(記憶喪失+オタク文化)×美少女=痛い美少女
2106年2月10日10:35
例の異世界から来た記憶喪失魔法少女(美)を家に招いてからもう半年以上経つ。
あれ以降の展開は思ったより大したことは無かった。
最初は彼女のこの世界での身の上が定まって居なかった事に始まり、役所に向かい魔法というこの世界においての非公式チートを用いて役員の記憶、および精神操作によって偽の戸籍を獲得。
晴れて異世界から来た少女は白井愛嶺という名前を得て俺の義妹となった。
ちなみにこの愛嶺という名前は俺が付けたわけだが、断じてアニメのキャラに居そうな名前を選んだとかそういうことではない、断じてである。
名前と戸籍を得た愛嶺は、その後恐ろしいほどの適応能力を見せてすぐにこちらの世界の常識やマナー、人付き合いを覚えて、ご近所では「真面目で元気で明るい良い子」で通るほどになった。
ここまでに要した日数はなんと3ヶ月、異世界から来たという割には順応性が高いのではないだろうか?
さらに本人は異世界に帰りたがるかと思いきやそうでもなく。なんだったらこっちの世界を満喫していらっしゃるご様子。
しかし本人の年齢が16歳であったこともあり、働くこともなく、なんだったら目立たないよう年相応に高校に通わせてやることにしたのだが。
すべてがすべて上手くいったといわけでもなかった。
学費は俺の給料でなんとかなったので問題なかった。
手続きも魔法で隠蔽、詐称してなんとかなった。
本人も高校生活に対するモチベーションは高く、前向きに受け入れていた。
だが、しかし。
彼女の人間性に多少の問題が出てきたのだ。
その要因を考えると、彼女のその高すぎる順応性は順応性というよりはある意味吸収力のようなものだったのかもしれないと思う。
というのも。
「にぃ様!4日後はバレンタインですねっ!」
この「にぃ様」というのは義兄様から来ていて、つまり義妹になった愛嶺が俺を呼ぶ際の呼称である。
(ちなみに俺は愛嶺のことをお前とか愛嶺とか呼ぶのだが異世界から来た妹ということで異妹と呼ぶこともある。)
「そうだな、確かにその日はバレンタインだな…?」
「バレンタインになったらにぃ様には私の愛情がたっぷり詰まったチョコレートをプレゼントしますね!!」
「そういうの予告しちゃっていいのかよ…」
「あらかじめ言って置くと当日に渡しても「あぁ…そういえば渡すっていってたな」くらいになるじゃないですか」
なんでそこでワンクッション挟むんだよ…と思いつつもこの言葉は飲み込み、笑顔で答えた。
「そうだな、まあでも、純粋にお前から貰えるなら嬉しいよ。」
俺がそう答えると愛嶺は照れた様子でこう返してきた。
「にぃさま…あっそうだ……ゴホンッ…べっ、別に、にぃ様のために愛情込めて作るんじゃ、ないんだからねっ!!ふんっ」
………そう…これである。
これが上手くいかなかった唯一にして最大の問題。
愛嶺は俺というオタクとオタクな環境で暮らした際、アニメやゲーム、マンガにラノベ、そういったモノに興味を持ち、共感し、それらを共に愛する存在となったわけだが。
前述した吸収力とも取れる順応性が作用し、ツンデレやクーデレ、ヤンデレやツンドラetc…さまざまなジャンルのキャラ要素を吸収し、無駄に多様性がありすぎて取り止めの無いキャラにできあがってしまった。
とはいえそれらは本人のキャラ作りに近く、本来の彼女のタイプは素直デレ(8割)+ヤンデレ(2割)だろう。
そんなことを思考しているうちに愛嶺は続けてこう言う。
「でも、もしも、どうしてもっていうのならにぃ様…?私だけを愛してくださいね…?そうしたら、私が、私だけが、にぃ様にチョコをプレゼントしてあげますからね…?」
もうなんか怖い。ツンデレからなぜかヤンデレ臭が漂い始めた。
「あ、あぁ…そうだな、俺にはお前しかいないからな…」
ヤンデレを下手に刺激すると怖いからとりあえず無難そうな選択で好感度を維持する。
「にぃ様…えへへっ…にぃさまぁ~♪」
俺の好感度維持が成功したのか、愛嶺が俺にデレてベタベタと擦り寄って頬擦りまでしてくる。くそっ。可愛い。
なんだかんだ言っても、俺はこんな愛嶺のことが好きなのかも知れない。
とはいえ正直この町がアキバであったことが幸いしたという事実はある。
高校もアキバ系の趣味に理解のある学友ばかりのようで、美少女+アニメキャラ設定な性格は大幅にプラスに働いているようだが、これが一般の高校であったらと思うと…うん、あまり考えたくない…。
「よしよし、愛嶺は可愛いなぁ~(棒)」
「にへへぇ~♪にぃさまぁ~♪ちゃんと褒めてくれないとメっ!ですよ~☆」
「ぐふぅっ…!」
「メっ!」とか可愛いこと言いながら俺にボディーブローを0距離で放って来やがった。なんて恐ろしい異妹だろう。
「い、いやぁ…愛嶺は可愛いなぁっ!(必死)」
「ありがとうございますっにぃさま♪結婚してあげますね!」
「ごめんなさいそれはカンベンしてください…!」
やっぱり病んでるんじゃなかろうか…この異妹…
「遠慮しないでくださいにぃさま!私は鎖骨下からひざ上15cmまではにぃさまのモノじゃないですかっ!」
「微妙な範囲だな!ってかそれじゃ俺がお前の体目当てに同居してるみたいじゃねえかっ!」
「いえ、にぃ様!私はむしろ体だけを求められる関係でもテンションあがっちゃいます!」
「度し難い!お前の恋愛感は俺には解せ無いよ!」
っとこんなことをしている場合ではないことをふいに思い出す。
「って、じゃれ合ってる場合じゃないな。愛嶺、出かけるぞ。」
今日は某TCGの新弾発売日、新弾をいち早くゲットするためだけに仕事を休んだのだから、こんなことばかりをしてもいられない。
「そうですね、にぃさま。私もすぐに準備しますっ」
いうと愛嶺はさっさと準備を済ませていく。
「準備OKですにぃさま!いつでも発進できます!オールグリーンですっ!」
こういう知識を植えつけておいていうのもなんだけどこれは少々ばかりではなく痛々しい気がする。
「お、おぅ…じゃあいこうか、愛嶺」
「はいっ、にぃさまっ♪」
すぐさまに俺に腕を絡ませてくっついてくる愛嶺。
多少歩きにくいだろうがこういう最初から好感度MAXのヒロインっていうのも、悪くないかもしれない。などと思いつつ。
俺達は新弾ゲットのため、家を出た。