はふと、疑問に思った。
ここまでの話でまだ、ねぇさんが魔法を使えた理由が明らかになってないからだ。
「でも、ねぇさん、今の話だけじゃなんでねぇさんが魔法を使ったズルをできたのか、それがわからないんだけど?」
「あぁ…それはね?」
俺が疑問を投げかけると、ねぇさんはそれに答えてくれた。
「ゆぅ君は知らなかっただろうけど、私、というか朱葉家の者は元々この地上の人間じゃないのよ。」
「………なんですと?」
なんだかさっきから俺はねぇさんの言葉に驚いてばかりいるような気がする。
「私が元々居たのは天上の宮…種族的には人間ではなくワルキューレと呼ばれるものよ。」
ワルキューレ、俺の聞き覚えのある呼び方だと…ヴァルキリー?とか?マジで…?
「でも、まさか半神である私の力が…たかが異界の巫女なんかに負けるなんて…」
「むっ…その、たかが異界の巫女…というのは私のことでしょうか?」
「そうだよ?ほかに誰がいるっていうのかな?」
「…っ!!ふんっ…にぃ様に捨てられたくせに…」
「んなっ…!!」
俺がねぇさんの正体に驚いている隣で、なんだか物騒な展開になっている希ガス…ってこれは死語か。
って…そんなことを考えてる場合じゃないよな。
「まあまあ、落ち着いて二人とも。とにかくこれで今回の事件については解決したということで!ね!ハッピーエンドじゃないか!」
「まだすべて解決してないですよ、にぃさま!」
「そうだよ?ゆぅ君!!この子か私、どっちかを選んでくれないとハッピーエンドできないよ!!」
「え、えぇ?!」
なんでそんな話になっているんだ。
事件を起こした動機と起こした方法。それらの解明にこれ以上事件を起こさないという約束も取り付けた。
しかし二人は、それだけでは納得が行かないと言う。
「…えっと…それはぁ…ですねぇ…」
「ハッキリしてくださいにぃ様!ハッキリと「愛嶺を愛してる!結婚しようっ」そういってください!!」
「ダメだよゆぅ君!!「俺はねぇさんだけのモノだよ…だからねぇさん…ねぇさんも俺だけのモノだよね…?」っていうんだよ!ゆぅ君!!」
なんだか二人の理想の告白を押し付けられそうになった俺は、苦し紛れにこういった。
「そ、そうだ!ねぇさんはお見合いを薦められてたんじゃ…?」
「ゆぅ君がいるんだもんっ!!そんなの必要ないよ!!」
「えぇ~……」
というかヴァルキリーがするお見合いって、一体なんだ。
とはいえ、これで諦めるという訳にも行かない、なにか…なにか話を逸らせないだろうか…
っとそのとき、店内の時計が目に入った。
これだ…とりあえずコレで!
「よし、わかった!じゃあとりあえずもうこんな時間だし!この続きは俺の家に帰ってからしよう!そうしよう!」
するとそんな俺の反応を見た二人は、このままでは俺の答えは決まらないと悟ったのだろう。
時計を見て、お互いの顔を見合わせ、しぶしぶながらも頷いた。
そしてその後…。
俺は事の顛末を依頼主の雄斗に報告、ねぇさんの正体や俺達の能力については雄斗を信じ、あえて隠さなかったが秘密にして欲しいと言い含めた上で、約束通りの半年働かなくても済むほどの報酬を得て新たにねぇさんを含めた3人で帰路に着いた。
こうして機壊の女王事件は幕を閉じ、俺はヴァルキリーと神の巫女との三角関係の新生活をスタートすることになったのだった…。
ここまで読んでくださった方に感謝の言葉を。
ほんとうにありがとうございます。
私の初めて書く小説を読んでもらえるというのは嬉しいことです。
それが低評価であれ、高評価であれ。最後まで読んでいただけた上で付けられた評価なら、それは次のお話を作る糧になると思っています。
これでこの「機壊の女王」のお話は終わりですが、ここからは結城と愛嶺、詩音を中心にまったり非日常を描けるといいなぁ…と思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いします。