休日×謎+俺×探偵=事件の始まり
「相変わらず平日なのに人の多い町だな…」
スーツを着たサラリーマン、店頭呼び込みをしているソフマッポ店員やメイドさん、そして通行人の大半を占めるであろうオタク達。
相変わらず騒がしく、あるいは賑やかで華やかな町。アキバ。
そのアキバの行き着けのカードショップを目指し俺と愛嶺は人混みを歩いていた。
「……人がゴミのようだ」
「にぃ様、急にそういうネタを突っ込むと痛い人になってしまいますよ…?」
なんてことだ。「あっそうだ」からの流れでツンデレを装い、さらには出かける服にコスプレを選ぶような痛い異妹に言われてしまった。
ショックである。
「いやしかし、やけに人が多いじゃないか。なにかイベントでもあったかな。」
「イベントという意味では常に愛嶺ルートの恋愛イベントフラグなら全力全快で建ってますよ?」
「そういう個人イベントじゃなくて企画的な意味でな…?」
そんな話をしながら歩いていると、ふと、人の流れがある方向に向かい、その先に人だかりができていることに気づく。
「…?にぃ様…あれは…」
「ん?あれは…ゲームの大会でもやってるんじゃないかな…それがどうかしたのか?」
人ごみの中から聞こえる音の中に人の声、アニメなどとは違う、ゲームにある独特な音のリズムのようなものを感じた。
「そういうことではないんですが……」
「ん?あぁ、多分あれはアクション系の対人ゲーだぞ?」
俺がそう思ったのは、なんだかそのゲームから発せられる音に聞き覚えがあったからだった。
とはいえどのゲームかまでは覚えて無いんだけれど。
どうやら愛嶺が言いたいのはそういうことでもないようだ。
「…まぁいいです。気のせいだと思いますし。」
愛嶺がこのとき何を感じていたのか、俺にはわからなかった。
この半年以上、一緒に過ごして来てお互いのことを分かり始めてきたとおもったがまだまだ知らないことも多いということか。
「そうだな…なんだっていいさ、あそこに人だかりができている分、俺たちの道を阻む者は無い!」
「…そうですね…!私とにぃ様のヴァージンロードを阻む者は居ませんっ!」
「お…おぅ…」
自分から振った様なものかもしれないが。俺もずいぶんこの手の発言の対応に慣れた様に思う。
それになんだかんだ言って俺は素直に好意を向けられることにやはりというか。嬉しさの様なものを感じても居る。
「ふぅ、着いたな…長い道のりだった…」
カードショップ「魔女ッ子ぱらだいす」ものすごく嫌な予感しかしない名前の店ではあるのだが、友人のやっている店ということもあって贔屓にしている店である。
基本的にTCG商品以外にもアキバ系のニーズに答える商品ならなんでも揃っているという恐ろしい品揃えの良さを誇り、この店もまた、唯一つの問題点を除いてはいい店なのだ。
問題というのは、この店の店員は全員魔法少女のコスプレをしているという点である。
「いらっしゃいませ~♪魔女ッ子ぱらだいすへようこそっ☆ミ」
店内に入ると野太い声で精一杯に作った媚びまくりのぶりっこボイスが俺たちを迎えてくれた。
言い忘れていたが問題である店員は全員野郎。すなわち男である。
そして入店一番に迎えてくれた声の主のほうを見るとそこには見慣れた友の顔。
コスプレゴリラこと後藤雄斗
「よぅ…。雄斗、相変わらずの悪趣味だな。」
「酷いわっ!どこが悪趣味なのよっ!それにここでは雄子よ!」
「そうですよにぃ様!とっても可愛らしいと思います!私の次くらいに!」
「おいそこ、同調する振りして自分を売り込むな。」
まったく、これだからコスプレ異妹とコスプレゴリラは…。
こんなむさい野郎の魔法少女コスのどこに可愛らしさがあるというのか。
「少なくとも自分より高身長で筋骨隆々な男の魔法少女コスなんて、目の毒であり悪趣味以外のなにものでも無いだろうが…」
「いやね、よくいうでしょう?見た目は男、頭脳は乙女って。でも私の場合は心もオ・ト・メ♪」
雄斗、いや今は雄子だったか。彼女(?)はそのガタイの良い体で精一杯のしなを作ってみせる。
「うぇっ…んなこといわねぇよ…っ」
キモイしツライ、いくら旧友でも、いや、旧友だからこそこれはツライ。
早く話を。本題に移さなければ。
「なぁ雄斗、予約してたTCGのBOXなんだけど…」
「そうよね…私とはそれだけの関係ですものね…」
「酷いですにぃさま!雄子さんになにをしたんですか!」
「あぁもう!そのノリいいからっ!話が進まねぇんだよ!」
「そう…?仕方ないわねぇ、ちょっと待っていなさい。」
そういった雄斗は店の奥に消えるとすぐに目当てのものを持って出てきた。
俺は代金を払い商品を受け取る、そして様も済んだ事だし雄斗には悪いがさっさと帰ろう。そう思ったときだった。雄斗から気になる話、一種の都市伝説のような話がもたらされたのは。
「そういえば結城は機壊の女王の噂は知っているかしら?」
「なんだそのルビ振ってそうな名前は、痛々しいヤツも居たもんだな…」
「その機壊の女王ってどんな方なんでしょう?」
「私が話に聞いたのは、機械の女王っていうのはとんでもなく強い対戦ゲームのプレイヤーのネームだそうよ。」
「ふーん…で、その噂がどうかしたのかよ?」
「なんでもその機壊の女王に負けた相手のゲーム機はその名の通りすべて破壊されてしまうそうなのよ」
ふむ…その機壊の女王とはずいぶん乱暴なことをするプレイヤーのようだ。
ゲームに勝ったくらいで、相手を負かしたくらいで、相手のゲームを破壊するなんて、人によっては命ほどに大事にしてる人だっているはずだ。そういった趣味に人生を捧げてきた俺には、負けた奴の気持ちを考えると怒りや憤りを感じずにはいられなかった。
「とはいえどうやって壊しているのか、それがわからないのよねぇ…」
「ん?物理的に破壊してるんじゃないのか?」
「それは無理よ、だって基本的に機壊の女王がやるゲームはオンライン制の対戦ゲームだもの。」
「確かにそれは変な話だな…それじゃあ本当にソイツが壊してるかも怪しいもんだ。」
「そうですよね。たまたま機壊の女王さんと戦った後に壊れたっていうことも…」
俺と愛嶺が今の話の信憑性を怪しみ始めると、待ってましたと言わんばかりに、雄斗の言葉が返ってくる。
「ゲームの破壊に関しては機壊の女王本人が公言しているわけだけど、どちらにしてもどうしてこんな事をしているのかは謎だわ。だからね結城、あなたに真相を調べて解決して欲しいのよ。」
あぁ、これは嫌な予感がする。こんなパターンを今までに何度か経験した記憶がある。
逃げられない、そう感じた。
「うちのお客さんも何人も被害にあって居てね…アキバを愛する者としてこの状況は許しがたいものだわ。」
「確かにゲーマーさんの魂であるゲームを壊してしまうなんで許せないですねっ!ね?にぃ様っ!」
「もちろん報酬は払うわよ?正式なお仕事として頼むんだから。」
「あぁ…うん…仕事ね…うん…」
そう、コレは仕事の依頼だ、「探偵」なんていう仕事をしている俺に対して依頼されるような仕事。
なぜ俺が探偵なんていう仕事をやっているのかといえば…詳しくは長くなるから簡単に言うと、仕事が自由に自由な時間にできるからである。
そんな俺はせっかく仕事を入れずに向かえた新弾発売日にせまりつつある仕事という名の敵に警戒心を露にする。
「せっかく仕事をしないで趣味に時間を使おうと思っていたのに…その矢先にこれか…」
「あら、嫌なの?せっかく半年は働かなくて済むくらいの報酬を準備しているのに…」
「ふっ、この名探偵に任せておけ!」
俺は報酬に釣られていた。
半年も働かなくていいほどの報酬、期待値大だ。
「いいんですか?にぃ様。おいしい話ほど危ないような気がしますが…。」
「いいんだよ!釣りと分かっていてあえて釣られるのが俺たちだ!違うか?!」
「…にぃ様、目が$と¥のオッドアイになってますよ…。」
いいのだ、金に目がくらもうと、俺には確かに見えるもの、目指すものがある、そう。
働かなくていい自堕落な生活が待っているのだから。
「結城が仕事を請けてくれて嬉しいわ♪じゃあ、そんな結城にはとっておきのモノを…」
「変なことしたらはっ倒すからな?」
「やだっ、押し倒すだなんて…っ!以外と大胆なのね…///」
「は…?にぃ様なにいってんですか…?浮気なんですか?殺がしますよ…?」
「言って無いから!そんなこと一言も!あと突然リアルに怖いオーラ出すのやめてくれない!?」
「むぅ…じゃあにぃ様、私に言うことがあるんじゃないですか…?」
このタイミングで愛嶺に言うことだと…?
…ぬう…これはつまり、アレだよな?アレを求めているんだよな…
「…お、俺が押し倒したいのは…愛嶺だけだよ…」
「……………」
まずい…ここまでいう必要はなかっただろうか…この間はなんだろう。反応が怪しい。
すると次の瞬間。愛嶺の表情がゆるんだ。
「ぁ…うぁ……えへ///」
…どうやら違ったようだ、ガチで照れていらっしゃる。
また無駄に好感度を上げてしまって上限100%を振り切ってしまった気がする。
「はいはい、ごちそうさまでした。それで結城、仕事のことなんだけどね、まずはこの後この場所まで行ってみて頂戴。」
このあまったるい空気を換えるための雄斗なりの気遣いか。そういって雄斗は俺に紙切れを渡してきた。
指定されていた場所は、さっきここに来る途中に見た人だかりのあった辺りだ。
「ここならさっき横を通り過ぎたけど、ゲームの大会でもやってたのか大きな人だかりがあったぞ?」
「そう、見てきたのね、今日そこで、機壊の女王がゲームをするそうなのよ。」
「ん?機壊の女王はオンゲのプレイヤーじゃないのか?」
「どうやらおバカな子がその女王様をわざと怒らせて、この町に呼びつけて決闘をするって話よ。」
なるほど、それで俺に現場の様子をみてこい、と、そういう話か。
確かにオンゲプレイヤーをオフに引っ張れたというのなら、それは大きな情報になりえる。
「分かった、とりあえず行って見るよ、報酬はきっちり容易して置けよな。」
「ふふっ、わかっているわ♪期待していて頂戴ねっ。」
こうして俺は、知らぬうちにとはいえ、またしても非現実的な日常の世界に一歩。足を踏み入れたのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ここから機壊の女王のお話を書いて、結城君が解決次第、しばらくゆっくり日常を描きたいと思います。
今後もお付き合いいただけると嬉しいです(ホントに